科学的思考をUXデザインに適用する5つのプロセス

Jeff Sauro

Jeffはアメリカの統計アナリストで、UXメトリクスの第一人者。

この記事はMeasuring Uからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Scientific Thinking For Better Design (2017-02-28)

これまで、デザイン思考が広く話題にされてきました。デザイン思考とはどういう意味なのか、どのようにデザイン思考の原理を適応するのか、といったものです。

デザイン思考が科学的な試みに適用できる一方で、科学的思考もデザインの役に立ちます。かつてよりはやや人気が衰退していますが、科学的なアプローチは今でもデザインに効果的だと言えるでしょう。

科学的な法則によってデザインに対しよりよい判断をすることができ、最終的にはさらに良いUXにつながります。つまり、直感や経験則ではなく、データに基づいてデザインを決定するということです。

科学的思考を正しく理解し、デザインに適用するために、研究者のように白衣を着て、研究機関で学位を取得する必要はありません。また、「科学的手法」に関する公式のガイドやマニュアル化された作業プロセスは存在しません。

科学的な法則をどのように適用し、データを活用をするかについては、以下の5つのプロセスに集約されます。

  • 仮説を立てる
  • オペレーション化する
  • ランダム化する
  • 分析する
  • 結果を統合する

実例を交えて、フォームのUXにおける科学的思考の応用について説明します。この事例はBoulderでのUXの会合にて説明したものです。

仮説を立てる

デザインの決定はテスト可能な仮説を作ることから始まります。良い仮説を立てることで、想定される指標と変数、仮説をテストする手法を簡単に特定することができるのです。

事例として、オンラインでクレジットカード情報をフォームに入力する動作を改善したことを話します。

私たちはボタンのレイアウト上の問題から、ユーザーが間違えてキャンセルを押してしまうかも知れないと考えました。しかし、ユーザーがキャンセルの選択をできるようボタン自体は残さなくてはなりません。そこで私たちの立てた仮説は以下のものです。

  • ボタンのレイアウト(並びや色)がわかりづらいと、ユーザーが間違えてキャンセルを押してしまう。

良い仮説は反証可能でなくてはなりません。真偽の実証ができなければ、その考えは科学ではなく、単なる個人よがりな考えになってしまいます。また、仮説の内容は具体的であることも重要です。

頭の中の仮説だけで世の中を動かすことはできません。具体的で、検証可能な仮説を立てましょう。

オペレーション化する

検証ができない仮説は扱うことができません。

仮説は何かしらの手法で検証できる形にする(オペレーション化する)必要があります。これは指標や手法、作業内容を決める必要があるということです。

オペレーション化は、一連の作業の大部分を占める重要な段階です。オペレーション化をするために、正しいデータを正しい手段で収集することで、そのあとに続く作業がスムーズに行えます。

指標

測定するインターフェイスの良し悪しなどの検証結果を数値化できる指標が必要です。 

UXを検証するために、ユーザーのページ上での行動や、受ける印象について考えましょう。

UXにおける、行動を分析する指標は一般的に以下のようなものがあります。

UXへの印象を分析する指標については以下の通りです。

行動と印象の両面で最適な数値が測定されるものが良いUXと言えます。

先ほどのフォームのボタンの例では、使いやすさ(作業完了率とエラー数)と効率性(完了までの時間)が重要ポイントでした。これらの指標はユーザーにとって重要なものです。

私たちは優先的な計測基準としてエラー数を選び、検証を開始しました。

検証手段

検証のための指標を決めると、正しい手法を選ぶことができます。

UXの手法を検証する方法は数多くありますが、ユーザーの意見や行動に基づいた手法を考えることが重要です。仕事や家庭においてユーザーが実際に何を行っているか想定するのは、決して簡単ではないでしょうし、非常に面倒くさいかも知れません。

私たちの場合は、実際に利用するところのシミュレーションをします。これにより、無関係な変数をコントロールし、指標に影響を与えないようにすることができます。

実際の利用を計測する手法

実際の利用状況を計測する手段は以下のようなものがあります。

シミュレーションの計測手法

シミュレーション結果の計測には、以下の方法が挙げられます。

ユーザーの意見を収集する方法

私たちは最終的にユーザーの行動を管理(集約・検証)するわけですが、ユーザーの行動には彼らの感情や態度が込められています。

あるブランドが好きでなければ、そのブランドの商品を購入しようとは思わないでしょう。あるWebサイトが使いづらいと思えば、そのサイトを再度利用しないでしょう。

同様に、あるフォームの記入がわかりにくいものであれば、ユーザーは記入をやめ離脱してしまうはずです。

これらの印象を検証するために、フォームやアンケート調査、個々のインタビューなどを実施し、ユーザーとインタラクティブな関係を築いて意見を求めましょう。

検証するタスク

サイトの利用状況をシミュレーションする際は、テストの協力者たちが自然に行えるようなタスクを課しています。

シミュレーションでは、協力者にただインターフェイスを見てもらい、気に入っているかどうかを発言してもらうのではありません。テストとして記録を取っていることを意識せず、普通にサイトを操作してもらうようにお願いしています。

Webサイトやプロダクト(ソフトウェアやアプリなど)には、ユーザーがこなすべき何十~何千のタスクがあります。たとえば、低価格の調理器具を探したり、最寄りのお店を検索したり、オンラインで支払うなどの作業です。

しかし、Webサイトやプロダクトがユーザーに使われ、レコメンドされるほとんどの理由は、少数のトップタスク(編注:そのサイトでもっともよく行われるタスク)によるものです。シミュレーションにおいて、これらのトップタスクとは何なのかを知り、どのようにトップタスクを検証するべきかを理解しましょう。

