私たちは機械などではないし、孤独でもない

Paul Boag

Paul Boag氏は「デジタル・アダプテーション」の著者であり、デジタル戦略に20年以上の経歴を持つリーダー的存在です。コンサルや講演、執筆、トレーニング、及び指導活動を通して、彼はデジタルに関するベストな実践方法を精力的に推進しています。

この記事はSmashing Magazineからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

You Are Not A Machine. You Are Not Alone.

土砂降りのある日、私は車を運転していました。私は自分がどこへ向かっているのかわかっていませんでした。ただ、家から抜け出したかったのです。私には逃げ出す必要がありました。何時間も経った気がした後、私は自分が両親の家の外に車を止め、玄関を見つめていることに気がつきました。そして、車から降りて家のベルを鳴らし、母がベルに応じたその瞬間、突然涙が溢れて止まりませんでした。

私は成人した大人です。成功を手に入れ、自分の専門分野では尊敬されるような人物となっています。しかし、両親の家の玄関の前に立ち、小さな子供のように母親を求めて泣いたのです。これがきっかけで、私は自分がうつ病を患っていることに気がつきました。実際、私は10年以上もうつ病の状態だったのです。燃え尽き、もう何も手元に残っていませんでした。

私は、自分がインターネット関係の企業で働き始めた1990年代後半のことを思い起こしました。当時私には意地悪で無骨で単純な上司がいました。彼は私を怒鳴り、脅し、そして巧みに操りました。私は彼に抵抗しましたが、抵抗しても疲れるだけでした。毎日が戦争だったのです。

その上司はいなくなりましたが、次の上司もあまり良い人とは言えませんでした。彼は私を会社の株主たちに面会させ、プレゼンをするように強要しました。その上司は私が弁が立つことを知っていて、都合が悪いことが起こると私に対応させていました。その一方で、株主との面会中には私の隣に座り、彼の気に入らないことを発言すると、テーブルの下で私の足を蹴るのでした。

ちょうどその頃、ITバブルが弾け、私は従業員を解雇せざるを得なくなりました。私が良く知っていて、友人だと思っていた従業員たちです。それは、全く知らない人たちや私の会社が買収した子会社で働く人たちを解雇するよりも、ずっと辛いことでした。友人を解雇しなければならない時、少なくとも彼らは私がこんなことはしたくないと思っていることを知っているでしょう。全く知らない人を解雇するときは、自分はただ邪悪な悪魔としか思われません。

これは最悪な経験でしたが、おかげで良いこともありました。その企業が倒産し、私と2人の同僚で、現在私が運営しているHeadscapeという事務所を立ち上げたのです。私はHeadscapeが大好きです。そしてそこで一緒に働いている人たちも大好きです。しかし、ストレスは消えませんでした。何かあるたびにストレスは大きくなりました。

私は、営業に行く前に新聞屋で多くの時間を無駄にしていたのを覚えています。なぜなら恐怖を感じていたのです。会社を存続させるための事業がうまくいかないのではないかという恐怖です。そして最終的に、再び従業員を解雇しなければなりませんでした。私は自分が店の真ん中で嘔吐してしまうのではないかと不安になりました。

自分のために働くことは好きですが、毎月がまるでジェットコースターに乗っているような状況です。やらなければいけない仕事が多すぎてイライラしているか、または仕事が少なすぎて倒産が心配になるか、そのどちらかなのです。

さらに、時代の流れに取り残されてはいけないというプレッシャーもあります。Jeffrey Zeldman氏の著書である『Designing with Web Standards』(Web基準によるデザイン)という本を読んだ日は、人生で最悪の日でした。というのも、自分のキャリアを築いてきたtableタグをベースにしたhtmlデザインが時代遅れになりつつあることに突然気がついたのです。それはつまり、知識や技術を一から学び直さなければいけないということでした。

私を取り巻く変化はこれだけでは終わりませんでした。Flashの消滅、ユーザー中心のデザインの台頭、コンテンツ戦略、モバイルウェブ、レスポンシブデザインなど、変化は続き、常に何かしら新しく学ばなければいけないものが生まれています。つまり、いつも新しいものや風潮についていかなければならないというプレッシャーがあるのです。

Headscapeが12年目に突入する現在でさえ状況は厳しいです。他の多くの事務所のように、今年の上半期は私たちにとって辛い時期でした。業界の状況が再び変化の兆しを見せ始め、またそれに取り残されてはいけないというストレスを感じているのです。

