あなたはプロダクトを考える際、ユーザーにとってのカスタマイズ性や使いやすさ、柔軟性などの要素とどうバランスをとりますか?
私たちデザイナーは常に、ユーザーに対してクリエイティブな面での主導権を渡すことに難色を示してきました。これには2つの理由があります。1つは明確で、私たち自身がデザインとユーザビリティの原則を理解していることを期待されているからです。私たちデザイナーの中には、どのようなものが正しいものかを生まれつき感じることができる人もいれば、その感覚を学び、最終的にその感覚を身につける人もいます。
2つ目の理由は、ユーザーとは異なり、私たちデザイナーは世界を別の視点から見ていることです。私たちは、毎日使用しているものを改良するために何ができるか、という視点から物事を見ています。例えば、私たちはあるレストランを名前や場所ではなく、映画「Helvetica」の中でTobias Frere-Jones氏のように、ロゴに使用されている乏しい書体によって思い出します。
わかりやすい言葉で言うと、デザイナーは何が適切であるかを知り、またそうでないものを修正する方法を知っている人たちでなければならないのです。
しかしながら、美学的感覚や美しさを理解する才能を持っている人たちも存在します。そして、私たちデザイナーは長い間そのような感覚を有し、日常生活でその感覚を必要としてきたことがわかりました。私たちは、外見の良い製品は機能も優れ、趣向も良く、そして信頼性が高いと考えています。Zoltán Gócza氏は、そのような美学というものが人々にとって重要であることを示す、多くの論点を集めています。
よって、一般的なユーザーは、私たちデザイナーのように美しさを理解し、何が正しくて何が正しくないかを認識しているのです。問題は、ユーザーはデザイナーが知っている原則を知らないということです。機能的にも美学的にも優れているものを作成するために、彼らをガイドしてくれるものがないのです。多くの場合、ユーザーは以下のようなただ自分たちが素晴らしいと思うものを寄せ集めたものを作るだけで終わってしまうのです。
こちらは極端な例ですが、要点は理解してもらえると思います。皆さんは、(デザイン関係ではない大学に在籍していた場合) 学生生活の中で劣悪なデザインのパワーポイントのプレゼンテーションをどれくらい見てきたでしょうか。私は、不適切な背景やアニメーションに選択のセンスが悪い書体や配色を組み合わせたパワーポイントをたくさん見てきました。
デザイナーとは異なり、一般的なユーザーは何が正しいかを知っていますが、正しくないものをどのように修正するのか、また最初から外見も機能も優れているものを作成する方法を知らないのです。
デザイナーによる過ち
Don Norman氏は、自身の有名な記事である『Simplicity Is Highly Overrated(シンプルさは過大評価されている)』において、ユーザーは簡潔さではなく多くの機能を求めていると主張しています。しかし、他のデザイナーはこの彼の意見に反対しています。
真実は両者の間に存在しています。ユーザーは、たとえ大半のものを利用しないとしても、多くの機能が欲しいと思っています。機能を追加することで製品がより複雑なものとなり、誤用や苛立ちの原因となる恐れがあります。
私たちは、自分たちの製品やツールが非常に複雑なものとなるまで機能を追加し続けています。私たちは、ユーザーが求めている柔軟性のあるツールを構築するために、このようなことを続けているのです。しかし、そのような過程において、利便性の高い、外見も素晴らしい製品の作成のガイドラインとなるデザインの基本的な指針を、ユーザーは知らないということを私たちは忘れています。また、ユーザーはツールの使い方についての私たちの説明を読む時間がない、または単純に読みたくないと思っています。これはつまり、ユーザーは私たちが提供している柔軟性の高いツールを、利便性も外見も良くない製品の作成に使用しているということです。
しかし、これを修正する方法があります。ユーザーによるクリエイティブな管理を制限し、よりシンプルなツールを作成することで、ユーザーを誘導するということです。
デジタル出版におけるユーザーのクリエイティブな管理
