MailChimpのUXデータ活用術

Laurissa Wolfram-Hvass

LaurissaはUXデザインリサーチャーとして、MailChimpに在籍しています。最近英語修辞学の分野で博士課程を修了しており、彼女の博士論文ではUXのデザイン工程におけるリサーチとコミュニケーションの役割について考察されています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Research for the Right Audience (2014-08-12)

UXの世界で働き始める前は、アトランタにある大学で作文法とテクニカルライティングを教えていました。毎学期、私はそれぞれ個性を持った学生たちのグループに合わせて、異なる教授方法や教材を使い分けていました。抽象的概念を説明するためにYouTubeの動画を使用したり、学生たちが大いに興味を持っていることに関連した文献をWebサイトで探し回ったり、ホワイトボードに図を書いて例を編集しながら提示したり、またグループディスカッションの後や授業時間が足りなかった場合は、学生一人一人と面談をしてフォローしました。最終的に、私はオーディエンスである学生が理解できる方法で授業内容を効果的に説明しなければ、学生たちも私も時間を無駄にしてしまうということに気が付いたのです。

教えるという行為はUXリサーチに非常に似ています。私たちがまずやるべきことは、私たちが教える「授業内容」を学ぶことです。製品情報を収集・分析し、分析結果に対する理解を深めます。そして「教える」という形で、オーディエンス(=聴衆)に私たちの考えや理解した内容を共有するのです。もちろん、ここでいうオーディエンスは学生ではなく、Webデザイナーや開発者、ライター、マーケター、そして(理想的には)私たちが教えた内容をより良い製品やサービスの開発に活用する事業者のことを指します。しかし残念なことに、私たちはリサーチのための情報収集に夢中になるあまり、リサーチした内容をオーディエンスと効果的に共有することにまで配慮が十分に出来ていません。私たちが見落としていることは、オーディエンスの行動や変化に影響を与えるような効果的な方法で情報を伝えることで、初めてリサーチャーとして自分たちの商品をもってUXに影響を与えることができるということです。

私たちが今すぐに取り組むべき問題は、リサーチでの情報収集や分析をどのように戦略的に行うかを見極めることです。最良のリサーチ方法は何でしょうか。適切なオーディエンスを見つけるにはどうしたらよいでしょうか。より効率的に情報を収集するにはどうすればよいでしょうか。収集した情報をどのように整理し、どのように対処すればよいでしょうか。しかし、情報を収集し、収集したデータを理解することは、ユーザーリサーチャーとしての責務を半分終えただけに過ぎません。教えることと同様、私たちが学んだことを効果的に伝えることができない限り、調査内容のデータ収集や分析に費やした私たちの努力は無駄になってしまうのです。

オーディエンスがいて初めて意味がある

教師として、私はどうしたら学生たちが最大限学ぶことができるかということに重点を置いていました。UXでは、ユーザーが必要としているプロダクトデザイン とコンテンツに焦点を当てます。しかしユーザーリサーチをする人間にとって、オーディエンスはエンドユーザーではありません。オーディエンスは、いわば私たちの同僚なのです。

私たちの同僚が誰かを特定することなくリサーチした結果を伝えることは、まるでユーザーのことを全く知らずにデザインを作成するようなものです。組織内の個人や部署は全て異なった特性を持っています。それぞれが異なる目的やニーズ、そしてコミュニケーションスタイルを持っているのです。例えば、数値や割合によるデータがある人に適している場合もあれば、別の人には文章による説明が説得力を持つ場合もあり、また報告書が適している人もいれば少人数での会議や意見交換を必要としている人もいます。このようなそれぞれに適したコミュニケーションの違いを理解できれば、より説得力をもって私たちのリサーチ結果を伝えることができるのです。

教師として、私は自分の学生についてきちんとしたリサーチを行いませんでした。アンケート調査をして学生たちの好みの教授方法を調査したり、学生たちの学習スタイルを知るためにクイズ形式の調査を行ったりもしませんでした。私は単純に学生たちを観察し、そしてできるだけ長く学生たちと一緒に過ごすようにしたのです。それぞれのクラスの構成や授業の流れに慣れ始めると、私は学生たちの好みの学習スタイルや授業に対するニーズがわかるようになりました。ある学生は視覚的資料を使った学習を好むため、授業内で様々な例を提示する必要があり、またある学生は難解な抽象的概念について口頭による詳しい説明を求め、他の少数の学生は授業のテキストから抜粋した教材を読んだり応用したりすることを好みました。また全ての学生にとって、異なる方法で同じ内容を繰り返し学習することは有益であることもわかりました。私は新しい教授方法やテクニックを導入し、特定の学生にとって効果が見られないものは活用するのをやめるといった工程を繰り返し行いました。

