UXというと、シンプルで美しく、使いやすく、ユーザーの生活をより良くする機能をもった製品を、多くの人は思い浮かべるでしょう。しかし実際には、機能というのは製品のほんの一部でしかなく、ユーザーが直面する問題に対する考えうる数多くのソリューションの内からわずかなものを提供しているにすぎません。
プロダクト思考(Product Thinking)は、ユーザーが抱える特定の問題に着目し、対処し、目標を達成し、売上を上げるまでの一連の流れを意味します。
UXで大事なのは、製品の機能ではありません。ユーザーが製品でなにをするかが大事なのです。
Uberの中心となるUXは、いつでもタクシーを簡単に呼べることです。このUXにおいて特徴的なものに、タクシーの到着時間を正確に表示するという機能があります。しかし、Uber自体はこの表示がなくても、常にサービス提供されています。この到着時間の表示は、製品自体の存在(いつでも簡単にタクシーを呼べるという確実性)があって、初めて機能するものです。製品と機能の間には、一方通行の相互関係が存在し、機能は製品という箱がないと意味をなしません。これが、デザイナーにとって、製品を第一に考えなくてはいけない理由です。
機能ではなく、製品の開発を考える
製品が解決する問題を明らかにする
製品には、コアとなるUXがあります。UXがあるからこそ、製品が存在するとも言えるでしょう。ニーズを満たし問題を解決することによって、製品は意味をもち、価値を提供することができます。問題が存在しなかったり、問題に対してのソリューションが適合しなかったりする場合、その製品には意味がなく、ユーザーも出現しないでしょう。つまり、その製品は欠陥・失敗と見なされることになります。たとえ、間違ったソリューションを改善したとしても、存在しない問題には、対処することはできません。
では、存在する問題に確実に取り組むには、どのようにすべきでしょうか? 100%の確信がなくても、ユーザーと話したり、観察したりすることで、リスクを最小化することはできるでしょう。このようにして、問題を明確にし、顧客が本当に望んでいるソリューションを作成するのです。
顧客が何を欲しているかを知るのは、顧客の仕事ではない
Steve Jobs氏
Clay Christensen氏は、ミルクセーキの売上を伸ばそうとした人物です。彼はミルクセーキをより甘くし、異なる種類の味を提供し、またカップのサイズも少しだけ大きくしました。
しかし、ミルクセーキの購入客を実際に観察するまで、なにも効果はありませんでした。彼は、ミルクセーキを購入する顧客は、朝の車での通勤時間に、やる気やアクセントを加えるために、商品を買っているのだと気付きました。ドロッとしたミルクセーキの大きな利点は、ほかの飲食物に比べて、腹もちがよいということです。
本当の問題は、顧客はこの事実を把握していないことでした。結論として、Christensen氏はミルクセーキの濃度をもっと濃くするということにソリューションを見出し、売上高を伸ばすことに成功しました。
恋に落ちるなら、ソリューションではなく問題に
Laura Javier氏
正しいターゲットに正しい機能を届ける
プロダクト思考は、価値のある機能をつくることにつながります。製品が対処する問題を定義することにより、「なぜこの製品を開発するのか?」という答えを明確にすることができます。「問題を抱えているターゲットとなる人」や、「どのようにして対処するのか」というソリューションを決めることで、新たな機能の方向性がおのずと明らかになるでしょう。また、最終的な目標を設定して、この機能が成功だったかを判断する基準を設けましょう。
プロブレム・ソリューション・フィット
製品は、明らかになった問題に対し、ソリューションを提供できたときに、意味があるものになります。ソリューションは、問題を解消する具体的な方法のことを意味します。
プロブレム・ソリューション・フィットは、製品のコアとなるUXを定義するものです。具体的な機能は、UXをサポートするものですが、UXを定義するものではありません。インタラクションデザインやビジュアルデザインは、製品を美しく、使いやすくしたり、競合製品と比べて目立たせたりする効果があります。しかし、それだけでは製品を意味のあるものにすることはできません。
これが、正しいプロブレム・ソリューション・フィットが、製品の成功において重要とされる理由です。
製品の定義
製品を考えるとき、UXデザイナーはまず、以下の質問に回答しなくてはなりません。
- どのような問題点を解消するのか? (ユーザーの抱える問題)
- 誰に対しての製品なのか? (ターゲットとなる顧客)
- なぜ開発をするのか? (ビジョン)
- どのようにそれを行うのか? (戦略)
- そして、なにを達成するのか? (最終目標)
これらが明確になって初めて、実際になにを行うのか(機能・特徴)という点を考えることに、意義が生まれます。
プロダクト思考の力
プロダクト思考で、デザイナーは正しいターゲットに対する正しい機能を設計できるようになります。また、インタラクションやビジュアルデザインだけでなく、製品全体のUXを理解することにも役立つでしょう。これにより、デザイナーは、ユーザーが抱える問題に対処し、価値のない製品をつくってしまうリスクを減らすことができるようになります。プロダクト思考は、機能を設計する上で、正しい決定を行うためのパワーを、デザイナーに与えます。
機能を設計することは簡単だ。正しいユーザーに対する正しい機能を設計することこそが課題である。
プロダクト思考により、UXデザイナーは、回答すべき質問に正しく答えられるようになり、正しい機能を設計し、ステークホルダーと効率的にやりとりできるようになります。また、デザイナーは「NO」という決断を適切に行い、安易に新しい機能を付け加えることに対して、踏み止まることができるようにもなります。新たな機能を加えることが要求されたり、新たな製品案が提示されたときは、デザイナーはワイヤーフレームを設計したり、空想上のレイアウトを作成したりする前に、以下の質問をしてみましょう。
- これはその製品に適ったものか?
- ユーザーが現実に抱える問題に対処するものか?
- ユーザーが欲しがるものか? またニーズはあるか?
こうすることで、製品は無駄なく効率的なものとなります。
結論
プロダクト思考によって、デザイナーは正しいユーザーに正しい機能を提供し、ユーザーが抱える問題に対処できるようになります。また、正しい意思決定をうながし、ユーザーが欲しいと思う製品をつくる基盤を整えることもできます。
プロダクト思考は、製品マネジメントとUXデザインとの間のよりよい関係性を確立し、よりよい製品をつくる動力になります。
以上が、プロダクト思考がUXデザインにおける、「Next Big Thing」である理由です。