ホテルWebサイトにおけるUXのベンチマーク調査

Jeff Sauro

Measuring Uの創設者。シックスシグマに熟練した統計学分析者であり、ユーザーエクスペリエンスを定量化したパイオニアでもあります。

この記事はMeasuring Uからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

User experience benchmarks for hotel websites

毎年何百万件も行われるホテルの予約のほとんどは、オンラインで行われます。ExpediaやTrivagoといったホテル予約サイトが急増しているのにもかかわらず、多くの人がホテルのWebサイトで直接予約しています。

旅行者がホテルのWebサイトで直接予約する傾向が強いこうした状況では、優れたユーザー体験を提供することこそが差別化要因です。ホテルや客室について必要な情報を見つけられない場合や、予約が簡単にできなかったり、料金がわからなかったりする場合、顧客はホテルの予約係に電話する労力を割いたり、別のホテルを予約したり、不快な体験について友人や同僚に批判的に話したりするかもしれません。

ホテルにとって、Webサイトにおけるユーザー体験をベンチマーク調査し、調査結果に基づいてデザインを変更することはますます重要になっています。この記事では、コンテキストがわかりやすいよう、SUPR-Qの一環として行われた、一般的な業界ベンチマーク調査を紹介します。

編注:UXベンチマークについて基礎的な知識は、Sauro氏の記事をご覧ください。

UXベンチマーキングのすすめ

ホテルWebサイト体験のベンチマーキング

オンライン体験の品質を理解するため、有名な5つのホテルのWebサイトについてUXベンチマーク指標を集めました。

  • Best Western
  • Hilton
  • Holiday Inn
  • Hyatt
  • Marriott

優れたベンチマーク調査をすれば、Webサイトが競合他者と比べて劣っている点が明らかになります。またベンチマークは、デザインを変更することで、どれだけ計測可能な改善に寄与して、最終的にWebサイトの収益の増加に繋がるのかを把握する上で重要なステップです。

WebサイトのUXベンチマークは、図1に示す通り、段階的なアプローチから構成されます。

図1:UXベンチマーク調査で収集したデータの階層と関係性

図1は2つの事柄を示しています。第一に、Webサイト全体への態度(Website Attitudes)は、タスクの指標(Task Metrics)に影響され、タスクの指標は、Webサイトのインタラクション(Interaction)に影響されます。第二に、Webサイト全体への態度は、ブランディングや過去の体験など、タスク自体の体験とは関係ない別の変数にも影響されます。そのため、3つの階層すべてのデータを収集することが重要です。

このベンチマーク調査では、円の外側と内側のデータを収集することで、態度の指標との優れた比較材料と、タスクの指標やWebサイトのインタラクションの面で改善すべき点についてのインサイトという2つを得ることができます。

調査

私たちは2つの調査を実施しました。第一に、最近上記の5つのホテルのWebサイトを訪れた、または予約したことがある参加者405人に、直近の体験を振り返ってもらいました。第二に、ホテルのブランドを問わず、最近ホテルのWebサイトで予約した別の参加者160人に、上記5つのWebサイト(Best Western、Hilton、Holiday Inn、Hyatt、Marriot)のいずれかにおいて、2つのタスクを完了するようお願いしました。

データの収集日は2017年6月です。参加者はこの調査の中で、NPS(Net Promoter Score)を含むSUPR-Qの8項目に回答するほか、日付や客室の選択、手数料を含む滞在総費用の把握など、優れたWebサイト体験にとって重要な機能について考えてもらいました。調査の詳細については、レポートの全文でご覧いただけます。ここでは、調査結果の重要部分のみを紹介します。

編注:NPS(Net Promoter Score)とは、「友達や同僚に製品をおすすめする可能性はどのくらいありますか?」という質問に対して、11段階評価で答える、ロイヤリティを評価する方法。

訪問の目的

調査の参加者の多くは、評価をつけたホテルのWebサイトを少なくとも年に数回訪問していました。この事実は、ホテルのブランドが成功するためには、顧客のロイヤリティが重要になることを示しています。参加者は前回のホテル滞在時に、平均250ドルから350ドルを支払っています。

