1回5,000円という破格の価格設定でユーザーテストを実施できる「ユーザテストExpress」。ユーザーテストのエントリーレベルともいえるこのサービスはどんな想いから生まれたのでしょうか? この記事では株式会社ポップインサイトの池田氏にインタビューし、ユーザーテストへの想いを語っていただきました。
インタビューイー:
池田 朋弘(いけだ ともひろ)氏
株式会社ポップインサイト 代表取締役。2008年4月、株式会社ビービットに入社し、ユーザー行動観察調査による分析を中心としたコンサルティングに従事し、「中古車一括査定の申込数1.5倍」「BtoBサイトの問合せ5倍」「保険代理店の見積もり10倍」などの多くの実績を出す。ポップインサイトではWebマーケティング企業に対し、オンラインで実施可能なユーザ調査サービスを提供。
インタビューワー:
三瓶 亮(さんぺい りょう)
株式会社マイナースタジオ プロデューサー/UX MILK 編集長。ゆるく学ぶUXイベントUX JAM主宰。自身の新規事業開発の失敗をきっかけに2015年にUX MILKを立ち上げる。
1分でユーザーテストができるサービス
池田さん、今日はよろしくお願いします。まずは軽く「ユーザテストExpress」についてご紹介いただけますか?
強烈なコンセプトですね。そしてだいぶ欲張っていますね(笑)。
そうなんです(笑)。前職でも似たようなことをやっていたのですが、ユーザーテストってとにかく面倒くさいんですよ。「モニター募集/選定」して、「実査」をするところは割とイメージがしやすいところだと思うのですが、その前後の「設計」と「分析」が重いんです。
考えた結果やらないよりは、考えずにやったほうがいい
たとえば「設計」では聞くことをちゃんと固めて、仮説を作って…と考えていくのですが、そもそも何を聞けばいいかもよくわからないというケースも多いと思うんです。
確かにユーザーテストをやろうと思っても、正しく聞けるかとか不安に思いますね。
敷居が高いんですよね。実は起業した当初、この設計の部分はこちらでやっていたんですよ。で、実際3年間で2,000調査くらいしてきたのですが、やってみると設計って結構同じだということに気づきまして。
定型化できると?
はい。うちのユーザーさんの場合、既存のサイトで何が悪いかもわからず、まずはどんな課題があるのかを知りたい場合がほとんどで、あまり仮説もないんですよね。なので、そういったライトな調査のときにはテンプレでいいじゃないか、となったわけです。
多少粗くても発見点があればいいですもんね。
そうです。考えた結果やらないよりは、考えずにやったほうが1万倍いい、という発想でして。煩わしさとなるところをまず全部飛ばしたかったんですね。
「分析」のところも同じです。最初は動画納品のみだったのですが、動画見るのって結構大変じゃないですか? オプションにはなるんですけど、実は動画の横にテキストメモが出るようになってるんです。30分の動画しっかり見て発見がゼロでした、よりもそのメモを30秒でパッと見て、参考になるかどうか判断して、次! くらいの手軽なものにしていきたいと思っています。
いきなり松阪牛から調理を学ぶ料理人はいない
その思想は1回5,000円という価格面でも表されていますよね。ユーザーテストサービスというのは結構存在するものの、どれも非常に高額なイメージがあるので、最初サービスを知ったときは驚きました。
そうですね。でもライトな感じだからといって使えないかというとそういうことではないんですよね。ユーザーテストで得られるのはあくまでファクトであって、それをどう料理するかがまさにUXデザインだと思うんですね。
素材と調理人って別じゃないですか。今は素材が少ないんです、そして高い。松阪牛しかないんで、皆さん敬遠しちゃうんですけど、まずは普通のアメリカ産ビーフでいいじゃんと(笑)。
庶民的な選択肢もあっていいんじゃないか、ということですね。
安い肉でもかけ合わせたらおいしくなったりするじゃないですか。材料が広がれば調理人の腕も磨かれますし。たとえばユーザーテストにアクセス解析やヒートマップをセットにするとすごく良い分析ができたりします。素材を手に入りやすくすることで、調理のセンスを磨く時間を作りたいですよね。
そういう意味で、「ユーザテストExpress」はデザイナーにとってのPhotoshopみたいな、ユーザーテストのデファクトスタンダードにしていきたいんです。
ユーザーテスト、何人に聞けばいい?
よくマーケティング本とかで○人に聞けばOK! みたいな話あるじゃないですか。池田さん的に「ユーザテストExpress」では何人くらいに聞けばいいと言っているんですか?
