ウェアラブルデバイスは私たちの生活を豊かにするか?

Zack Rutherford

Zack Rutherford氏はフリーランスのコピーライターで、UXとウェブデザインに非常な興味を持っています。コンバットスポーツの愛好者であり、詩的な心を持つZack氏は、統語、文章構築、そして誇張法の十分な活用を通して、美しいものを生み出そうと努めています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Wearables: enhancing or exploiting our personal data? (2015-07-28)

Thad Starner教授は、ウェアラブルデバイスは人類の進歩や記憶機能の拡張と改善、そして世界への理解と楽しみのために使用することができると考えています。

しかし、誰もがそのように熱心に賛同しているわけではありません。ウェアラブルテクノロジーはまた、プライベートなデータを収集して、人々をリスト化された数値データへと変換することによって、人から匿名性と個人的特徴を奪うためにも使用することができます。UXデザイナーはまさにこの渦中におり、倫理的なバランスを保つ責任を負っています。

ウェアラブルデバイスについての発言を求めるならStarner教授ほどの適任者はいないかもしれません。なぜなら、我々がGoogle Glassという製品を認知しているのは、ほぼ彼の功績によるものだからです。

Google glass front

Starner教授は、ジョージア工科大学のインタラクティブ・ コンピューティング学科に所属しています。彼はMIT(マサチューセッツ工科大学)の博士号を取得するための最終プレゼンテーションで、コンピューターを身につけて発表するという、前代未聞のプレゼンをしたことで有名です。また、彼は大学で悪名高いウェアラブルコンピューティングプロジェクトを立ち上げました。

Starner教授の視点から見ると、ウェアラブルデバイスは大部分の人々の日常生活を豊かなものにし、かつ改善してくれるということを信じることができるかもしれません。しかし、この話のもう1つの側面を見なければ、私たちはUXデザイナーとしての職務を全うしているとは言えません。つまり、ウェアラブルデバイスは恐ろしいほどの量のデータを追跡することができ、かつそのデータは企業の利己的な利用にも使用される可能性があるのです。

この記事では、この議論を両面から考察していきます。つまり、私たちの言動を追跡することは、私たちの現実世界を豊かなものにするのか、または個人データの利己的利用に使用される結果を招くのかということです

ウェアラブルの略歴

ウェアラブルについて何も知らない、馴染みがない、そして以前は興味がなかった人たちのために、ウェアラブルとその一般的なアプリケーションの定義についてざっと見ていくほうが良いでしょう。要約して言えば、ウェアラブルとはジュエリーや衣服、または容易に装着することができるアクセサリーのように身につけることができる、デジタルデバイスのことを指します。ウェアラブルは様々なアイテムになることができます。腕時計や衣服、帽子、そしてヘッドセットは全てウェアラブルによるインタラクションに対応可能となっています。このウェアラブルの定義をさらに広げるような、体内に取り込めるデバイスやタトゥーなども存在します。 


Wearables

ウェアラブルは通常、バイオフィードバックの情報を取集するといった特定の目的に役立っています。しかしながら、ウェアラブルはノートパソコンやスマホといった、より「伝統的な」デバイスの完全なデジタルの代替品として使用することもできます。どちらの場合も、ウェアラブルは日常生活においてユーザーが容易に利用できる情報の幅を広げる、または狭めるために使用されます。 

当然のことながら、このような柔軟性のある定義に伴い、カテゴリーは非常に多様となっています。大部分の人々が「ウェアラブルテクノロジー」を考える場合、Google Glassのイメージをすぐに思い浮かべることでしょう。しかし、この検索エンジンの最大手による、人工頭脳工学による技術的強化を主流なものにしようとする野心的な試みは、全体的な定義のほんのわずかな部分のみを反映しています。未だに、Google Glassはウェアラブルによる革命が何をもたらすのかを議論するための良い出発点となっています。これらの機械の背景には今まで以上に人間が密接に関わっていること、つまりこの場合は人間が機械を身につけていることを心に留めておくことは、とても重要なのです。

利点:よりコンテキストに基づいたデータアクセス

Starner教授のウェアラブルの将来に対する考えは、ユーザーの現実世界を豊かなものにする情報と共に、自由自在に現れたり消えたりすることができるUIを含んでいます。この目的のために、彼はあらゆる状況に適した、有益な情報を提供しながらも、利用されていない時はユーザーの生活に介入しないような、利便性に優れた軽量なコンピューターの開発に取り組んでいます。