同様に、私たちが一緒に働いている人と親しくなることは、その人に適したコミュニケーションスタイルや、最も効果的な学習スタイルを特定するのに非常に役に立ちます。ソフトウェアの開発を手掛けるMailChimpにおいて、私たちリサーチチームが直面している問題の1つは、複数の異なる部署に在籍する250名以上もの従業員間で、どのように情報を共有していくかということです。情報に興味を持ち、活用してもらうために、私たちは過去数年にわたって様々な試みを行ってきました。調査を行う際に、私たちは同僚がどのように情報やデータを受け取り、反応を示すのかについて注目しました。そうすることで、今後のリサーチ結果の伝え方を調節・改善することができるのです。私たちは統計資料に文章の説明を加え、説明文に図を挿入し、また報告書や社内でのプレゼンテーションに動画を導入するなどの試みを実施し、リサーチ結果を活用してもらうための努力を続けています。

UXリサーチにおけるコミュニケーション

私たちが築き上げてきた人間関係とMailChimpの全ての部署に対する開拓を通して、UXリサーチチームは同僚がどのように受け取った情報を理解し、活用しているのかについて、意識的に理解しようと努力を続けています。このことを念頭に置き、私たちは他社に情報を共有する際にも様々なコミュニケーション方法を試しています。組織や企業の特徴はそれぞれ異なるため、私たちが利用している方法が全ての企業に適用するとは限りません。しかし、MailChimpで効果があった私たちの取り組みは、他のUXチームに新たなアイデアをもたらすきっかけになるかもしれません。

報告書

報告書は、私たちがリサーチ結果を伝える際に最初に思い浮かべる一般的な伝達手段だと思います。しかし、だからといって最良の手段であるとは限りません。報告書には重要な情報がたくさん記載されていますが、すぐに捨てられたり、一度も読まれないまま机の上に放置されたり、またファイルに閉じられたままずっと机の引き出しの中に放置されたりする傾向にあります。MailChimpでは、このようなリスクを減らすべく、報告書をなるべく短くしました (基本的に20ページ以下)。また私たちは報告書をGoogle Drive上で配布することで、部署間でデータ内容について意見交換ができるようにしました。報告書の構成はイントロダクション、エグゼクティブサマリー (事業計画等の概要)、方法論といったフォーマルな様式に沿って作成されていますが、語調を会話形式に近いものにすることで、学術論文のような難しい文章にならないように努めました。このスタイルが自社の独特のブランド性やイメージと一致し、また同僚にとってより読みやすい報告書を作成することができました。

MailChimpの周りには報告書を読むのが大好きだという人もいますが、大部分の人は長文の報告書を読むと想像しただけでうんざりするのではないでしょうか。報告書は今後もリサーチ結果を伝える一般的な方法であり続けると思いますが、私たちは視覚的要素があり、多くの人に活用してもらえるような異なる方法を試してみたいと思っています。

ポスター

ポスターは、一目で内容を理解できるような高度な情報を提供する際に最適な、視覚的で斬新な方法です。例えば、昨年MailChimpはわが社のクライアントのペルソナについてのポスターを、大勢の職員が最も足を止める場所、エスプレッソマシンのところに貼りました。

このポスターを掲示した目的は、ペルソナについての詳細情報を伝えるためではありません。それは報告書や、社内で行われるコーヒーアワー ・プレゼンテーションの仕事だからです。ポスターは人々の興味や好奇心を刺激することを目的としており、それが最も重要なポスターの役割なのです。ポスターは人々の会話や疑問、そして何よりも、アイデアを引き出すことができるのです。このペルソナのポスターを見た人は、それぞれ異なる視点からわが社のクライアントについて考えはじめたのです。マーケティング部門の社員は異なるタイプのクライアントへのアプローチ方法を考え、品質管理チームは品質テストを違った方法で構成し始め、またカスタマーサポートチームはクライアントに関する問題を新しい方法でカテゴリー化したのです。私たちは、このポスターは大成功を収めたと実感しました!しかもポスターは社内のどこにでも移動させて掲示することができるので、見る人にとっていつでも新鮮に映るのです。

リサーチ動画のミニドキュメンタリー

私たちはSkypeやGoToMeeting上で取引先と会話をしたり、アンケート調査やメールでフィードバックを受け取ったりしたいと思っていますが、実際に取引先を訪問して、彼らがどのように事業を運営しているかを直接見ることほど、取引先のことをよく理解できる方法はありません。このような訪問から多くのことを学ぶことができ、また自社の他の同僚と、この「取引先の社内の様子」を共有することもできるのです。取引先の許可を得て、取引先の職場内や取材内容を動画での録画や写真撮影を行います。自社に戻った後、収集したデータから特に共有したい情報を選びだし、短いドキュメンタリー動画に編集して、社内の他の同僚と情報を共有するのです。

