ドッグフーディングのすすめ - 自社サービスを積極的に使うべき理由

Neil Turner

Neilは、UKのUXデザイナーおよび研究者です。 。

この記事はUX for the Massesからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Dogfooding – Why companies should use their own products

「ドッグフーディング」とは企業が自社の製品を使用することを意味する言葉です。

ドッグフーディングは奇妙な用語で、正確な起源はあいまいです。私が個人的に信じているのは、Kal Kan Pet Foodの社長が、ステークホルダーとのミーティングで毎回自社のドッグフードを食べていたのが起源であるという説です。残念ながら、現在のCEOがこの気高い伝統を続けているとは思えませんが。ドッグフーディングという言葉は、「自社のシャンパンを飲む」というわざとらしい言葉や、「自分のつくった料理を食べる」という機知のない言葉より、確実によいネーミングではないでしょうか。

ドッグフーディングは、MicrosoftHewlett Packardのような企業によって注目を集めました。これらの企業では、可能ならば必ず自社の製品を使用することを社員に推奨しています。この記事では、なぜドッグフーディングが一般的によいアイデアとされるのかをまとめたあと、ドッグフーディングに潜む危険性に焦点を当てます。しかしその前に、私自身のドッグフーディングの体験を少しだけ話させてください。

繰り返しになりますが、自社の製品を使うことであって、犬はまったく関係ありません。

私のドッグフーディングの体験

私は数年前、イギリスにあるパッケージツアーの代理店、ThomsonのUXデザイナーとして働いていました。仕事の一環で、私はサイトのユーザー体験を改善する方法を探し続けていました。どのようにしたらユーザーがよりプランを探しやすくなるでしょうか? どのようにしたらユーザーがより簡単に予約できるようになるでしょうか? 

すべてのユーザーを幸せにすることは、最終的に売上の向上につながります。多くの企業と同様に、Thomsonは社員に対して、自社のツアーを利用するときに割引制度を提供していました。これは必然的に、企業で働く人たちがThomsonの休暇プランをたくさん利用することになるとともに、プランを探すために社員が顧客向けのWebサイトを利用することも意味していました。

Thomsonは自社の休暇プランを予約するのに、自社の顧客向けWebサイトを利用することを推奨しています。

Thomsonで働き始めて1年くらい経ったとき、私も家族向けの休暇プランを予約することにしました。当時息子はまだ2歳で暑さに慣れていなかったので、家族でリゾートビーチを満喫するようなプランではなく、あまり暑すぎず、遠くないエリアで休暇を満喫できるプランを探していました。

私はブラウザを開き、ThomsonのWebサイトを開きました。しかしそのとき、とてもおかしなことが起きたのです。私は何気なくサイトを実際に使いましたが、ペルソナシナリオ認知的ウォークスルーの通りには進みませんでした。というより、私はこのときはじめてサイトを実際のユーザーの目線で使ったのです(ある程度ですが、あとで詳しく述べます)。

使ってみて、過去の約12カ月間のサイト診断では気づかなかったことがあるのに気づきました。たとえば検索フィルターは、家族向けのフィルターがあると本当に便利だと知りました。休暇プランの重要な情報が抜けていることもわかりました。そして、どの休暇プランが利用可能かを知るには、その都度チェックアウトの手続きを後半までしなければならず、とてもイライラすることにも気づきました。

まとめると、この体験を通して実際のユーザーがサイトでどのような体験をするのか、初めて自覚することができました。これは、私が実際のユーザーとして初めてサイトを体験したからです。

なぜ自社製品を使用するのか?

