最近私が参加したデザイン関連のイベントの一つにeBay and StubHub: Marketplace Panel and After Partyがあります。その当日のパネル・ディスカッションでは、Airbnbのエクスペリエンスデザイン部門責任者であるKatie M. Dill氏が「信頼」「ダイバーシティ」そして「クロスカルチャー・ブランディング」について語っていました。
それをきっかけに私はAirbnbのデザインがどのようにして異文化間のビジネスを支えるのかをケーススタディとして、学んでみようと思いました。
信頼
信頼を築くということは、基本的にはデザイン思考のメンタリティを持ちながら、与えられた機会や挑戦にアプローチすることを意味しています。パネル・ディスカッションの全ての登壇者は、信頼を築く際にデザインがどのような役割を果たしていたかを語っていました。彼らは全員、人間の体験というものを中心に話していました。
信頼は「人間の視点から望まれるもの」と「技術的・経済的に実行可能なもの」を一つにまとめてくれるようなものである ―IDEO
Airbnbはどのようにしてホストとゲスト間の信頼関係を築く手助けをするのか?
Katieによると、Airbnbのチームは信頼を築くことと、見通しのよいコミュニティ市場を養成することに注力しているそうです。具体的には社会的な評判を得ることだったり、分析を通したコミュニケーションやコネクションを探ったりといったことです。
彼女は、Airbnbの共同創設者でありプロダクト部門の最高責任者であるJoe Gebbia氏による、Airbnbがどのように信頼のためのデザインしているかを発表している動画があると紹介してくれました。
その動画はとても見応えがあったので、私が特に重要だと思った部分を共有したいと思います。(JoeのTED talkで更に詳しく見る事ができます)
私たちは出会った事のない人と信頼を築こうとしています。デザインの力でそれを実現できるでしょうか? 信頼のためにデザインをすることは可能でしょうか?
信頼を得るためには、念入りにデザインされた評価システムが鍵となります。
このTEDトークでJoeは、Airbnbが今まで直面した難題の一つをオーディエンスに体験してもらうため、とあるデモンストレーションを行いました。それは各々の携帯電話のロックを解除し、左隣の人に渡してもらうというものでした。それにより、Airbnbが直面している、ホストとゲストとの信頼関係の構築という難題を体験させることができました。
JoeによるとAirbnbはスタンフォード大学と連携し、年齢、所在地、地理などの類似性を元に考えた場合の、人が他人をどれだけ信頼できるかについての研究を行ったそうです。
研究の結果、私たちは自分たちに似た人を信頼する傾向にあることがわかりました。自分と違えば違うほど、信頼度は低くなります。社会的偏見としては自然なことです。
ですが、ここに「評判」を付け加えると全く話が変わってきます。
編注:下記の図の縦軸は信頼度を表しており、ラベルは上から「私の赤ちゃんを預かって」「遊びにおいで」「私の携帯電話を返して」となっていて、下に行くほど信頼度が低くなります。横軸は自分との類似度を表しており、ラベルは左から「私とそっくり」「全く似ていない」となっていて、つまり右に行くほど自分と似ていないことを示します。
つまり、高い評判は高い類似性を凌駕するということです。正しいデザインは根深い偏見の一つを乗り越えることを手助けしてくれるのです。
正しい量の信頼を築くには、正しい量の情報開示を必要とします。
Airbnbはどのようにしてデザインを行い、適切な情報開示をユーザーに促しているのでしょうか? 彼らは自己紹介を促すUIの投稿ボックスの大きさを調節し、正しい長さを提示し、ユーザーに共有してもらうための促進を行いました。
デザインによって根の深い、他人を警戒する偏見を乗り越えることができるのです。
信頼をうまく構築できると、それはまるで魔法のような効力を発揮します。
取引の背景で起きている「繋がり」こそが、まさにシェアリング・エコノミーが目標としていることです。
シェアリング・エコノミーは、人間の繋がりの約束との取引なのです。
ダイバーシティ
Airbnbは191カ国で展開されているサービスなので、非常にダイバーシティ(多様性)に富んだ場所です。
異なった背景を持つ人々、特にサンフランシスコ外の人はどんな視点を持っているのか? 違う言語の人とのコミュニケーションを図るというのはどういう感覚なのか? このような多様性をより理解していくため、Airbnbはサンフランシスコ外でUXリサーチを行い、文化の違いを学び、吸収しています。
Airbnbの従業員のダイバーシティ
世界の誰もが居心地のよい場所を創り出したいのなら、まず自分たちの環境から始めなくてはなりません。
どこにでも属するための難題
どんなビジネスも、難題に出くわすことがあります。 Airbnb’s ‘belong anywhere’ undercut by bias complaintsの記事によると:
Airbnbは「どこにでも属する(belong anywhere)」というスローガンに基づいて行動していますが、差別をなくすために十分に働きかけることができているのか疑問視する声もあり、苦戦を強いられています。この社会に何世紀もの間はびこっている、差別と無意識な偏見に向けて働きかけると、Airbnbは誓っています。