ヤコブ・ニールセン氏が5ユーザーでテストすれば十分と言っているので、営業的には3〜5人って言うんですけど(笑)。個人的には面白い発見があって、課題が解決したなら極論1人でもいいんじゃないかと思っていて。
くらたまなぶさんってリクルートで「じゃらん」とか「とらばーゆ」とか立ち上げた人が書いた『リクルート「創刊男」の大ヒット発想術』って本があるんですけど。
その人は「とらばーゆ」って女性向けの転職メディアを立ち上げるときに、とにかく女性に会いまくって、女性の気持ちになったそうなんですね。それこそもはや「生理が来たかもしれない」と思うくらいに。
そこで面白かったのが、何百人とかの女性に会うんですけど、何を探しているかというと、炭鉱のカナリアを探していたらしいんです。つまり、何百人とかをひとまとめにプロファイリングしたいわけではなく、会っている女性の中でもとりわけ感度が高い、自分のサービスにとってもっともピンとくる誰かがいるそうなんです。
自分のサービスにとっての1番のペルソナってことですね。まさに理想のユーザー、みたいな。
そうです。さらに言うと、その人は改善方針もすべて知っている。要するにユーザーでもあり、改善を実現する方法も何故か全部知っているような人が、何人かいるらしいんです。その人を見つけるために多くの人に会っているという発想はすごく面白くて。
なので、ユーザーテストの適度な人数として3〜5人と言っているものの、本当は炭鉱のカナリアを見つけるのがベストなのではないかと。
ピンとくるまでやれと(笑)。
逆にピンときたらそこまででいい、というのが基本的なスタンスですね。ビジネス的には3〜5人ですけど(笑)。
データをつなぎ合わせるストーリー
ユーザーテストをやりたい動機って2通りあるかと思っているんですね。本質的なところはもちろん自分たちの作っているものの検証だと思うんですけど、もう1つどうしても生じてくるのは資料作りのためのエビデンス作りなんじゃないかと。
説明責任ですよね。
はい。そうなってくると定性的なものも定量的なものも必要になってきたり…。どっちかによって微妙にアプローチも変わってくるのかなって思ったり。
素晴らしいご指摘です。数値とかでいうと面白い例があるのですが、前職のときにとある家庭塾の会社に行ったんです。そこのWebサイトではスマホ対応をしていなかったのですが、社長は全然する気がない、というのが担当者の悩みで。
どうしましょうかと、スマホ率がこうですよ、とかアクセス解析とか資料お出ししたりしていたんですけど、あるときガラッと手のひらを返したようにスマホ対応が決まったんですね。何故かと聞いてみると、孫がスマホを買ったのがきっかけだったみたいなんです。
要するに人って結構感情で決めちゃうんだな、と思いまして。数値とかって解釈次第なので、体験によって気持ちが動いて、あとから理屈がついてくるみたいなケースって非常に多いんです。そういう意味で言うと、定性的な人が使っているとかって文脈のほうが人はすっと自分ごととして置き換えやすいんでしょうね。
まさにストーリーテリングですね。偉いおっさんとか数値数値言ってても結構ストーリーで動きますよね(笑)。
人工知能使ってアクセス解析するとかあるじゃないですか。人工知能がすごいのはさまざまな変数の相関関係を瞬時にいろんなパターンを出せるってところで、めちゃくちゃすごいことなんですけど、相関関係って因果関係じゃないんですよね。どっちがいいか、とかわからない。ストーリーって因果関係じゃないですか。
人間の頭って基本的にリニアで、因果関係的に理解しないと話ができないんです。たとえばビッグデータが広がったとしても、ビッグデータの出した結果だけでは説明が難しいケースってかなり多い。
そこをストーリーテリングでつなぐのは人間しかできませんもんね。
そう、つなぐのはやはりストーリーなんだと。機械が意思決定する場合は、それでもいいと思うんです。たとえば、Amazonのレコメンドなんかは、機械が勝手に出したパーセンテージで動けばいいんですが、リニューアルの方針はきっとベゾス氏が決めるじゃないですか。ベゾス氏の意思決定のときには、たぶんストーリーが必要で、そのときには定性的な流れやファクトがないと、説得できないと思うんですよね。
なので、人間が意思決定しているうちは、やはり説明責任として文脈だったりとか、あるいはストーリーは有効だと思っています。人工知能とかが進化していったとしても、大きい話には必ず人が入ってきますし。
まったくその通りだと思います。特にさっきの感情っていうのは大きなファクターだと思っていて。気まぐれとか。ロボットがユーザーでもない限りは(笑)。
