デザイナーが陥る無意識のバイアスを克服する方法とは?

Benjamin Evans

Benjamin Earl Evansはイングランドのロンドン出身で、受賞歴のあるデザイナーです。彼はデザイン思考を活用してスタートアップの作成しており、より包括的な製品やサービスを生み出しています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Resources for Eliminating Bias in Design (2017-02-07)

デザイナーとしての仕事が無意識のうちにバイアスに縛られていると気付いたのは、つい数か月前のことでした。当時私は、夢のようなプロジェクトにとりかかっていました。それは、苦手だったカラーパレットの作成を克服する機会を与えてくれるものでした。UXの仕事では、クライアントのサイトを数種類作成したら、フィードバックをもらうのが典型的な流れです。ですから私も隣の席の人に意見を求めました。しかし彼は「私は好きじゃないですね、面白みがありません」と冷たく言い放ちました。

情熱をもって作り上げたカラーパレットを真っ向から否定されて落胆した私は、なぜ「面白みがない」と思ったのか尋ねました。答えは驚くべきものでした。

「全部同じに見えますよ。」

このようなやりとりを数分繰り返したあと、実は彼が色覚異常であることがわかりました。文字通りの色覚異常です。私が作った配色パターンが細かすぎて、彼の目には認識できなかったのです。瞬間私は、見えていなかったものがたくさんあることを実感しました。デザインの中で違っている部分があれば誰でも見てわかるものだと当然のように思っていたのですが、実際には人々が認識できないものがあるということに大変驚きました。自分にとって当然のように思えるものも、ほかの人には文字通り見えないことがあるのです。

私たちの脳はバイアスを抱かせるようになっており、UXデザインに対してネガティブに作用する。

このことを自覚しないまま、今まで私は何回、そして何人のクライアントたちに対して、同じことをしてきたのでしょうか? またこのようにも考え始めました。ほかにもどんな無意識下の判断が自分の仕事に影響しているのでしょうか? どんな固定概念が自分の作品に現れて、有効な問題解決となる作品でなくしてしまっているのでしょうか?

今回の記事では、私たちの脳がなぜバイアスを形成するように作られているのかを解説します。またバイアスの種類や、それらがUXデザインにどのような悪影響を及ぼすかにも言及し、ユーザーにとって有意義なデザインを作成するために、UXデザイナーがどのようにして無意識のバイアスを解消できるかを提言したいと思います。

無意識のバイアスが作り出す盲点

情報の波に溺れてしまうように感じたことはありますか? それはとても自然なことで、私たちはどのようなときでも、一度に対処できないほど膨大な量の情報に晒されています。

心理学の教授であるTimothy Wilson氏によると、私たちの脳はどの瞬間も約1,100万個もの量の情報を取り込んでいるのですが、その中で処理できるのは僅か40個とのことです。結果、流入する途方もない量の情報を何とかしようとして、私たちはフィルター機能を発達させてきました。ショートカット機能や手軽な「ルール」を利用することで、私たちは情報量に圧倒されないで判断し、生活することができているのです。

フィルター機能と積み重ねてきた習慣や考え方とを組み合わせることで、私たちは世界を意味付けているのです。これらのプロセスを通じて、私たちは心の中で作り上げられたパラダイムに合致した狭い視野を形成します。これこそがバイアスです。

個人的な偏見によって、私たちの下す決断、形成する信条、周りとの交流は色づけられています。バイアスを「悪」だと見なすのは簡単ですが、本当に言いたいのは、私たちは世の中を部分的に見ているということです。バイアスが問題になるのは、私たちがバイアスに流されていることに気付いていないとき、自覚していないとき、そして、自分が正しいと思い込んでいる憶測や見方しか考慮しないで考えているときだけです。

生物学的には、バイアスのおかげで私たちは世の中の事象をできるだけ効率的に処理することができています。情報をフィルタリングしなければ、瞬間的に五感に膨大な情報がとりこまれて、私たちは圧倒されてしまうでしょう。しかし、フィルタリングは知らず知らずのうちに起きているため、私たちはバイアスを使って生活していることをしばしば忘れています。このために盲点が生まれてしまうのです。

デザインに関しての盲点

UXデザインでより良い作品を作るには、無意識のバイアスを自覚してそれに対処することが不可欠です。デザイナーは絶えず新しいテクノロジーやソフトウェアについて学習し、できるだけピクセル単位で完璧に仕上げるために何度も見直しをしながら、何時間もかけて制作物を磨き上げます。しかしその中で意識の盲点に気付くことができなければ、ユーザーがストレスを感じるデザインになってしまい、サイトの利用を遠ざけてしまうでしょう。狭い視野に縛られていると、結果として非常に狭いセグメントのユーザーにしか響かない作品になってしまいます。

では、UXデザイナーが最善の仕事を行うのを妨げてしまう要因とは何でしょうか? 私たちの中にある、無自覚にもかかわらず行動のすべてに影響を与えているものとは何でしょうか? 実践と改善を繰り返しても私たちが夢見るデザイナーになるのを阻む、些細な障害とは何でしょうか?

