ビッグデータからわかるUX:文脈に基づいた分析の有用性

Bartosz Mozyrko

Bartは企業のコンバージョン率改善や、より良いUXを提供するUsabilityToolsという会社のCEOです。UXリサーチャーとしては8年ほどの経験があり、特にリモートテストの分野に精通しています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Putting Big Data in Context

UX Poland Conferenceで、講演者のJeff Parksは次のように言いました。

調査研究なしに、ビジネスにおいて情報に基づいた決定を下すことはできない

データを分析することで、起業家やUXの専門家は、利益を生み出す商品やサービスを開発するのに役立つ情報をより効率的に得ることができます。コンテキスト(文脈)に基づいた分析をすることで、単なる数字の塊が有用に活用できるようになります。例えばFacebookやTwitterは素晴らしいデータ・ソースですが、そこに存在するすべての情報から何かしらの意味やパターンを見出すには、多くの時間がかかり、またその方法も複雑です。仮にそれがうまくいき、データの意味が分かったとしても、そこから何か価値のある洞察を得るために、さらにそれを分析する必要があります。そのときに、特定のコンテキストというものが前もって頭の中になければ、ごくありきたりな一般論に行き着いてしまいます。

要するに、コンテキストに基づいた分析を行うことで、個々人々の振る舞いを浮かび上がらせることができるのです。

ビッグデータとは何か?

まずビッグデータが「ビッグ」と呼ばれる理由から話を始めましょう。

日々、企業に流れ込んでくる何テラバイトもの情報について考えてみてください。一般的なデータが、従来使われてきた手法では容易に処理できないほど大きなものになったとき、それは「ビッグデータ」と呼ばれるようになります。

この大きさになると、スプレッドシートは柔軟性、拡張性を欠くため、役に立ちません。しかし一旦どうにかして処理ができれば、それは大きな価値を持ちます。コンテキストに基づいた分析をすることで、ビッグデータからキーとなる指標を浮かび上がせることができ、これによってUXの専門家は顧客に対する独自の問題解決方法を作り出すことができるのです。

※編集部注:上記図は市販TVゲームの売上予測トレンドをどうビッグデータ分析で割り出すか、という文脈の中で出された図です。ゲームのデータのみならず、世論や世間のトレンドも含めてビッグデータ分析している、という例です。

これらはどのように今日のビジネスに関連付けられているのでしょう? ビッグデータは、コンテキストに沿って眺めることで、より良い商品やより良いUX作りに活かせる次の三つの利点が浮かび上がってきます。

・ビッグデータによって、顧客と、顧客のために開発すべき商品やサービスについての知識を拡大することができる

・ビッグデータから、顧客の振る舞いについてのより深い理解が得られ、より有意義な方法で顧客とつながることを可能にする

・ビッグデータは、顧客の振る舞いについて分析する機会を複数の経路で与えてくれ、どういう時に顧客が商品やサービスを購入するか理解することを可能にするため、マーケティング活動を向上するのに役立たせることができる

この記事では、最大限の効果を得る分析の方法と、なぜコンテキストがビッグデータにとってそんなに重要なのかについて見ていきます。

コンテキストのあるデータとは

数年前に、私の顧客の一人がUsabilityTool(著者がCEOを務める会社のサービス)にある私たちのフォームテストツールを使って、彼のウェブサイトを訪れた人々の振る舞いについて調べていました。フォームテストツールとは、ユーザーがウェブサイトの注文フォームにどういう反応をしているかを調べるためのツールです。フォームの各項目についてデータを提供し、どの段階で注文を投げ出したかを特定することができます。

ツールのおかげで、彼はまずバウンスレートが高いことに気づき、注文フォームのどこかに欠陥があるのではないかと考えました。問題を分析するために、私は彼と協力して、フォーム内のすべての要素を調べました。その結果、顧客は各要素を入力するのにおよそ5秒かかっていましたが、ある特定の要素については、3分以上もかかっていることに気づきました。

見つけた問題部分について、私たちはそれをコンテキストに基づいて考えました。つまり、その要素を埋めるためにはIDカードの番号が必要であり、それを調べるためにいったん机を離れ、財布の中を探し、戻ってきてカードの数字を入力しなければならないのだろう、と考えたのです。

こう考えると、入力に3分もかかったことの説明がつきますし、この問題を修正せず放置したことで、クレジットカードを探しに行くという面倒をしたくなかったため、購入をあきらめたユーザーが少なからずいたことが推測できました。

このようにコンテキストに基づいた分析をすることによって、ビジネスにおけるパターンの追跡やトレンドの検出を可能にします。デザイナーは予測モデルを組み立て、それに適したビジネス戦略を用意することが可能になります。コンテキストがあるかないかが、ビッグデータと無意味なデータとの違いなのです。

コンテキストがないと、何がいけないのか?

