私たちはUXの実践者として、ユーザー調査がいかに大事か知っており、「計画に失敗することは失敗を計画することだ」ということも分かっています。しかしながら、私たちが望んでいるほどの予算や納期が与えられないことがしばしばあります。正当な調査手法をとる事ができない場合に、手元にあるデータだけで正しい決断を下す方法をUXデザイナーのChris Myhill氏がお教えします。
先ほど、ホームページのデザインについて出資者たちも交えたプロジェクトミーティングに参加しました。その場で私はUXの専門家として、私たちはユーザーではないということを指摘し、ユーザーの本当の行動を知るための調査を行う時間を数週間確保するべきだと意見を出しました。しかし、そのアイデアは出資者たちに却下され、調査をする時間はないと判断されました。調査する代わりに、私たちは仮定や議論、過去の成功事例に頼らざるを得なかったのです。
多くのUX実践者たちが同じような経験をしたことがあるでしょう。競争力を維持するために、代理店、フリーランサー、内部のチームに対して出来る限り予算を削減するよう要求される経験です。デザイナーたちにとってはたいへん悔しいことですが、真っ先に切られてしまうのは、ユーザー調査にかける時間です。
問題なのは、調査をカットすることがしばしばユーザビリティを悪くすることに繋がっているということです。データやインサイトが得られないと、優れたデザインの敵、つまり根拠のない仮定につい頼ってしまいます。出資者たちは意見を述べるときよく「いちユーザーとして…」と言いますが、このとき自分たちはユーザーではないということを忘れています。調査を行わない場合、私たちは知らず知らずのうちにターゲットの顧客層ではなく、私たち自身のための決断をしてしまうのです。
そこでゲリラ調査の出番です。「ゲリラ」であるために非常に速く、安くすみ、正式な調査とは違う手段をとります。スポンサーや予算、決裁が必ずしも必要ではないのです。戦争用語から来た言葉であることから分かるように、ゲリラ調査は型破りですが効果的で、デザイナーが低コストで有意義なデータを収集できる方法です。
ゲリラ調査のコンセプトは新しいものではありません。エクスペリエンス・デザイナーのDavid Peter Simon氏が、去る7月のUX Boothでゲリラユーザビリティテストの基本について説明しています。私は彼の考え方を発展させ、予算に影響を与えずに、量的、質的なインサイトを加える具体的なツールについて考えてみようと思います。
調査はスマートに、素早くやる
効率のよい調査は限られた予算を守るために必須ですが、伝統的なUX調査段階は相当な時間をかけて取り組まなければならないものです。調査者たちはデータを探し、面談やユーザーテストを行って最終的に価値のあるインサイトを得るために数週間かけることもあります。
しかし予算や時間が限られている場合、私たちは調査を始める前に、どのようなインサイトを得るべきかあらかじめ知っておく必要があります。
先ほど話題に上がった、ホームページのデザインに関する議論に話を戻しましょう。問題は、私たちが次の疑問に答えを出せないことでした。「私たちのサイトに来た人たちは何をするのか?」たいていの場合、この質問こそが調査の重要な枠組みとなるものです。一連の質問で調査を形作ることができるなら、私たちはより集中して時間を使うことができます。デザインプロセスの早い段階でより多くの疑問を洗い出すことができれば、後に不快で非生産的な議論が起こるのを防ぐことができます。
調査に関する疑問には以下のようなものが含まれているかもしれません。
・どうやってこのサイトにたどり着いたか?
・どれくらい簡単にこのサイトの内容が理解できたか?
・製品を購入した人々は、その後どのように行動するか?
調査を直接的で素早く、低コストで行うゲリラ調査において、こうした考え方は重大な意味を持ちます。調査項目を決めたら、答えを得るために最も経費がかからず、最も効果的なツールを使うのです。
オンラインツールを使う
技術の進歩のおかげで、調査者にはユーザビリティデータを集めるためにあらゆる選択肢が与えられています。こうした自由に使える手法を駆使することは、ゲリラ調査であろうとなかろうと、わくわくするものです。多額の投資のもと行われていたユーザビリティ研究機関で生まれた技術が、今や安く使えるオンラインツールにも組み込まれているのです。
分析ツール
マーケターだけが使うものと誤解されがちですが、Google Analyticsは最も価値のあるUXツールの一つです。これはサイトの来訪者とその行動について膨大な情報を提供してくれます。何より、無料ですぐに使えるという点が素晴らしいです。
ここで得られるデータは次のような疑問に答えることができます。
・ユーザーは何に興味があるのか?
・サイト内でユーザーがたどる動線は?
・端末や場所、年齢層によって行動に違いがあるか?
・追加で提供されているpage load speed calculatorsやaccessibility checkersなども驚くほど手軽です。以上のようなツールを使えば、現状のサイトのパフォーマンスを理解し、これらの要素を改善するためにどうデザインを変更すれば良いかのヒントを得ることができます。
ゲリラ調査における使い方:これらのツールは完全に無料で、データをすぐに入手できます。データを集めるために決裁や予算を必要としません。そこにあるデータは、分析されるのを待っています。私の経験では、多くの顧客がGoogle Analyticsかそれと同等のツールのセットを(たとえ活用していなくても)持っています。こうしたツールをプロジェクトの作業の流れに加えることで、予算や出資者たちに頼らずにデータからインサイトを得ることができます。
ヒートマップツール
従来の分析方法は、「何?」を見つけるには役に立ちますが、「なぜ?」を特定することには向いていません。CrazyEggやClickTaleのようなヒートマップツールを使うと、ユーザーのマウスの動きやクリック、ページをどこまでスクロールしたかなどのアクションを調べることができ、次のようなことを知ることができます。
・コールトゥアクション(CTA)は効果的か?
