クライアントの信頼を得るためのデザイン営業とは

Jarrod Drysdale

Jarrodはフリーのデザイナー、ライター、およびコンサルタントです。10年以上の経験をもつデザイナーとして、彼は週1のデザインニュースレターCritiqueを何千人の読者に対して書いています。

この記事はA List Apartからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Long-Term Design: Rewriting the Design Sales Pitch

私たちはクライアントビジネスを、掃除機を訪問販売する営業マンのように行っています。ひどい言い方に聞こえるかもしれませんが、私たちは実際そのようにしてデザインを販売しているのです。短期的な利益に集中するあまり、クライアントに対して自分たちの仕事を使い捨てのもののように伝えているのです。

デザイナーたちはもっと良い仕事をしていると私は信じたいです。

私たちはドアを叩き、サービスをさも素晴らしいように謳うことにキャリアのすべてを費やしています。それが、私たちがビジネスでしていることなのです。候補であるクライアントがすでに使用しているデザインが十分良かったとしても、私たちは懸命に自分たちのデザインを売り込むかもしれません。しかし、それはクライアントにとっても私たちにとっても悪いことです。この営業は、デザインは新しいものだけが価値があるという考え方からきています。

営業マンの宣伝文句を考えてみましょう。

あなたのデザイン(掃除機)は古いです。ほかの人は新しいものを使っていますよ。新しいものを買わないと損ですよ。現在のものでは、あなたのご家族や仕事は安全でないかもしれません。

デザイナーという職業には、クライアントを駆け回って新しいプロジェクトを受注することが求められていると思います。家具の周りのほこりやその吸い取りやすさを主張する代わりに、デザイナーの文句はさらにこのようになります。

現在のデザインでは、あなたのブランドは市場で顧客から共感を呼べないでしょう。時代遅れに見えますし、競争相手はみんな最新のブランディングを行っています。もっと新しいデザインを取り入れないと、競争相手に対してマーケットシェアを失ってしまうでしょう。

短期的な仕事はクライアントにとって良くない

デザインとは、単に見た目に関することだけではありません。デザインは、ビジネスを動かし、マーケティングリサーチを行い、製品やサービスを生み出すための基礎となるものであるべきです。私たちはこのような記事を他の出版物でも執筆しています。デザインとは強力で重要なものです。そのため、私たちはデザイン思考の原則について説き、アクセシビリティやWebスタンダードを向上させるように努め、ユーザー優先の概念を伝えています。

しかし、デザインワークをクライアントに売り込むとき、たいてい見た目の部分だけを売り込みます。また、仕事が取れたとしても、デザインを送って契約書を獲得することに努め、契約書を獲得すると次のクライアントへと移ってしまいます。

ほとんどのデザイナーは、デザインワークがどのように機能しているか見続けることはめったにありません。デザイン思考でプロジェクトを開始したとしても、デザイン思考をそのまま続けることはあまりないのです。そのせいで、クライアントは本当に必要になる前に新しいデザインを発注したり、別のデザイナーの売り文句に負けてしまいます。

デザインの価値がしっかりと伝わるのには時間が必要です。たとえば、新しいWebサイトをローンチしたら、私たちはすぐに分析をして変化を測定するでしょう。しかし、それと同時にABテストや分析、最適化を通してデザインにはさらなる改善の可能性があります。

残念ながら、ほとんどのサイトは最適化されていると言えません。サイトがローンチしてから1、2年するとデザインが新しいものになってしまいます。クライアントは、投資に対する完全なリターンをまだ獲得していません。

さらに考えを深めていくと、この「リデザインのサイクル」こそがデザインの価値をさらに落とします。言い換えると、新しいデザインだけが価値があると言いますが、最初の段階ではデザインには価値がないのです。