動画を利用することによって、リサーチ結果をリアリティのある物語として伝えることができます。動画では、取引先は紙の上の説明文ではなく、独自の経営状況と環境を持った、生きた人間であるということが実感できるのです。もちろん、単純に取引先の中には非常に騒音がうるさい環境下で仕事をしている企業もあるということを口頭で伝えてもよいのです。しかし、人々が忙しなく社内を動き回り、隣の部屋の会話がうるさくて取材中相手の発言を理解するのに時間を要しているといった状況を映した短い動画を見せたほうが、ずっと効果があるのです。

またドキュメンタリー動画は1つにつき1社しか取り扱わないため、報告書やプレゼンテーションよりも効果的に情報を伝えることができます。動画は人々の表情を見せることで統計数値にコンテキストを与え、またパターンや傾向という漠然とした概念に、特定の実例を示してくれるのです。

ユーザビリティ・ランチ

私たちはMailChimpで、ユーザーを第一に考えている素晴らしいデザイナーや開発者たちと仕事をしていますが、だからといって誰かがユーザビリティテストを行っている間必死で仕事と戦っているのを見たいという気になるわけではありません。マジックミラー付きの素敵なユーザビリティテスト室がわが社にあるというわけではなく、またその必要もないということに気づきました。私たちはただ職員20人ほどで集まって昼食を注文し、テスト参加者のパソコン画面をプロジェクターで壁に映し出し、テストの進行を管理する担当者を呼び、テストを実施するのです。20名の傍観者の前でユーザビリティテストを受けてくれる参加者を募集するのに時間を要するかもしれませんが、決して難しいことではありません。テスト参加者たちは自分たちがテストされているのではなく、アプリがテストされていることを理解しているからです。

ドキュメンタリー動画と同様に、リアルタイムでのユーザビリティテストは、アプリを利用するにあたってユーザーが感じた問題点を、実際の個人が経験した問題として示してくれます。テストが終了した後、テストで実際に目の当たりにした問題点に対するソリューションの構築に取り組んだという職員の話を耳にすることは少なくありません。今のところこのユーザビリティ・ランチは好評を得ており、今後より頻繁に実施することを計画しています。

コーヒーアワー・プレゼンテーション

MailChimpでは毎週金曜日の朝に、会社全体のコーヒーアワー (懇親会) を開催しています。通常は外部からゲストをお招きして、テクノロジーや業界の動向、創造性などについてプレゼンテーションを行ってもらいますが、年に数回UXリサーチチームも機会を設けていただき、会社全体に向けて数か月間の調査報告の概要を説明しています。先にご紹介したドキュメンタリー動画やユーザビリティ・ランチが個人のユーザーや特定の企業に焦点を当てているのに対して、コーヒーアワー ではアプリの利用やクライアントの行動に関する全体的な動向やパターンに注目し、リサーチ結果の全体像を共有しています。

例えば、5月にUXリサーチチームはコーヒーアワーを主催し、最近実施された18,000名の取引先を対象とした大規模な年間調査結果の概要について、プレゼンテーションを行いました。特に重要な動向を紹介し、今後将来的に発展する、または開拓する価値のある分野について発表しました。統計データや数値ばかりで同僚を飽きさせないために、データに関連する引用や、実際に私たちが訪問して取材を行った取引先の実例を紹介することで、量的データにコンテキスト を付け加えました。

社内専用サイト

私たちが最近考えた新しい方法が、情報を容易に共有できるような対話型のフォーマットに情報を掲載することができる、社内専用サイトを構築することです。才能にあふれたわが社のクリエイティブチームの協力により、情報が豊富で、視覚的にも興味深く、活用したくなるようなものを作ることが私たちの目標です。もちろん、ユーザー情報や企業として行ったリサーチの情報を掲載するので、MailChimp社内のみのIPアクセスに限定します。

わが社のサイトはそこまで詳細にこだわっているわけではありませんが、以下のサイトはインスピレーションを与えてくれる、非常に素晴らしいサイトです。

A Game of Shark and Minnow New York Times Magazineより

Janelle Monae カバーストーリー Pitchforkより

アイデアとストーリーの共有スペース Teehan+Laxより

ユーザーニーズのための技術

UXMeeting

実際には、リサーチ結果を伝えるための完璧な方法は存在しないので、誰をターゲットとして、誰にメッセージを発信するのかが、方法を決める重要な要素となります。UXリサーチャーとして、この分野のアンバサダーとしての役割を担い、他の部署で働く同僚について理解を深め、彼らにとって何が重要で価値のあるものかを知り、彼らに情報を伝えるベストな方法を見極めることが、私たちの使命の一部なのです。私たちのリサーチを商品とみなし、そして私たちの同僚をユーザーとみなすことで、彼らのニーズや学習スタイルに適したリサーチの仕方を構築することができるのです。


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