・ページに埋め込まれた特定のアイテムは使われているか?
・長いページは、スクロールして読まれているか?
ゲリラ調査での使い方:これらのツールは、ユーザーの振る舞いについてのインサイトを得るために素早く手軽に使えます。視線追跡を模倣するような効果を、はるかに低い障壁のもとで(10,000ドルかかることが10ドルでできるようなものです)得ることができるのです。こうした視覚的なデータをミーティングやプレゼンテーションの場で使うことで、出資者に非常に効果的なアピールをすることができます。これらは「ユーザーは、私たちの見てほしいものを見ているか」という根本的な疑問に答えを出してくれるのです。
キーワード&コンテンツ分析
キーワード調査はSEO対策において欠かせませんが、UXにも大きな影響を与える要素です。人々の好むボキャブラリーを理解することは、サイトの情報アーキテクチャを計画する上で大きなヒントとなります。この一助となるのが、Googleキーワードプランナーのようなツールです。同様の調査は、サイトの検索エンジン最適化、ランディングページのプランニングやコンテンツ戦略にも使うことができます。MOZのようなツールは、いくらかコストはかかりますが、現状のコンテンツの一覧を自社のものだけでなく競合他社のものまで書き出してくれます。
UXの観点からは、効果的なキーワードの調査によって以下のような疑問に答えることができます。
・サイトの情報アーキテクチャをどのように構成するべきか?
・ナビゲーションにどのような名前、ラベルを使うべきか?
・コンテンツの中で、優先順位をつけるべき部分があるか?
ゲリラ調査での使い方:コンテンツの一覧を自力で書き出すのには、手間も時間もかかります。ときにそれは、完全にプロジェクトとは切り離して実行しなければならないほどの大仕事です。すべてのコンテンツの一覧作成にかける時間や予算がない場合は、これらのツールを使うことによって低コストで重要な情報を得ることができ、将来のどのコンテンツやナビゲーションを選ぶべきかについてのヒントを低価格で得ることができます。
進行役のいないユーザーテスト
UXの開拓者たちはユーザーテストを厳密に科学的なプロセスと定義づけ、その研究をスクリプト、タスクシート、専門の記録装置などを用いて研究機関で行いました。しかしこの方法は非常に高価で、2003年に行われたJakob Nielsen氏の調査によると、ユーザビリティテストをするために参加者一人当たり171ドルも支払わなければならないそうです。これには調査者の時間給は含まれていません!
低予算では、こうした正式なテストを行うことはできません。さらに、時間的にぎりぎりに追い詰められている場合には、どのようにテスト内容を切り詰めても時間の壁に突き当たってしまうでしょう。幸い、正しいツールを使えば、仕切り役がいなくてもテストを行うことができます。
録画、録音のできるツールは数多く存在しており、企業がシナリオを送るだけでユーザーが製品をテストできるようになっています。例えばMacBookならQuickTimeが標準仕様として組み込まれています。また、絶対に必要というわけではありませんが、さらに詳しい記録データを得たい場合やPCユーザーのためにOpenHallwayのような有料ツールがあると便利です。VLCのようなVideo playerはビデオの再生速度を上げることができます。倍速でセッションを再生すれば、研究者は半分の時間でインサイトを得ることができます。
ゲリラ調査での使用法:進行役のいないテストでは、研究者は自分の時間のあるときにデータの分析を行うことができます。進行役をしつつテストを行うことは(たとえ遠隔的にであっても)、参加者にやっていることを「声に出して言ってもらう」という原則を守るために重要ですが、時間がない時に量的なインサイトを得るためにも、この手法は有効です。
ターゲットを限定したフィードバックツール
場合によっては、時間と予算の制限が厳しく、製品のすべてのテストを行うことは論外だとされる時すらあります。耳を疑うような話ですが、多くのプロジェクトにとってはこれこそが厳しい現実です。ランディングページやコールトゥアクションのテストを手早く行いたい場合、理想的なサービスとしてFive Second TestやVerify Appがあります。より短く、より集中的にテストを行える特性を活かし、ユーザーテストイベントを計画したり分析する手間をかけずに質の高いフィードバックを素早く得ることができます。
ユーザーがどう感じているか、といった分析ツールでは得られないような主観的な質問にも答えることができます。以下のような疑問も含まれるでしょう。
・サイト来訪者はブランドの見た目を気に入るか?
・ランディングページはユーザーの注意を引きつけられているか?
・人々は製品が提供する価値を理解しているか?
ゲリラ調査での使い方:これらのツールを使うことで、伝統的なユーザーテストの段取りを省いて質の高いインサイトを得ることができます。より簡潔で焦点を絞ったフィードバックを得るための大まかなユーザビリティテストができるのです。得られるインサイトは製品の特定の部分についてのものとなり、特定の疑問に答えるのに役立ちます。
すべての調査に意味がある
調査に「正しい方法」など存在しませんが、どんなの調査もやらないでいるよりは意味があります。ともすると面倒なことになりがちなプロジェクトでも、私はこうしたゲリラ調査を仕事の一環に組み込むことで、素晴らしい成果を得てきました。
ゲリラ調査の教訓を一つ挙げるとすれば、実践的かつ柔軟であることの必要性でしょう。これは、物事を成し遂げようとするときにしばしば大きな意味を持ちます。十分に時間や予算を取って調査が行えるならそれに越したことはありませんが、それが絶対に必要だということでもないということをゲリラ調査から学ぶことができます。何より、仮定からデザインを組み立てることは論外です。Jakob Nielsen氏の次の不朽の言葉を思い出してください。「ユーザーを置き去りにするという選択肢などない。」
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