ユーザーの心をつかむための「物語」とは

Marli Mesibov

Marliは教育とゲームが大好きなコンテンツ戦略家です。彼女の仕事は、ゲームデザイン、WEbアプリ、そしてモバイルにまでわたります。 彼女は自身のツイッターでUXデザイン、文学、操り人形などに関する考察をシェアしています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

What’s in a Story?

2006年と2009年に発表された研究結果によると、小説などの物語を読む人たちはそうでない人たちに比べて、より物事に対して共感的なのだそうです。2012年に発表されたより詳しい研究結果では、ある人が物語を話している時に活性化している脳の部位と、それを聞いている人の活性化している脳の部位は同じだということが報告されています。それはすなわち、私たち(個人、もしくは企業)が話す物語は、聞き手の考え方や行動に直接的な影響を与える、ということなのです。

ほとんどの人が中学の歴史でタイタニック沈没事故について習っているのに、それが何年に起こったのかを記憶している人は少ないでしょう。ところが映画タイタニックのおかげで、その沈み行く船で起こった出来事の事細かなところまで、何百万の人々の胸に刻み込まれています。同様に、コンテンツ戦略家やデザイナーも、見込み客たちに対してその展望を、常に物語にして語って聞かせる必要があるのです。

事実を淡々と語るより、物語は人を引きつけます。そして誰しもそれを語る能力があるのです。この記事を通して、人類の歴史の中で物語がいかに重要だったかということだけではなく、私たちコンテンツ戦略家やデザイナーがどうすれば顧客に行動を起こさせるような物語を作ることができるか、その手法についてもみていきましょう。

なぜ、物語なのか?

「人が必要としているのは、パンそのものではなく、そこにある物語だ。それによって、生き方と生きる意味を知るのだ」 – 千夜一夜物語

何千年もの昔から、物語はかけがえの無いコミュニケーション方法でした。たとえば、ギリシャやローマの神話は季節の移ろいから人の生死に関するものまで、あらゆることを物語で伝えています。ギリシャ神話の中に、『パンドラの箱』という話があります。

パンドラは地上に生まれた初めての人間で、女性です。神々やタイタン族はいましたが、他に人間はいませんでした。神々は彼女に贈り物をしました。美や魅力、音楽、好奇心、信念といったものです。神々の統治者・ゼウスはパンドラに、ある箱(ギリシャの原文では瓶であるとも言われています)をあげ、これを決して開けてはいけないと言いつけました。パンドラに与えられた「好奇心」により、彼女はついにその誘惑に負けて、箱を開けてしまいます。すると箱のなかから病気や憎しみ、戦争などあらゆる邪悪なものが飛び出して行きました。彼女はなんとか、絶望がこの箱から飛び出して行く前に箱を閉じることができました。

ギリシャ人たちはこの物語を、この世界のあらゆる邪悪なものの存在と、隣り合わせに人間性とともにある希望の存在を説明するために用いてきました。ギリシャ人たちは何世代にも渡って単に事実のみを伝え続けることもできたかもしれません。例えば「この世の中には邪悪なことがあふれている。でも希望を持ち続けることが大事なんだよ」とシンプルに伝えることもできたはずです。ところがそうではなく、彼らは物語の力を用いることによって、こうして3000年を超えて私たちに伝わるものを作り出したのです。

今日、ブランド戦略に優れた企業は、同じような訴求方法を取っています。かつて、ほとんどの人が、スニーカーを買うことに大した興味を抱いていませんでしたが、ナイキがプロのアスリートたちを起用し、"just like us"と呼びかけてから、彼らの物語がまず売れ、そして結果的にシューズも売れ始めたのです。State Farm保険も、その書類業務とは別なところに焦点を当てました。家族との時間を楽しみ、苦しんでいる友だちがいれば助けてあげようという物語を語って聞かせたのです。消費者は彼らの表現したその友情に共感し、保険に加入したのです。

コンテンツクリエイターは物語の語り手である

しかし、情報というものはそのままでは、物語を形作ることはできません。ですから多くの会社は、「私たちのシューズを履けば、膝を痛める可能性が減少します」とか、「私たちの申し込みは簡単で、書類を記入するのに必要な時間が節約できます」といった風に、まず事実を訴えようとします。物語のない、このような訴求方法は印象が薄く、この機会に購入しようと決心させるための勢いが欠けています。コンテンツ戦略家は事実に文脈を与えることで、顧客に単なる利益と機能性を表した図表ではなく、物語を提供することができるのです。

