インタビュー:無印良品におけるUX戦略の考え方(抜粋)

UX MILK編集部

モノづくりのヒントになるような記事をお届けします。

この記事は本日マイナビ出版から発売の『UX × Biz Book ~顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン~』の「Chapter2 UXと顧客エンゲージメント 」から、無印良品のUXにおける取り組みのインタビュー部分を抜粋したものです。

本著のこの章では無印良品がどうUXデザインをビジネスに活用しているかクローズアップしており、Webやソーシャルでのブランド・コミュニケーションの責任者である良品計画のWeb事業部の川名さんと実際にWebにおけるUXを担当されている武田さんにお話を聞いています。

登場人物
株式会社良品計画 Web事業部 川名常海(かわなつねみ)氏
株式会社良品計画 Web事業部 武田歩(たけだあゆむ)氏
株式会社メンバーズ 執行役員、株式会社エンゲージメント・ファースト CEO 原 裕(はらゆたか)氏

無印良品の提供する顧客体験価値とは

良品計画Web事業部の川名さん(写真右)と武田さん(写真左)

原 裕氏(以下、原) いきなりですが、無印良品の提供する顧客体験価値ってなんでしょうね?

川名 常海氏(以下、川名) 難しい質問からしますね(笑)。といいつつ答えはシンプルです。顧客視点かな。シンプルすぎる?

 いやー、かえってすっきりします。基本はそこですよね。とにかく横文字使ったり、新しい単語使ったり、ちょっと業界すぎますね、UX業界(笑)。

武田 歩氏(以下、武田) 実際、無印良品ではUXっていう言葉は使わない。言語化されてないというべきか。

 でも、空気のようにあって当然なわけですね。

川名 そう。そもそも無印良品の歴史だったり、カルチャーだったりが徹底した顧客視点で製品開発したり、広告作ったり、WEB作ったり、ですね。誰も深く意識してないけど、体現できているとしたら、すごいよね(笑)。

 田中一光さんという日本を代表するグラフィックデザイナーが無印良品の創設にかかわっていたというのも大きいですよね。

武田 田中先生の言葉で『売り手、企業の論理でなく、生活者、あるいは自然の論理』というものがありますが、これが無印良品の考え方だとも言えます。顧客視点であり、地球視点である。

川名 一時無印良品もこの顧客視点を忘れてビジネス視点になっちゃった時期があり、ビジネス追っかけているはずなのにビジネスが落ちた時期がありました。そこから基本に戻る的な流れで今に至ります。

面白いのは結果を求めて活動したのにかえって結果が出なかった。だから無印良品のKGIは最高の顧客体験価値の提供で、ビジネスは結果ついてくるものかもしれない。

 武田さんは実際にWebサイトを作ってらっしゃるのですが、無印良品のWebサイトのデザインにはいつも共感性が高い! 商品の持っている特性をすごく表現していて、まるで手に取っているかのようにわかります。どのような顧客体験デザインを心がけているのでしょうか?

武田 単なるグラフィックデザインというより、作り手の想い、顧客が手に取ったときの想い、顧客が誰かにその想いを語っていただけるシーンなんかを想像して作っています。もちろん買っていただくことが重要ですが、無印良品ファンにデザインやコンテンツを共感していただけるかどうかがKGIです。

なので、コンテンツをアップして、いいね! やシェアをいっぱい押していただけたときはうれしいですね。実際にその商品はすごく買っていただいたりします。

 なるほど! まさに顧客視点なわけですね。言うが易し、やるが難し、ですね。

武田 煮詰まったときほど、自身も一無印ファンに戻って考えるようにしています。

 まさにスティーブ・ジョブズ!(笑)

川名 今日から武田をジョブズと呼びます(笑)。ただ、ジョブズは、実際には最高にうるさいし、でもアップルを愛していたアップルユーザーでしたよね。だからユーザー調査をせずに自身の欲しかった物を妥協せずに作っていったし、結果多くのユーザーに支持された。

 私自身が、川名さんより無印良品でいっぱい買っているユーザーですが(笑)、あっ、ちなみに今日のスーツも無印良品ですが、商品、店舗、Webサイト、アプリ、ソーシャルと一貫した無印良品らしい顧客体験を得ています。すなわち、いつでも無印気分。これってすごいですよね。

川名 顧客体験ってその人がちょっと違う自分や日常、なりたい自分の世界観に浸るということだとも思います。無印良品の場合、属性、すなわち、性別、年齢、居住地、職業とかでの弱い強いはそんなにないんですよね。各層に一定の無印良品好きな顧客がいらっしゃる。価値観って属性で形成されることもありますが、そうじゃない場合もありますよね。国とかも超えちゃう。

ある意味マーケティングしにくいのだと思います。なぜなら他のブランドがやるような調査とかがワークしない。価値観とかだから顧客定義しにくかったり、言語化しにくい。それ故顧客視点にならざるを得ない!

