なぜデザイン思考でプロトタイピングが重要なのか

Rikke Friis Dam

RikkeはInternational Design Foundationの共同創設者およびチーフ編集者です。

この記事はInteraction Design Foundationからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Design Thinking: Get Started with Prototyping

プロトタイピングは、一般的にデザイン思考やユーザー体験をデザインする際に欠かせないものです。これは、アイデアをすぐにテストして、状況に適した手法で改善することができるからです。スタンフォード大学のデザインスクール(d.school)では、「行動重視の姿勢」が推奨されています。これは考察や会議よりも、実際に構築することやテストすることを重要視するものです。

しかしなぜプロトタイピングがデザインのプロセスでそれほど重要なのでしょうか? もっと言えば、ユーザーを第一に考えたデザインの解決策を考え出すのに、どのように役立つのでしょうか? プロトタイプを作成して仮説を検証する前に、プロトタイピングとは何か、なぜプロトタイピングをするのか、どのように行うのかについて、詳しく理解していきましょう。

なぜプロトタイピングが生まれたのか

以下のような状況を思い浮かべてください。あなたは新しいプロジェクトに携わっており、あなたのチームはブレインストーミングとプランニングにすでに数ヶ月もかけていて、完璧に近い形までプロダクトを作り上げました。それが必要な機能をすべて備えて正しく動作するように、できることはすべて行いました。また、デザインにも注力し、作った意図がきちんと伝わるようにしました。サイトはきちんとユーザーの関心を引き、掲載されたプロダクトを見ようと、興味を持った人が訪れました。

しかしどういうわけか、プロダクトやサービスの提供者は、それを試してみようとはしません。彼らはいつもどおりにビジネスを行い続けるだけで満足していて、潜在的な顧客がサイトに何千と訪れていることには関心がないようです。しかし、あなたにとってこれでは意味がありません。何ヶ月かが過ぎて、貴重な時間や資金、資源を費やし、訪問者の興味を引くことまでできたのに、顧客はできませんでした。

一体なにが悪かったのでしょうか?

このような話は、何度も繰り返されている話です。市場に影響を及ぼしたり、社会的に大きな変化をもたらしたり、わかり切ったことをいちからやり直すことに固執しているような人たちがアイデアを実行したせいで、プロジェクトが終わって初めて、時間を無駄にしてきたことや、間違ったことに焦点を当てていたことに気付くのです。

このような状況を打開しようと、リソースを使い過ぎる前に、正確なテストを行ってアイデアを深めるツールやアプローチとしてプロトタイピングが誕生しました。プロトタイピングやモックアップ作りとなると、多くの人は幼い頃に、紙やカードや粘土などの手に入りやすい単純な素材を使って、実物の模型を作っていたことを思い浮かべるかもしれません。アイデアをテストする初期段階で開発される大まかなプロトタイプは、このようなプロトタイプと大きな違いはありません。

「画像に何千という言葉以上の価値があるのなら、プロトタイプには何千回のミーティング以上の価値があります。」―IDEOでの言い習わし

プロトタイプとは?

著者および著作権保有者:Samuel Mann氏。著作権条項およびライセンス:CC BY 2.0

どんな完成品も、「マークI」「マークⅡ」「マークⅢ」などの作業用タイトルをもつ試作品が1つか2つ(またはそれ以上)あるデザインプロジェクトの最終段階で生まれます。

プロトタイプとは、アイデアやデザインの仮説、そのほかのコンセプトの考え方を低コストで素早くテストするのに用いる、シンプルな実験用モデルです。これによってデザイナーは、適切にプロダクトを改善したり方向転換したりすることができます。

プロトタイプには多くの形式があります。そのようなさまざまな形式に共通する唯一の点は、アイデアを具体的な形にしたものだということです。プロトタイプは、完成品の試作版である必要はなく、完成品からかけ離れていても問題ありません。解決策を表現するのに使う単純なスケッチや絵コンテ、大まかに紙に描いたデジタルインターフェースのプロトタイプ、アイデアを提供するサービスを検証するロールプレイングも、すべてプロトタイプの事例です。