デジタル産業では、すでに多くの企業がウェブ分析ソフトウェアを導入し、実行しています。ところがそれだけでは、顧客のライフスタイルに影響を与えている心理学的、文化的な要素を十分に理解することはできません。

ビジネスの視点で見ると、ウェブ分析によくあるページビュー、バウンスレートといったデータだけで結論を出し、重要な決断を実行してしまうのは大きな間違いです。そうした単純な数字が、特にコンテキストを考えずに見てしまうと、いかに人を欺くかということを簡単に説明しましょう。

サイト滞在平均時間という指標について考えてみましょう。たとえば、滞在平均時間5分とあれば、それは実際に信頼できる数字に感じるかもしれません。ところが、個々の訪問者について詳しく見てみると、そのほとんどはわずか10秒でサイトを立ち去り、平均滞在時間はごく一部の長い滞在時間の来訪者のために歪められているのかもしれません!

数字の表面だけを見て、それを盲信してはいけない、という考え方は最近ようやく広まってきています。The New York TimesのDavid Brooksは「データにはできないこと」と題した記事で、ビッグデータについて「そこから物語のような分かりやすい意味を見出すことはできず、その点では二流小説以下だ」と指摘しています。その問題を解決するには、Teradata LabsのScott Gnauの以下の言葉を追ってみることが最善です。

ビッグデータは新しく加わったピースだ。しかし、これは単なるデータパズルのピースではない

コンテキストを与えることとコンテキストに基づいた分析を行うことで、ビッグデータに隠された秘密を解き明かすことができます。手元のデータにコンテキストを与えることで、消費者インサイトを改善したり、顧客たちに共通する振る舞いの裏に隠された秘密を探り出したりすることができるのです。そこから、顧客を感動させ、喜ばせるような体験を提供するビジネスを創造することもできるのです。

House of Cardsは、オンデマンド動画サービスNetflixで放映されている人気の政治ドラマです。このドラマは、ビッグデータの影響力を活用した最も大きな成功例の一つです。Netflixは実際に、このHouse of Cardsの物語の流れや俳優たちの性格付けに、ビッグデータを使用しています。

たとえば最初のエピソードを観ているときに、視聴者がポーズボタンを押し、スナック菓子を取りに行ったりすると、Netflixはそのポーズを押した時間、戻ってきて視聴を再開した時間をすべて記録します。Netflixはもちろん、視聴者がなぜ再生を停止したのか、その理由を知ることはできません。しかし次のような点について自問し、推理をすることはできます。

なぜ、その時間に停止したのだろう? ショッキングだったのか、不愉快に感じたからなのか、逆に印象的なシーンだったからなのか、それとも単に退屈だったからなのか? なぜこんなにもたくさんの人がこのエピソードの最初の15分のところに映像を巻き戻すのだろう? そこが分かりにくかったからなのか、それともそのシーンが感動的だったからなのか? なぜ視聴者が物語の途中なのに観るのを止めてしまったのか? その理由は、つまらなかったからなのでしょうけれど。

とにかく、どのシーンで視聴者がこれら(停止、巻き戻し、再生)の行動をとったかを、分析チームはコンテキストにそって解釈し、その分析結果を、後のエピソード作りを改善するのに利用したのです。rottentomatoes.comによると、現時点でHouse of Cardsの2番目のシーズンを最初のシーズンと比較すると、視聴率は80%も向上しているそうです。この方法が成功していることの証明です。Netflixはビッグデータをコンテキストに基づいて捉えることで、ドラマを改善し、視聴者を画面に釘付けにしたのです。

House of Cardsは極端な例ですが、この原則はどのUXにも当てはめることができます。オンラインの食品デリバリーアプリケーションFoodlerは、「Best Bets」という機能で、ユーザーが過去に似たようなレストランで何を注文したかに基づいて、おすすめの料理を提案します。

彼らはさらに一歩踏み込み、その過去の注文を、一日のうちの何時になされたのかというコンテキストで分析し、時間に応じて朝食、昼食、夕食に適した料理をおすすめするようになりました。同様に、Target(というオンラインショッピングサイト)ではコンテキストに基づいたビッグデータの分析によって顧客の好みの変化を検知し、ときにはある顧客が妊娠したかどうかを、家族よりも早く知ることさえできるようになったのです。

