ユーザー体験(UX)は、製品が市場で成功するか、失敗するかを左右する重要なものです。改めて、UXとはどういう意味なのでしょうか。
UXは、製品の「使いやすさ」を示す「ユーザビリティ」と混同されがちです。
実際、教養としてのUXはユーザビリティから始まったものの、次第にユーザビリティを包括するものになっていきました。優れた製品を市場に提供するために、ユーザー体験のあらゆる側面に配慮することが重要です。
UX分野のパイオニアのPeter Morville氏は、同分野のベストセラー著者です。フォーチュン誌に載る上位500の会社にも、UXに関するアドバイスをしています。
ユーザー体験に重要な要素として、彼は以下の7つを挙げました。
- 役に立つ:Useful
- 使いやすい:Usable
- 見つけやすい:Findable
- 信頼できる:Credible
- 魅力がある:Desirable
- アクセスしやすい:Accessible
- 価値がある:Valuable
これらの要素はユーザー体験にどう影響するのでしょうか。順番に見ていきましょう。
役に立つ:Useful
役に立たない製品を市場に提供する意義はあるのでしょうか? 効果のない製品は、効果が明確で役に立つほかの製品たちと市場で競合することはできません。
また、ユーザー目線で、この製品は「役に立つかどうか」に気を配る必要があります。実用的ではないけれど「役に立つ」、面白さや外見の美しさといった要素も重要です。
コンピューターゲームや彫刻のように、誰かにとっては何の役にも立たないものが、ほかの人にとっては大きな意味を持つものもあります。
使いやすい:Usable
ユーザビリティとは、ユーザーが効率よく製品を使い、使用目的を果たすものです。
たとえば、3つのコントロールパッドを使うコンピューターゲームがあったとしても、人間の手は2本しかないので使いにくいはずです。使いものにならない製品が成功する可能性は低いでしょう。
第一世代の製品はユーザビリティが低いものが多く、初期のMP3プレイヤーは使いやすいiPodに市場シェアを奪われてしまいました。iPodは初めて市場に登場したMP3プレイヤーではありません。しかし、「使いやすさ」においては1番最初のMP3プレイヤーだったのです。
見つけやすい:Findable
見つけやすさとは、ユーザーがその製品をいかに簡単に見つけられるか? ということです。デジタルや情報関連の製品は、コンテンツを簡単に検索できなければなりません。
製品が見つからなければ、潜在的ユーザーがいても購入できないからです。
また、新聞を読む際、スポーツ、エンターテインメント、ビジネス等の各トピックが、分野ごとに分けられずにランダムで掲載されていたら、かなり読みにくいはずです。
見つけやすいことは、ユーザー体験に重要な要素だといえます。
信頼できる:Credible
Randall Terry氏の言葉に「一度だけ僕をだましたなら君の恥、二度も僕をだましたのなら僕の恥。」(編注:同じ人に二度も騙されたとしたら最初の失敗に学ばなかったので騙された人が悪いという意のことわざ)というものがありますが、ユーザーが二度だまされることはありません。
現代のユーザーは、あらゆる分野の幅広い選択肢の中から信頼できる会社の製品を選ぶことができます。そのため、一度期待はずれだった製品の会社からは二度と購入しないのです。
信頼性は、ユーザーが製品を信頼できるかに関わります。
また、製品に期待以上の機能があるというだけでなく、その機能がある程度長持ちすること、製品の情報は正確で目的に沿っていることが求められます。
信頼できない、うさんくさい会社といった印象をユーザーに持たせてしまえば、ユーザー体験を提供することは困難です。ユーザーは、ほかの会社の製品に切り替えてしまうでしょう。
魅力がある:Desirable
シュコダもポルシェも同じ自動車メーカーです。いずれも役に立ち、使いやすく、見つけやすいブランドです。アクセシビリティ、信頼性、価値もあります。しかし、一般的にポルシェはシュコダよりも遥かに魅力があると見なされています。
自動車の販売台数から見て、シェコダにブランド力がないとは言えません。ただ、ポルシェかシェコダの新車をどちらか1つ無料でもらえるとしたら、多くの人がポルシェを選ぶでしょう。
ブランドが持っているイメージやアイデンティティ、美学、エモーショナルデザインを通して、製品の魅力はデザインに反映されます。魅力のある製品を持つことで、他者からうらやましがられるのです。
アクセスしやすい:Accessible
ユーザー体験において、アクセシビリティが十分に検討されていないケースが多々あります。
アクセシビリティとは、難聴、視聴障害、運動障害、学習障害などの点で障がいを持つ人を含む、すべてのユーザーが使用できる体験を提供することです。
人口に占める障害者の割合が小さいという思い込みから、アクセシビリティに対し十分な予算を割り当てていない企業が多いです。しかし、国勢調査によると、米国民の少なくとも19%が障害を有しているとのデータがあります。障害を持つ国民の割合は、発展途上国よりも高いと考えられています。
製品のアクセシビリティが考慮されていなければ、オーディエンスの5人に1人、つまり市場の20%のユーザーがその製品を使えないということです。
アクセシビリティを検討する場合、障害者のみならず、すべての人が簡単に使用できる製品を作る必要があります。ユーザー体験において、アクセシビリティを怠ってはいけません。
現在では、EUを含む多くの地域において アクセシブルデザインが法的に義務付けられ、遵守しない場合は罰金が科せられる可能性があります。しかし、この義務はそれほど強制力を持たないのが現状です。
価値がある:Valuable
最後に、製品が提供すべき価値について説明します。
製品を提供する会社と、製品を購入して使用するユーザーの双方に価値をもたらさなくてはなりません。価値のない製品は、最初は成功したように見えることがあっても、いつかは失敗するでしょう。
購買の意思決定の秘訣は製品の価値であることを、デザイナーは留意しなければなりません。
100ドルで10,000ドルに相当する問題を解決する製品は成功するはずです。反対に、10,000ドルで100ドル程度の問題しか解決できない製品が成功するとは思えません。
まとめ
製品の成功に必要なのは、役に立つことと使いやすさだけではありません。製品の見つけやすさ、アクセシビリティ、信頼性、魅力、価値を兼ね備えることで、さらなる成功が見込まれます。
参考文献
障害者の割合についての米国の国勢調査の結果
https://www.census.gov/newsroom/releases/archives/miscellaneous/cb12-134.html
ユーザー体験の7つの要素に関するPeter Morville氏の著書