顧客視点を徹底するためのオブザベーション

 以前聞いたオブザベーションについてお話いただけますか?

川名 無印良品は顧客視点でものを考え、開発し、コミュニケーションする企業です。ならば顧客に入っていって同じ環境で考えさせてもらおうと。

簡単に言うと顧客にお宅訪問させてくださいってお願いするわけです。でも家は片付けないでねともお願いする。で、デザイナーや商品開発担当者がお宅訪問させていただき、散らかっている水周りとか、整理できていない棚周りとか玄関、掃除できてない場所とかを観察させていただくわけです。そして何でそうなっているのかとか顧客に聞くわけです。いやー、自分が訪問されたらいやですが(笑)、この活動をオブザベーションと呼んでいます。ま、観察を英語にしただけですが(笑)。

この活動はむちゃくちゃ地味ですが、無印良品においてはとても重要な活動です。業者にお願いしたアンケート調査ではお客視点にはなれません。バイアスがかかるとか言われますが、バイアス上等!です。家を見せてくれるほど無印良品とエンゲージメントしていただいている顧客の意見をどんどん取り入れることが我々の戦略だと考えています。

ただし、赤が多いから赤をつくるとかそういうことではなくて、顧客の言っている会話の中から、行間を読むとか、社内ではよく言うんですけども、お客さんの本当の声に出ないニーズみたいなのを拾って、こういう商品に活かしていくというやり方です。

 顧客視点で物を考えるから、現在は顧客の声をダイレクトに聞き入れたりもしていますね。

川名 IDEA PARKはそうですね。今では月300件以上の声をいただいています。これらの声に耳を傾け、その開発フェーズでは実際に顧客に使っていただいてみたり、ご意見いただいたりして製品化という形で顧客にフィードバックさせていただいています。ただし、重要なのは、『無印良品の意志(Will)』です。この意志がないと顧客の声に右往左往することになってしまいます。

無印良品のカスタマージャーニー

 MUJI Passportのお話をお聞かせください。

川名 無印良品はECもありますが、店舗の売り上げがほとんどです。私の管轄するWeb事業部はECとデジタルコミュニケーションを担当していますが、デジタルを活用し、店舗に顧客を送客することが重要なミッションになっています。

しかし、どんなに熱心な顧客でも年に数回の来店なので、来店中の買い物体験を最高にする、来店しない時にでも店舗体験を体験してもらうことを、デジタルを活用して提供することです。ともかく店舗体験を最大化するにはどうしたよいかをかなり試行錯誤しました。

武田 そのためには店舗での顧客体験のいいところ、足りてないところを関係者や顧客と徹底的に話しあいましたが、あれもやりたいこれもやりたいという意見が出てきました。しかし、アプリでのUXを考えた時になるべくシンプルにすることだけは心がけていたので、出てきた機能をいかに削ぎ落とすかが重要な作業でした。

また、それをいかにシンプルに見せるか、そして、いかに直感的にわかるデザインに落としこむかなどUXデザインには時間をかけました。

川名 ダウンロードし、登録してもらうという顧客体験も重要で、むしろ、如何に不快な体験をさせないかを考えました。結果的には最初から属性データなど一般的に企業として取りたくなるようなデータのほとんどは取らない、というオチでした(笑)。そう、企業理論より生活者視点ですね。

実際、属性データとかのほとんどはあまり役に立たない(笑)。誕生日、つまり年齢とかは教えてくれたら500マイル差し上げます、という感じできいています。

 店舗とWebサイトとSNSの関係は以前セミナーで共有いただきましたね。いわゆるカスタマージャーニーですね。

無印良品のカスタマージャーニー

川名 こういうリアルも含めた顧客の横断的な動きをトラックし、俯瞰的にUXデザインできるのもデジタルの特性ですね。デジタル・マーケティングはデジタル時代のマーケティングだと考えているので、基本的には顧客視点に立ったマーケティングがデジタルを使うことによってやりやすくなったということですね。

自社の価値を明確化するということ

 今後UXを志向する企業にアドバイスをお願いします。

川名 リサーチに頼らず、まず自社の優良顧客と徹底的にエンゲージメントを高めて、その顧客と対話することですね。そうすれば自社製品やサービスのどんな点が顧客体験を高めているか、あるいは低めているのかがわかるはずです。

単なる商品の機能の良し悪しを聞くのではなく、その商品を使っているときに感じた体験を読み取れるかどうかが重要です。それらは商品開発だけでなく、コミュニケーションにも活用できます。それと重要なのは自社の価値を明確化することです。それは意志にもなるので。

 いろいろとありがとうございました。

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このインタビューが掲載されている『UX × Biz Book ~顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン~』は、デジタル・マーケティングから顧客との関係構築、ブランディング、実装まで、それぞれ現場で活躍する執筆陣が、それぞれの領域の観点でUXおよびUXデザインのビジネス価値に関して解説している一冊です。

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