テックファームが実践するクライアントと「共創」のサービスデザイン

UX MILK編集部

モノづくりのヒントになるような記事をお届けします。

SIerと言うとウォーターフォール型の受託開発のイメージが強いですが、近年、それだけではクライアントの要求は満たせなくなってきています。

今回はデザインシンキングやサービスデザインに力を入れているというテックファームの取り組みについて、情報デザインスペシャリストの天野さんにお話を伺いました。

天野 晴久氏
テックファーム株式会社 情報デザイン本部 エグゼクティブプロデューサー/情報デザインスペシャリスト 

高校~大学でデザインや美術、教育心理学を専攻。大日本印刷に新卒入社後、制作会社、広告代理店、起業、メジャーレコード会社の専属契約、立命館大学講師などを経て現職に至る。

―まずはテックファームさんの事業内容について教えてください。

天野 晴久氏(以下、天野):テックファーム株式会社は1998年に、ドコモ様と一緒にiモードの事業創発に参加したというのが成り立ちの会社です。特にモバイルに関して、新しいことをやりたいときに技術的な相談を受けるような会社としてスタートしていたので、システム開発会社の中でもモバイル専門のような感じでやっていました。

SIがデザインシンキングに行き着いた理由

―テックファームではデザインシンキングに力を入れているというお話ですが、開発主体なSIerという業態で「デザイン」という言葉が出てくるのは少し意外です。

天野:昔は作ることが目的だった時代でした。出せば売れるではないですが、お客様が作りたいモノをそのまま作れば良かったのです。

ですが今ではもう誰もがモノを作れる時代でモノが溢れているため、ちゃんとしたモノじゃないとユーザーは使わないですよね。

―ちゃんと使われるものを作らないといけないということですね。

天野:たとえば「アプリを出したい」というお客様も、そのアプリがちゃんとユーザーに使われるかどうかままで落とし込めないことがよくあります。それができないぐらい、世の中複雑になってきてしまっています。

そんな複雑な世の中になったため、ITサービスをきちんと設計できる専門家、つまりサービスデザイナーが、お客様と一緒になってサービスを創っていかないと成り立たなくなってきました。いわゆる「共創」という概念です。

こういった開発の現場にデザインシンキングを取り入れる流れは2010年代の頭くらいからありました。テックファームでは4年前くらいに私が入ってきて、サービスデザインの部署を立ち上げた経緯があります。

―デザインシンキングへとシフトして、実際どうですか?

天野:一番変わったのは、お客様からの評価と案件の種類です。

うちがデザインをできるとか、サービスの設計ができるっていう会社だと思っていなかったお客様に、こういった話を持ちかけると、意外に思われることが多かったです。ただ、似たような課題感は、どの企業でも持たれていたので、半信半疑ながら実際にやってみると、「テックファームってすごく新しい取り組みしているんだね」と高評価をいただいて。

社内でも「デザインシンキングで取り組むと、お客さんといい関係が作れるんだ」とか「ちゃんとしたモノができあがるぞ」という感覚を掴み始めて、今は全社的にデザインシンキングでものを考えましょう、となっています。

事例:京都銀行の新規ビジネス創発ワークショップ

―たとえばどのような事例があるのでしょうか?

天野:最近ではNTTデータ様と一緒に「事業創発支援」という形で、京都銀行様の「新規ビジネス創発ワークショップ」というプロジェクトを手がけました。

京都銀行様が何十人かの銀行員をプロジェクトにアサインし、自分たちでまずデザインシンキングやサービスデザインを理解して、新しい事業を提案する、というワークショップを半年間やりました。

結果、5つの事業提案が生まれて、京都銀行さんの役員会で発表したのですが、「これは素晴らしい、継続してやっていきたい」という反応をいただいています。

お客様といかにサービスデザインを進めるか

―サービスデザインから入っていく受託案件の場合も、ウォーターフォール型で進めているのですか? それとも、アジャイル型のように進めているのでしょうか?

天野:やはり納品物や納期がはっきりしている従来のやり方に比べて、何ができるかわからないものにお金は出せない、という価値観は業界的にもまだあります。いきなり全部割り切ってアジャイルに切り替えるようなケースはまれです。

ですので、ウォーターフォールでありながら、取り組み方がアジャイルのようなハイブリッドな進め方で提案をしています。ステップとして理解できるように、要件定義や基本設計、テストフェーズなどウォーターフォールの段取りは残しつつ、チームとしては常にアジャイルで回しながら、そこにたどり着くようなイメージです。

あとは、「すべての機能を実装して100%にすることは約束しません」と言ってしまうこともあります。これは成果物を最初に約束しないというだけで、試行錯誤で精度を上げながら、サービスの成功に必要なものを常に作り続けるという話で、我々が勝手に判断して作りかけて逃げる、という話ではありません。

そのため、お客様にもずっとプロジェクトの状況を見ていただきながら、どこまでやるか、あるいはやらないかを決めていただきます。お客様も開発チームの一員として参加してもらうという取り組みですね。

