テレビのトーク番組から学ぶ、インタビューのコツ

Hannah Atkin

HannahはTeach For Americaに所属しているユーザーエクスペリエンス・ディレクターです。彼女は現在ニューヨークに在住しており、パンを焼くこととニューヨーク・メッツを応援することを趣味としています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

What Talk Shows Can Teach Us About UX Research

HannahがUXデザイナーとして第2のキャリアを開始した時、彼女は前職のテレビ番組での経験がどれほど価値のあるものかを知りませんでした。トーク番組の仕事の経験は彼女にとって、UXリサーチを行うための最高の準備となったのです。

私は耳元の受話器を肩で支えながら、動作を停止したWindowsを前にキーボードを何度も強くたたきつけ、発狂する寸前でした。電話の相手は一流のセレブで、彼女の事前インタビューのための持ち時間はわずか15分でした。彼女は翌日、私たちの全国ネットで放送されるトーク番組に出演することになっており、彼女のインタビューは全国の多くの人々に視聴される予定でした。この15分間の事前インタビューの出来が、翌日のオンエア上でのインタビューにそのまま反映されるわけです。私はとても緊張していましたが、準備をして臨みました。

私は大学卒業後、テレビのトーク番組のリサーチ業務に就きました。その当時はわかりませんでしたが、TVリサーチは私の次のキャリア、ユーザーエクスペリエンスの仕事を行うための最高の訓練の場だったと思います。

トーク番組はコンテンツを伝え、競争市場を理解し、そして独創的かつ独占的な情報を見つけるためのリサーチに頼っています。同様にUXデザインも、ユーザーの考えや目的を特定し、競争市場を理解し、そして独創的なデザインソリューションを明らかにするためのリサーチをします。どちらの場合も、競合分析やインタビュー、ストーリーテリングといった共通したリサーチ手法が、望み通りの結果を出すために使用されています。

今回の記事では、まずテレビリサーチの手法を考察しながら、テレビのトーク番組がどのように制作されているのかについて見ていきます。そしてテレビのリサーチ手法を、類似したUX実践方法と比較検討します。この記事では特に以下の項目に注目して、トーク番組のリサーチノウハウがいかにUXリサーチの実践に役立っているかについて解説していきます:

・競合分析

・インタビューの質問形式

・ストーリーテリングの力

トーク番組の仕組み

視聴率におけるトーク番組の競争力を高めるためには、ゲストタレントを招くことが必須となります。テレビ番組のゲストはタレントの手配担当者によって手配してもらうか、制作チームに配属されます。制作チームはそのタレントを中心としたショーの制作に取り掛かり、徹底したリサーチを開始します。リサーチはトーク番組のトピックや論点を選ぶプロデューサーによって分析・洗練されます。その後プロデューサーは、トーク番組の収録が行われる1、2日前に、詳細を明らかにするためにタレントの事前インタビューを行います。事前インタビューの結果をもとに、プロデューサーは収録時のインタビューで司会が質問する質問事項を書き出します。最終的に生み出された作品の威力は、リサーチの質にかかっているのです。ユーザーエクスペリエンスのデザイナーの方は、この意見に心から賛同してくれるのではないでしょうか。

競合分析の実施

ほとんどの制作チームには、リサーチ担当がいると思います。リサーチ担当の主な業務は、プロデューサーに対して「タレントの履歴書」を作成することです。ショーに出演するタレントに関するこの履歴書は、第3者情報元からの情報を中心に構成されており、経歴やこれまでの主な実績、映画出演作品、趣味、スキル及び関心事といった情報が含まれていることが多いです。しかし最も重要なことは、この履歴書には競合するトーク番組からの情報も含まれているということです。過去のショーでタレントがどのように取材を受けていたのかを理解することは特に重要で、それによって制作チームはタレントが答えやすい質問やトピックは何かを特定することができます。その結果、このタレントの履歴書の重要な部分は、紙媒体やラジオ、テレビ出演による過去のインタビューの報道に集中しているのです。