「罵り、批判し、糾弾する前に、自分の足で歩いてみなよ」-Joe South氏「Walk a mile in my shoes」の歌詞より

よいユーザー体験をデザインして提供するためには、共感がとても重要です。ユーザーの視線を理解するためには、彼らと同じ靴を履いて歩く必要があります。

会社で働くすべての人に自社製品の使用を推奨することは(と言うと、「ドッグフーディング」という響きの斬新さが薄れてしまいますが)、ユーザーへの共感を生むとてもよい手段です。そうすることで、誰もがユーザーと同じ靴で歩くことができます。長い距離ではないかもしれませんが、少しでも同じように歩くことはできるでしょう。

ドッグフーディングは、少しでもユーザーと同じ靴で歩くためのとてもよい方法です。

自社製品を使用することで、企業の中で製品の知識や体験を養うこともできます。つまり、実際に実行したり体験したりするほうが、ただ見聞きするよりも多くのことを学べるのです。特定の旅行先に強い旅行代理店が、そうでない代理店よりも効率的に売上を伸ばしているのはこのような理由からです。

またドッグフーディングは、既存製品の改善点を特定するのは言うまでもなく、さらに新しい製品に関するアイデアをひらめくのにも役立ちます。ThomsonのWebサイトの例で強調したように、実際に製品を使用すると、使わなければ考えつかなかっただろう改善点がみつかるでしょう。

加えて、自社製品の利用を企業内で推奨することで、会社内にユーザー目線の考え方を根付かせることができます。フィードバックやインサイトを、ユーザーから比較的簡単かつ迅速に獲得できるようになるでしょう。

たとえば、新しいデザインのテストをしたり、どの機能がもっとも重要なのかを特定したりすることはとても重要です。結果的に得られる情報は、一目見れば話半分に聞くようなものではないとわかるでしょう。少しでもユーザーのインサイトを手に入れるほうが、まったくなにもないよりは確実によいことです。

自社製品の利用を推奨するべき最後の理由は、企業の製品に対する熱心さ、愛着を養うことにつながるからです。もちろん、ひどい製品を使うように言った場合は、真逆の効果になるでしょう。明らかな欠陥製品を使うよう強制すると、社員が苛立ちを募らせることになります。

しかし、それさえも自分の体験がそれほどひどいものではなくなるように、社員が製品を改善するのを刺激する効果があるかもしれません。

ただ、色眼鏡で製品をみる人には注意しましょう。バグだらけの醜い子どもであっても、生みの親にとっては、どの子どもより一番可愛いのです。

ドッグフード=思考の餌

「輝くもの必ずしも金ならずと、よく語られるのを、お前も聞いたことがあるだろう。」William Shakespeare氏『The Merchant of Venice』より

自社製品の利用を推奨することは、一見するとフィードバックと学習のループを形成するための素晴らしい方法に見えます。確かに、ときにはドッグフーディングによって得られたものが、製品改善の妨げではなく助けになることもあるでしょう。しかし、絶対に忘れてはいけないのが、これらは実際のユーザーのフィードバックや学習に取って代わるものでは決してないということです。

なぜなら、あなたや企業のすべての人は、真の意味でユーザーではないからです。あなたは知りすぎているのです。知識に汚染されているのです。どんなにこすって洗っても、どんなにシャワーを浴びても、どんなに消臭をしても、あなたにはつねに自社の社員という香りがつきまとうのです。社員であるあなたは、製品のこと、それを開発する企業のこと、製品のドメインのことを、ほかの99.9%のユーザーよりも詳しく知っています。自分ではそのことを意識していなくても、知らず知らずのうちに、あなたの行動、精神構造や知覚は影響されているのです。

あなたは実際のユーザーではなく、ユーザーのフリをしているのに過ぎないことを決して忘れないでください。

以上のように、自社内のユーザーに多くを頼ったり、フィードバックとして自分自身の体験を活用したりすることには、危険が潜んでいます。なぜなら、間違ったイメージを構築しやすくなるからです。そして、本当に重要な問題点を見逃してしまい、結果としてユーザーが本当に使いやすい製品ではなく、企業の内部のことしか考えていない製品を作り上げてしまうでしょう。ぜひとも健全なドッグフーディングを心がけてください。ドッグフーディングは、前述の注意点にさえ気をつければ、一般的にはとても優れたものです。


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