―お客様にも相応のコミットメントやコミュニケーションが必要ですね。

天野:自分たちでも何ができるかわからないものの、やらなければならない、と考えているお客様はこの新しい手法は効果的ですし、評価をいただけています。

逆に担当者の方が「会社として作ることに決めたので、とにかく見積もりをとります」みたいなケースだと、「いつまでに、何が、いくらでできるのか」ということが目的になってしまうので、もうウォーターフォールじゃないとできないですね。

その場合には「RFP(提案依頼書)を拝見しましたが、これだとユーザーに価値が理解できない可能性があるので、見直しも検討しませんか?」というオプション提案をして、現状のプランと比較検討してもらいます。見直す場合、要件定義をやり直すために1カ月、2カ月お時間いただいて、「サービスデザインをやり直して、作るものを再定義しましょう」ということになります。

「UXデザイナー」ではなく「サービスデザイナー」

―テックファームのサービスデザインチームはどのようなメンバーで構成されているのでしょうか?

天野:まずPM(プロジェクトマネージャー)がいます。PMがお客様と状況やビジネス背景などの共感をして、目的などを握り合います。

そこに問題や価値、解決策などを掘り下げ、何を作ったらいいのかをしっかり定義していく、サービスデザイナーが入ります。

あとはUIデザイナーです。彼らは、ちゃんとユーザーが誤解なく操作できるように、インターフェースの設計をしていきます。

エンジニアは、その後の要件定義や設計開発がメインですが、サービスデザインの段階でも技術的な観点で解決方法の提案をしていきます。

この4人が、しっかり作業をしていくのが最低限のチームになりますね。

テックファームがUXという言葉を使わない理由

―サービスデザイナーがいわゆる世間的な「UXデザイナー」になるんでしょうか?

天野:弊社では「UXデザイナー」という言葉をあまり使わないんですよ。UXという言葉が1人歩きしてしまっていて、UXがそもそも何であるのかわからなくなってきているというのがあるので。

サービスや情報をデザインした結果としてUXがあるので、UXだけ切り出してデザインするという事が成り立たないというのが、弊社の考え方です。

なので、ユーザーがどういうサービスの使い方をすれば、課題が解決されて、価値が生まれるのかというのをしっかり考えましょう、というのが弊社で言うところのサービスデザインです。問題、価値、解決案を起点にした、UXと情報設計(IA)、あとは直感的に使うためのUIデザイン。この辺をすべてやって、初めてユーザーの生活の中に入っていくモノが作れるのではないかと思っています。

サービスデザイナーに求められる資質

―先ほどのチーム構成で行くと、いずれにせよサービスデザイナーは大きな役割を担っていますね。

天野:発想を自由にできるので、そういう意味ではものすごく楽しい側面もありますが、同時にロジックも求められますし、本質的なものを理解してちゃんとやらなきゃいけないっていう意味では、非常に大変な役割だと思います。それがやりがいでもあるのですが。

―サービスデザイナーに要求されるものはなんでしょうか?

天野:まずはしっかりお客様と共感できることが大事です。それとある程度の経験や体験があった上で「なぜそうなのか」というのをある程度体験として理解できる力とそれを客観的かつロジカルに分析する力が要求されます。

もっと言うと、何を作るかっていうのをお客様と画(え)で会話をしなきゃいけないところがあるので、画面の設計というか、デザインの心得があるといいですね。

―デザイナーに必要なのは「共感力」とよく言われますよね。

天野:情報デザインにおいては、いろいろなものの成り立ちとか、関係性をとにかく観察して、頭の中で無意識につなげるっていう訓練が必要だと思っています。

誰かが自動販売機の前で立ち止まって、困っている様子を見かけたら、「あの人はどうして止まっているんだろう」「あの人が小銭を落としたのは、ここが悪いからじゃないか」「そもそもそこに販売機がなぜあるのか」などと無意識に考えられるようになるといいですよね。

普段なら無意識で流れて行ってしまうものを意識することで、最終的に無意識でいろんなことがつなげられるようになります。とにかくいろんなものを観察して読み解ける力があると、より良いサービスデザインができると思います。

・・・

編集後記

テックファームでは記事中で触れられているサービスデザイナーを現在募集しています。

テックファームのようにワンストップでサービスデザインをする会社は、大きなところでいうとIBMやSAPなどがありますが、もう少し小さい規模では、実はまだあまり多くはないそうです。

デザインシンキングを提唱されているだけあって、オフィスはあらゆるところにカジュアルなミーティングができるようになっており、風通しのよい環境でした(アジャイルブースというデザインシンキング専用の会議室などもあるようです)。

さまざまな他社案件を初期段階からデザインし、且つ作り上げるまでをワンストップでこなすのは挑戦も多いでしょうが、やりがいもありそうです。ご興味を持った方はぜひ下記から応募してみてください。

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