そのようなデバイスは、通勤から映画の時間を調べるといったことまで、全ての日常的活動において、ユーザーを現実世界のタスクから目をそらさせずに、ユーザーをサポートすることができるのです。Starner教授は実際、  自分の個人的なウェアラブル(Tin Lizzyと名付けられているらしい)を、面と向かっての会話やデジタルを介しての会話を録音するために使用しています。

そういったインタラクションが行われている間、Starner教授はTin Lizzyを起動させ、会話が行われているあらゆる媒体 (メールや音声 / ビデオ録音など) における会話を記録しています。同時に、彼は自分自身の (テキスト形式の) メモをインタラクション中に記録することができます。特定の人物や会話について何かを思い出す必要があるときは何時でも、Tin Lizzy を使用して自分の広範囲にわたる、トピックに関するメモの中を検索することができます。彼の記憶は、デジタルの領域に効果的に任されているのです。

しかし、Starner教授はもし記憶の拡張が有益になるならば、記憶の「選定」の必要があることをよく理解しています。そのアルゴリズムは、特定のインタラクションの種類を認識して、優先順位を付ける必要があるのです。これは、UXにおける現世代のウェアラブルの急激な拡大を表しており、ユーザーの体験から気をそらすのではなく、努力することなく情報の復元をUXに追加することをむしろ可能にしているのです。残念ながら、これは現在のテクノロジーでは到達できない夢となっています。Starner氏がその夢に最も近付いたのが、彼がTin Lizzyのために特別にデザインした「記憶のエージェント」というプログラムなのです。

記憶のエージェントは、ユーザーがメモしたものの対象物がウェアラブルのセンサーに感知されたとき、どんなタイミングであれ関連するテキストを表示します。非常に素晴らしいもののように聞こえますが、このプログラムは解決法には全くなっていません。Starner教授は次の発言を録音しています

多くの場合、ウェアラブルは重要でない情報ばかりを表示します。しかしその5%ほどは、本当に関連があるものです。たった1文の要約さえあれば、必要な情報は思い出すのですが…。

5%は褒められた成功率とはいえませんが、素晴らしいスタート地点であり、UXデザイナーの目標に非常に近いものです。つまり、有益で、文脈的に関連のある情報を提供するということです。テクノロジーが進歩するにしたがって、装着者がこれまで学習したあらゆることを思い出すために使うことができるようになります。さらに、全ての記憶のエージェントユーザーのメモリやメモが、クラウド上で収集、整理、及び効率的に管理される場合、私たちはJung氏の集合的無意識のデジタル版を手に入れることになるでしょう。この膨大な情報へ迅速にアクセスすることは、効率化を大幅に改善することになるかもしれません。

・様々な分野における調査時間の縮小

・医師たちが即時に診療記録にアクセスできるため、多くの命を救うことに役立つ

・データ収集がより普及する

本質的にここで議論されていることは、もはやコンテキストの欠如が生じない世界のことなのです。全てのデータは相互につながっており、 Tin Lizzyのようなウェアラブルテクノロジーは最終的に、これらの繋がりの包括的な概観を提供することになるのです。より知識を増やし、高い教育を受け、そして願わくばより共感することができる人間。それが刺激的なUXの夢なのです。

欠点:第三者による個人データの利己的利用

ウェアラブルが価値のあるものになれることと同様に、ウェアラブルは侵略的なものにもなりうるという現実があります。ウェアラブルは自分を取り巻く環境に関するデータを収集し、そのデータは利他的な目的に使用されるように、悪意ある目的にも十分に使用される恐れがあるのです。例えばGoogle Glassは、複数のレストランやバー、そしてカジノの経営者たちが顧客のプライバシーを理由に、敷地内ではGoogle Glassの利用を禁止すると、すぐに否定的なメディアの報道がなされてしまったのです。

ある個人が時代を先取りしたヘッドセットを身につけ、街角に座り、こっそりと周囲を録画していたら、多くの他の消費者たちを非常に不快にさせることでしょう。残念ながら、これは可能性のあるプライバシーの侵害において最悪のケースではありません。ウェアラブルにおいては、従来では考えられなかったケースも出てくるでしょう。ウェアラブルが社会に導入されることは、つまりユーザーのプライベートなデータへのアクセスが拡大することを意味しています。

