昨今、「データドリブン」という言葉をよく耳にしますが、実際に文化として根付かせている企業は少ないと感じます。そんな「データドリブン」な文化を企業に根付かせるために行なってきた(又は行なっている)プロセスの一部を筆者の体験を元に記したいと思います。
まず「データドリブン」という言葉の定義ですが、筆者の体験の元「データドリブン」とは「数字をもって、次のアクションを定める」ことだと考えます。例えば、主にUI(User Interface)の改善手法として用いられるABテストは正しく設計された指標を元に、複数のパターンからより良い1つのパターンを決定する(次のアクションを定める)という「データドリブン」を体現していると言えます。
以下、そんな「データドリブン」な文化を組織に醸成するために筆者が必要であると思う以下のことを紹介します。
- 数字の見える化
- 数字を活用するための知識の共有
数字の見える化
数字をもって、次のアクションを定めていくにはまず数字が見える様な環境を作り、数字をみる習慣や感覚をつける必要があります。その啓蒙活動の一部を以下に記します。
1.定点観測レポート
週次または月次でのウェブサイトのKPI(Key Performance Indicator)や各指標をまとめた「定点観測レポート」を作成し全社員が見える様にすることが必要です。本来「定点観測レポート」はウェブサイトの異常を感知するため、所謂「健康診断」的な意味合いを多く含んでいるが、組織にもたらすであろう変化が2つあります。
まず、1つ目は「もっと数字を見てみたい・活用したい」と思う理解者が増えることです。
全社員に見える様にすることで、今までデータを使いたかったけど取得出来なかった人達を巻き込め定点観測レポートが単なる健康診断表に終わらず、組織を変える一歩になっていくと思います。新しい文化を根付かせるためには、1人よがりな思想を一方的に押し付けるのではなく理解者や賛同者をいかにして増やせるかが肝になります。
2つ目は「各事業部とのコミュニケーション障壁を低くできる」ことです。
「定点観測レポート」には必ず数字に対する考察及びサイト上で行なったアクション(UIの変更など)を記載することをオススメします。このことにより他の部門から「私達の部門でこんなキャンペーンをやっていたらかここの指標が変化したのではないか」など声が上がり、1つのサービスで行なってるほぼ全てアクションを把握出来る様になる可能性があります。そして、定点観測レポートを元に各事業部との壁が低くなり、コミュニケーションが円滑又は数字を元に建設的な議論が出来るようになることが期待出来ます。
このことから私は改めて「データドリブン」な文化を醸成する上でポイントになるのは、データを活用する以前にデータを見える様な環境を整備していくこと、そしてどの様な整備の仕方をするのかであると考えます。整備の仕方は各企業の規模や今までの文化によって変える必要があります。全社員に定点観測レポートを見える様にする方法としての例を挙げると全社員宛にメールを出す、勤怠管理システムの掲示版に載せるなど方法は様々です。
2.ダッシュボード
定点観測レポートは、あくまでも結果の数字であり数字にリアルタイム性がないと感じます。数字を出す頻度が少なすぎると、自ずと数字への興味関心度が時間が経つにつれて落ちていってしまう可能性があります。これでは、「データドリブン」な文化を組織に根付かせるには十分ではない場合があります。
ここで紹介したいのはいつでもリアルタイムなウェブサイトの数字を見えるダッシュボードです。
現在、様々なBI(Business Intelligence)ツールがあるが、多くは高額な料金体系であり、またこの様なBIツールは費用に対する効果が見えづらいと言われています。つまり、決済者(又は経営層)には理解されないことが往々にしてあります。さらに、「データドリブン」な文化という今までなかった文化を根付かせようとしている企業にはなおさら導入することは難しいです。
そこで私が紹介したのは「Re:dash」というOSS(Open Source Software)です。
Re:dashの説明を簡単にするとSQLが書ければ誰でも出力した数字をビジュアライズ出来るツール(又はソフト)です。また、接続出来るデータソースも豊富であり、なんといってもOSSであるので無料で使用できるというのが大変ありがたい。
上記の様なツールを活用することでダッシュボードを作成し、いつでも誰でもウェブサイト上のデータを見える環境の整備が出来ます。ダッシュボードを作成することで、見るべき指標を組織で統一出来ることや意思決定を下すスピードがあがる、つまりアクションまでが早くなることが期待出来ます。
また、ダッシュボードを作成する利点は数字を取得・集計する効率を上げることにもあります。業務効率を考えなくてはならないのは、「データドリブン」な文化醸成を仕掛ける人自体が疲弊してしまう恐れがあるからです。レポートを作成する場合は、散らばったデータソースから数字を集計、加工し、レポートのフォーマットに落としこむというのが主な流れですが、このレポートを作成すること(数字の集計・加工)自体には何も意味はなく、大切なのは得られた数字から意味合いを見つけることです。
つまり、数字の集計・加工をどれだけ自動化できるのかを考えなくてはなりません。
この点においても、ダッシュボードは有効である、様々なデータ・ソースを一元化しクエリを作成しておくことで自動集計(及び加工)が可能です。
(Re:dashはGoogle Analyticsをサポートしていないがやり方によってはAPIを使って集計できます)
数字を活用するための知識の共有
文化を醸成するためには、仕掛ける人が出来ることを他の人も出来る様に汎用的なスキルにしないといけません。そのための、前提となる知識を共有する必要があります。
その場作りの1つの例として、リアルな場を設けるのも「データドリブン」文化を醸成するための方法であると思います。
3.プロジェクト単位でのデータ分析結果の報告会
プロジェクトの進捗及び結果の数字を報告する場をプロジェクトメンバー以外に対して設けることをオススメします。この報告会には、プロジェクト自体の報告以外に狙いがあります。それは「知識の共有」です。
このプロジェクトでPDCAサイクルを回すためにどの様な指標を見ていたのか、そしてその数字からどの様な施策を実践してどうだったのかを全て伝える必要があります。この様な報告することで、各事業部にこの知識を持って帰り広めるという動きが出る可能性があります。そうすることで、「データドリブン」な文化への理解者をさらに増やすことが出来、さらに各事業部で実践する人が出てくることもあります。(実践出来る様なフォローはしましょう)
まとめ
組織に新しい文化を醸成するためには、地道な努力が必要でありかなりの時間を要します。また、1人で出来ることは少なくいかに理解者を増やしていくかが重要です。
筆者は現在「データドリブン」な文化を根付かせる道半ばであるが確実に組織が変わりつつあることを実感しています。
上記のプロセスは全ての企業にあてはるものではないということをご理解ください。企業には、独自の文化がありその文化の元に新しい文化を取り入れていく必要があり、自身の企業にあったアプローチを模索するうえで参考になればと思います。