ジェスチャーはモバイル開発において避けられない要素です。かつてジェスチャーは、Appleが考案したタッチスクリーンの新しい手段でしかありませんでした。しかし今では、ジェスチャーはボタンに取って代わる存在となりました。スワイプやタップ、ドラッグこそが、仮想世界におけるモダンなインタラクション方法です。
また、ジェスチャーは逆説的な性質を持つため、モバイルにおけるUXデザインの中でももっとも興味深いコンセプトの1つでもあります。ジェスチャーは、厳密な使い方が決まっているものではありません。たとえばスワイプは、あるアプリと別のアプリとでまったく異なる機能を持っていることがあります。しかし同時に、ジェスチャーは直感的で、ほとんど世界共通のものでもあるのです。
ある研究で、さまざまな国の人たちにアプリのさまざまなタスクで行うジェスチャーを調査するというものがありました。9,000以上のジェスチャーが収集され、興味深いことにジェスチャーは国籍を超えるということが研究の結果わかりました。たとえば何かを「消去する」というタスクは、すべての文化においてスクリーンからドラッグして消すという動作で行われました。
しかし世界的な共通性がある一方で、依然として、多くのモバイルアプリでは、ジェスチャーの方法を教える必要があります。これは、そのジェスチャーが普遍的なものであるかどうかに関わりません。Tinderというアプリは、片手でスワイプをするジェスチャーを文化的意識の中に浸透させました。しかしTinderさえも、初めて訪れたユーザーには簡単なチュートリアルを提示しています。
たとえば、ある新しいジェスチャーがあるとします。スワイプかピンチ、または傾ける動作と、スマートフォンを振る動作を組み合わせたものとしましょう。恐らくまったく新しいジェスチャーです。アプリの実際の仕組みはさておき、このような普段馴染みのないジェスチャーを採用してしまうと、一気に複雑性が増し、トリッキーなアプリになってしまいます。そこでこの記事では、新しいジェスチャーをアイデアから実装に移すためのガイドラインを紹介します。
リスクを理解する
実行に移す前に、新しいユニークなジェスチャーをモバイルアプリに採用することの利点とリスクを理解することが重要です。
ジェスチャーがとても人気なのは、現実世界のようなインタラクションが能動的にされるからです。バーチャルの世界に物理的な要素をもたらし、混乱を招きかねないデジタル領域に対して、親しみやすさを感じさせることができます。
このため、ユーザーは自然なジェスチャーで操作するインターフェイスに惹かれます。ボタンを使わないので、アプリのUIが整然としたものにもなります。また、私たちの直感に訴えるので、アプリケーションが楽しいものとなります。ときには、UXデザインに色を添える刺激にもなるでしょう。
よって、ユーザーが見たことのないジェスチャーであっても、ユーザーが使うことができれば、ユーザー体験を格段に向上できる可能性が高いです。
しかし、これはあくまで空想上の話で、親しみが薄い、見たことのないジェスチャーを使うことには、リスクを伴います。ジェスチャーは学習曲線と共にあります。ジェスチャーが複雑かつ見慣れないものであるほど、学習に時間がかかるようになります。
ユーザーは学習を嫌い、直感的でシームレスに使えるアプリを好みます。長々としたチュートリアルや入り組んだジェスチャーは、単にストレスの原因となるだけです。結果的にユーザー体験も良いものにはなりません。たとえ印象的な機能のためのジェスチャーであっても、ユーザーが使えないのであれば意味がありません。
実装する前に、ジェスチャーが有効であるかどうか確かめることを強くおすすめします。確かに、テストしてみなければ、そのジェスチャーが吉と出るか凶と出るかわからないでしょう。しかし、リサーチに時間と資金を投じる前に、本当にこのギャンブルをする準備ができているかどうか自問してください。
ジェスチャーを実証する
次はアプリの開発チームがプロトタイプ、または忠実度が高いワイヤフレームを作成する段階です。これは完成品として扱えるものである必要はないですが、ジェスチャーを実装できる程度にはインタラクティブにする必要があります。これによって、ユーザーテストを通した実証が可能になります。
ユーザーテストはUXデザインのあらゆる側面において欠かせない段階です。ユーザーテストは、選択されたデザインが正しいものであり、もっとも信頼性のあるフィードバックを受けるための唯一の手段です。どんなアプリにとっても、ユーザーこそが生命線です。ユーザーに受け入れてもらえなければ、アプリは確実に失敗してしまいます。
このことは、新しいジェスチャーのような、予測できないものほど当てはまります。新しいジェスチャーが使いやすく、アプリのユーザーが受け入れやすいものかどうか確かめるために、数多くのモバイルでのユーザビリティテストの方法論が利用できます。その中でも、UXデザインの会社にとってもっとも一般的な手順は、次のようなものです。
- 新しいジェスチャーを駆使して達成する一連のタスクを作成します。
- テストの中で、ユーザーにそのタスクを実行してもらいます。その一方で、スクリーンレコーダーとデータ収集プログラムを使って、タップやスワイプなどのジェスチャーを記録します。
- 記録が取れたら、ジェスチャーについての意見をユーザーに尋ねます。簡単に実行できましたか? 直感的でしたか? 楽しかったですか?
この戦略は2方向から検証できるため、非常に有効です。初めに、UXリサーチャーは単なる観察者として参加し、製作者が干渉しないアプローチを取ります。これによって、ユーザーはサポートのない状態でアプリに集中することになるので、自然な環境で操作することができます。
次に後半では、より直接的なアプローチが用いられます。一切鑑賞されずにユーザーのワークフローを終えたあと、実験者は、アプリについて感じたことや、より具体的にジェスチャーについて感じたことについて、ユーザーに質問します。
2方向からのテスト手法は、ジェスチャーを実証するためのもっとも効率的な方法の1つです。ユーザーから好意的な反応が得られれば、実装の段階に進むことができます。好意的でないなら、アイデアの段階まで戻るか、もしくは単純に、より一般的なジェスチャーを使用するべきでしょう。
次の段階に進めるために
新しいメカニズムをスムーズに導入することは困難です。そのため、ユーザーから好意的なフィードバックを得ることができたとしたら、素晴らしいことです。しかし、まだやるべき作業は多く残っています。もう1つ別のUXの問題に対処する必要があるでしょう。それは、新しいユーザーにジェスチャーとその機能を教えることです。
ジェスチャーを教えるというトピックだけでも、今後たくさんの記事で取り扱われるに値するものでしょう。しかし、これがUXデザインの本質なのです。ユーザー体験とは、終わりの見えない存在です。アプリのあらゆる要素が含まれた、あらゆる部分を集約したものです。
ジェスチャーはときに上手くいかないこともあるでしょう。しかし、ユーザーテストを重視するUXデザインの会社がバックアップすることで、ジェスチャーによって、ユーザーに、機能性や楽しさ、素晴らしい体験を提供することができます。