ロゴデザインのソフトウェアやテーマ作成のアルゴリズム、ドラッグ&ドロップのデザインツールなど、より安くて新しいデザインが私たちの職業には蔓延しています。私たちデザイナーは、これらの代替製品に取って代わられたり、デザインの価値を低く見られてしまうのではないかと恐れています。そして次の瞬間には、「デザインを新しいものにしましょう」とクライアントに言います。

クライアントが、新しくて良心的な価格の選択肢を試すことに対して非難することはできません。私たちデザイナーこそが、最初の段階における「新しい」デザインの価値を教えている存在だからです。

クライアントを駆け回るのはあまり利益にならない

新しいクライアントを絶えず見つけるのはとても労力がかかり、多くのデザイナーや代理店に絶えずつきまとう大きな課題です。フリーランサーは何時間も求人掲示板をクロールし続け、仕事を獲得しようとポートフォリオを投稿します。代理店も提案依頼書に対応するためにかなりのリソースを費やします。多くは販売スタッフと営業マネージャーを雇用します。

デザイナーはより高いレベルのポジションに就くと、結果的にセールスに時間を費やさなければならないというストレスに直面します。つまり、デザインのための時間が取れなくなるのです。

セールスは悪いことではなく、ある程度は常に必要とされることです。しかし、必要以上にセールスに時間を割くと犠牲が生じます。当然のことですが、セールスにかける時間と労力が減れば、その分より利益の上がるデザイン業務を行うことができます。そのためにも、新しい顧客のドアを叩くのをやめて、すでに獲得したクライアントに対する仕事を行い続けることが必要です。自分たちのサービスの在り方を変えて、長期的な視点からクライアントをサポートすることを始めましょう。

長期的な仕事はプロとしても個人としても喜ばしい

デザイナーは、新しいデザインを作ることにこだわりすぎてしまいます。そして、同じクライアントと仕事を1年間行うことは、退屈に聞こえるかもしれません。

その通りだと思います。新しいデザインを作るのは楽しいです。私も創作が好きですし、新鮮でカッコいいものを作るのに喜ばしく思います。しかしクライアントを駆け回る中で、もっとも楽しいデザインの仕事がそこにあるということを、私たちは見逃してしまいます。

4階層のナビゲーションをもつレスポンシブWebサイトをリデザインするような、難しくもやりがいのあるプロジェクトはなかなかありません。最初は恐ろしく退屈で苦痛に思われるでしょう。しかし困難なデザイン課題を解決する仕事は、想像以上の満足感を得られます。

また自分のデザインが人々のためになっていることを直接見れば、大きな達成感を得られるでしょう。新しいものを作るという一時的なスリルよりも、ずっとやりがいを感じます。あなたのデザインが日々の生活の向上やビジネスの成長に大きな役割を果たしていることがわかるのです。あなたのデザインの価値を認めている人たちがいるのは、とても素晴らしいことでしょう。

これらのやりがいは、クライアントに対して長期的に仕事を行い続けるときにだけ獲得できるものです。

長期的にクライアントに対して仕事を行うこととは

私の場合、長期的な視点でデザインを提供するというアイディアは、次のようなクライアントの発言から始まりました。

6週間ごとに契約書にサインするのはもううんざりです。毎月払いでも良いようにできませんか?

今では私は販売業の案件だけを担当しています。クライアントはみんな1年以上のお付き合いがある方です。

個人でコンサルタント業を始めて間もないころ、求人掲示板のクロールや、提案書を書いたりアポイントの電話に多くの時間を費やしていましたが、それによって契約できたプロジェクトは僅かなものでした。売り込みばかりをして、デザインに費やせる時間が数分もない週もありました。

数年が経ちましたが、最後に求人掲示板を見たのがいつだったか思い出せません。売り込みの電話もしません。提案依頼書に対応することもありませんし、毎週情報を検索したり長い提案書を作成したりすることもありません。今では前より多くデザインの仕事をしています。また、クライアントの信頼を得ているので、自分の仕事を修正することもめったにありません。長期的にクライアントと仕事をするようになって、私のデザイン業務は完全に変わりました。仕事によりやりがいを感じます。困難な課題を解決することで、クライアントが成功しているのを見られて嬉しく思います。