しかし、今回は以前とは違います。もう泣きながら両親の家の前に立っているというようなことはありません。なぜなら、これまでの経験から学んだからです。私はコンピューターではありません。機械でもありません。私は生身の人間なのです。

私たちはWebの専門家として、自分たちに多くを求めすぎています。次々と嘘をつき、間違っていると知っていながら、自分たちで築き上げた思い違いのもとに生きています。デジタルこそが自分たちの情熱であると私たちは語ります。また、自分たちの仕事がいかに素晴らしいかについて語り合います。私たちは、いつかGoogleに買収されるという希望をもって、または自分たちは仕事を楽しんでいると自分自身を説得しながら、1日のほとんどを仕事に費やしています。確かに私たちは仕事を楽しんでいるかもしれないし、いつかGoogleに買収されるかもしれません。しかし、この状況は果たして健全なのでしょうか。私は経験上、そうではないと思います。

私は、自分が24時間働くことができるマシーンではないことに気がついたのです。そして異常なまでの生産力を発揮させていたこと、休養を取るひつようがあることにも気がついたのです。休憩を挟まなければ、質の高い仕事を量産することを期待することができなかったからです。

私は、自分が24時間働くことができる機械ではないことに気がついたのです。そして異常なまでの生産性で働いていたこと、休養を取る必要があることにも気がついたのです。休憩がなければ、質の高い仕事はできなかったからです。

また、他にも分かったことがありました。それは、一緒に働く同僚がいることで私は人間らしくいることができ、機械のようにふるまう必要がなくなるということです。自分が燃え尽きていた時に、共同創業者の1人と話していて私はこのことに気がつきました。同僚は私の負担や苦労を理解し、話を聞こうと努めてくれたのです。自分がうつ病であることをオンライン上で共有した時も、私を笑ったり、弱い人間だと考える人は1人もいませんでした。代わりに彼らは、私の告白によって彼らも自分たちの苦しみについて話せるようになった事を私に感謝したのです。

実際、私は同じような困難を抱えている全く見知らぬ人たちから本当に多くの応援をもらいました。オンライン上での会話を通して、想像をはるかに超える多くのサポートを受けたのです。もしあなたが私たちがオンライン上に投稿した記事を信じるならば、私たちはこの上なく幸せで、成功し、そして豊かになります。

最後にもう1つ発見したことがあります。自分はあらかじめ決められた手順しかできない機械ではない、ということです。つまり、物事を変える力があるのです。私は肉体的・精神的に自分自身を見直してみました。Webの世界以外に友人を見つけ、定期的に散歩をし、Web以外で自分の関心のあるものを見つけ、そして自分の苦悩について話しました。長時間労働をせず、結果を台無しにしたこともありました。その結果、よりスマートに働くことを私は学びました。長時間労働は誇るべきような事ではなく、怠慢や悪い意味での純粋さ、そして愚かさの証なのです。

会議や様々な機関での仕事の中で、私は毎年何百人ものWebデザイナーと会います。多くのデザイナーは休暇がなく、支払いができるかどうかもあやしいような下請け業者です。それ以外のデザイナーは在宅でWeb開発を行っていて、会社から一生独立できないとあきらめています。しかし一方で、オンライン上にはどんな記事があるでしょうか? 成功したスタートアップ企業や買収に関する記事や、素晴らしいクライアントを抱えた競合他社の情報が載っているでしょう。

こう書くと、気の滅入ることばかりのように感じてしまうかもしれませんが、決してそうではありません。もし今あなたが苦しんでいるとしたら、それはあなただけの問題ではないと励ますために書いているのです。あなたに非があるのではなく、業界自体に問題があるのです。

この記事は、あなたにある種の承認を与えます。機械のようにふるまうことをやめて、人間らしさを取り戻すことの承認です。数日間ゆっくりと過ごし、昼間は働かないでテレビを見て過ごしてもいい。あなた自身の恐怖とストレスに正直に向き合ってもいい。そして、あなたが苦しんでいて、助けが必要だと誰かに話してもいいのです。

この記事を読んでいる方が、「仕事は私の情熱であり、私は幸せだ」と思っているのであれば、それは良いことです。しかし、いつでもそのような状態でいられるわけではありません。あなたにとって辛く険しい時期が来ることもあるでしょう。そのような時期は一生続くわけではありませんが、起きるものなのです。もしそのような時期が来たら、1つだけ覚えておいてください。あなたは機械ではないということを。力を抜いて助けを求めることによって、自分自身を人間でいさせてあげてください。


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