私自身、コンテンツ戦略家として最近、ある会社の新しいオンライン・コミュニティを作る企画に参加し、そこに必要な文脈を与えるために、物語作りをしました。ターゲットになりそうなユーザー層の何人かと話をしたあと、その会社の物語を作り出したのです。また、別なターゲットとなりそうなユーザー層に、お客さんを招いて家族とともに夕食を取るとき、どんな料理を出せば良いか教えてほしい、などと頼みました。私たちはその会社のウェブサイトのあらゆる面に家族の物語を織り込もうと模索したのです。家族の夕食についての物語、子どもたちの成長についての物語、忙しくて、少しもリラックスできない日々についての物語などを盛り込んだところ、顧客たちから信じられない程の反応があり、トラフィックが増大しました。

どのような方法をとったかと言うと、 最適な物語を作るために私たちはある4つの手順を踏んだのです。顧客について徹底的に調査し(Research)、物語を組み立て(Establish)、そこにディテールを与え(Add)、そしてそれを配布する(Distribute)という手順です。

Research:徹底的な調査

コミュニケーションの最初の手順は、見込み客について学ぶことです。どこで時間を過ごしていて、何が必要か、どのようなボキャブラリーを使っているのか。こうしたことを、話を聞くことで学ぶのです。

見込み客がどのような層なのか把握していることが望ましいです。5人のターゲットとなる人々(場合によって、iPhoneユーザーといった漠然とした人々であったり、10代の子どもがいて、フルタイムの仕事をし、技術系の企業で働いている40代の母親、といったような特定の人々のこともあるでしょう)にインタビューをし、どのような語彙を用いたときに心地よく感じるか、そのゲシュタルト(その仲間同士で通じる独特の言い回し、あるいはその地域の方言、特定分野の用語集とも言えます)と、彼らが強調した物語を手に入れます。

残念ながら、この手順を踏むのに近道はありません。お見合いデートの相手がどんな人なのか会うまで分からないのと一緒です。どんなにGoogle検索を駆使しても、実際の会話でどんな話が引き出せるか分かりません。実際に会って、その話に耳を傾けるより他に良い方法はないのです。Ethnographic interviewsの手法を用いてインタビューや会話をすることが、ターゲットとする顧客層がどのような人か、どのように過ごしているか理解する最良の方法です。聞くべきことは簡単です。一日、仕事をしているときにどんなことをしているのか、詳細にわたって尋ねます。どのような頭字語を使っているかに注意を払いながら、仕事が彼らの生活にどのような意味を持っているのか考えるのです。彼らの家族について尋ねます。また、余暇に何をして過ごしているのか尋ねます。とりわけ、職場でも家庭でも、何が彼らにフラストレーションを与えているのか尋ねてみましょう。誰もが、つい熱っぽく不満を口にすることでしょう!

Establish:物語を組み立てる

ユーザーの物語を理解したら、今度は私たちが話を組み立てる番です。多くの人にとってここが最も難しい部分です。私たちの会社に相応しい物語を紡ぎだすのです。

ナイキのコンテンツ戦略チームは、初心者アスリートがプロになるという物語の過程でtropeの考え方を忠実に実行しています。おそらく、ターゲットとなる顧客層の調査のときに、「もしもっと良いシューズを持っていたら、もっと長く走れたのに。ずっと10マイルレースに出たかったんだ」といった話をした人がたくさんいたに違いありません。そうした人たちは、このcommercial in which an athlete transitions from beginner to winnerというコマーシャルを見れば非常に共感するでしょう。最良の物語は、人を熱狂させ、その商品やサービスを使うことによって作られる世界へと導く入り口になります。コンテンツ戦略家はそうした物語を作るとき、 始まり、中間、結末という明確な枠組みにあてはめて考えます。赤ずきんの物語を思い出してください。

・赤ずきんはおばあちゃんを訪ねて行きます(始まり)

・狼がやってきて、彼女とおばあちゃんは食べられてしまいます(中間)

・狩人がやってきて、狼を殺して二人を助け出し、赤ずきんはおばあちゃんと幸せに暮らします(結末)

企業にもこれと同様の構造を適用することができます。もし、Motorolaのターゲットとするユーザー層に「フルタイムの仕事をしている両親」が多くいて、そうした親たちが職場にいると同時に家にもいたいといった、家族に対する共通した後ろめたさを感じているとしたら、次のような物語を作ることができます。

