この記事は2014年11月に、Mediumに英語で投稿した「UX leads Strategy」の日本語バージョンです。
「UX戦略」という言葉をよく耳にするようになりました。UXデザインの目的と、それを現場で実行することを考えれば、次のようなことが言えると思っています。
・UX戦略は、UXデザインによってビジネス戦略を導くこと
・アナリティクスはUX戦略の要となる
UXあるいは戦略のどちらが重要なのかという問題ではなく、それらが一体となってビジネス、そして社会に対して好循環を生み出すことが目標です。それを現実のものにするために、これまでのUXデザイン、マーケティング、エンジニアリングといった分野の壁を取り払うことで、打開策を見出すべき時が来ています。この初投稿の機会に、私が自分事として目指すこと、実践していることを紹介します。
組織でユーザ調査を行うために
組織内でユーザ中心設計を実践するには、プロセスの中でインタビューやユーザビリティテストのようなユーザ調査を行うことが不可欠です。しかし、その認識を持っているのは一部のUX専門家だけであり、ほとんどのプロジェクトでユーザ調査を行うための十分な予算や人員が配分されることはありません。エンドユーザを知るためには、まず、あなたの組織におけるユーザを知ることから始めなければならないのです。
組織内のステークホルダーを説得するためには、ビジネスにおける短期的・長期的なROI(Return On Investment:投資対効果)を明らかにし、ユーザ調査の実行に結びつけることが大切です。私たちはビジネスを行うことによって対価を受け取り、生活していることを考えればその行為は必然と言えます。ユーザ中心の考えは正しいことですが、それが容易にできていれば誰も苦労せず、組織での実行に努めて初めて実現できることなのです。
そのために、ビジネスの目標となるKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)を設定することになるのですが、単に売り上げに紐づく指標を定めるのではなく、例えば、ユーザビリティと広告収益のどちらを優先するのかを企業やプロダクトのコンセプトに沿って計画する必要があり、それは時間の経過によっても変わっていきます。実際には、UXの優れたプロダクトが必ずしも収益性が高いとは言えないため、プロダクトの成長を戦略的に捉えてKPIをデザインし、継続的に測定していくことが大切です。
客観的な数値目標は、ステークホルダーの理解をサポートするのに役立ちますが、その後のUX活動にも大きく影響します。UXメトリクスを考慮したKPIによって要点が明確になり、例えばペルソナをどのように設定し、ユーザビリティテストのタスク設計をどのように組み立てるのかなど、プロダクトの目的に沿ってユーザ調査を実行することが可能になります。量的な目標設定は、質的調査の計画と実行を速め、調査結果の優先順位を決めるためにも有効に作用します。
サービスを改善するために
プロダクトがリリースされたとしても、それは終わりではなく始まりを意味します。綿密にユーザ調査をして作り上げたプロダクトであっても、競争の激しい市場において必ず成功するとは限りません。プロダクト単体だけでなく、顧客接点として関係する複数のプロダクトや販売、カスタマーサポートなどを含めてサービスとして捉えれば、最初のリリースで完璧を目指すのは不可能と言っても良いです。
サービスをより良くするために、継続的にそれぞれのプロダクトの効果を検証していく姿勢が重要です。効果検証することが失敗を証明することになると恐れている場合には、プロダクト開発における発想を制限するものであり、イノベーションが起こりにくくなると考えることでしょう。しかし、実際の利用環境で使われる前に、そのような判断をするのは利己的な思考であり、ユーザの行動データから客観的に事実を読み取り、次の改善につなげていくべきです。
そのためには、カスタマージャーニーを描いて終わりではなく、導き出されたユーザの接点に基づいて段階的にデータ分析を行っていく必要があります。Googleアナリティクスなどの解析ツールで分かることに限界はありますが、現在では、ウェブサイト以外の様々なデータとの連携ができるようになってきており、A/Bテストやヒートマップなどの活用も進んでいます。ここで注意すべきなのは、個別最適に終始するのではなく、ユーザの利用文脈を把握したうえで全体最適化を念頭に置いたテストプロセスを計画することです。
プロダクトは生き物です。そのため、KPIは永続的に固定されているわけではなく、プロダクトの成長によって改定されるべきです。予想以上のユーザを獲得した場合は、そのエンゲージメントを高め、継続的に利用してもらえるようなUXに配慮すべきですし、そもそもユーザ数が少ない場合は、現実的に広告やプロモーションを含めてUXを考え直すべきでしょう。UXデザインは、プロダクト開発におけるユーザ中心設計だけで成立することはなく、ビジネスを構成する様々な領域と人々を巻き込んだ活動であることは言うまでもありません。
アナリティクスはつなぎ役になる
UXリサーチは定量と定性の手法を含んでおり、どちらが優れているのかというより、各手法の特徴を押さえて相互補完的に扱うことを考える方が健全です。より良いUXを実現することが目的のデザインプロセスにおいて、互いの手法をどのように組み合わせ、どの段階で適用するのが効果的なのかを検討することが大切であり、面白い部分でもあります。これについては、私が和訳に関わったUX MasteryのUXの技法(UX Techniques)を参照して、あなたも現場で実行してください。
アナリティクスは定量分析だけを意味しておらず、Web Analytics 2.0においても定性分析を加味することでカスタマーインサイトを見出すことができるとしています。またLean UX サイクルでは、think > make > checkの要所において、ウェブ解析が得意とするアクセス解析、A/Bテスト、競合分析などの手法が活かされており、それらはつなぎ役として機能していることが実証されています。つまり、UXデザインの実行にアナリティクスを適用することで、ビジネス戦略に役立てることができると言えます。
UXの対象がヒトである限り、その元来の行動特性であるビジネスの要素を含まないわけにはいかないでしょう。UXデザインはビジネス戦略として実行されるかもしれませんが、あくまで、ビジネス戦略を先導するのはUXデザインであるべきです。そのUXデザインを高めるためには、前述のようにアナリティクスの力が必要不可欠です。
UXの評価指標を作ることは不可能なのでしょうか? UXデザインによってビジネス戦略を導くことは理想なのでしょうか? それに挑戦する事こそが、「UX戦略」なのです!