成功を収めているデザインエージェンシーを経営するというのはどんな感じなのでしょう? 経営者がデザイナーを兼任する場合、そのバランスはどう取っていくのでしょう? 今回、私たちは米国のデザインエージェンシーPlatformの設立者で、デザイナーであり事業家でもあるLukas Horak氏を招いて、Platformでの彼の様々な役割について学びたいと思います。
このインタビューではPlatformのデザインプロセスや、数々の有能なデザイナーを率いることへの挑戦などに迫ります。また、Platformの素晴らしいデザインの一部も公開してくれていますので、インスピレーション溢れるチャットセッションを存分にお楽しみください。
デザインで結果を出すということ
―お時間を頂きまして、ありがとうございます。まずは、簡単な自己紹介からお願いします。
デザインに特化したデジタルエージェンシーPlatformのCEO(最高経営責任者)、Lukas Horakです。
Platformはアメリカのサンフランシスコとスロバキアのブラチスラバにオフィスを構えています。簡単に言えば、私たちは結果を重視する、デザイナーと開発者のチームです。高いコンバージョン率やエンゲージメントの原理を世界トップクラスのデザインに結びつけている会社です。
―最初にデザインしたものは何ですか。そして今なら、そのデザインの何を変えたいと思いますか。
高校一年生のときに、自分が通っていたキックボクシングジムのWebサイトを初めてデザインしました。確か、2002年にこのWebサイトをデザインしたのですが、その当時はSEO(検索エンジン最適化)やCRO(コンバージョン率最適化)に関心を持っている人は誰もいなかったと記憶しています。
レスポンシブデザインやブラウザ間の互換性のようなものは存在していなかったので、ただただビジュアルデザインのことだけを考えて作りました。今なら全く違うものを作っていると思います。
―今までに関わったプロジェクトの中で一番面白かったものはどれですか。なぜそう思うのか教えてください。
私たちのクライアントの中には150社以上のアーリーステージのスタートアップ企業から、有名な広告代理店やブランド会社まで実に多数あるので、その中から一つを選ぶというのは難しいです。
その複雑さから面白かったプロジェクトはありました。ECサイトや複雑なモバイルアプリ、ニュースポータルサイトなどです。また、実験的なデザインやアニメーションを取り入れるということで面白かったというのも幾つかありました。クライアントがMattel, BMW, Avon, HP, Schwarzkopfなどの有名なブランド会社だったので面白かったというものもあります。
個人的にはビジネスが大きく好転するのをお手伝いさせていただくようなプロジェクトは楽しく感じます。自分のチームが約束した結果をクライアントにお届けできるのは、とても気分がいいものです。
Platformのデザインプロセス
―Platformでのデザインプロセスについて、教えてください。
私たちは、まず全体のコンセプトをよく理解するところから始めます。顧客のエンゲージメントや、リテンション、リファラルを高めるためのデザイン戦略を考案するためです。成功しているスタートアップのデザインフレームワークなどもよく使います。クライアントと共に、最もビジネス的に価値がある重要な機能を決めていき、それ以外の不必要なものは全てカットしていきます。
実際のデザイン制作は、詳細なワイヤーフレームやフローチャート作りから始めます。ときにはPhotoshopで作業する前に、プロジェクトメンバー全員がユーザーフローをより理解できるよう、操作可能で簡易的なプロトタイプを作るところから始めることもあります。
一週間後にデザインの外観や雰囲気、インタラクションのコンセプトなどが伝わるようなプレゼンをします。プレゼンではアニメーション付きのことも多いのですが、アニメーションは記憶に残るようなユーザー体験を作り出す大きな要素と考えています。アニメーションにこだわることで、ユーザーはプロダクトをより愛してくれるようになります。
全体的な外観と雰囲気にOKが出て、デザインのフレームワークも整ったら、残りの画面デザインやプロトタイピングを続けます。制作の終盤では、完全に機能するプロトタイプを届け、アジャイル開発のメソッドに則って、デザインスプリントをしていきます。実際に操作できるプロトタイプや主要なデザインを毎週出していって改良していきます。
Platformのチームマネジメント
―有能なデザイナーを率いることで、特に大変なことは何ですか。
私が出会ったデザイナーの多くは自分の仕事にプライドを持っているので、仕事について議論する時には言葉を選ばなければなりません。私もデザイナーなので、その点はよりスムーズに話し合いができるのではないかと思いますが、制作責任者でPlatformのCOO(最高執行責任者)のFilip Francisty氏にとっては難しいところかもしれません。
良いデザインがあったとしても、私たちの役割は共にビジネスゴールに向かって進み、結果を出すことなのです。デザインしている間は仕事のゴールなど簡単に忘れてしまいます。制作期間中ずっとチーム全体の士気を高め続け、ゴール向かって進み、期限を守ること(私たちのように毎日クライアントに進捗状況を知らせているなら特に)が大変なところでもあります。
他には、チームのために様々な面白いプロジェクトを持つということでしょうか。そのために、直接のクライアントをもったり、ソフトウェア開発会社、他の広告代理店と協力しています。
必要であれば、より近いところで仕事ができるよう、デザイナーをクライアントのオフィスに送ることもあります。これは自社、クライアント、そしてデザイナー自身にも面白い経験を与えてくれます。
よりよいモバイルUXのために
―スマホのデザインをするときにデザイナーが心得ておくべきことを幾つか教えて下さい。
モバイルによりよいUXをもたらすには文字入力、タッチや手順を少なくすることが不可欠です。良いデザインというのは、ユーザーがデザインを意識しないで使えるものであって、ユーザーのライフスタイルに自然に溶け込むような機能を持ったものです。
自動経路探索や、パーソナライズなどの学習機能、トラッキング、位置情報に基づいたレコメンド、自動入力のフォーム、さらには天気を考慮した機能などがそれにあたります。
またマイクロインタラクションなども、アプリを「ただ使う」という領域から「快適に使う」という領域まで押し上げてくれる非常に重要な要素の一つです。
親指が届く範囲を考えることも大切ですね。私たちは電話を片手で操作していますから、最もインタラクティブな要素を親指の届く半径に収めることは重要です。
ユーザーのためにデザインする
―一流のデザイナーは何が違うのでしょうか。もし新しいチームメンバーを雇うとして、デザイナーに求める重要な資質はありますか。
普通のデザイナーは美しいUIを作り出します。クライアントや、Dribbbleに載せる自分のポートフォリオ作りのためによくデザインをします。一方、一流のデザイナーは問題を解決したり、ユーザーのためにデザインします。
私たちのデザインプロセスでは、仕事に対する姿勢や、整理能力、そしてチームワークが求められます。私たちはいつもわざと離れた場所で共同作業をし、そのデザイナー候補者がどれだけその辺りがきちんとしているかを見てみます。
もし、PhotoshopやSketchに名前のついていないレイヤーがあったり、レイアウトやパディングに一貫性がなかったり、テストプロジェクトを進める際に言い訳などがあると、他のチームメンバーとの作業はきっとうまくいかないでしょう。
―起業を考えているデザイナーにアドバイスはありますか。
ピクセルをいじってるだけのWebデザイナーにはならないようにしましょう。ユーザーに焦点を当て、事業を改善するために何ができるか考えて下さい。かっこいいデザインだけでは不十分です。プロダクトファネル、セールスファネル、CRO(コンバージョン率最適化)を勉強して、リーンやアジャイル開発手法に則ってください。透明性を保って、気取らず公平でありましょう。投げやりになってはいけません。そして何よりも、優しさを忘れないで下さい。