プロトタイプはプロダクト全体をカバーするものである必要はありません。解決策の特定の部分をテストするためには、車いすのハンドルなど、解決策の一部分だけを試作するので十分です。

プロトタイプは、初期段階のテストや学習に役立つように、簡潔で大まかなものでも構いませんし、プロジェクトの終盤でテストや試験調査をするために、詳細まですべて組み立てられる場合もあるでしょう。

プロトタイピングとは、頭の中にある理論的なアイデアを実際に形にして、最終的に公開する前に現実世界での影響を検証することです。十分な調査や検証を行わずにアイデアへ到達し、アイデアの実現可能性やターゲットに対する効果について確認する前に、アイデアを実行してしまうデザインチームは大変多くあります。

なぜプロトタイプが必要なのか

初期段階のリサーチがすべてではない

デザイン思考の初期段階で行われるリサーチから、最適な解決策を考えるために知っておくべきすべてのことがわかるわけではありません。徹底的にリサーチして大量の情報を収集したとしても、また、考案したアイデアが世の中を変えるような解決策だと多くの人が感じていたとしても、テストは成功するために決定的に重要です。

デザインチームは初期の調査段階で収集した調査結果にすぐ執着してしまい、アイデアに対してバイアスが生まれてしまいます。プロトタイピングでテストすることで、アイデアに対して抱いていたバイアスや推測を明らかにすることができます。また、ユーザーへのインサイトを深めて、解決策を改善したり新しい解決策を考え出したりすることができます。

プロトタイピングは、デザイン思考におけるプロトタイプ以前のステップでも、リサーチ手法として活用できます。インターフェイスやプロダクト、サービスの問題を探したり、アイデアの改善やイノベーションにつながるエリアを特定したりすることもできるでしょう。

編注:デザイン思考のステップには、以下の図のように5段階あります。デザイン思考の5段階とは、①共感(ユーザーのニーズの発見)、②問題定義、③創造(アイデア出し)、④プロトタイプ、⑤テストのことを指します。

著者および著作権保有者:Teo Yu Siang氏および Interaction Design Foundation。著作権条項およびライセンス:CC BY-NC-SA 3.0

デザイン思考とは、デザイン方法論の1つで、問題を解消する解決策を軸にするアプローチです。未知の問題や、間違って定義された複雑な問題などを対処するのにきわめて有効です。ニーズを理解する、ユーザー第一の視点から問題をとらえなおす、ブレインストーミングをして多くのアイデアを生み出す、そしてプロトタイピングやテストをして実践的なアプローチを適用するという段階があります。

デザイン思考の5段階は連続的ではありません。プロジェクトのどの時点でも、問題やアイデア、プロトタイプに基づいて開発を反復したりユーザーをもっと理解したりすることで、段階ごとに異なる心持で作業を行います。

各段階におけるプロトタイピング

デザイン思考のさまざまな段階で、プロトタイピングを行うべきです。プロトタイピングは、ユーザーだけでなくデザイナー自身も別の解決策を見つけることができるので、アイデアを考案する手法として使うことができます。なぜなら、プロトタイプは解決策を物理的に実現したものであり、プロトタイピングによって実験から考察することができるからです。「実行して考察する」という考え方を取り入れることで、リサーチや問題定義、アイデアの考案、テストというデザイン思考の各段階において、より多くの価値を見つけることができます。

プロトタイプによって満たされる目的をいくつか見ていきましょう。

探索と実験

特定の領域内の問題、アイデア、および機会を探索し、段階的な変更、または大規模な変更の影響をテストできます。

学習と理解

問題やプロダクト、システムの仕組みをより良く理解するためにプロトタイプを使用しましょう。プロトタイプを使ってそれらの課題に実際に関わることで、何が機能していて、何がしていないのかを分けることができます。

ユーザーと関わる・テストと体験

プロトタイピングを使用することで、エンドユーザーまたはステークホルダーと関わり、より深いインサイトとより価値のあるユーザー体験を明らかにすることができます。それによって、彼らに今後のデザイン決定を知らせましょう。

感化させる・購買を促す

新たなアイデアを売るため、内部と外部のステークホルダーに購買をうながすため、まったく新しい実験と考察の方法でマーケットを感化するために、プロトタイプを活用しましょう。

