アカウントベースドマーケティング(ABM):MAとの違いと導入におけるポイント

新居 祐介

株式会社アマナ 執行役員 株式会社アマナイメージズ 代表取締役社長 2014年アマナ入社。ストック販売事業部門にて、新規事業開発やアライアンスを担当。GREE社と共同でゲーム素材販売サービス「CARTA」の立ち上げや、サイバーエージェント社とスマホ媒体向け広告サービスのリリースなどを行う。

「アカウントベースドマーケティング(ABM)」と言う言葉を日に日に目にするようになってきています。これは特にBtoB企業の間で注目を集めているマーケティング手法です。

※アカウントベースドマーケティングに関する説明は以下を御覧ください。

今話題のアカウントベースドマーケティング(ABM)とは何か?

この記事ではABMの導入を検討している方向けに、これまで普及してきたMA(マーケティングオートメーション)を中心としたマーケティングとの違いや、具体的な導入のステップにおけるポイントをお伝えします。

なお、本記事は、2016年9月30日(金)に開催された、『BtoBセールス&マーケティングSummit 2016 Autumn』(主催:ITproマーケティング)での、マルケトの福田康隆社長の講演を、一部参考にしています。

どんな企業が取り組むのに適しているのか?

「ABMって最近よく聞くけど、うちで導入しても効果があるのだろうか?」とお考えの方も多いのではないでしょうか。一般的にABMを導入して効果が高いと言われているのは、下記のような特徴を持つ企業です。

  • 大手企業中心
  • 大口顧客がいる(いわゆる2割の大口企業が8割の売上を上げているケース)
  • 顧客を似た特徴でグルーピングできる
  • 1社の中に複数のキーパーソンがいる
  • 複数の商材をもち、アップセル/クロスセルが効果的

一方で、MAを使ったマーケティングが適しているのは、以下のような特徴を持つ企業です。

  • 中小企業中心
  • 特定の企業が売上を占めていない
  • 商材が高額ではない
  • 新規購入が多い

このように、ABMに適した企業とMAに適した企業は、ある意味、真逆の立ち位置にあると言えます。簡単に整理すると、MAが不特定多数の様々な企業に対して(自動化ツールを活用しながら)効率的に商材を販売していく、というものであるのに対して、ABMは特定企業を1社1社に合った攻め方でじっくりと攻め、関係性を深めて受注を獲得していくという違いがあります。

別の言い方をすると、MAは「買ってくれそうな顧客を効率よく見つける活動」であるのに対し、ABMは「特定企業に買ってもらうための活動」と言えます。

ABM導入のステップ

ABMの導入にあたっては、以下の4ステップで進めていきます。

  1. ターゲットとなるアカウントを選定する
  2. 選定したアカウントに対してのアプローチ方法を検討する
  3. 様々なコンタクトポイントからアプローチを実施する
  4. アカウント単位で検証する

ターゲット企業の選定と分析の仕方

まず最初のステップであるターゲット企業の特定と、分析について解説します。

ターゲット企業については、みなさんの社内でも既にリストアップし営業活動が行われているかと思います。選定するポイントとしては、企業規模、業種、地域などの情報とともに、これまでの取引実績などからピックアップしていくこととなります。

また、今後の経営戦略に基づいて、それにマッチしそうな企業を抽出する、ということも方法として考えられます。今後商品を提供していきたい企業、直近の売上に貢献しそうな企業、あるいは時間がかかっても今後の戦略上おさえておきたい企業など、さまざまな条件に基づいて選定していきます。

具体的な手法としては、営業部門で行われているミーティングにマーケティング部門も参加して、実際の現場の情報を聞いたり、CRMやMAでの実績を分析したり、さらには、競合他社のサイトにある導入事例などから類似企業を探していったりなどの方法があります。また最近は、日本でもABMの広がりを受けて、ターゲット企業を選定するための企業情報を提供する会社も多く出てきていますので、そういったサービスを利用してターゲットを選定していくこともできます。

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選定したアカウントに対してのどのようにアプローチするか?