多くの人は知らない間に録画されることを心配していますが、健康保険の事業者が、ウェアラブルテクノロジーから収集したデータに基づいて、保険の適用を拒否するという可能性のほうに恐怖を覚えるべきです。例えばFitbitは、全体的な人口層を座業の結果として肥満や糖尿病、そして数多くの他の衰弱する病気に分類できるデータを提供しています。もしFitbitのユーザーがこの人口統計に当てはまっているとしたら、そのユーザーは健康保険の掛け金が大幅に値上がりしていることに気がつくかもしれません。

Fitbit

大昔の取締制度や新しい方針への鈍い対応により、テクノロジーは急速に方針や規則を追い越しています。情報は力です。個人的な、生物学的なデータをUnitedhealthや Kaiser Permanenteに提供し、そして彼らが自社の顧客にとってメリットとなるような方法でそのデータを扱うことは、非常に大きな賭けとなることでしょう。

George Orwell氏は、自宅のテレビの画面が個人の一挙一動を録画することになるという未来を思い描いていましたが、彼自身はウェアラブルを開発する術を持ってはいませんでした。実際、現代では、ウェアラブルが自宅の一挙一動だけでなく、個人が移動する場所においてはどこでも一挙一動を録画するために、容易に装着されてしまうようになりました。それだけでなく、生体リズムや消費カロリーなども記録されてしまうかもしれません。

個人データが未知で無配慮の全体主義者へと流れることほど最悪なことはありません。まさに悪夢です。そしてこの技術の前身となるものは、すでに生産されているのです。例えばLGは、ウェアラブルの赤ちゃんモニターを販売しており、この発明は両親にとって有益であると同時に、赤ちゃんが常に行動を監視されているという状況を受け入れるように慣らすことができます。小さな子どものプライバシーを低下せることはそれほど思い切った手段ではありませんが、滑りやすい坂の端の近くに苛立ちながら落ちているようなものです。

UXデザイナーの役割 

ウェアラブルは、急成長しているテクノロジーとして素晴らしい潜在能力を秘めており、人間による世界との関わり方を革命をもたらす可能性があります。同時に、このテクノロジーは、政策立案者たちがプライバシーの侵害によって提示された倫理的ジレンマに直面しなければならないという事実を強調しています。 

しかし、今日のUXデザイナーはどのようにGeorge Orwell氏が描いた未来を回避することができるでしょうか? ある企業は、すでに顧客との相互信頼関係の構築へと動いています。使いやすさとプライバシーのバランス取りは難しいですが、信頼関係の構築自体は今に始まったことではありません。医師や心理学者、法律家、そして信頼関係が大切な立場にあるその他の人たちは、顧客のデリケートな情報を取り扱うときには、ある程度の分別を持ち続けることを期待されてきました。

例えばMad*Powは、分別のあるデザイン事務所です。ヒポクラテスの誓いに従い、Mad*Powはサービスや製品、体験、グラフィック及びソーシャルデザインの分野に携わる15人のデザイナーに働きかけていました。彼らは一体となって、「デザイナーの誓い」と呼ばれている、3つの文書を作成しました。これらの文書は、デザイナーとクライアント間のやり取りを統制するための特定のガイドラインを定めています。これらのアイデアを提案し、議論することで、彼らが倫理とデザイン間の関係に対する普遍的な認識のテンプレートを作成してくれることを願っています。

ウェアラブルUXの立場は、まだそれが存在する必要がある場所にはありません。将来ウェアラブルインターフェース用にデザインする時は、UXデザイナーにとって以下の3つの点を覚えておくことはとても大切です:

ユーザーのプライバシーに関する懸念に対応しましょう。プライバシーのためのデザインは、常に最優先に考慮するべき項目ですが、ウェアラブルを伴う場合は特に重要となります。データがどのように収集され、誰がそのデータにアクセスしたかを正直に開示しましょう。そして、サービスまたは製品が収集しているプライベートなデータの保護に常に努めましょう。

・もし可能ならばですが、ユーザーを虐げたり、またはユーザーの公民権をはく奪するために情報を誤用したりする可能性がある企業には、データを販売しないようにしましょう。

・慎みのあるインターフェースをデザインしましょう。ミニマリズムの概念から始めて、人間の力で可能な限りA/Bテストをたくさん行いましょう。何が実際に最もきちんと機能するかを確かめる唯一の方法は、全てを検証することです。


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2017/12/05(火)
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