私が勤めているWondermagsは、基本的なユーザーでも、簡単に素晴らしい雑誌を作成することができるデジタル出版プラットフォームです。私たちは今まで、いかにクリエイティブな管理の余地をユーザーに与えるかについて考えてきました。私たちは自分の雑誌の外見を良いものにするだけでなく、読みやすく、かつ作成から消費までの全ての過程を通して楽しい経験を提供したいと考えています。それゆえ、私たちはこの目的を達成するために、ユーザーのクリエイティブな管理を制限してユーザーを誘導することが良い方法であると思っています。他のツールは、使用の仕方がわからない基本的なユーザーに多くの管理の余地を与えてしまいます。
基本的なユーザー
しかしながら、私が言及し続けている基本的なユーザーとは、誰のことを指しているのでしょうか。私たちは、若者から中年までの、基礎的、または平均的なコンピュータースキルと、平均以上の創造力を持っているユーザーを基本的なユーザーとみなしています。このようなユーザーは、先ほどお見せしたような悪いパワーポイントのプレゼンテーションを作成して、それに非常に満足しています。ユーザーの中には非常に素晴らしいプレゼンテーションを見て、好きだと思ったことがある人もいるかもしれません。しかし、自分でプレゼンテーションを作成するときは、ガイドラインとなる指針がないのです。
パワーポイントは数多くの選択肢を提供してくれるため、非常に柔軟性が高いです。多くの魔法のようなことを、パワーポイントを利用して行うことができます。しかし、極端に言うと、基本的なユーザーがより優れたプレゼンテーションを作成するということは、オンラインでテンプレートを検索し、それに少しだけ変更を施し、そこにコンテンツを追加するということです。また、パワーポイントの柔軟性は、たとえ外見が素晴らしいテンプレートを使用したとしても、スライドショーをいとも簡単に煩雑なものにしてしまいます。
Giles Colborne氏は自身の著書である「Simple and Usable: Web, Mobile and Interaction Design(シンプルさと利便性:ウェブ、モバイル及びインタラクションデザイン)」の中で、基本的なユーザーを「主流派の人」と呼んでいます。彼は、このようなユーザーは自分の目的のためにテクノロジーを使用するのではなく、仕事を遂行するために使用していると主張しています。彼らはほんの少しの機能だけを学び、自分たちが管理していると感じたいのです。
ユーザーによる管理
長い間、クリエイティブな管理は完全にデザイナーの統御の下で行われていました。グラフィックデザイナーは、本や雑誌のデザインを担当していました。しかし、パーソナルコンピューターとインターネットが台頭して以来、より多くの人が作成、執筆、及び出版する能力を手に入れていきました。
コンピューターのソフトウェアの多くは、複雑で柔軟性が高いです。一般的なユーザーが毎日使用しているMicrosoft Officeのアプリケーションでさえ、非常に複雑なものとなっています。これらの製品は専門的なアプリケーションとなっており、機能的に制限のない管理を与えてくれるので、ユーザーはそのアプリケーションを使用して利便性の高い製品を作成するために、そしていくつかの指針に従うために知識を得る必要があります。下のチャートを見てみましょう。
ツールの柔軟性とユーザーによる管理の関係は直線的です。ツールの柔軟性が高まるほど、ユーザーによる管理の余地が増加します。
1. 低い柔軟性
この場合、ツールは1つのタスクに特化して作成されており、ユーザーはそれによって制限されています。よって、低い柔軟性はユーザーにとって、管理の余地が低いことを意味しています。ツールは一般的なユーザー、つまり基本的なユーザーにとっては素晴らしいものですが、制限されていると感じることが極めて高いです。
2. 中程度の柔軟性
これは、1つのタスクに対応している中レベルのツール、または数多くのタスクに対応する基礎的なツールのどちらかを意味しています。中程度の柔軟性は、中程度の管理の余地であることも意味しています。また、ツールは中級レベルのユーザー向けに作成されているでしょう。
3. 高い柔軟性
