プロダクトデザイナーが考え方を変えるときが来ました。優れたデザインとテクノロジーの組み合わせは、よりよい世界をつくるための大きな可能性だというのを誰もが実感しているからです。ですが、どうすればそうした優れたデザインが生まれ、また、そこにはなにが必要なのかははっきりとはわかっていません。
デジタルプロダクトのデザインで成功の鍵を握るのは、シームレスな体験です。ユーザーが楽をできるストーリーを用意しなければなりません。理想的なデザインとは、ユーザーがあまり考えず、ストレスなく使えるものであるべきです。
デザイナーは、共感力(エンパシー)という感性を強く育てていなければ、これを実現することはできません。エンドユーザーの立場に立って、うわべだけではなく、ユーザーの感情と行動を完全に理解するのです。
共感というアプローチ
私たちが生きる世界はテクノロジー主導ですが、それに対して私たちは少し懐疑的です。よりよい体験を目指した思いやりが、機械的なプロセスにかき消されてしまうこともしばしばです。共感力は、システムに頼る悪い癖から脱する助けとなり、どのようなデザイン戦略にも必須のアプローチと言えます。
あなたの商品のソリューションを考えてみてください。最終的にユーザーの目的遂行を助けているものは何でしょうか。ユーザーはそのプロダクトを使うときどう感じるでしょうか。混乱するでしょうか、もしそうなら、どうしてでしょうか。
もしこの考え方があいまいすぎてわからなくなったならば、あなた自信が最近アプリケーションやWebサイトで困ったことがなかったか思い出してみてください。あの苛立ちの感情こそが、すばらしいデザイナー達を、どこまでも共感的で敏感であるべきだと駆り立てる源なのです。
デザイナー自身がユーザーへの深い理解をもたなければ、ユーザーにとっての最適なUIなんて考え始めることすらできません。デザイナーは、UXが実際にどのようなものであるかを感じるために、ユーザーが体験するであろうプロダクトのナビゲーションをしなければならないのです。エンドユーザーに共感を抱くことは、エクスペリエンスデザインに突破口を開き、その結果として、UXデザインの向上をもたらしてくれます。全てがつながっているのです。
共感力のプロセス
それでは、デジタル製品をつくるとき、共感力がどのようにデザイン戦略のヒントになるのでしょうか。これがどのようにして起こるか、実際の例をとってみてみましょう。
Fresh Tilled Soil(著者の所属するデザインファーム)で私たちは、学生が授業のノートや資料をシェアしあうためのオンラインのマーケットプレイスかつ協同作業の場であるFlashNotes(編注:2016年にサービス停止)と仕事をする機会がありました。オンラインプラットフォームの全国的な需要は急速に伸び、FlashNotesはWebサイトの改修と、学生達に新しい、フレッシュな体験を提供する必要がありました。
この案件を掘り下げていく過程で、授業ノートや資料をシェアすることへの動機や不安を理解するために、FlashNotesユーザーの行動パターンをリサーチしました。教授にバレたら問題になるかどうかと神経質になっていないか、授業には毎回出席しているのか、グループ学習を好むのか、一人での学習を選ぶのか。また、同サイトを利用する別の大学の学生のペルソナについても数人、詳細に調べました。このプロセスによって、さまざまなダイバーシティの学生のニーズや習慣、そして行動に関しての新しい発見をみつけることができました。
私たちは戦略的にマッピングをし、サイトをつくり直すことに成功し、ユーザーにとって完璧なシームレスな体験を提供することができました。ユーザー体験を最優先にしたからです。この体験のマッピングプロセスは、あらゆる道筋にある障害や落とし穴を全てイラストで示して地図を描くような感じに似ています。
共感的に生きること
共感力とは教わることができるのでしょうか? 共感力とは、もって生まれたものなのでしょうか、それとも適応していくものなのでしょうか。研究によると、共感力とは私たちの社会的感情的発達の基本的な部分であり、人によっては他よりも遥かに優れて発達することもある、個々人の特質であると言われています。デザイナーやイノベーターの成功者にとって、もしくは人類の生活を向上させようとテクノロジー開発をする私たちにとって、確かに必要不可欠なものでしょう。
カリフォルニア大学の共感力に関する研究によると、「他人が自分とは異なる考えや信念、感情をもつことを理解することを『心の理論』と呼び、他人が自分とは異なる、内面の精神的な景色をもつものだということを理解することは、発達段階での重大不可欠なステップで、通常は4歳ぐらいで培われるもの」だということです。
マイアミ大学の研究では、子どもが共感力を修得するさまざまな要因とは、遺伝、神経の発達、表情の真似や親子関係を含めた、社交性などとされています。
結局のところ、共感ができる人間になるということは、他人が違う考え方をするということ自体を理解できるようになるということです。もし、もっと思いやりをもった自分となることに格闘しているのであれば、自分の内に潜む共感力を発現させる練習に役立つ習慣があります。『Empathy: Why it Matters, and How to Get it』の著者であり、世界で最初のデジタルエンパシーライブラリの創始者でもあるRoman Krznaric氏は共感的になるための5つの方法として以下を挙げています。
1. まずは人の言うことをよく聴き、他人がどう感じるかを思案する
2. 固定概念を捨て、即断しないこと。他人にどうやっているのか誠実に聞く
3. 人生への異なる視点を与えてくれるような小説を読み、映画をみる
4. 思いやりのある人々のそばにいるようにする(特にオフィスなどで)
5. 早いうちから若者に共感力を教えることをサポートする
共感力を広める
優れたデザインをつくることは、世界にもっと共感力を広めることと同義です。
たとえば、よく考えてデザインされたプロダクトやイノベーション、システムなどはより秩序ある文化を創り上げます。新しく開発されたテクノロジーは、命を救い、世界にポジティブな変化を与えます。ユーザーと自分を同化させる能力は人を助け、そしてそれこそ本質なのです。
自分が開発しているプロダクトのことを考えて、それが社会に及ぼす波及効果をじっくりと考えてみてください。たとえばあなたのユーザーは、新しいスマホを大事な電話をかけるのに使っているでしょうか、それとも大事な予定のスケジュール管理に使っているでしょうか。外国の新しい町を歩くのに、インタラクティブで動的な地図を使っているでしょうか、それとも従来の静的な地図でしょうか。肉体的、精神的な健康のために、あなたが仕組んだ新しいテクノロジーに頼っているでしょうか。
最後に
プロダクトをつくっているチームに、UXデザイナーと仕事をすることに対する一番の価値はなにかと聞くと、いつも同じ答えが返ってきます。その価値とは、彼らの思い込みに挑戦し、課題を異なる角度からみせてくれる能力です。これには共感力が不可欠です。プロダクトの専門家は、課題解決の手助けだけでなく、新しい地平線を開拓することができるような共感力のあるデザイナーを求めているのです。
インテリジェントデザインを通じて共感力を広める機会は無限に存在します。結局は、プロダクトがうまくデザインされていれば、ユーザーはデザインについて考える必要すらないのです。共感力を具体化することは、優れたプロダクトであるテクノロジーを開発する助けになり、実際に存在する人々の問題を解決します。テクノロジーと共感力の関係は、よいデザインの重大な要であり、デザイナーとして私たちが覚えておかなければならないことなのです。