それは、作品や世の中、そして自分自身に対する狭い視野に基づいた、無意識に行っている意思決定です。外部から指摘されないと自覚できない無意識のバイアスにスポットを当てられたとき、私たちはUXデザインでさらなる成功を生み出す一歩を踏み出せるのです。

意識の盲点が非常に大きいせいで、予期せぬ事態を数えきれないほど招くこともあります。また会社にとっては取るに足らないことでも、一部のユーザーには大きな違いだと感じられることもあるかもしれません。

有名な例として、昨年Snapchatが人種差別的なフィルターを2つもリリースしたことがあげられます。4月にリリースした「ボブ・マリー」のフィルターが黒人蔑視の「ダーキー」であるとされて問題になり、そのわずか4カ月後の8月にリリースした「アニメ調」のフィルターは、東アジア系の人種を揶揄したものだと騒がれました。この2つのフィルターに関しては、SNSの中で排除しようという運動が起こり、記者から「Snapchatがもっと多様性のあるチームであったらこのような失敗は防止できたはずだった」と酷評されました。

また最近の例では、Spotifyにシャッフルボタンの仕様の変更を要求するRedditのスレッドがあります。ボタンはもともとオン・オフによって緑から灰色に変わる仕様でした。書き込みをした人物は、自分たちは色覚異常者であり、「シャッフルがオンになっているとき、マークを円で囲んでくれたら自分たちにも認識できるのに」と投稿しました。私も個人的な経験から学びましたが、色覚障害でないデザイナーにとってはまず意識しないであろう些細なことでも、アップデートすると、多くのデザイナーたちとの大きな差別化になることがあるのです。

赤い色を認識できない色覚異常のユーザーらに、シャッフルボタンがどのように見えるかをシミュレーションしたSpotifyの画面。

UXデザインへの無意識なバイアスを克服する

UXデザインの次の段階はしばしばユニバーサルデザインと呼ばれますが、そこへ到達するためには、無意識のバイアスを自覚し克服せねばなりません。そうして初めて、視野の制限から解放されてより多くの可能性やアイデアを膨らませられるようになるでしょう。

無意識のバイアスを克服するためのステップは次の通りです。

自覚をすること

より高い意識や新しい視点を手に入れるためには、第一にバイアスを認識する必要があります。無意識のバイアスに左右されて行動していることを認識することで、デザイナーは実際にバイアスをどう克服するべきかという意識を持てるようになるでしょう。

自分自身のバイアスに気付くのはとても大変かもしれませんが、実は有効なツールが数多く存在します。

スタンダード大学デザインスクールのEmi Kolawole氏はIdeoとともに、Designing for Worldviewというフレームワークを作成しました。このフレームワークは、思考トレーニングのように実践的なデザインを通じて無意識のバイアスを自覚させるものです。チームの世界観を広げてより多くの人々に届けたいチームには大変良いでしょう。

チーム作業に最適なもうひとつのツールとして、AIGAからリリースされているものがあげられます。AIGAはDisrupt Designのデザイナーで社会学者のLeyla Acaroglu氏と共同でGender Equity Toolkitの制作を行っています。このツールは、ジェンダーに関連するバイアスを明らかにするビデオやダウンロード可能なワークシートを提供しています。

個人のデザイナーに対しては、ハーバード大学のProject Implicitがあります。これは簡単に自己分析を行うためのツールで、年齢やジェンダーや人種に関する無意識な偏見のレベルを測れます。ひとりで最後まで実行できるので、バイアスを取り除こうと思ってはいるがグループで行う必要がない人にとっては最適なツールです。

しかしバイアスを自覚するだけでは、十分ではありません。そこから行動しなければならないのです。

より広い視野を形成すること

私たちには、今よりも広い視野と開かれた心をもって生活する潜在的な能力が備わっています。そのために必要なのは、開放的であり続け、制限的で偏った見解を克服しようとする心掛けと努力です。

UXデザインのプロジェクトに従事するとき、日々の仕事を今よりも広い視野からとらえるよう意識しましょう。違うタイプのユーザーから見たら、あなたのUXはどのように受け取られるでしょうか? 

実は、この問いについて正確に考えられるように、私はPerspective Cardsというツールを作成しました。このWebアプリは、デザイナーがデザインの過程でどんな人のことを忘れがちであるのかを突き止めるためのものです。クリックするごとに、デザイナーは他者が制作物を見る視点を想像するように求められます。この発想のもとになったのは、制作するときより多様な視点を持つことができるほど、より包括的な仕事を仕上げることができるだろうという考えでした。

クライアントと仕事をするとき、デザイナーは過去の経験則や自分流の指針を持った上で、相手の話をしっかりと聞き、それに共感しなければなりません。素晴らしいデザインを作成するためには、デザイナーは新しいことを学び、新しい見解を身に着け、いつもの視点から離れることに積極的でなければなりません。

多様性のあるデザインチームを組むこと

幅広いユーザーに対応できるグローバルなUXをデザインするためには、多様性のあるデザインチームを組んで、画一的なチームに存在する無意識のバイアスを取り払うことが必要です。デザイナーに多様性があるチームは、ユーザーにも幅広く対応できるUXの構築もうまくいきます。

チームを集めるときには採用担当のマネージャーがもっとも権力をもちますが、デザイナーそれぞれにもできることがあります。1つの方法は、たとえば資格を持った友人や、女性や、人種が異なる元従業員などを、会社の採用活動期間に候補者として提案することです。ほかにも、マネージャーに問題を持ちかけることができるでしょう。多様性がマネージャー、ひいてはチームの成功にとって重要であることを明確にしてください。最後に、自分が偏見を乗り越えようとしたときに学んだことを同僚とわかち合いましょう。変化をもたらすもっともいい方法のひとつは、個人的な話を仲間と共有することです。

行動を起こしましょう

個人にとってもデザインチームにとっても、無意識のバイアスを自覚するためにより広い視野を獲得することは、インパクトのあるUXを作成するために重要な手段です。今までの人生で自然と形成されたバイアスを克服することは簡単ではありません。しかしそれを意識的に乗り越える実践を重ねれば、UXデザインの成果だけでなくあなたの人生そのものに対しても、体験したことがないほどの達成感をもたらしてくれるでしょう。


イベント

2017/10/06(金)
UX School(全10回)