デザイン思考はイノベーションを保証するものではない

Jonathan Courtney

JonathanはベルリンにあるAJ&Smart社の共同創設者およびUXディレクターです。彼は世界中で、プロダクトデザインのワークショップや講義を精力的に行っています。

この記事はUXPinからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Design Thinking Doesn’t Guarantee Innovation (2017-06-05)

まず認めなければいけないのが、私たちデザイナーのほとんどが、デザイン思考とは何かを正確に理解していないということです。

私の場合は、デザイン思考とはプロセスで、クリエイティビティに関することだと思っていました。今では、デザイン思考とは心構えや哲学であるとしっかり理解しています。

そして、正しい理解こそ、デザイン思考が威力を発揮する出発点です。

私が創設したデザインエージェンシーのAJ&Smartでは、デザイン思考を、問題解決のためやソリューションを生み出すために活用しています。単なる「クリエイティブな」プロセスとしては扱いません。「クリエイティブなプロセス」と言うと、フルタイムで創造力を発揮する人たちが必要であるように聞こえますが、まったくの間違いです。

この記事では、なぜデザイン思考がプロセスではなく心構えなのかを明らかにして、実践的なデザイン思考とはどのようなものかを説明します。

イノベーションの実践は避けられない

以前、私は共同創設者のMichael氏と一緒に、たくさんのデザイン思考ワークショップに参加したり、ワークショップを開催したりしました。これによって、私たちは簡単にお金を儲けることができました。クライアントが望んでいたことだったので、私たちにたくさんお金を払ってくれたからです。

誰もがイノベーションという聖杯を探しています。大企業や、少し「大きくなりすぎ」たスタートアップでさえ、会社にはイノベーションをもたらすものが必要だと感じています。

デザイン思考のワークショップでHolo Lensを試している写真

そこで、専門的なデザイン思考のトレーニングを受けるために、企業は2つの選択肢から選びます。トレーニング企業に依頼するか、社内に指導者を迎え入れるかです。

問題は、どちらの手段も、プロダクトデザインやイノベーションに挑戦した実体験のない理論家「もどき」が、教科書的な知識を教えるだけで終わってしまうということです。

彼らは、デザイン思考をプロセスとして教えます。デザイン思考自体が何であるかは深く理解していません。そのため、「世界一の財布をデザインする」ような、不思議な訓練をするだけで終わってしまいます。結果的に翌日は、打ち上げのビールで二日酔いになっている上に、訓練の成果は普段の業務に何1つ応用できないでしょう。

上司にとっては、この訓練は素晴らしいものに見えるでしょう。「ついにわが社もクリエイティブで革新的なことをやりました。」と誇ることができます。

しかし真相は、企業と社員は、トレーニングから何の価値も身に着いていません。イノベーションにつながる方法は、お金で解決できるものではありません。必要なのは、自分自身で実践して学ぶことです。

デザイン思考はプロセスではなく心構えである

多くの人が、デザイン思考として教わったさまざまな訓練を繰り返そうとします。文字通り、デザインのプロセスの中でです。しかし、私たちが教わるのは事例であって、直接ビジネスモデルとして活用できるものではありません。

「これをしてください。その次にあれをしてください。」

デザイン思考とは、「この訓練を行うと、あれこれを習得できる」という単純なものではありません。人々はそれがデザイン思考の心構えを説明する単なる1つの事例にすぎないことを理解せず、「素晴らしい、では私たちもこれをすべきですね」と応答するのです。

思い出してください。デザイン思考はプロセスではないのです。だから文字通りに受け取ってはいけません。

デザイン思考は、顧客の視点でアイデアを考えたり、プロトタイプを通じて仮説を検証したりするのにとても優れています。しかしこの事実を鵜呑みにし過ぎているのが現状です。

どういうことか説明してみましょう。

デザイン思考がうまくいかないタイプとして、以下の2種類の人たちがいます。

  • 「デザイン思考なんてものにお金を払って無駄にしているなんて信じられない」と考え、私たちの話を受け入れようとしない社員。
  • 私たちの話を受け入れて、自分がイノベーションに必要だと思う部分だけを切り取って利用する社員。しかし、コンテキストが抜けてしまっているので、結果的にさらに長く複雑な書類を作ることになり、何の変化ももたらしません。

結果として、デザイン思考にあるリーンスタートアップやアジャイル開発の精神は完全に失われます。企業やチームが獲得できる唯一のものは、従来通りの働き方を説明する新しい「呼び方」だけです。

「デザイン思考」という言葉を、古いワークフローを説明する新しい呼び方として扱ってはいけません。

はっきりしておきたいのですが、私はデザイン思考がまがいものだと言っているのではありません。私の経験上、デザイン思考の精神と応用方法を理解することは、企業にとって本当に価値のあることです。

しかし1つの疑問がまだ残ります。どのようにして実際の製品開発に適用できるように、状況に応じてデザイン思考を教えることができるのでしょうか?