参加者の大半がWebサイトの直近の訪問で、予約(訪問回数の31%)または客室の閲覧(訪問回数の28%)を行ったと報告しているのも驚くべきことではありません。回答者の約4%は、ホテルの滞在期間中にそのホテルのWebサイトを訪問したとも報告しています。モバイルでのユーザー体験のベンチマークを開始すれば、ホテルのアプリやWebサイトによりたくさんの人がアクセスすることが期待され、結果的により多くのデジタルサービスを提供することに繋がるでしょう。

ユーザー体験の品質:SUPR-Q

SUPR-Qは、Webサイトにおけるユーザー体験の品質を測る標準化された指標であり、Webサイトへの態度(図1の外層=Website Attitudes)を測定する優れた方法です。この指標は、約150のWebサイトからなる膨大なデータベースを基にしています。スコアはパーセンタイルの順位で示され、Webサイトでの体験をほかのWebサイトと相対的に順位付けします。SUPR-Qを使えば、総合評点のほかに、信頼性、ユーザビリティ、外観、ロイヤリティという側面についても詳細なスコアがわかります。

今回調査対象となったホテルのWebサイトは、基本的にすべての側面においてSUPR-Qの業界平均である76パーセンタイルを上回っています。76パーセンタイルとは、データベースのWebサイトの中で、下から76%以上の順位であるという意味です。Best Westernは65パーセンタイルで、5つの中で最低順位のSUPR-Qスコアである一方、Marriottは85パーセンタイルで最高順位となっています。

ユーザビリティのスコア

Hiltonが63パーセンタイルでもっとも低かったのに対し、ユーザビリティのスコアが最高だったのは74パーセンタイルのBest Westernでした。SUPR-Qでのユーザビリティ要素から、SUSのスコアを予測できます。Best Westernの場合、SUSのスコアでは77に相当します。MUIQが収集した行動データや、一語一句コメントを検証することで、ユーザビリティのスコアの原因をある程度掘り下げることができます。

Best WesternのWebサイトにおいて、ユーザービリティに当たる「ユーザーの態度」を調査した結果、最近Best WesternのWebサイトを利用したユーザーのつけたユーザービリティのスコアは平均以上でした。しかし、それでもまだ改善の余地があることが明らかになりました。図2のように、もっとも重要なCTAである予約ボタン(BOOK)がBelow the fold(スクロールしなければ見られないファーストビューの範囲外)にあることで、一部の参加者が困惑していたのです。ユーザーは予約手続きを進められると思って、予約ボタンの代わりに更新ボタン(UPDATE)をクリックしていました。このことが原因で、ユーザビリティのベンチマーク調査において、参加者は5つの内2番目に低いスコアをつけたと考えられます。

図2:above the foldにある更新(UPDATE)ボタンは予約ボタン(Book) より目立っており、混乱を招いています。

Webサイトを最近利用したユーザーの調査で、もっとも低いユーザビリティのスコアをつけたのは、HiltonのWebサイトでした。Hiltonは、伝統的なWebサイトのナビゲーションである、「ロゴをクリックするとトップページに戻る」という慣習に背いています。Hiltonの場合、ユーザーが「Make it a 3 Day Weekend」と書かれたヒーローイメージ上の広告をクリックすると、ユーザーはロイヤリティプログラムのWebサイトに飛んでしまい、予約ページに戻る方法を簡単に見つけられません。

図3:ヒーローイメージはユーザーを別のWebサイトに導いてしまい、簡単には予約画面に戻れません。

このことがナビゲーションが使いづらいという認識に結びついていて、ユーザビリティ調査の中で参加者のコメントにも反映されています。

ナビゲーションが使いづらいと感じました。大量に表示されたタブから推測するのでなく、欲しい情報を手早く得るにはどこを見るべきか知りたいです。

Marriottのホームページでも参加者は予約するに苦戦していました。ある参加者は、「検索したい日付を選択するのに苦労しました」と言っています。MUIQのクリック経路のデータを検証すると、多くの参加者が、ホームページやサイトのクリックできない要素(NCs)をクリックしていることがわかりました。図4の青いNCsという文字は、クリックできない要素の平均クリック数(ページによっては7や13)を表しています。黄色く強調された場所は、ホテルを探す過程で検索が利用された箇所を示しています。