2つ目のステップである、「選定したアカウントに対してのアプローチ方法を検討する」ための方法について、解説します。

ここで重要なのは、各アカウントごとにプロファイリングを作成することです。これはABMでも重要なステップであり、「アカウントベースド」という所以でもあります。

このプロファイルには、その企業の財務状況、経営課題、組織図、SWOT、採用状況、業界分析などを盛り込みます。これにより、その企業の詳細な情報を洗い出し、共有していくことで、効果的なアプローチ方法を検討することができます。最近では、ユーザーベース社の「SPEEDA」などの企業分析サービスも出ており、そういったものを活用することも有効です。

特に「組織図」については、いわゆる営業でいう「キーマン」を組織図上に落とし込み、可視化すると効果的です。そして、組織図上埋まっていない「キーマン」を探し、コンタクト手段を確保していくことが重要となります。この辺りは、とても日本的な営業の感覚ですし、多くの方が普段からやっていそうなことなので、なじみやすいかもしれません。

MAとの違いという部分では、MAはまずはリードをたくさん獲得して、その中から出てきたホットリードを営業に渡す、という流れですが、ABMは逆で、「ここ」と決めた企業の、「この人」と商談する、という手法ですので、まず「この人」を見つけ出し、どうコンタクトするか(テレアポ営業をするのか、セミナーを開き来てもらうのか、あるいは経営層からアプローチしてもらうのか、など)、ありとあらゆる手段を使って「この人」に会いに行くということをします。そのためにも、組織図を明確化することが重要なポイントとなってきます。

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具体的に、どのようにアプローチをしていくのか?

3つ目のステップは、「様々なコンタクトポイントからアプローチを実施する」というものですが、具体的にどうすればいいのでしょうか?

「この企業」、「この人」と決めた相手に対してコンタクトを取っていくのですが、その手法としては、先ほども書いたように、テレマーケティングから展示会やセミナーなど様々です。その中でもベースとなるのは、コンテンツをターゲットに見てもらう、という手法です。これは、いわゆるコンテンツマーケティングにも通じる考え方です(というより、個人的には、むしろ「コンテンツマーケティング」は、今後、MAやABMをはじめとする、さまざまなマーケティング手法の中に、一つの手段として取り込まれていくと考えています)。

これは、「コンテンツマーケティング」と同じ考え方となり、ペルソナはもうできているのでカスタマージャーニーマップを作成し、どのチャネルで、どんなコンテンツをあてていくのかを設計していく、ということになります。

ここでは、一つ一つの企業ごとに作成をしていくと、膨大になってしまい、またスタートまでに時間がかかってしまいますので、企業の特徴ごとに「企業群」にまとめ、その「企業群」ごとに、カスタマージャーニーにおける各フェーズごとに、チャネルとコンテンツを決定していき、各種ツールを設定していくという流れとなります。

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ABMにおける効果検証とは?

ABMでも当然、効果検証をしながら、精度を高めていくことが重要です。効果検証についても、コンテンツマーケティングで使われるものと、大筋同じ内容となりますので、詳細は別の記事を見ていただくとして、ここでは、ABMでの効果検証のポイントを解説します。

ここでもやはり、「アカウントベースド」であるということです。つまり企業ごと、あるいは、3つ目のステップで設定した企業群ごとにエンゲージメントを追いかけることが重要です。その際の指標としては、広告閲覧数やCTR、サイト閲覧数や獲得リード数、ホワイトペーパーのダウンロード数、発生した商談数や受注件数・額、などです。

1つ目のステップで選定した企業が多いと、なかなか大変ではありますが、重要なステップですので、丁寧に行いたいステップです。企業数が増えてくると、ツールの導入も検討された方がいいかもしれません。 

まとめ

ABMとMAの違い、またABMを導入する各ステップについて、具体的に解説をしてきました。ABMは、日本企業にとっては、比較的取り組みやすい考え方だと思いますが、一つ大きな違いとしては、デジタルマーケティングの要素がかなり強い、というところだと思います。

これまでは、「営業の勘」や、「マーケッターの経験」など、個人に依存する能力で成果を上げていくということが多かったと思いますが、これからはAIなどの技術により、より正確により早く可能性の高いアカウントを見つけたり、MAなどのツールによって自動的にマーケティング活動を行い、成果を一瞬で「見える化」してくれるようになっています。

マーケットの変化も、ますます加速している今、こうしたデジタルマーケティングのツールを一つの手法として活用しながら、より効果的なマーケティング、また営業活動を実践していきましょう。


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