あなたの周囲にUXデザイナーはいますか?
それともあなたがUXデザイナーでしょうか。もしあなたが関わるUXデザインがうまくいっているのであれば、大変素晴らしいことです。
しかし、そうでないのであれば、今も何か悩みを抱えているのではないでしょうか。 なかには、UXデザインを諦めてしまった方もいるかもしれません。
UXデザインは本当に悩みの種なのでしょうか。
過去の失敗例やそこから得た発見をもとに、失敗しないUXデザインについて考えていきたいと思います。
UXに翻弄される人々の苦悩
私自身、UX/UIデザイナーとしてインターネットサービスに長く携わってきた過程で、UXデザインに関わる人々の苦悩に囲まれてきました。
- 「UXデザイナーは結局何をする人なのか」
- 「デザイナーが言うUXは何なのかわからない」
- 「デザイナーがUX全域に責任を持てるのか」
- 「カスタマージャーニーマップがホコリをかぶっている」
- 「コストと時間は増えたが何が変わったのかわからない」
「そもそもUXとは何なのか」
一時期は “UX” という言葉自体、認識の齟齬を生む危険があるとされ、口にすることすらはばかられるという論調も存在していました。
このように、”UX”に翻弄される人々の苦悩、そして私自身の経験上、数多のプロジェクトで起きた失敗事例について考えるうちに、 失敗にはいくつかの法則があることに気づきました。
UXデザインはどのように失敗へと向かうのでしょうか。
UXデザインを失敗へ導くアプローチ
UXデザインのプロジェクトが失敗することは難しくありません。 今回は私自身の経験より、失敗へ導くアプローチをいくつか紹介します。
UXデザインをやるためにUXデザインをやる
これは手段が目的化しているケースです。(哲学ではありません)
UXデザインを導入する目的は明確でしょうか。“ビジネスとして、サービスとして、プロダクトとして” 解決したい課題、成し遂げたいゴールはなんでしょうか。デザイナーのプレゼンスを高めるためや、UXデザイナーの野心を満たすためになっていませんか?
デザイナーだけで計画する
UXデザインにはデザインという言葉が含まれていますが、必ずしもいわゆるデザイナーが行うべき仕事とは限りません。
サービスを通じた “ユーザー体験をデザイン(設計)する” ために、誰のどのような知見が必要でしょうか。本当に成し遂げたいことに対して、適切なタイミングで適切なメンバーを巻き込めているでしょうか。
体系を盲信する
UXデザイナーがフレームワークやプロセスを重視しすぎて周囲のメンバーから距離を置かれていないでしょうか。
一連のプロセス・お作法はあくまで “体系” です。それらがサービスのフェーズやプロジェクトの規模、解決したい課題、メンバーの性質などにフィットしないと感じた場合は柔軟にローカライズすることや、手法を変更することが望ましいです。
(この原理はPMBOKやScrumなど、あらゆるマネジメントでも同様に語られており、 “真理” であると感じます。)
ペルソナがいない
まずはペルソナを作りましょうという話ではありません。作ったペルソナが「実際には存在しないような創作上の人物になっていないか?」というお話です。
自分達に都合の良い人物像を作ってしまうときは、今保有している機能、ソリューション、ビジネスモデルを正当化したいという深層心理のもと、提供者側に都合の良い形で進んでいる警鐘かもしれません。(ユーザー中心ではない!)
そのまま開発を進めれば、次のスプリントには利用されなくなったドキュメントの残骸が残り、UXデザインは忘れ去られるでしょう。
UXのことだけを考える
「UXデザイナーの使命はユーザー体験の可視化とデザインである!」ということを意識し過ぎるあまり、そもそもの基盤となる、ビジネスやサービスをおろそかにしていませんか?
エクストリームユーザーの強いニーズに対し、強力なソリューションを考えるのはUXデザインの醍醐味です。しかし、市場が狭くユーザーが少ない、またはマネタイズの困難な領域だった場合、ビジネスとしてサービスが成り立たず、UXデザイナーの実績はサービスクローズと共に消失するでしょう。
UXデザインの定義を曖昧にしておく
「UXデザイナーがデザインできない」というプロダクトマネージャの不満の声は聞こえませんか?