人間が主体的にやる以上は、こういう話をしなくちゃいけないですよ、やっぱり。
「おむつとビール」ですよね。奥さんが子どものおむつを買ってくるように旦那に頼むと、ビールもあわせて買う傾向にあるから、おむつの近くにビールを置いたら売上が上がったという。データだけでは一瞬ピンとこないけどストーリーがあると納得感がありますよね。あるある、みたいな。
要は定量データをつなぎ合わせるストーリーがユーザーテストの定性データということですよね。こういうことを意識していくと、より定量データに説得力持たせたり、逆に定性を支えるデータってなんだっけ? とかいろいろ明確になっていく気がします。
ユーザーテスト市場に対する責任
「ユーザテストExpress」に話題を戻しますが、これってある意味ユーザーテストのチュートリアルみたいなものとも捉えられるかと思っていて。ユーザーテストってこうやればいいんだ、みたいな。
極端な話、ポケットマネー5,000円で自分の仕事が少しでもスムーズになるならやってみたい人って、結構いるんじゃないでしょうか。
本を買うみたいな感じですよね。自己投資的な。本当はもっと下げたいんですよ、1,000円くらいに(笑)。まずは現場で当たり前に使われるようにしたいんですよね。もっと突っ込んだユーザーテストしたい場合も別途ご相談いただいたりなんかして。
市場を作っているってことですね。
市場を作っている責任や気持ちはすごくあります。うちのサービスとかは価格的なところから初めてやる人が多いんですけど、初めてやる人って品質がどうとかわからないんですよね。
ああ、ユーザーテストってこんなもんか、みたいな。
そこで発見が何もないテストを見たときに、その人は果たして再びやるでしょうか。やらないですよね。なので、一番最初にやったユーザーテストの動画がそれなりにインサイトに富んでいるというのはすごく大事だと思っています。その人が2回目やらない、ということはその人の周りの市場が消えたも同義だと思っているので。
なので、最初の方は分析のお金とかもらっていなくても、一応全部見て、いくつかでも発見があることを確認したりしていました。大事を取って。
実は冒頭にご紹介した、動画の横にテキストメモが出るという仕様はこのときの名残りでして。このチェックの際に自分でテキストメモを取っていて、それをそのときのお客さんにも試しに送ってみたところ、好評をいただいて。
後にアルバイトにその部分をやらせて自分であとからメモを見てみたんですけど、動画見なくてもメモだけでもだいたい把握できるんですよね。これはいいな、と思って機能化したんです。
品質チェックから生まれた機能。いい話ですね。
いい話なんです(笑)。すべては最初のテストがいい結果になって欲しい、という想いからきています。初めがおいしいかどうかは、おそらくうちが担っているだろうと思っていまして、ゆえに品質は良くしなくちゃいけないと思っています。
まさに市場への責任ですね、熱い。
プロトタイピング、A/Bテスト…広がるExpressシリーズ
そういえば最近「ABテストExpress」というのも出していましたよね?
そうなんです。実はユーザテストExpress以外にも、もう少し大枠のユーザーリサーチExpressシリーズとして、いろんなパターンを出しています。「ABテストExpress」「プロトタイプ・テストExpress」「電話インタビューExpress」などですね。
いろんなケースによって必要なテストは違いますもんね。
まさに。なので基本的に1日1Expressくらい出したいくらいです(笑)
たとえばデザイナーが金曜の締め切りに向けて、水曜時点でデザイン案作ったとしましょう。でも、本当にいいかわからないじゃないですか。なので作ったら水曜の夜にテストを投げておく。そうすると明日の朝には回答が返ってきている。
結果は全部参考にする必要はなくて、かいつまんで直したほうがよさそうなところをいくつか直すんです。そうすると、直した理由が話せる。出す案は初案だとしても、1回チェック通した2案目、という風にしたいですね。
いいですね。デザイナーだけでなく、いろいろな職種の人が手を伸ばせるといいですね。引き続きいろいろなExpress、楽しみにしています。
池田さん、本日はありがとうございました!
ありがとうございました!
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1回5,000円で実施できるユーザテストExpressですが、低価格の上、初回は無料でご利用いただけます。ぜひプロジェクトや案件で迷っている部分などありましたら利用してみてください。
提供:株式会社ポップインサイト
企画制作:UX MILK編集部