UXデザインにマズローの欲求階層説は有効なのか

Interaction Design Foundation

Interaction Design Foundationはグローバルにデザインレベルの向上を目指す、デンマーク発の非営利団体です。

この記事はInteraction Design Foundationからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Needs Before Wants in User Experiences – Maslow and the Hierarchy of Needs

ユーザーは、自分のウォンツよりもニーズを満たす製品を選ぶ傾向にあることが立証されています。Abraham Maslow氏は人間の欲求についての理解を深め、それがどのように満たされるのか研究しました。デザインの文脈においても、マズローの欲求階層説を活用することで、ユーザーのウォンツよりもニーズを満たす、より効果的なUXを提供することができます。

マズローの欲求階層説

ユーザーにあなたの製品を受け入れてもらいたければ、受け入れてくれるように動機づける必要があります。アメリカの心理学者、Abraham Maslow氏は、人間のモチベーションに関する研究で知られています。1943年、Maslow氏は論文『人間のモチベーションに関する理論』を発表しました。論文の中で、彼は人間の欲求について自身の解釈を明らかにし、欲求がもっとも基本的なものからもっとも複雑なものへと、階層を形成していることを提唱しました。

彼は、人間が満足するにはすべての欲求が満たされる必要があると述べました。しかし、もっとも基本的な欲求は、より高度な欲求が満たされるよりも先に満たされなければならないとしています。

下から上へ-欲求の階層

  • 生理的欲求-わたしたちが個人、そして種として存続するために必要な、もっとも基本的な欲求です。食べ物、水、住居、呼吸、性、快適さ、睡眠があります。
  • 安全の欲求-欲求の次のレベルは、わたしたちが長期的に生理的欲求を満たすことを保障してくれることです。金銭および個人の安全、健康、さまざまな要素からの保護などがあります。
  • 社会的(愛と所属の)欲求-人間は社会的な生き物で、生きる上で集団に属するということに深い欲求があります。社会的欲求は友人、恋人、親密さ、家族、コミュニティ、関係性、所属意識が含まれます。
  • 承認欲求-人間にとって、基本的な社会的欲求はもっと複雑になり、他人から認められたい欲求に発展します。承認欲求は社会的地位、達成感、支配、名声などによって満たされます。
  • 自己実現欲求-階層の最上位に位置する最後の欲求は、個人として成長する能力と関連しています。これらの欲求には心の平穏、充足感、自己成長などが含まれます。

下位レベルの欲求が満たされていない状況でも、上位レベルの欲求が満たされることは厳密には可能です。しかしMaslow氏に言わせれば、それは不安定な満足感です。たとえば、もしあなたが餓死寸前の状態だったとしたら、あなたが世界でもっとも優れた物理学者であるかどうかはまったく重要ではありません。結局は、空腹感が専門的地位にいることの満足感を上回ってしまうのです。

わたしたちは生まれつき、欲求の階層のより高いレベルを満たすよりも前に、満たされていない下位部分の欲求を安定させることを優先させるようになっているのです。

しかし、Maslow氏は本当に正しいのでしょうか?

実は、Maslow氏が100%正しいと主張するのは難しいです。欲求階層説にはいくつもの反論があります。特にMaslow氏はピラミッドの中で、精神的欲求を完全に無視しています(精神的満足感は人間の本質的な欲求というよりも人為的な欲求だと主張する人も多くいますが)。

また、自分の欲求よりも他人の欲求を優先する、利他的行為についても説明がされていません。これらの行為は論理的に説明できる「利己的な」行動かもしれませんし(たとえば親が子供のために自分を犠牲にする場合など)、説明の難しい完全に「利他的な」行為であるかもしれません(見知らぬ人のために自分を犠牲にする場合など)。ですが、これらの行為がピラミッド内では語られていない欲求によって引き起こされているのは明らかなようです。

最後に、欲求階層説は社会的なコンテキストに欠ける、ということも記しておくべきでしょう。西洋社会では、個人の欲求が社会全体の欲求よりも優先されるのはごく普通のことです。しかし、たとえばアジア文化圏の多くの国々では、この優先順位が完全に逆転します。「メンツ」という概念は、個人を優先するよりも社会に貢献する欲求からきているのです。

デザイン用語における欲求の階層

Stephen Bradley氏は、Smashing Magazineに寄稿した際、Maslow氏の理論をデザインのニーズを満たすテンプレートに使えるかもしれないと提案しました。Bradley氏はマズローの欲求階層説を捨て去り、新しいものと置き換えました。

デザインにおけるニーズ階層

マズローの欲求階層説と同じく、デザインもピラミッドの上位欲求に進む前に、最下層のニーズが満たされる必要があります。

  • 機能性:デザインがあらゆるニーズに対応するには、まずそれがきちんと動作し、ユーザーの基本的なニーズを満たさなければなりません。しかしそれだけでは、ユーザーにとって短期的にも長期的にもほとんど価値がないものとみなされてしまうでしょう。
  • 信頼性:次のステップは、デザインの機能が信頼でき、一貫性のある経験を提供することです。これにより、製品の価値に対するユーザーの認識が、単に機能的だというものから高まるかもしれません。しかし一方でそれは、製品に多くの価値を付与するものではありません。
  • ユーザビリティ:次に、簡単に使えて、ユーザーのミスに対し比較的寛大なデザインであるべきです。このニーズを満たすことができれば、ようやく平均的な価値を提供しているとユーザーから評価されるようになります。
  • 専門性:ユーザーがより多くのことを行い、達成するのに役立つデザインは、高い価値があるとされ、より効果的にユーザーのニーズを満たすことができるでしょう。
  • クリエイティビティ:デザインのピラミッドにおける最後のステップは、ほかのすべてのニーズを満たし、フォームだけでなくインタラクションと機能においても美しいといえる製品を作ることです。ユーザーはもっとも価値があるとみなします(アップル社の製品を実例に考えてください)。

まとめ

マズローの欲求階層説は、デザインと直接は関係がないかもしれません。しかし、Stephen Bradley氏が示したように、ユーザーに高い価値を提供するための製品開発に役立つ指針となる可能性があるのです。自身のデザインのプロジェクトを進めるときにデザインにおけるニーズの階層を念頭に置いておくことで、より良いUXにつながるでしょう。