ホモサピエンスの生存戦略に見る「未来思考力」とは?

坂田 一倫

株式会社リクルートテクノロジーズ UX デザイナー。楽天株式会社、株式会社コンセントを得て現職。人材領域のサービスデザインに従事。ユーザエクスペリエンス設計担当者が集まるコミュニティ UX Tokyo 主宰。HCD-Net 審査員特別賞受賞。

突然ですが、いまから約2万年ほど前の地球には2種類のヒト族がいたことをご存知でしょうか?

ひとつはネアンダルタール人、もうひとつは我々の祖先であるホモサピエンス人です。ところが同じヒト族でもネアンダルタール人は絶滅してしまいました。同じヒト族としてなぜホモサピエンス人だけが生き残れたのでしょうか? 諸説はありますが、ひとつに学習能力の差が生存が絶滅かを決定づけたとされています。

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つくるチカラと未来を考えるチカラ

学習能力は大きく分けて2つの力に分類されます。

  1. 創造力(つくるチカラ)

    洞察や試行錯誤といった経験から得られる個体学習のことを指します。

  2. 未来思考力(未来を考えるチカラ)

    他者の模範、教育によって得られる社会学習のことを指します。

そしてホモサピエンス人は特に後者の「未来思考力」に長けていたと考えられ、その秘密は言語によるコミュニケーション体系の違いにありました。野性的かつ一方的な意思伝達を目的とした会話がなされていたネアンダルタール人に対し、ホモセポエンス人は意思疎通と文化の伝承を目的としたコミュニケーション体系を発展させてきました。

ネアンダルタール人の石器はほぼ画一的であったことに対し、ホモサピエンス人の石器は時を重ねるごとに試行錯誤された痕跡が見られる、用途別につくられた石器が各所から多く見つかっています。つまり、つくるチカラに加えて他者との交流や模範、教育から得られる社会学習によって創造し、生存確率を上げたのです。

彼らは仲間に情報を正確に伝え、それを基に創造し、新たな発見から学び、知識を蓄積し未来へと受け継いでいきました。僕はこれを「伝わる仕組み」の誕生と呼んでいます。伝わる仕組みは UX デザインに置き換わる言葉としてよく口にしています。伝える先が仲間であろうと、エンドユーザーであろうと、その根本的なシステムは2万年の時を得ても変わりはありません。

想像できるものは創造できる

問題を見つける、そこから発見や気づきを得る。その過程の中で生まれたアイディアをどのように相手に伝えるべきか? どのように学びとして蓄積していくべきか? そのための仕組みを考えることが UX デザインの本質であるにもかかわらず、事態は複雑化してきました。

UX をデザインするための方法論の探求に、私たちは十分すぎるほどの時間を費やしてきました。無駄を徹底的に無くし、早くつくることが正義という誤解を生みやすいリーンスタートアップ。「利用」することで画期的なアイディアが生まれると過度な期待が寄せられているデザイン思考。5日間で完結することに魅力を感じてしまうデザイン・スプリント。

本来であればデザインや伝わる仕組みそのものの UX を主体として考え、モノやコト、組織や社会の未来を考えるためのシステムとして浸透、発展させていくべきです。そしてそのシステムを伝道師として、エバンジェリストとして組織や社会に還元していくのが我々の役目なのではないでしょうか?

これでは前述のネアンダルタール人のごとく「つくるチカラ」のみが蓄えられ、生存確率を下げてしまいます。我々はもっと、かつての祖先であるホモサピエンス人がそうであったように「未来を考えるチカラ」に時間を費やすべきではないでしょうか?想像できるものは、創造できるのですから。


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