削ぎ落とすことだけがシンプルじゃない

David Peter Simon

Davidはロンドン在住のコンサルタント/ブロガーです。彼はグローバルなデザインファームのThoughtWorksで働いており、Amnesty International、GUCCI、UNICEF、Standard Bank、英国政府などのクライアントを抱えています。

この記事はUX Magazineからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

When There’s Nothing Left to Take Away

デザイナーにとって、ユーザーがシンプルだと感じる製品やサービスをつくるのは至難の業です。「デザイナーにとってのゴールとは、ユーザーにとってできる限り物事を単純に簡単にしてしまうことなのです」Duncan Stephanは言います

AppleやGoogleが革新的だと賞賛を浴びるのは驚くべきことではありません。多くの人が彼らのシンプルな美しさを、UX関連の出版物でも数多く褒め称えています。しかしながら我々はシンプルなUIというものを賞賛する一方で、多くの製品やサービスにそうしたシンプルさが必ずしも必要ないのではと感じています。

これはどういうことなのでしょうか?

「シンプル」であることの問題

有名な著者であるAntoine de Saint-Exupéryの有名な引用句に下記のようなものがあります。「完全さとは、これ以上何も失くせない時に達成される。」

一部の人はこの言葉に共感できるかもしれませんが、多くのソフトウェア開発のコミュニティではインターフェースにおける完全さとはいかなるものか、未だ現在進行形で熱い議論が交わされています。デザイナーにとってこの題材はたいていシンプルさについての議題に収束していきます。足りないことは、本当により良いことなのでしょうか。多くの場合、この問は情報量がどうシンプルさに影響をあたえるかという議論になり、非常に白熱します。

Nick Bradburyのように「シンプルさとは機能や情報量が少ないことだと解釈するのは誤りだ」とする実践者のグループがある一方、シンプルなシステムは少ない機能や情報量を意味するのだというデザイナーの一派もいます。Luminary John Maedaは彼の著作である『The Laws of Simplicity(シンプルさの法則)』を次のような一文で始めており、シンプルさを実現する最も簡単な方法は削ることであると説明しています。「シンプルさを実現する最もシンプルな方法とは、思慮深い引き算によるものだ」

少ないことがシンプルさにつながるというこの考え方は、ここ数年の間デザイン系の出版物でもよく目にすることができます。例えば2010年、デザイナーであるTrent Martens は「より少ないことはより豊かなことである」という考え方に主眼においた記事を発表しています。彼はその最後で、「ユーザーが決定しやすいようにしてあげる、という経験の中から、我々は何を得られるのか」を自問するよう促しています。

散らかったMicrosoft Word  @ftrainより 散らかったMicrosoft Word @ftrainより

しかし上述したAntoine de Saint-Expureyの引用における「完全さ」の定義が困難なために、これ以上何も失くせない状態はどの瞬間を言うのか、終わりのない議論が繰り広げられそうです。

より少ないことは、より豊かなこと?

おそらくデザインにおけるシンプルさの問題とは、情報量そのものとは関係ないのでしょう。しかしむしろ私たちは情報量という面でシンプルさを考えています。

Fog Creek Softwareの創設者であるJoel Spolskyは、かつて次のような問いかけを投げています:

もし『シンプルさ』という単語を、設計されたとおりにユーザーが反応できるプロダクトのことを指すならば、それは確かに簡単に使えるかもしれないし、それはそれで構わない。もし『シンプルさ』を美しくきれいな製品に対して使っているなら、その言葉は単なる美学の範疇にすぎないが、それもそれで構わない。ミニマリスト的な美学は今日まさに最先端だ。でももしシンプルさというのが『それほど多くの機能がない』だとか、『ひとつのことだけをうまくやり遂げる』とかいう意味で使っているのだとしたら、私は君の潔さを褒めはするけど、わざと機能性を損なっているその製品がうまくいくとは思わない。だってあのiPodにさえ無意味なソリティアゲームがついているんだよ?

シンプルさという言葉のニュアンスや奥深さをはっきりさせたという点で、Spolskyが残した功績を大きいといえるでしょう。我々がいかに抽象的に「シンプルさ」というものを勝手に語っているかに着目した彼は、私たちがシンプルさについて議論する際に少ないことや多いことといった方向に進まないよう導いてくれています。彼はそして素晴らしい議論の出発点を創りだしてくれました。iPodに入っているソリティアゲーム。世界中で広く「シンプル」な製品だと賞賛されている事実にも関わらず、それは多くのデザイナーが不必要だと感じる要素を内包しているのです。

シンプルさと足りないことをこれ以上同列に語ることはできません。辞書ですらシンプルさとは量と何の関係もないと言っているのです。シンプルとは明確であり、理解しやすいことであり、そして簡単であることと定義されています。決してミニマルであることではありません。

「シンプル」であり続けること

デザインの話に戻ると、一気にシンプルさを実現してくれるような魔法の杖は残念ながら存在しません。もちろん原理原則自己発見のヒントなどは存在しますが、今以上の発展を望めるものでもありません。シンプルさとは非常に文脈や文化に左右されやすく、主観的なものなのです。

デザインにおける複雑さを軽減するのに一番いい方法は、いかに人々が製品やサービスに対して反応しているのか定期的に観察することです。そうすることで私たちがシンプルであると今まで信じ続けていたことが本当にそうであるのか、常に問いなおすことができます。Don Normanはこう言っています

ロジックではないのです。鍵となるのは人間の行動です。エンジニアやエコノミストの誤った推論を信じてはいけません。自分のソリューションに理由付けをしないで、現実の人々を観察してみてください。人間の振る舞いをそのまま実装すればいいのです。決してこうなったらいいなというやり方ではいけません。

私たちがシンプルなデザインに邁進できるよう手助けしてくれるのは、ユーザーであり私たち自身ではありません。彼らのフィードバックを待ちましょう。できるだけ早めに、そして継続的に。観察されたそれをチームでモノにすることで、シンプルさをモノにしましょう。


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