「UXデザイナーはインタラクション・モーションデザインまで担うべきだ!」という人もいれば「UXデザイナーは体験の可視化と設計の専門家であるから、UIやグラフィックは専門のデザイナーが作るべきだ!」という人もいるでしょう。あなたの周囲にいるメンバーの、UXデザインに対する期待は言語化されているでしょうか。
メンバー内のUXデザインに対する解釈の不明瞭さは、UXデザインが期待される役割の齟齬に繋がっていきます。
UXデザイナーよ “VUCA” を生きよ
以上のアプローチを見て、どう感じられたでしょうか。
- UXデザインはビジネスのデザインに近いのだから、デザイナーではなく事業オーナーやプロダクトマネージャが責任を持つべきだ。
- 新規サービスの立ち上げであれば、LEAN UXの手法を用いれば間違いない。
- UXデザインとは “ペルソナ” と “カスタマージャーニーマップ” と “プロトタイピング” である。
- UXデザイナーはデザイナーとしてフィニッシュワークまで果たすべきだ。
などなど……さまざまな意見が存在するかと思います。
しかし、こういった局面で “あるべき論” を掲げることが、何よりも失敗への近道 であると私は感じます。
環境が変わればプロジェクトも変わり、プロジェクトが変われば、人が変わります。 人が変われば、そこに100%確かなものなんてないのです。
UXデザイナーにもっとも求められるのは “ユーザー体験を可視化し、共通のゴールをデザインし、チームを導く力” 、コラボレーションの技術ではないでしょうか。
多様な背景や価値観を持った人の集まりの中で、コラボレーターに求められるのは “VUCA” を生きる資質であると考えます。
VUCA(ブーカ)とは4つの単語、
Volatility(変動性)
Uncertainty(不確実性)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性)
から頭文字をとって作られた単語であり、現代のカオス化した経済環境を指す言葉です。UXデザインには多様なメンバーが関わることが多く、まさに “VUCA” な環境そのものです。
そのような環境で求められるポイントとして、2014年ASTDの基調講演にて、スタンリーマクリスタル将軍(General Stan McChrystal)はこう述べています。
・予測できるという傲慢さ(predictive hubris)を捨てる
・組織的な適合性(organic adaptability)を高める
・共有化された意識と権限委譲による実行(shared consciousness & empowered execution)未来は予測できず、適応することしかできない、そのために現実に適応する力を高める必要性があります。
出典:VUCAの意味とは?VUCAな時代に求められるリーダーシップとは? | BizHint HR
体系やフレームワークはもちろん大切です。体系があるからこそ、絶対に揺るがない太い幹から枝を生やすように応用をすることが可能です。体系があるからこそ、共通の言語が生まれ、コミュニケーションが成り立ちます。
プロフェッショナルとしてそれを踏まえた上で、目的達成のために形を変えながらミッションや役割、責任領域を決めていく。 プロジェクトの性質に併せ、適切な調査手法に評価手法、さまざまな引き出しの中から最適な技法を選定していく。失敗したら(仮説が外れたら)またやり直す。それもコラボレーションのプロトタイピング。そういったプロジェクトの空気を作る。
UXデザイナーが “VUCA” に適応し、コラボレーションによるイノベーションを実現することが出来れば、さまざまな失敗を回避し、よりプロジェクトの成功確率は高まっていくと思われます。
UXデザインは誰のためか?
ここまで、主役であるはずのユーザーのことは語られていません。 ユーザー体験のデザインの話なのに不思議です。
それだけ、チームメンバーをはじめとするステークホルダーの理解と信頼が、本当に意味のあるUXデザインを行う上で大切なのだと私は考えます。しかし、衝突や意見の相違を恐れないでください。メンバーの調和を求めるあまりに迎合することは好ましくありません。ときにはメンバーや責任者と戦うことも必要です。
UXデザイナーはユーザーへ体験価値を届ける最後の砦です。
UXデザインは “ユーザーのため” です。
“ユーザーのため” を実現するには、“メンバーのため” にやらなければならないことにも目を背けない。これがUXデザインの難易度の高さであり、だからこそやりがいのある仕事であるのかもしれません。
最後に
皮肉のようなことも述べてきましたが、私自身はUXデザインを推奨するデザイナーです。
UXデザインを正しく適切にプロダクト開発に導入することで、ユーザーの潜在的な課題を解決し、より素晴らしい体験、味わったことのない体験を届けることができると信じています。
そのために我々UXデザイナーに求められるのは、今回のテーマである「失敗」から学び、チャレンジし続けることである、私は考えています。困難なことも多く、これからもきっと多くのUXデザイナーが数多の失敗を重ねていくことでしょう。
しかし、その失敗からの学びを活かし、ひとりでも多くのUXデザイナーが未来を見いだせることを願っております。