つい先日、私はSkypeで両親と話し、私の新しいアパートにBluetooth対応の電球を取り付けようと考えているという話をしました。
スマートフォンアプリで電気のスイッチを入れたり消したり、色を変えたり、電球をミラーボールに変えたりもできるんだよと説明すると、両親は私にこう尋ねました。
「じゃあつまり、あなたは自宅でパーティーをしたいということなの?」
私は少しイライラしながら、「違うよ、私はただ自分のスマートフォンから電気を操作したいと思っているだけだよ!」と強い口調で返しました。
すると彼らは私にこう聞きました。
「…でも、電源スイッチに何か問題でもあるの?」
自宅やオフィスから道路まで、私たちの日常生活のあらゆるものが「スマート」になり、全てがつながるようになってきています。デバイスは互いにコミュニケーションを取るようになり、役に立つ情報をシェアし合っています。また、現在、私たちの親世代が想像もしなかったようなことを実現できる最新機器が常に開発されています。
私たちは、「IoT(Internet of Things = モノのインターネット)」という、柔軟で、あらゆるところに存在するシステムによって繋がった世界の中で生きており、そこで私たちのデバイスは巨大なエコシステムを作り上げているのです。
IoTが普及した現代は、消費者にとってのみ素晴らしい時代であるわけではありません。クラウドとWebテクノロジーによって支えられた最先端の製品を開発する開発者たちにとっても、非常に刺激的な時代なのです。
では、UXデザイナーにとってはこれは何を意味するのでしょう? IoTという壮大な計画の中で、UXデザイナーはどういった位置に立つべきなのでしょうか? 製品が物理的に存在しない可能性がある状況において、UXを改善するためにどのようにデザインしていくべきなのでしょうか? 目的に沿った製品をどんな風にデザインすればよいのでしょう?
このようなわくわくするような問いに対する答えを探している人をサポートするために、私は良いアドバイスや資料を集めてみました。
目的を持った製品を作ろう
スマートフォンの画面をフリックするだけで電源を入れたり消したりできるスマートライトは最高です。しかしながら、困惑した私の両親が口にした「電源スイッチに何か問題でもあるの?」という質問に立ち返る必要があります。つまり、新製品のアイデアを考えるとき、私たちは常に「これは人々を納得させられるテクノロジーの利用方法なのだろうか?」ということを自分自身に問い続けなければいけません。
もちろん、クラウドを通して電気の使用量に関するデータを集めたり、ストリーミング処理を行ったり、自然に目が覚めるように特定の時間に電球のスイッチが点くように設定したり、また睡眠サイクルに関するデータを集めるなど、スマートライトは前述の機能以外のものも備えています。これも非常に魅力的です。
しかし、コンテキストに沿ってユーザーのニーズを読み取り、雑多なデータの中から役に立つものを選び分けるフィルターがない限り、その人が最終的に手にするのは単なる連続したデータだけになってしまいます。これはあまり素晴らしいこととは言えません。
データの価値とは、そのデータを私たちの生活の質を高めるためにどう使うかによって左右されます。UXデザイナーはIoTをユーザー中心に設計することで、IoTの未来を決定づけるという、独特且つ重要な立ち位置にいます。文化に積極的に目を向け、根強く存在している問題に対してどうテクノロジーで解決できるのか、それを考えるために人間のニーズを理解することがデザインプロセスなのです。
IoTに携わるUXデザイナーは、 Justin Zalewski氏が「IoTにおけるインタラクションデザイン」という記事の概要で述べている、人間の生活を良くするために製品が力を発揮すべき3つのポイントを心に留めておく必要があります。
1. 生活をシンプルにする
2. ユーザーに多くの可能性を与える
3. 行動を形づくる
これらのポイントをまとめて説明した、 Studio Scienceによるショート動画を見てみましょう。
「すでに目的を持った製品をデザインしているんだけど…」