Foodlerは、どのようなレストランでも、ユーザーが何を食べたいかを予測することができます。

Foodlerは、どのようなレストランに対しても、ユーザーが何を食べたいか予測することができます。(図中訳は下記参照)

Best Betsは人気のある一流料理を、あなたの好みに合わせておすすめします。私たちは、あなたがPassage to Indiaで注文したメニューについても考慮し、Foodler内のレストランでのこれまでのすべてのご注文に基づくおすすめ料理に追加いたします

データの裏に隠された動機を知ることは、何が役に立つかを理解することです。コンテキストに基づくことで、顧客の行動の裏にある心理を読み取ることができ、その結果として、見事にユーザーの心に触れるようなマーケティング戦略を開発することができるようになるのです。

予測分析における、コンテキストの役割

正確なモデルやパターンを捉えるコツをつかむことは、分析に基づいた意思決定プロセスを加速させる鍵となります。コンテキストに基づいて分析することで予測分析が行えるようになり、これが優れた予測モデルを構築するのに必要不可欠な、人々が実際にどのような行動を起こすかを見通す視点を与えてくれるのです。

コンテキストに基づいた分析を、データのユーザビリティや関連するビジネスを促進するために活かすことができます。これによって、例えばAmazonがおすすめ商品に新たな品物を追加するといったような、将来の消費者の行動を予測するモデルを組み立てることができるのです。

私がテントを購入すると、Amazonは分析を行い、寝袋も欲しがるかもしれないと考え、これを私にお勧めします。

私がテントを購入すると、Amazonは分析を行い、寝袋も欲しがるかもしれないと考え、これを私にお勧めします。

コンテキストに基づいた分析は、異なるデータの観測結果を個々の人に当てはめられるかどうかを決定する上でも有効です。これによって、本当に意味のあるもの同士を関連づけるための、精度の高いデータ結合を可能にするコンテキストが提供できます。

例えば、あるeコマースサイトのオーナーは予測分析によって、消費者が金曜の午後に靴を買う傾向があることを知るに留まりますが、これに対して、コンテキストに基づいて分析することができるオーナーは、ほとんどの消費者が事務所のある建物の中におり、クライアントとの打ち合わせや会議の前の待ち時間に注文をする傾向があることを掴むことができます(つまり、毎正時の5分前後)。

データから導き出されるコンテキスト   有効な反応
繰り返される消費者の行動傾向(例: ある特定の種類の商品を特定の時間に購入する)   その特定の種類の別な商品を提案したり、購入している間におすすめ商品として表示する
その他の消費者の行動傾向(例: 似たような傾向のある人や特定の年齢層に好まれる商品)   他の消費者が購入した商品をおすすめする
外部のデータから派生するコンテキスト(例: モバイルアプリケーションの使用から、そのユーザーの趣味が分かる)   その趣味に関係のある、最新の話題や有名人にまつわる商品をおすすめする(例: 最近賞を取った映画や、亡くなったアーティストの作品など)

IBMのLisa SokolとSteve Chenはコンテキストに基づいた分析についての調査から、銀行でのローン返済評価システムにおける、もう一つの例を見つけ出しました。銀行は分析を行うことで、複数の銀行のそれぞれの口座を調べることはできますが、異なる口座をひとりの人に関連付けることはできず、結果として、不正確な情報に基づいた間違った結論を出してしまう可能性があります。

一方、コンテキストに基づいた分析を行えば、これら複数の口座がひとりの人のものであることを突き止めることができ、顧客がローンを返済する能力があるかどうか判断するのに必要なすべての情報を集めることができるのです。

コンテキストに基づいた分析を活用することで、予測モデルの能率を上げ、結果としてビジネスの場でより良い決断をすることができるようになるのです。

まとめ

ビッグデータをコンテキストに基づいて分析することの有用性は理解いただけましたでしょうか。ですが、これはまだはじめの一歩にすぎません。このようなことを意識することで、コンテキストに基づいた深い洞察が得られ、結果として、より良いUXを提供できるようになります。次の段階として、以下のようなことを始めると良いでしょう。

1. どれが最も関連性の高い分野か評価するために、データと、他の業務で作成されたKPIを比較する

2. 決して平均値を信用しない! どのような指標であれ、コンテキストに基づいて考える

3. コンテキストに基づいた分析について書かれた、以下のような本や記事を読む

Age of Context: Mobile, Sensors, Data and the Future of Privacy 著者: Robert Scoble

The Human Face of Big Data 著者: Rick Smolan

Data Crush: How the Information Tidal Wave is Driving New Business Opportunities 著者: Christopher Surdak

Big Data Geeks ブログ

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