Airbnbのホストの間では、名前が明らかに黒人だとわかる人に対しての差別が広がっていることがHarvard Business Schoolの研究によってわかりました。
CEOのBrian Chesky氏は、この出来事は不快で容認できないものと主張し、人種差別はAirbnbには必要ないと述べました。
私はAirbnbのスローガンを今でも信じていますし、そのビジネスの理念を尊敬します。私自身、ここアメリカにおけるマイノリティの一人として、マイノリティに対する差別は未だに社会に蔓延していることを認めざるを得ません。
Airbnbほどの世界規模のビジネスであれば、広範囲のダイバーシティを抱えつつ、ユーザー(Airbnbの場合、ホストとゲスト両方)の質をコントロールする事はとても困難なことです。異文化を許容できないユーザーがいたからといって、社会全体が企業を罰するのは早計だと感じます。
偏見の一例
私の出身の中国を例にとりましょう。多くの人は未だに中国人、とりわけ本土から来ている中国人に対して偏見を持っています。
中国人というと、「無礼」「教養がない」「マナーがない」「うるさい」などと形容します。果たしてその人たちは、実際にそのように感じるやり取りが中国人との間であったのでしょうか? 中国人として私は、人々の偏見で判断されることは不公平だと思います。しかしソーシャルメディアの世界では、ネガティヴな振る舞いはポジティヴな振る舞いに勝ってしまうのです。
腐ったリンゴたった一つで樽をまるごと駄目にすることができるが、一人や二人の働き手では「傷ませない」ことはできない。
どうしても言わなくてはと思うことは、良い人たちは一生懸命に人々の精神に潜む偏見を変えるために働いているということです。それには時間が必要ですし、さらにオーディエンスの忍耐が重要となります。
クロスカルチャー・ブランディング
現在、Airbnbは191の国でビジネスを行っています。彼らにとって国際市場でそのブランド力を保つことは重要です。KatieはAirbnbがデザインルールを用いて、どのようにブランドの一貫性を保っているのかを語ってくれました。それに加え、どこでも信頼でき安全な体験を毎回保障する必要があります。
Airbnbのストーリー
Airbnbは多国にまたがるブランド力を保つため、マーケティングの力を駆使しています。ストーリーテリングをすることで、人は集まってきます。Airbnbのbelong everywhere pageのページでは、ニューヨーク、パリ、東京、トゥルムなど世界中のホストのストーリーを見る事ができます。ホストそれぞれが彼ら自身について、または彼らの国や町の歴史や文化の話を語っています。
一つの好事例としては、Airbnbがベルリンの文化と経済にもたらした効果です。Airbnbのサイトで素晴らしいコンテンツが展開されています。以下は、かつて冷戦時代にベルリンで守衛として働いていた男が、その冷戦以来、はじめてゲストとしてベルリンを訪れた話を動画にしたものです。
Airbnbを創る
Airbnbが取っているもう一つの戦略は「Create Airbnb」です。これはシンボルをユーザーが形や色を編集しカスタマイズできるものです。
アイコンを足したり、ロゴにパターンを編み込んだりすることもできます。さらにユーザー自身の個性で選べる色やグラフィックを挿入するための説明もあります。Airbnbのシンボルについての更なる詳細はここBélo reportで確認ができます。
Airbnbオープンコンヴェンション
Airbnbは年に一度、Airbnb Openと呼ばれるワークショップやプレゼンなどの催し物を行うコンヴェンションを開催しています。
私の友人がホストとして招かれたと聞いて、初めてこのコンヴェンションのことを知りました。このことを更に詳しく知るには、ぜひAirbnb’s blogで2015年の模様を見てみてください。
まとめ
「信頼のためのデザイン」はホスピタリティをビジネスにする産業にとって共通の課題ですが、Airbnbはそれにうまく立ち向かっています。
Joe Gebbia氏のTEDトークから、信頼というものが何か、それがどのような働きをするか、信頼を支えるプロダクトを作る方法は何か、ということを学びました。ビジネスでも、より良い信頼のためのデザインが可能なのです。
今回のケーススタディはAirbnbがホストとゲスト間の信頼関係の構築を行うことから始め、その後、異文化間に長らく存在した障壁を壊す手助けをするという、強力なコミュニティ主導のブランディングを作り上げたことを示してくれました。Airbnbはプロダクトとブランディング両方において、デザインカルチャーをふんだんに取り入れたのです。
例えばAirbnbは部屋を借りた人に、Béloと呼ばれる新しいロゴを彼らのリスティング(掲載ページ)に加えたり、Tシャツにプリントしたりしています。Airbnbという屋根の下で、より多様な文化の人々がよりバイラルに繋がれるコミュニティが出来上がっているのです。
Airbnbの勝因は、世界中どこにでも居場所があるという感覚を創り出すために、ホストとその周りの人々を巻き込んでデザインをしたということです。彼らはWebやアプリ上の仕組みのみならず、ユーザーと実際その周りにいる人々との繋がりを提供しているのです。
Airbnbがどのようにして人々の持つ差別や偏見を乗り越えていき、世界をより暖かいコミュニティに変え、良い場所にしていくのか、楽しみにしています。