プロトタイプがどのように機能するか

行動重視の姿勢

d.schoolのDesign Thinking Bootcamp Bootleg Toolkitが紹介している、デザイン思考に不可欠な心構えの1つに、行動重視の姿勢をもつことが挙げられます。

「デザイン思考という言葉は誤った名称で、実際には思考することよりも実行することに意味があります。デザイン思考は、会議や思考より、行動を重視する姿勢なのです。」―d.school

これは、考えすぎてしまい行動に移せなくなる状態(分析まひ状態)でいてはならないことを意味します。仮説を調査するときは、理論的に考え抜くかわりに、実際にテストを行うことになるからです。適切に制御された実験をすることで、実際のコンテキストに応じて仮説を実証・反証することができるようになります。これによって、元のアイデアを改善したり廃棄したりできるのです。

実行から学びを得る

デザイン思考でもっとも重要な要素の1つに、まだ見ぬ可能性を探して未知のインサイトを発見することがあります。ですから、デザイン思考は、定義として、学習活動やチームの学習能力を強化する活動を強調しているのです。提唱された解決策が前提にしている考えにどのような問題が存在するかを理解するために、その解決策を実験・改善することで、行動重視の学習を進めることができます。このようにして、チームは素早く開発を反復できるようになり、テスト用のモデルを修正することで、より目標に近づけるのです。

創造力を掘り起こすスキル

革命的なアイデアは、本当に何もないところから生まれるでしょうか? クリエイティビティが爆発して天才的なきらめきが起きるのでしょうか? 破壊的なイノベーションやスタートアップ、画期的なアイデアが、クリエイティビティを刺激するために「売られて」いるとしたら、必要なのは思考のスイッチを成功する心持ちに切り替えることだけでしょう。

国際的なデザイン会社であるIDEOの創始者、David Kelley氏とTom Kelley氏は、彼らの著書『Creative Confidence』の中で創造力を掘り起こすスキルを育てることが重要だと主張しています。彼らによれば、突然のひらめきが起こりやすい環境に身をおくことでスキルを育てることができるそうです。つまり、関心のある題材に没頭することで、幸運なひらめきが起こる機会が生まれます。その題材の領域への関わりを深める中で、ブレイクスルーを偶然見つけた人の大多数が、これを実行しています。

Kelley氏は、考え抜くだけでなく、実際にテストして考察することで革命的な発明を生み出したさまざまな人物を、実例に挙げています。解決策がもつ良い影響と悪い影響を理解するもっとも優れた方法の1つは、実際に解決策になりうるものを実験して改善することです。

プロトタイピングは、アイデアを実現可能な形に変換する作業です。プロトタイピングによって、チームはアイデアの長所と短所を見つけて議論することができるようになります。結果的に、ユーザーのフィードバックから学んだり、創造力を掘り起こすスキルを育てるちょっとした機会を作ったりすることもできるでしょう。ですから、考えるだけの状態はやめて、すぐにアイデアを実行し始めましょう。

まとめ

私たちはこれまでに何度も、新しいアイデアを発見してブレインストーミングを行い、それを実行するための計画を練ってきました。ですが、その計画を公開したあとになって初めて、優れていると思っていたデザインが、ユーザーの興味を引くものではないことに気付くのです。つまり、私たちが解決策の前提にしていたことは、常に間違っている可能性がありました。もし間違っていたら、膨大な時間と資源を無駄にすることになります。

プロトタイピングはこのような失敗を防ぐものです。プロトタイピングを素早く頻繁に行えば、前提となる考えをテストしてユーザーについて学び、アイデアを改良し続ける、もっとも優れた手段になります。

紙に描いたスケッチからロールプレイングまで、アイデアを実際に形にして検証できるようにしたものは、どんなものでもプロトタイプです。プロトタイピングによって、思考よりも行動を重視する姿勢をもつことができます。そして創造力を掘り起こすスキルを向上する機会、つまり真の意味で役に立つ革命的な解決策につながる革新的なひらめきを生み出す機会を作ることができるのです。


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