UXの世界に足を踏み入れた時、私はリサーチのデータセット(≒履歴書)を作成する工程が、競合他社や製品、サービスを考察し理解するといった競合分析を行うための工程と非常に類似していることに気がつきました。競合する番組でタレントが何を話していたかを知ることが重要であるように、同じマーケットで競合他社が何を行っていて、彼らの製品やサービス、戦略が、良くも悪くも自社とどのように異なっているかを理解することは、デザイナーにとって極めて重要なのです。Nielsen Norman Groupは競合分析の目的を、「他者が同じような設計に関する課題を、どのように解決しているのかについて深い理解を得ることができる。競合他社の評価の目的として、競合が何をどのように行い、何がうまく機能していて、何がしていないのかを見極めることである」と定義しています。このような戦略は必要となるコンテキスト (文脈) を提供してくれるので、優れた最初のリサーチ活動となるのです。もし競合他社の戦略が失敗に終わっている場合は、その戦略を活用しなければよいのです。競合他社が犯した過ちを繰り返さないための最良の方法は、最初の段階でその過ちについて知ることなのです。

ユーザー中心のデザインはユーザーのニーズや課題を重視し、そして情報アーキテクチャはコンテンツに重点を置いているが、どちらも完璧とはいえない。コンテキストが欠けているのである。

― Jason Withrow、Boxes and Arrows

ここでWithrow氏は、コンテキストを提供した後にユーザーのリサーチ計画のための背景を確立することが、より深い考察ができる工程であると説明しています。TVのインタビューは、制作チームによるゲストのコンテキストの理解なしには制作されることはないでしょう。同じことが新しい製品の開発にも言えるのです。

インタビューの実施

トーク番組の世界では、事前インタビューはショーに出演するタレントとの打ち合わせのために用意された時間で、リサーチでは把握しきれなかったことを発見したり、今まで他の番組で共有されなかった「独占可能なコンテンツ」を明らかにするために実施されます。

タレントにインタビューする際は、最良かつ最も有益な情報を選別することが目的となります。これはUX実践者がユーザーにインタビューする際にも目的として掲げると思います。最初に気楽に会話するような語調で導入することが大切です。人は緊張感のある取材を受けるよりも、気軽な会話をする時のほうが心地よく、心を開いてくれるものです。もう1つ重要なポイントは、いかにスマートで的確な質問をするということです。

インタビューの受け手から有益な情報を入手する確実な方法は、決まった答えがない、特定の方向に誘導しない質問をすることです(=オープンな質問)。インタビューの大半はされる側が喋っている状態が理想です。する側は聞き手役に回り、される側からの話から情報をできるだけたくさん吸収し、学ぶ必要があるので、沈黙がインタビューをする側の重要なポイントとなります。

リサーチ担当としての私の経験では、タレントにとっての事前インタビューは優先度の低いものであることが多いです。結果として、少なくとも最初は、電話の相手側から興味を持ったりや話す努力をしようという姿勢はほとんど感じられません。よって、そんな彼らから有益な情報を引き出すことが私の仕事となるのです。聞く姿勢を示す明白な沈黙と、インタビューの受け手が自由に答えることができる質問を組み合わせることで、この目的を達成することができるのです。ほとんどの人は、長い沈黙が続くと居心地が悪いと感じると思います。なので、もしタレントが質問に対して十分に答えられていない時は、タレントが話を続けられるように数秒間ほど待つことが大切だと学びました。この待ち時間が、タレントから最も率直な情報を聞き出すことができる大切な時間なのです。

このようなインタビューの戦略は、様々な分野で活用できるものであり、一般的にUXリサーチ担当がユーザーに対して行うインタビューにも取り入れられています。UX実践者は自由に回答できる質問を用意し、沈黙を保つことでユーザーが自分の答えを考える時間を十分に与えています。積極的に人の話を聞く姿勢によって、インタビューする側はボディーランゲージや口調から情報を受け取り、聞いた情報を理解することで、話を掘り下げる的確な質問を続けることができるのです。総じて、インタビューの戦略は、インタビューする側と受け手側に、深い洞察と積極的な姿勢でのやり取りを促すのに十分な時間を与えてくれるのです。