・Joeはもっと彼の家族と一緒にいたいと思っている(始まり)

・JoeはMoto X phoneを購入し、どこにいても仕事ができるようになる(中間)

・Joeは会社から早く帰れるようになったので、家族をピクニックに連れて行く(結末)

motorola

Add:ディテールを加える

物語は私たちに文脈を与えるものだということを思い出してください。人物にディテールを加えて個性を持たせないと、物語は文脈を与えることに失敗し、共感を得ることはできません。Aberdeen Groupによると、電子メール広告で、語り手に個性を持たせたところ、クリック率が14%、コンバージョンが10%も向上したということですが、これも同じ理由です。

多くのコンテンツ戦略家が、ここでミスを犯します。ターゲットとなる顧客層の調査に基づき、物語の輪郭(始まり、中間、結末)を作りましたが、ディテールを加えて個性を与えることを怠ってしまうのです。散歩をしていました、よそのお家に入りました、その家の持ち主が帰ってきて追い払われてしまいました、といったつまらない物語に誰が興味を持つでしょうか? 物語を面白くするのは、ここからさらに展開していったときです。主人公を小さな女の子にしましょう。その家の持ち主を熊にしましょう! 熊たちは家族で、朝の散歩に出かけていたことにしましょう。それで家が空っぽだったのです。そう、少女はGoldilocks(3匹のくまの主人公)という好奇心旺盛な女の子で、他の人々のビジネスに首を突っ込みたくて仕方がないということにしましょう。こうした展開をどんどん続けるのです。

Goldilocksがツイッターのアカウントを持っていたら、そのツイートは熊たちや、オートミールの作り方のレシピ、森を通る小道についての報告などでいっぱいになるでしょう。これが物語を魅力的なものにする個性付けです。何年にも渡って、Goldilocksにディテールを加えていき個性を与えるような(あるいはブランドに個性を与えるような)ソーシャルメディア戦略を展開します。ツイッターには彼女の好きな朝食のメニューがツイートされるかもしれません。電子メール広告では、売り込みたい商品とはあまり関係のない、彼女がたまたま読んだ本の話が含まれているかもしれません。

私たちの会社についての物語も同様に展開していけば良いのです。Home Depotのツイッターがあんなにも人気があるのは、彼らが売っているDIY製品のことだけではなく、何の関係もないようなツイートもたくさんあって、これが消費者に受けているからです。消費者はHome Depotと一緒になって、DIYや愉快なコンテンツ、家族中心の休日を楽しむのです。

Distribute:配布する

ついに、物語を配布することができます。

劇場ではよく、ショーは観客なしには成立しない、と言われます。物語でも同じことが言えます。物語は消費者なしには成立しません。ここで大事なことは、一つの物語を様々なパートに分けて、様々な消費者に、様々な媒体を使って配布することです。

ナイキのブランド展開でも、コマーシャルや公式サイト、Facebook、ツイッターを使って語りかけます。ナイキは物語の様々なパートを、様々なコミュニケーション方法を通して、様々な消費者層に語りかけます。ナイキは商品を売ろうとはしていません。それはあくまで副産物なのです。彼らは記事やビデオ、漫画、その他のニュースなどで魅了し、消費者との意思疎通を可能にする独自の方法を作ったのです。

しかし、これはナイキのやり方です。すべての消費者がテレビやFacebook、ツイッター上で見つかるわけではありません。ある企業では、そのターゲットとする顧客層の多くがLinkedInやQuora、Instagramにいるかもしれません。ターゲットとする顧客層のいる場所を決めるのは対して重要ではありません。鍵となるのは、ユーザーに対する徹底的な調査(手順の一番目を思い出してください)を通して、ターゲットとする顧客層がオンラインでもそうでないところでも、どこで過ごしているか学んでいるということです。ですから、私たちはいつでもどこでも、彼らのいるところで対話をする作業に取りかかれるのです。

あなたの物語を聞かせてください

私たちはこの手法を使って、あらゆるユーザーエクスペリエンスを改善し、ユーザーとの結びつきをより強くすることができます。すべての物語にターゲットとする顧客層を意識した個性を持たせることで、私たちの会社やその商品について親しみを持たせ、より興味を持たせることができます。物語の手法は、私たちの遺伝子に組み込まれていますから、UXチームのすべてのメンバーが使うことができる、いや、使うべきツールなのです!


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