デザイン思考をより良く教える方法

デザイン思考は問題解決と意思決定のためのツールセットとしてとらえるべきです。単にクリエイティビティを発揮するためのツールと考えるべきではありません。非常に多くの指導者が、誤って単にクリエイティビティだけを強調しています。

もう1つ現状の問題点として、イノベーションとアイデアが同等に扱われていることがあります。イノベーションには、アイデアとその実行までのすべてが含まれます。Ken Norton氏が強調している通り、イノベーションとは、既に存在するものを10倍良くして10倍使いやすくすることです。

指導者が注目するべきなのは、デザイン思考の哲学を実践的に応用する方法です。その中の1つが、スプリントメソッドと呼ばれるものです。

実践的なデザイン思考の例

まずはっきりさせておきますが、スプリントメソッドでなければならないわけではありません。スプリントメソッドはデザイン思考の心構えを実践するための1つの事例にすぎません。

2016年の始めに、私はJake Knapp氏のある記事をたまたま目にしました。内容は具体的で想像のつきやすい結果を生みだすためのスプリントメソッドについてでした。

製品が開発するのに値するものかどうか、機能が労力を費やすのに値するかどうか、実際に意味があるバリュープロポジションを設けているかどうかを判断するのに、スプリントメソッドは非常に早く結果を得られる手段です。たとえば私たちのエージェンシーのAJ&Smartでは、スプリントウィークに4日間を当てています。

デザインスプリントでは、最低でも4日間の集中的なワークショップを行います。

1日目にクライアントと直接作業して、その週の課題と見通しを決定します。2日目はどの課題に対してプロトタイプを行うかを決定します。3日目には、忠実度の高いプロトタイプを素早く作成して、4日目に実際のユーザーでそれをテストします。

以下のような方針で作業します。

  • クリエイティビティに依存しない
  • 正しさを追求するより行動し始める
  • 10%ではなく10倍
  • 皆でやるが、基本は個人ワークで
  • 制限時間をきちんと守る
  • 議論するより実践する

毎週のスプリントウィークの結果はインタラクティブなプロトタイプとして、実際のユーザーでテストされます。そして、そこから次に行うべきことについての知見を獲得します。目的は、解決したい課題を具体的に表現できるようになることです。中身のない議論や「ビジョンドキュメント」ではありません。

編注:ビジョンドキュメントとは、組織や製品、サービスの具体的な価値、将来設計を伝えるためのドキュメント

具体的な製品を手にして、次のステップにつながるユーザーの知見を入手できれば、意思決定はとても簡単に行えるようになります。

2回目のスプリントを行って、アイデアを反復して磨くことも可能でしょう。そうすることで、実際の製作段階に向かうことができます。また、アイデアをさらに売り込んだりコンセプトを開発したりするのに、プロトタイプを活用することもできるでしょう。

結論

私たちはAJ&Smartで、デザイン思考を指導することによってたくさんの収益を得てきました。それ自体は楽しいのですが、私たちが教えたことを、顧客が実際の生活に応用できていないのを見るととても残念に思います。

よって私たちは、今では顧客にデザイン思考のワークショップを行わないことにしています。ワークショップには強く反対して、スプリントメソッドの「売り込み」だけをしています。なぜなら、スプリントはデザイン思考を実践的に応用する方法だと信じているからです。

それが、クライアントに伝える私たちの本当の価値です。

より多くの指導者やデザイン思考に携わる人が、デザイン思考として知られているOSを運営するためのプログラムとして、スプリントメソッドを試してくれることを願います。

もしあなたが指導者なら、「完璧な財布をデザインすること」ではなく、相手の企業の課題に合わせてデザイン思考を教えるようにしてください。一緒に、「Creative Confidence」もぜひ読んでください。

恐れずに、「より客観的で」まじめな方法でデザイン思考を教えてください。そうすればデザイン思考は、数日限りの娯楽としてではなく、確実に収益につながる手段になるでしょう。