第二次世界大戦後の芸術運動に生まれを持つミニマリズムが、強力なWebデザインの技術として近年再び台頭しています。ときには、見た目よりも中身を重視する試みとして紹介されることもあります。ミニマリズムを正しく活用することで、ユーザーの作業をシンプルにするデザインに焦点を当てることができるのです。
また、読み込み時間を短くし、異なるスクリーンサイズへ対応しやすくなるといったメリットもあります。ミニマリズムによって簡略化されたデザインは、それだけで十分すっきりした見た目になりますが、実は「少ないほど得るものが多い」というメリット以上のものが隠されているのです。
この記事ではミニマルデザインの原則とベストプラクティスを紹介します。
ミニマルWebデザインとは?
今日もっとも人気のあるデザインの多くが(フラットデザインやヒーローイメージ、グローバルナビの非表示化など)2000年代前半のWebデザイン革命に見られたミニマリズムの影響を真っ向から受けたものです。
GoogleはよくミニマルなWebインターフェイスのパイオニアとして挙げられ、90年代のベータ版段階からインターフェイスのシンプル化を優先してデザインを行っています。
このGoogleの検索ページが成功したことで、ミニマリズムは注目されるようになりました。
ミニマルなWebサイトをどのように正確に評価するかについては議論がわかれますが、多くのデザイナーが同意する特徴として以下のように定義できます。
必要不可欠な要素だけで作る
ミニマリズムの哲学はとてもシンプルです。「少ないほど得るものが多い」-これだけです。Webデザインではこの哲学を、必要不可欠な要素だけでデザインすることで実現します。ミニマリズムのWebデザイン戦略では、不必要な要素やユーザーの作業に関与しないコンテンツを除去してインターフェイスを簡略にすることを目指します。
- 画面上の要素が少ないほど、ほかの要素も引き立つ
この論理に則ると、もし画面上の要素がたったひとつだったらユーザーにメッセージを確実に伝えることができるのです。
ミニマリズムはユーザーの意識をコンテンツから逸らすあらゆるものを意図的に削ぎ取ります。その一方で必要なコンテンツが取り除かれたり隠されたりして、最も重要なタスクがやりにくくなってしまわないように気を付けなければなりません。
- コンテンツの周りは補助的な要素(プライマリナビゲーションなど)だけを残してデザインすれば、ユーザーが混乱する恐れがなくなる。
空白のスペース
ミニマリズムにおいて、要素がまったくない状態が大部分を占めているのは、決して驚くことではありません。ネガティブスペース(ホワイトスペース)はミニマリズムでもっとも重要な特徴です。空白によって効果が発揮され、ユーザーが閲覧するフローを上手くコントロールできます。
- オブジェクトの周りに何もないほど、そのオブジェクトへの注目の意識が高まる。
特徴のあるビジュアル要素
ミニマルデザインでは、ユーザーの注目があらゆる細かい部分にまで行き届きます。画面にどの要素を残すかで、サイトの印象は劇的に変わります。
- フラットな画像:ミニマルなインターフェイスには、しばしばフラットな画像やアイコン、グラフィック要素が用いられます。フラットなインターフェイスには、明らかな強調やシャドウ、角度の変更、そのほかUIを装飾したり立体的に見せたりするような効果は使用されません。
- 鮮やかな写真:写真はミニマルデザインの中で、挿絵としての役割を担うもっとも重要な要素です。写真によりページ全体の雰囲気とユーザーの感情との結びつきが形成されます。しかし写真を選ぶ際には、「選んだ画像にミニマリズムの特徴がすべて表れていなければならない」という教訓を忘れないようにしましょう。間違ったイメージ(たくさんのものが映り込んだ雑多な写真など)を選ぶと、周りのミニマルなインターフェイスが損なわれてしまします。
- 最小限のカラーでデザインする:ミニマルデザインでは余分なデザイン要素やグラフィックを省いてデザインが行われ、カラーは直接注目を引き付ける役割で使用されます。できるだけ少ない配色でデザインしなけらばならないので、ビジュアルの階層を作る際にはクリエイティブな作業を行う必要があります。
