Amazonに見られる、UI変更を伴わないUX改善

原裕一郎

Web マーケター。 ソフトウェアのテクニカルサポートからキャリアチェンジし、Web/アプリ業界へ。株式会社ファンコミュニケーションズを退職後フリーランスとなる。独立した理由は髪の毛を伸ばしたかったから。好きな言葉は「同情するなら酒をくれ」。

Webやアプリ等のデジタルなサービスに触れていると、UXと言えばUIを前提としたものと考えがちです。

今回は、ECサイトを例にとり、UI変更を伴わないUX改善について触れてみたいと思います。

2015年9月9日、Amazonジャパンが携帯電話番号があればメールアドレスなしでもアカウント作成できるよう仕様変更を行いました。これはあまり大々的にニュースに取り上げられていませんが、実際にはEC業界にとって大きな意味を持ちます。また、UXの観点からも、UI変更を伴わないながら大きな意義があると思えます。

メアドを持たない若者たち

ECの歴史が始まってより長く、メールアドレスをベースとしたユーザー登録が行われてきました。

しかしながら、若年層のPC離れが加速している現在、スマホのみを利用し連絡はLINEを中心としたメッセンジャーで事足りてしまうため、メールアドレスを持たないユーザーが増えています。30代の私自身も、メールはスマホでは殆ど使いません。

となると、こういった層はECサイトに登録すらできず、ECを使うためだけにメールアドレスを取得するというBadUXを経るかECを利用しないかという選択を迫られることになります。

当然、EC側にとっても大変な機会損失が発生します。

上記を踏まえ、Amazonでは機会損失を防ぐべく、他社に先駆けて手を打ったわけです。

EC各社の危機感の希薄さ

若年層のメールアドレス保有率は今後減少する一方と判断できますし、現在既にメールは殆ど利用されていません。にも関わらず、EC各社はいまだにメールアドレスによるアカウントを基本としています。

アマゾンジャパンが早いのではない、他社があまりにも対応が遅すぎるのです。

電話も、若者には本当は必要ない

今回のアマゾンジャパンのUX改善は、電話番号をベースとしたユーザー登録です。

ここで、少々脱線しますが、そもそも、ユーザーにとってのスマートフォンの位置づけを再確認したいと思います。

昨今、電話(音声通話)を利用する機会が減ったと感じていませんか?

音声通話はユーザー同士に時間的同期が必要ですが、メッセンジャーであれば非同期で良いため効率が良い。あえて音声通話が必要な場合にも、電話ではなくメッセンジャーの音声通話で済んでしまいます。この傾向は若年層では一層顕著です。

にも関わらず、現在でも若年層のユーザーでもいまだに電話番号を保有している理由は以下の2点です。

 ・無料Wi-Fiの未発達

 ・連絡先の必要性

Pocket WiFiはまだ若年層が1人1人持つには高額です。

現在GoogleやFacebookの努力をはじめ、全ての人が簡易にインターネット接続ができるようにインフラ整備が進められています。また、実家暮らしをしている学生や若年社会人にとっては、必ずしも連絡先として自分個人の電話番号は必要ではありません。

ECにおける、ユーザーアカウント作成の今後

さて、ここで話を戻しましょう。

今後、メールアドレス不要でのユーザー登録が一般化することは時間の問題でしょう。今この時点で一般化していないことが不思議なぐらいです。

それでは、その先はどうなるでしょうか。

街なかに無料Wi-Fiが整備される時代も間近なので、そうなった時には、家庭や一人暮らしの人を除き、スマートフォンですら必要ではなくなってしまいます。

考えても見て下さい。SIMなしのスマホどころか、iPod touchがあります。iPod touchの価格は2万4800円、iPhoneとの差異はSIMが挿せるかどうかで、それだけで8万程度価格が違います。無料Wi-Fiが整えば、若年層にとってはiPod touchで十分なのです。

そうなった時に、今度は携帯電話すら保有率が減少します。

ユーザーがスムーズにECを利用できるUXを提供するには、別の識別子を使用する必要性が出てきます。

端末のユニークなIDを使用するのか、決済機能を持ったプラットフォームのアカウント(ソーシャルログイン)を利用するのか、何らかのオフィシャルなユーザーアカウントを利用するのか。それは今後の課題となるでしょう。

・・・

いかがでしたでしょうか。

UXとは、単にUIを経由したものではなく、もっともっと包括的なものです。今回はECの例を取りましたが、デバイスの変化や生活習慣の変化などの環境に依存し、「良い」UXというものも変化していきます。

日常の中の変化を感じることも、我々のようにUXに関係した者には楽しみであり学びであると思います。

※9/29 一部追記・編集しました

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