また、より多くの収益を得ることができるようになりました。仕事に費やすより多くの時間に対して報酬が得られるからです。私は時間給で働いていない代わりに、報酬を得ることのできる時間を増やして、それ以外の時間を減らしています。

クライアントの長期的な関係を構築する方法

新しいクライアントを探す終わりのない活動にうんざりしていて、長期的な視点への投資に計画性を感じられるという人は、今が始めるときです。

長期的なニーズを探しましょう。ほとんどのデザインプロジェクトは、クライアントにデザインを届けて支払いが完了した時点で終了します。終了したように見えますが、クライアントにとってこれは恐ろしいことです。多くのクライアントは、自分たちのために作られたツールの使い方がわかりません。つまり、クライアントはWebサイトやマーケティングのキャンペーンの使い方がわからず、デザインの導入が成功だったかどうか判断するのに戸惑います。

クライアントにとっての利益のために、最初のプロジェクトが終了したあとのサポートやアドバイスの申し出の際、クライアントの成功のための手助けや、投資によって得られる価値を表明しましょう。またそれだけでなく、自分自身の利益のためにもクライアントとの将来的な仕事の扉を開くことを同時に行いましょう。

利益があり、ビジネスを成長させているクライアントと仕事をする機会はたくさんあります。長期的な仕事は、小さなアップデートやメンテナンスの作業だけで成り立っているのではありません。新しいビジネス戦略をサポートしたり、ブランド力や資産を維持したりすることも業務の一環です。自分自身をデザインディレクターに位置づけて、戦略やブランドの維持についてアドバイスを行いましょう。これらはクライアントにとって非常に価値のあるサービスであり、元々のプロジェクトに対するクライアントの投資を無駄にしません。

クライアントの多くは、新しく作られたブランドに対してどのようにマーケティングを行うべきかがわかりません。あるいは、新しい機能や製品を始動させたり、作成したデザインを用いて新たに宣伝キャンペーンを行いたいと考えているかもしれません。このような悩みを解決するためには、デザインへのサポートが必要です。最初のプロジェクト後もクライアントとの関係を維持し続けて、パートナーシップの価値を示すことによって、継続的な仕事の依頼を得ることができるでしょう。

わかりやすく言うと、長期的な仕事は報酬がない仕事ではありません。デザインを届けることは、無料サポートを永久に行うということではありません。クライアントと彼らに提供した仕事によって、長期的な関係性を構築するための方法はたくさんあります。たとえば、以下のようなものがあります。

  • 毎月の定期的コンサルタント
  • コンバーション率最適化(CRO)やユーザーテストのような、プロジェクト段階の追加
  • 新しいデザインが始動してから、月に一度の点検作業を計画する
  • プロジェクトの支払いにおいて、分析レポートの作成業務を行う

これらの作業を、費用やプロジェクトの規模が拡大すると感じるクライアントがいるかもしれません。これはデザイナーが長期的な構造に不慣れであるのと同じように、クライアントも不慣れだからです。このような懸念に対処するために、デザイナーは長期契約の利点や価値について、クライアントに伝える必要があります。クライアントとの会話を始めるには、以下のような方法が良いでしょう。

  • 最適化を行うことが、投資に対するリターンを獲得するのに有益であることをクライアントに説明する
  • 最適化を行えば、あとで再デザインをする必要性がなくなることを説明する。

デザインの「オールドマネー」:大手代理店はより大きな取引を獲得する

大手広告代理店にとって、長期的なクライアントサービスは時代遅れです。なぜなら、長期的なクライアントサービスを何十年間も実行してきたからです。AdAge.comを読むと、大手代理店がより大規模の企業から数億円もの額の契約を獲得したという告知を見ることができます。もちろん、その代理店がすべての金額を得られるわけではなく、その多くはテレビ広告やWebサイト・印刷での宣伝に投じられます。しかし大体の場合、誰もが1年間仕事を継続することを意味しています。