オンラインフォームをテストする際、参加者を説得してフォームの記入内容を送信してもらうには苦労がともないます。フォームには個人情報を含むからです。利用状況のシミュレーションでは、20人の参加者にユーザビリティテストのフォームに情報を入力してもらいました。その際、入力したデータは保存されたり悪用されたりはしないことをきちんと伝えました。

また、参加者が操作するボタンに問題点があることは彼らには伝えません。配色やレイアウトなどのデザイン要素の好き嫌いを、参加者に聞くこともしません。

フォーム入力中、操作間違いなどの問題が生じることがあるかどうか検証するために計測できる指標こそが、私たちがテストを通して知りたいことなのです。

ランダム化する

1つ以上のタスクをユーザーに提示したり、1つ以上のデザイン要素を操作してもらう場合には、その表示順をランダムにします。

ランダム化は、データ収集に好ましくない影響を最小限にできます。たとえば、参加者がインターフェイスの内容を覚えてしまうことや、一定時間の作業にともなう疲労による影響を防ぐことができるのです。

(先ほどのオンラインフォームの事例は、単一の作業およびデザインのテストだったので、ランダム化を実施することはありませんでした)

分析する

20人の協力者の内、 9名(45%)が「Submit(送信する)」ボタンをクリックする前に、マウスを「Cancel(キャンセルする)」の方へ動かしました。

28%~63%のユーザーが最初に「Cancel」ボタンへマウスを動かしてしまうことが、90%の精度(有意水準10%)で実証できました。

検証結果を統合する

テストの結果、ユーザーがどのボタンを押すか戸惑っていたことから、フォームのボタンのレイアウトに問題があるとわかりました。

キャンセルボタンを押した人はいなかったものの、シミュレーションテストとして誰かが観察している状況においては参加者は普段より慎重に捜査する傾向があるものです。

このフォームが1日に何百回と入力されるくらい広く利用されるものであれば、間違ってキャンセルを押す人がいるだろうと私たちは想定しました。

これらの結果をクライアントに伝え、ボタンのレイアウトの改善をすすめました。

新しくできたボタンのデザインにより、キャンセルが押される心配はなくなりましたが、そのほかに新たな問題点が生じる可能性もあります。そこで、ユーザビリティテストを再度行うことをクライアントに推奨しました。

科学的なプロセスの検証と繰り返し

問題点を数値化することは、科学的な検証方法の第一歩に過ぎません。デザインのより良いソリューションのために、科学的なプロセスを何度も繰り返す必要がありました。

仮説:新しいボタンのレイアウトとして、配色と画面上の位置を改善すれば、ユーザーが戸惑って間違ったボタンを押す回数を減らせると仮説を立てます。

オペレーション化:より良いデザイン要素を考案して、4つの組み合わせでボタンのレイアウトを作成しました。具体的には、「Cancel」と「Submit」のボタン配置と操作にそれぞれ変化を持たせています。(バージョンBとDは、ボタンの位置を右側に遠ざけたものです)

A

B

C

D

指標:オリジナルのフォームと比較して話し合った結果、間違ったボタンを選択する兆候は、ユーザーがボタンを押す際に戸惑ってしまうことだとわかります。そういったユーザーの戸惑いをもっとも重要な指標として、再度検証に使用しました。

検証手法:より短時間でより多くのサンプルを収集する手法に切り替えることにし、私たちが開発した非監視型のテストシステム、MU-IQを使用して検証を行いました。これは、参加者が操作するスクリーンを記録することで、時間やキャンセルの回数などのユーザーが戸惑う回数を集計することができるものです。

シミュレーションの実施:似たような4つのタスクを参加者に課して、フォームを入力し、送信をしてもらいました。実際のWebサイトにおいてフォームの要素が変更されることを想定し、前回と異なるタスクとフォームを用意することで、研究結果の一般化可能性(編注:実施されたテストや測定結果の評価基準の1つ)を得られます。

ランダム化:参加者はランダムで4つのフォームを受信し、タスクに関してもそれぞれのフォームがランダムに与えられました。ランダムのタスクとフォームにより、時間が経つほど生じやすくなるであろうエラーによる影響を最小にすることができました。また新しいデザインと最初のフォームを区別させるため、40人の協力者に対してはサンプルのサイズを2倍にしてテストを行いました。

分析:ユーザーが戸惑う回数がもっとも少なかったフォームは、右側にCTAを表示し、ボタンを右下に配置したフォームBだとわかりました。

結果の統合:オリジナルのフォームと比べて統計的にユーザーが戸惑う回数が少なかった3つのフォームを、この検証において測定可能な改善案として推奨しました。

このテストでは、協力者に対してランダムにボタンの配置と操作の組み合わせを課したので、最適な組み合わせとして強い確信をもつことができます。

検証で発見できることは限られているかもしれませんが、異なるタスクやフォームのタイプで検証したことで、ボタンの一般化可能性がわかったのです。

また、新たにデザインが追加された際にも、継続的にデザイン要素を最適化するためのテストを行います。

まとめ

研究室の科学者のように白衣をまとい、あれこれ考える必要はありません。以下の5つのプロセスを頭に入れることで、科学的思考により良いデザインを決定できるのです。

  • 仮説を立てる:検証可能かつ具体的で、反証可能であること
  • オペレーション化する:正しい指標と手法、タスクを設定する
  • ランダム化する:タスクやデザインの出題をランダム化し、データ収集に好ましくない影響を最小にする
  • 分析する:結果の数量化と比較を行い、統計に基づく正しい検証を行う
  • 結果を統合する:統合した検証結果から改善案を提案する。発見できる結果は限られてくることも理解する。

仮説を正しく設定し、手法を確立するのには時間を要します。私たちは年に1回UXのブートキャンプを開催して、デザインに関する決定をより科学的に行えるように実践を交えた研修を行っています。