UXデザインはオーケストラを指揮をすることと似ている

Paul Boag

PaulはUXのデザイナーでありデジタルトランスフォーメーションの専門家です。彼はユーザーを促進するためのウェブやソーシャルメディア、モバイルの活用を、非営利やビジネスの分野で手助けしています。

この記事はboagworldからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

The big question: Can you design an experience? (2017-05-02)

ユーザー体験をデザインすることができるのかどうかについては、多くの議論がなされてきました。本当にユーザー体験のデザイナーになることができるのでしょうか? 私は、デザイナーの役割をどう定義するかによると考えています。

私は長年、ユーザー体験デザインすることなど不可能で、UXデザイナーになっても意味がないと多くの人が主張するのを聞いてきました。この意見に私はとても共感します。

非常に多くのものがユーザー体験に影響を与えます。その多くは、デザイナーがまったくコントロールできないものです。具体的には、ユーザーの居場所やユーザーの周囲で起こっていること、そしてユーザーの生活全体の状況などがあります。

私たちは体験のほとんどをコントロールできない

UXデザイナーはデザイナーというより、どちらかというと指揮者に似ています。

私はかつて、ある女性の家でユーザビリティテストを行いました。彼女はまさに典型的な年配の女性でした。1人暮らしで6匹の猫を飼っており、パソコンデスクも含めて家中が小物で埋め尽されていました。

彼女にサイトをテストしてもらおうと座っていると、突然、彼女の膝に猫が飛び乗りました。そしてセッションの間ずっと、彼女はマウスを使うのに苦労していたのです。1つには猫がいたからであり、また1つには、デスク上のスペースが限られていたからでした。

ショッピングカートにアイテムを追加したあと、カートに移動するよう彼女に頼もうとしたときでした。私は、彼女が移動できないだろうと気づいたのです。私は慎重にサイトをデザインしていました。カートについても、見つけやすいとされる画面の右上に配置してありました。しかし、私はすぐに、彼女がカートを見つけられないとわかったのです。なぜなら、彼女は画面の右上にポストイットのメモを貼っていたのです。

ユーザーの生活には、サイトでのユーザー体験を邪魔する要素がたくさん存在します。

デザインの段階で、私がポストイットや猫、散らかったデスクを想定する方法はもちろんありません。しかしこれらの要因すべてが、彼女の体験に影響を与えていました。この例からわかるのは、私たちがユーザー体験をデザインするのは不可能だということではないでしょうか? 私たちがコントロールできないことが多すぎるのではないでしょうか?

細かい人なら、コントロールできないことが多すぎて体験を構築することは不可能だと主張するでしょう。しかし私は、どんな分野のデザイナーも、自分がコントロールできない変数が存在することを受け入れるべきだと主張します。ユーザーが製品を使う体験には、「デザイン」できない部分が存在します。

確かに、体験の構築というのは曖昧な考え方です。私たちUXデザイナーは、自分たちの影響が及ばない多くの変数に苦悩しています。これらはユーザーがいる状況から生じる変数です。しかし、ユーザーがいる状況のほかに、もう1つ重要な要素が存在します。ユーザー体験をデザインするにあたって、たくさんの人々が関与していることです。

体験を「デザイン」できる人はいない

私はUXデザイナーとして、形あるものは何も作っていません。UIデザイナーの仕事のように、インターフェイスの作成はしません。コピーライターはコピーを生み出します。エンジニアはコードを書きます。

ユーザー体験をデザインするときには、人々が組織を越えて協力して作業することが求められます。ユーザーと直接接点がない人も含めて、すべての社員が必要です。このこともまた、体験をデザインすることの定義を曖昧にしてしまいます。

であれば、ユーザー体験のデザイナーを名乗ること自体が間違いだと主張できるかもしれません。もしかしたら、私たちがしていることには、「デザイン」よりも良い言葉があるのかもしれません。

デザイナーでなければ何なのか?

2015年に公開されたAaron Sorkin氏の映画『Steve Jobs』の中で、Woz氏はSteve氏にこう質問しています。

あなたは何をしたのですか? コードを書くことはできないし、エンジニアでもデザイナーでもありません。ハンマーで釘を打つこともできません……一体、あなたは何をするのですか?

Steve氏の回答は、ユーザー体験のデザイナーとして私たちが行っていることを上手にまとめていると思います。彼は、「オーケストラを演奏します」と答えたのです。

このシンプルな比喩によって、私は自分のしていることを理解することができました。つまりこの言葉は、私が体験をコントロールできないこと、何を達成するのにも大勢の人たちを頼っていることという2つを表しています。

指揮者は楽譜を書きません。同じように、私たちUXデザイナーも体験を生み出すことはしません。しかし指揮者のように、私たちは体験を形作ることができます。テンポを整えて、全体の雰囲気に影響を与えることができます。優れた指揮者はそれぞれの楽器が持つ最高の力を引き出しますが、悪い指揮者は台無しにしてしまいます。

これが、ユーザー体験のデザイナーである私たちがしていることです。直接的には、私たちは体験に関わるどのニュアンスもコントロールすることはできません。しかしそれらに影響を及ぼして、1つにまとめることができるのです。

UXデザイナーになることはオーケストラの指揮者になることのようなものです。

指揮者もまた、1人では何も達成できません。オーケストラが必要です。しかし、オーケストラもまた、指揮者を必要とします。指揮者がいないと、オーケストラはまとまりを欠いてしまいます。結束して、同じ方向を目指すことができません。

UXデザイナーの仕事は、全員がユーザーに集中して素晴らしい体験を生み出せるようにすることです。体験をどのような形にしたいかを決定するのは私たちUXデザイナーです。しかしそのビジョンを現実のものにするために、私たちはオーケストラを必要とします。

意味が広すぎるメタファー

どんなプロジェクトやチーム、企業にも、ユーザー体験を擁護する人が必要です。

私は自分の仕事を、ユーザーにより良い体験を提供するために、エネルギーを与えることだと見なしています。私は大したことをコントロールすることができず、他人がいなければ何もできないことを自覚しています。しかし同時に、この仕事を担う人がいなければ、達成できることは非常に少ないことも理解しています。どんなプロジェクトやチーム、企業にも、ユーザー体験を擁護する人が必要です。

この言い方では、メタファーとして意味が広すぎることはわかっています。UXデザイナー全員を、これからはユーザー体験の指揮者と呼ぼうと提案しているのではありません(私はUXディレクターと呼ぶのが好きですが)。

私はただ、自分の仕事を理解するのに役立つ考え方を共有したいだけです。この考え方が、あなたにも役立つと幸いです。


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