図4:多数のNCsは、ユーザーがMarriottのホームページを操作するのに困惑したことを示しています。

ロイヤリティとNPS

NPS(Net Promoter Score)は、ロイヤリティを測る基準として依然定評があります。この5つのNPSの平均は13%でした。最高値はMarriottの25%、最低値はBest Westernの-3%(推奨者より批判者がやや多い)でした。ロイヤリティは過去の体験に大きく影響されますが、このサンプルでは、参加者のMarriottでの体験はやや少なく、ブランド自体に強い肯定的な効果があり、NPSを上昇させていると考えられるでしょう。サンプルについての詳細はレポートで確認できます。

UXの品質(SUPR-Q)に関する主要因

SUPR-Qを使えば、Webサイトのユーザー体験全体(広義のUXの品質)を幅広く測定することができます。

SUPR-Qはほとんどの標準化された基準と同様に、サイトを診断するためのものではありません。そのため、体験のどの要素がSUPR-Qのスコアに影響しそうかを理解するために、ホテルのWebサイトの体験におけるより具体的な「構成要素」について主要因分析を行いました。

参加者は、5段階評価のリッカート尺度を用いて、買い物や購買について尋ねる10の構成項目と、7段階評価のブランド態度の項目に回答します。以下に記載する11項目のうち、「*」のついた7つがSUPR-Qの主要因で、スコアのばらつきの66%を説明づけることができます。構成要素ごとの各Webサイトのスコアはレポートの中で確認できます。

  • ホテルの料金に含まれるものすべてが明確に伝わった。*
  • 料金が正確かつ十分に伝わった。*
  • ホテルの料金は相応の価値がある。*
  • 予約カレンダーがわかりやすく、使いやすかった。*
  • 別の予約プランと比較しやすかった。*
  • 客室プランが閲覧でき、わかりやすく説明されていた。*
  • ブランドの好感度。*
  • 支払情報にアクセスしやすかった。
  • 正確に予約ができたと確信できる。
  • Webサイトは予約の総額と内容をわかりやすく確認していた。
  • 予約をしている間、予約手続きの進捗が理解できていた。

図5のグラフは、それぞれの主要因で説明できるSUPR-Qスコアの割合を示しています。

図5:主要因を構成するSUPR-Qスコアの割合

たとえば、「予約カレンダーのわかりやすさと使いやすさ(Calendar)」は、SUPR-Qスコアの10%を説明づけるので、SUPR-Qスコアの5%を構成する「相応の価格設定(Rates good value)」と比べて2倍重要です。興味深いことに、カレンダーのような基本的要素は、Webサイトを体験する際の参加者の態度において、依然として重要な役割を占めています。

34%の「原因不明(Unexplained)」の部分は、7つの主要因では説明できない側面を表しており、態度のデータを集めるにあたって避けることのできない変動性や測定誤差を表しています。しかし、わずか7つの項目で態度のばらつきの66%を説明できるのは、行動科学においては素晴らしい結果です。

Webサイトによる主要因

主要因分析は、各ホテルのWebサイトの強みと弱みを特定するためにも行いました。Webサイトのすべての要因はレポートの中で確認できます。調査結果の一部は次の通りです。

Hiltonの料金に対する参加者の態度は、SUPR-Qのスコアを下げている原因です。「料金が明確に伝わること」と、「料金相応の価値があること」という2つの要因で平均以下のスコアを記録しています。2人の参加者は以下のように言っています。

「予約の要素を変更することで料金がどのように変わるのかわかりにくいです。」

「客室料金の比較に問題があります。」

Marriottはブランドに対して高い評判があり、結果的にSUPR-Qスコアにおいて肯定的に影響しています。スコアは、5つの中で最高の70パーセンタイルです。対照的に、Best Westernの「ブランドの好感度」は主要因でもありますが、54パーセンタイル(ブランド好感度スコアの平均値)というスコアから見ても、その効果が薄いことがわかります。


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