このツールは非常に上級レベルであり、高いレベルの柔軟性と管理度を伴っています。1つ以上のタスクに対応しており、専門家やプロ向けに作成されています。
しかし、ツールの柔軟性を高めるには、ツールを複雑にする必要があります。
そして、ツールが複雑になればなるほど、そのツールを適切に利用するために必要な知識の量も増えていきます。指針を伴うこのような知識は、利便性の高い製品を作成する際のガイドラインとなってくれます。
ツールの柔軟性と複雑さ、そして基本的なユーザーに対する管理の間のスイートスポットは、上のチャートの1と2の間にあります。具体的な例を見ていきましょう。
ツールの利便性:InstagramとPhotoshop
どんな人でも美しい写真は好きだと思います。そして長い間、プロ並みの美しい写真を撮影するには、プロの写真家に依頼することが唯一の方法でした。写真家たちは上級レベルのユーザーなのです。彼らは写真を撮影し、様々な上級レベルのアプリケーション、通常は高い柔軟性と複雑さを持ち、また高いレベルの管理度を提供してくれるPhotoshopを使って編集を行っています。
一方Instagramは、シンプルで基本的なアプリケーションです。ユーザーは写真を撮影し、様々な効果を写真に追加することができます。その結果、素晴らしい外見の写真が出来上がるのです。Instagramは柔軟性が低く、ほとんど管理の余地をユーザーに与えません。しかしユーザーの視点から見ると、簡単に質の高い作品を作成することができるのです。
ユーザーは自分たちが何を求めているかをわかっていません。そして、ユーザーは数多くの機能を求めてはいないのです。その代り、彼らは品質を求めているのです。ユーザーは簡単に利用できて、かつ自分たちを愚かだと思わせないようなシンプルな製品を求めているのです。
InstagramとPhotoshopをチャートに加えてみましょう。
上のチャートからわかるように、Instagramは制限された管理の下で、ユーザーが質の高い製品を作成することを可能にしています。ツール自体は基本的なものですが、ユーザーが楽しむことができる体験を提供しています。そして、ユーザーが管理していると感じるだけの十分な管理の余地を与えているのです。
Photoshopは、プロや上級レベルのユーザーを対象としています。非常に複雑で洗練されており、ほぼ無制限の管理の余地をユーザーに提供しています。しかし、ユーザーは写真編集の指針に精通し、ツールを適切に使用する方法を学ぶ必要があります。結果はユーザーの努力次第なのです。ツールのこの複雑さは、基本的なユーザーには低い利便性を与えることになります。
ユーザーは管理していると感じると同時に、誘導もされたいと考えているのです。(理由にかかわらず) ツールの使用を重視している一方で、何から始めればよいかわからない場合、ユーザーは苛立ちを覚えるでしょう。私たちデザイナーも皆このような時期がありましたが、私たちはツールの利用方法を、時間をかけて学びます。また、私たちデザイナーはこれらのツールを使用するために多くのお金も費やします。その他の人たちは、ツールの使用方法を学ぶ時間も興味もないのです。そして実際に時間をかけてみると、John Maeda氏が自身のブログである「 The Laws of Simplicity(シンプルさの法則)」で述べているように、時間の無駄だと感じてしまうのです。
基本的なユーザーにとってのスイートスポットは先ほどのチャートの1と2の間だと申し上げましたが、このスポットをグラフ上で見てみましょう。
この場合、ツールは基本的なユーザーのみを重視しています。
1. シンプルで、なおかつ柔軟性がない
ツールはユーザーに限定された利便性を提供します。
2. 適度に複雑であるが、より柔軟性が高い
利便性はこの時点から下がっていきます。このツールは中級レベルのユーザーにより適しています。
3. 非常に複雑で柔軟性が高い
このツールは非常に複雑であるため、基本的なユーザーは何から始めてよいかわからず、ほとんど利便性を提供していません。
問題は、ユーザーがツールを利用することができ、かつ管理していると感じるスイートスポットを見つけることは非常に難しいことです。デザイナーとして何ができるか見ていきましょう。私たちは、2つの方法によってユーザーを誘導することができます。