ストーリーテリングの力

Susan Weinschenk博士は心理学の博士号を取得しており、ユーザビリティのエキスパートです。彼女の著書、『ニューロ・ウェブデザイン:ユーザーにクリックさせる要因』の中で、Weinschenk博士はストーリーにはものすごい力があり、「ストーリー」という言葉を聞かせるだけで周りの人の注目を集めることができると主張しています。さらにWeinschenk博士は、私たちの日常生活におけるストーリーの素晴らしい役割や、人間のほとんどすべてのやり取りが様々なストーリーの形式から成り立っているということを力説しています。

事前インタビューにおけるストーリーテリングの戦略は、ストーリーが番組に出演するタレント、そしてテレビの視聴者の関心を惹きつけるのに大いに役に立つことを証明しています。ほぼ全ての人がストーリーと何かしら関係しているのです。よって、電話による事前インタビューでの成功する質問は、通常「~の時の出来事についてお聞かせください」という出だしで始まっています。このような質問は最も興味深く斬新な回答を導いてくれるのです。

これは誰にとっても良い結果をもたらしてくれます。タレントは思い出しやすいトピックについて容易に話すことができ、そして視聴者にとっては、タレントの話が頭にスッと入ってくるので、より積極的にコンテンツに関心を持つことができます。Weinschenk博士は、ストーリーが聴覚や視覚、感情など、脳の様々な機能を活性化させると述べています。テレビはこれらの感覚一つ一つに訴えかける、非常に強力な媒体です。これが、プロデューサーたちが事あるごとにスタッフたちに「素晴らしいストーリーを見つけてこい!」と言う理由なのです。

人間はストーリーテリングを他者と関わるための手段として使用しています。ユーザーエクスペリエンスのデザイナーは、ユーザーを理解するためにストーリーテリングに頼っているのです。シナリオやユーザージャーニーなどのUXツールはストーリーを通して、人がしっかりと理解できる方法でリサーチ結果を示しているのです。シナリオはユーザーの動機や行動に対するコンテキストや理解を提供してくれます。シナリオは全体のデザイン工程のいたるところで活用することができ、ユーザーがその時どの立場にいて、なぜその商品と関わっているのかを随時思い出させてくれるのです。同様に、ユーザージャーニーもユーザーが商品にたどり着くまでの道のりを、意見や感情、弱点に注目して示してくれます。このように情報がストーリーとして提示されることで、UXリサーチがより関わりやすく、理解しやすいものになるのです。

つまり、ストーリーはあらゆる人とつながるための普遍的な手段といえるでしょう。テレビで放送される素晴らしいストーリーが人々の心をつかみ、魅了するように、素晴らしいUXの「ストーリー」もまた、デザイナーとしての私たちの心をつかみ、ユーザーと私たちの繋がりをサポートしてくれるのです。またストーリーは容易に理解できるため、ストーリーという共通言語を通してUXの知識がないユーザーとUX実践者の橋渡しをしているのです。

次のステップへ

私のようにテレビ番組のリサーチ担当という経験を経てUXデザイナーになるなんてことはレアなケースですが、ユーザーエクスペリエンスのリサーチスキルを向上・発展させるための有益なリソースは他にもあります。

・トーク番組を視聴するときは、質問事項に注目し、この質問のためのリサーチがどこでどのように行われたかを考えてみましょう。ユーザーリサーチの質問事項を考える際は、番組のリサーチ担当になったつもりでインタビューのための背景情報を収集しましょう。

映画編集など、他の媒体がユーザーエクスペリエンスに与えている影響について資料や文献を読んでみましょう。

・Susan Weinschenk博士著の『ニューロ・ウェブデザイン:ユーザーにクリックさせる要因』を読んで、ストーリーテリングの力に対する理解を深め、ユーザーの心理的動機を見極めましょう。

・全ての人はそれぞれの仕事に独自の背景や見解を持って取り組んでいるので、職場の同僚でもよいのでストーリーを共有しましょう。そういった見解こそがUXのコミュニティを本当に豊かにする要素なのです。


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