このように、大きな取引が行われるとニュースになります。本格的なジャーナリストが取り扱うようなタイプのニュースです。

大きな契約を獲得するために、代理店はたくさんのリソースを投資します。そして契約が取れると、その年の実績を証明することができます。代理店を変えることは、大規模な投資なのでマーケティングの成功にかなりの影響を及ぼすため、大企業にとっても重大な決定です。

大手代理店のモデルをすべて模倣することを提唱するわけではありませんが(特にスペックワークについては)、小規模代理店やフリーランサーも同じように、小規模なクライアントに対して長期的なサービスを提案することができます。継続的な収入と長期的な関係は、Mad Men時代の大手代理店だけのものではありません。小さな規模での仕事であっても、デザイナーとクライアントの両方に同一の利益がもたらされるのです。

現実的なフリーランスの懸念

個人的なことを言うと、長期的な仕事をしようと決断したとき、学ぶことがたくさんありました。その投資によって、フリーランスとしてより安定的な収入を得ることができました。また管理や販売の業務が少なくなり、トータルでの収入を増やすことができました。

ですが、長期的な関係性にはリスクと複雑な問題があることも事実です。

フリーランサーにとってクライアントと長期的に仕事をするリスクとは、もしそのクライアントを失った場合、新しいクライアントのためのパイプラインの導入に時間がかかるので、作業スケジュールを埋めるためにより懸命に働かなければなりません。さらに、長期的な仕事を行っているクライアントが1つだけの場合はより深刻です。すべての卵を1個のカゴに入れているようなものです。たった1つのクライアントを失うことは、言うまでもなく深刻な事態です。

このようなリスクがあるため、複数の仕事を同時進行で行うことは、継続的な収入と主要なクライアントを失ったときに身を守るために重要でしょう。

さらに、長期的なフリーランスには税金の問題が絡んできます。給料制の雇用やフルタイムの労働契約、また独立した労働契約の法的な区別は、国によって異なります。たとえばイギリスのような国では、長期的なフルタイムの契約労働にはあまり肯定的ではありません。なぜなら、企業が納税義務や法的な利益の申告から逃れるための戦略として利用される可能性があるからです。

財政の安定だけでなく、税金に悩まさせないためにも、クライアントとの長期的な関係を複数持っている状態を維持することをおすすめします。または、フルタイムでの契約を短期的なものに制限して、それぞれのクライアントに対する仕事をパートタイムで行うように移行しましょう。また、もちろん税理士からの助言を受けるようにしましょう。

たとえば、半月~1年くらいの長期間でクライアントに対してフルタイムで働いている場合は、利益を見込めるでしょう。多くの理由から長期的な仕事は安定性と魅力がありますが、クライアントとは対照的に、本質的には雇用主である人から自分に見合った報酬を天引きされないようにしましょう。

最後に、長期的な仕事の契約書を作成するのは難しく、特に報酬に関してはより複雑です。間違いや見落としなどを保証する一般的なビジネス賠償責任保険に加入したり、弁護士に相談したりすることは、自分自身を守るための良いアイディアでしょう。

デザイナーへの敬意とクライアントへの利益

長期的な最適化を行うことで、デザインはさらに良いものへと機能します。またクライアントが収入が増えて自分たちのビジネス目標が達成されることがわかると、デザイナーへの信頼性はより高まります。

クライアントのビジネスを何カ月もにわたりサポートする長期的なパートナーは、訪問販売に駆け回るセールスマンとは大きく異なります。

デザイナーが長期的なパートナーとして活動することにより、デザインの価値が証明されてより多くの敬意を得られます。また、より多くの収入が得られる環境が設けられ、カレンダーを埋め尽くしていた価値のない販売業務を避けることができるでしょう。


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