- 躍動感のあるタイポグラフィ:フォントを太字にするだけで文字やコンテンツにすぐに注目してもらえるようになり、より人を惹きつけるダイナミックなビジュアルを作ることができます。インパクトのあるミニマルデザインの事例では、太字フォントや面白みのある文字フォームを使っているものが多いです。しかし太字のタイポグラフィは、重要な意味のある文に使わなければ意味がないことを忘れないでください。
- コントラスト:少ない要素でデザインしなければならないので、ビジュアルの階層がわかりやすくなるよう配慮しなければなりません。下の『We Ain’t Plastic』の画像例では、白い背景に真っ黒な宝石が配置されています。コントラストがわかりやすいデザイン例で、まさにミニマルデザインの本質を表したものと言えるでしょう。
優れたミニマルWebデザインのベストプラクティス
要素が少ないからと言って、ミニマルデザインが簡単だと考えてはいけません。要素が少ない中で通常のWebページと同質のユーサビリティを提供せねばならないのです。
1画面につき1メッセージにする
「1つのページに1つのコンセプト」というルールに従い、ページやスクリーンごとに1つコンセプトを設定し、1つのビジュアル要素に注目があつまるようにデザインしましょう。
ファーストビューに期待をもたせる
画面トップに十分にネガティブスペースを取った上で、重要なコンテンツを配置します。スクロールするにつれてコンテンツの量も増えていくようにします。
キャッチコピーにこだわる
Strunk氏とWhite氏は著書『The Elements of Style』の中で「不要なワードを排除する」と述べましたが、これはミニマリズムにも当てはまります。文章のコンテンツを修正して、最低限必要な言葉だけで伝えたいメッセージが完璧に伝わるようにしましょう。
ナビゲーションをシンプルにする
ナビゲーションが簡単であることは、Webデザインにおける最大のゴールのひとつです。しかし、このときナビゲーションを見えなくしてはいけません。ハンバーガーメニューを使用するなら、用いるべき適切な理由を明確にしてから用いましょう。確かにハンバーガーメニューはインターフェイスをすっきりさせますが、ナビゲーションの項目を見つけづらくするものでもあります。常にナビゲーションを表示させたほうがユーザーにとって便利であることが多いのです。
以下の2つのサイトのナビゲーションを比較してみましょう:
もうひとつのサイトがこちらです:
アニメーションを使用する
近年アニメーションの利用が増えており、ミニマルデザインに使わないと時代遅れとも言われかねません。アニメーションも同じく「簡潔に、必要な要素だけ」というミニマリズムの原則に従って使いましょう。
ときにはミニマリズムを捨てる
ミニマリズムの考え方はあらゆるWebサイトに応用できるものですが、ミニマルリズムの美学がいつでも当てはまるというわけではありません。ミニマルデザインは、サイトの中で最初にアクセスするページやポートフォリオのサイトに非常に適しています。下記の例のように、目的がシンプルで、必要なコンテンツが比較的少量のページでデザインすると非常に有効です。
一方で、より複雑な構造のサイトにミニマルデザインを効果的に用いるのはとても難しいです。要素を削るとコンテンツが豊富であるというサイトの特徴が損なわれてしまいます。このような場合はランディングページをミニマルデザインで作成し、そこから詳細なページに続くようにすると良いでしょう。
利用可能なリソースやツール
- Minimalist Color Palettes―ブラック対ホワイトという基本的な配色以外にも、ミニマルデザインに共通するカラースキームが入手できます。
- Color Contrast Checker―背景色と前面色を入力すると、コントラストの比率を算出され、もっともアクセシビリティの高い配色を作成できます。
結論
ミニマルデザインのサイトは、ユーザーのタスクに関係ない不要な要素やコンテンツを取り除いて、インターフェイスをシンプルにしていくものです。ミニマルデザインのサイトのもっとも魅力的なところは、ユーサビリティとサイトを洗練することそれぞれの目標が、デザインで結びつくことです。ナビゲーションをわかりやすくすることで、ミニマルデザインのサイトは、ユーザーとのコミュニケーションの強力な手段となることでしょう。