もちろん、あなたはそうしているでしょう。
IoTのデザインにおける課題は、いつも人目を惹くような新製品の開発に関係している訳ではではありません。新しい機能を操作を分かりやすくするために、今ある製品のデザイン方法を見直すということにも関連しているのです。それはつまり、モバイルアプリやタブレット、デスクトップ、スマートウォッチ、電球、冷蔵庫といった一般的な製品を再度デザインすることで、新しい機能を分かりやすくし、私たちが日常生活で直面する問題の解決をサポートしてくれるようにするということなのです。
これには皆さんも同意してくれると思いますが、昔のモノの操作方法は今と比べて非常にシンプルでした。
考えてみてください。昔は、ある目的を果たすために、キーパッドで番号を入力するといった特定の動作を携帯電話で行うユーザーがいました。キーパッドという1つのタッチポイントがあり、その操作方法はとてもはっきりしています。番号を入力するという1つの動作があり、そして誰かと通話をするという1つの目的があるのです。
そして、キーパッドのあまり使われなくなると、タブレットは携帯電話だけでなく、ツイートを読み込める冷蔵庫や、皆さんが飼っている猫の健康状態に関する情報を自分の携帯電話やメール、Facebook、iCloudに送信できる特殊な猫の首輪などとより密接に関わり始めました。また、言うまでもなく、Siriは近年皆さんの代わりに電話をかけてくれようとしています。
このことは、下のような図に表せるでしょう:
さて、この図のような構造はものすごいスピードで発展しています。では、私たちは何から始めればよいのでしょうか?
IoTのための目的を持った製品のデザインを始めるには
HOW Design Live 2014でDavid Sherwin氏が共有したこれらのツールについて考えるのが、はじめの一歩として一番良いと思います。
まず、「誰が、何とやり取りするのか」を考えることから始めて、次に「どのように」、最後に「なぜ」、そして「もし◯◯だとしたらどうなるか」を考えます。これらの3つのツールは、ハイパーコネクトされた世の中におけるデザインの複雑さに対処するための、よく整理されていて効果的なアプローチを教えてくれています。
・この3つの中で最も重要であろう「エコシステム」マッピングは、特定のインタラクションに関連する要素群を定義するのに役立ちます。これには、異なるタイプのユーザーのプロファイル、ユーザーが使っているデバイス、そしてこれらのデバイスが提供しているサービスが含まれます。そしてアクセスの回数に応じてデバイスを振り分け、デバイス上のセンサーの位置を把握することによってデータを集める方法を決めます。さらにそのデータがサービスを通してデバイス間でどのようにやり取りされているかを定義し、最後に人、デバイス及びサービス間の関係性を引き出します。
・「ビヘイビア」は、ユーザーがそれぞれのデバイスとどのようにやり取りしているのか、そしてどのようなデータが第2のデバイスに転送されているのかを定義します。そこから、多くのUXデザイナーたちに既になじみのある便利なツールである、「ストーリー」にぴったりなアイデアが考え出され、組み込まれるのです。
・「ストーリー」は、エコシステム内の多様な考え方からタッチポイントを構想するのに役立ちます。最適なストーリーがあれば、ユーザーがなぜ他の方法ではなく、ある特定の方法で行動を起こす選択をしたのか、より詳しく検討するのに役立ちます。このようなストーリーは、動機や衝突点、解決方法などを説明してくれます。
IoTのためのデザインはとても難しいもののように見えますし、きっと難しいものになるでしょう。しかし、目的のある製品の開発方法に対する正しい理解と最適なツールがあれば、皆さんの仕事は、機能だけでなくユーザーを中心に考えられた未来の製品を形作る、重要な手がかりになるでしょう。
IoTは単にデータを提供するだけのものではなく、ユーザーの生活をシンプルにし、可能性を広げ、かつ行動を形作るという目的を果たすためにあるものです。それを証明するためにもUXデザインはIoTにとって、なくてはならないものなのです。