デザインにおいて、ユーモアは過小評価されています。
クリエイティブ業界では、ユーモアのセンスを持つことは優先順位リストの下の方におかれてしまうときがあります。真面目で、企業然とした、そして正直に言うと、とても「退屈」な作品を作る事を求めるエージェントがたくさんいます。
あなたの作品に個性を
個性というものはデザインの中でももっとも伝えづらいものです。個性はブランドの魅力そのものであり、客に笑顔をもたらす大きな要因であるものの、それを実現させるのは大変困難なことです。
イラストレーター、デザイナー、ゲームデザイナー、アニメーターと複数の肩書を持つJulian Frost氏は、それをまさに体現する人物の一人です。
メルボルンを拠点に活動するFrost氏は、いかなる状況でも絶えず面白おかしい作品を生み出しています。Frost氏の作品の特徴はその遊び心あふれるシュールな作風と、気軽にシェアしたくなるようなポップな魅力を持っています。
Frost氏の作品はカンヌライオンズ、D&AD、One Show、アヌシー国際アニメーション映画祭、ウェビー賞、そしてロンドンのデザイン美術館など多方面で受賞しており、称賛されています。
"Dumb Ways to Die"(マヌケな死に方)
Frost氏が手がけた最も有名な作品は、ネットで急速に広まって大流行した動画作品 "Dumb Ways to Die" です。派手な色のキャラクターの突然すぎる死を、陽気に描写したものです。
"Dumb ways to Die"はメルボルンの地下鉄の安全キャンペーンを目的に製作され、2012年にヒットをしました。電車通勤者の不注意から巻き起こる事故に対して警鐘を鳴らすという目的は、133,966,349以上のビューと、数々の受賞によって達成されました。
"It's Nice That"というメディアのSteven Heller氏とGail Anderson氏の記事で、ユーモアとデザインについて取り上げています。
「ユーモアはキャッチーさや客寄せ要素である一方で、見ている人にちょっとしたおまけの楽しみを提供できるとなお良いです。またそれは、退屈なデザイナーにとってのモチベーションにもなります」
"Dumb ways to die"のアニメーションを見ると、このコメントの意味がわかります。
公的機関から依頼されるような、交通安全についてのコンテンツは大抵とても生真面目で、ショッキングで、不吉な音楽と死体や瀕死の人などの不穏なイメージに満ちています。メルボルン地下鉄がそのような典型的なアプローチをとっていれば、彼らのキャンペーンは何百万もの人には見られなかったでしょう。
この大人気の動画から、Frost氏のデザインによる面白くてシンプルなゲームアプリも作成されました。このゲームは、キャラクター達を残酷な運命から救うチャンスをユーザーに与えています。
ゲームでの戦略は、攻撃してくる蜂を倒したり、ピラニアをよけたり、熊の顎から身をかわしたり、そして私のお気に入りの、友好的でない蛇に餌をやるためにホットドッグにマスタードをかけるといったゲームがあります。
デザインを面白おかしくする方法
「私がいいアイデアが思いつくのは、大抵の場合は偶然で、何か別のことをしている最中です」
私たちはFrost氏と話す機会を得て、彼の創作のプロセスや、どのような事からインスパイアを受けるのか、またどのようにデザインを面白おかしくしているのかについて聞くことができました。
まず私たちはFrost氏が最も好きな作業について議論する事からはじめました。
「予算は別として、私の作業のモチベーションはどれだけアイデアがクールかに尽きます。なので作業の形式は問いません。それでも敢えて一つ挙げるとすれば、GIFアニメが好きです。創作中に自信を失う前に終わらせられるからです。」
デザインにおけるユーモアはどうして大切なのでしょうか?
「ユーモアは他人の痛みや、人間の体の滑稽さ、自信過剰であることのバカバカしさ、タイミングや経済などについて考えさせる効果的な方法なのです。」
— Julian Frost (@newhaircut) 2016年4月20日
「個人的に、攻撃的で不条理なコメディを好みます。私はGary Larson氏の作品を読んで育ちました。私は彼ほどのユーモアは持ち合わせていないですが、幸運なことにLarson氏よりも優れたアニメーターではあります。私の作品では、やや不条理な映像のロジックに焦点を当てており、それは良く実践できていると思います。もし誰かがそれをみて『いい大人がこんなバカなことをよく考えついて、こんな労力を割いたものだ』と考えてくれれば、私はとても嬉しいです。」
「私はアニメーションでの笑いのタイミングや仕組みを楽しんでいます。話のリズムとオチをいじくりまわしていると、まるで音楽を作っているようなのです。」
「ですが、私が本当に敬愛するコメディはキャラクターが主体で、暖かさと人間味と絶望が共存しているようなものです。The Officeや、The Royal Family、Rick and Mortyのようなものです。これらの作品と比較すると、私の作品なんてまだまだ無意味なものを作っているだけに過ぎません。」
「既存の枠組みに囚われない」というのはほとんどのクリエイターが聞き飽きたような決まり文句です。しかしシュールレアリズムはFrost氏のデザインの大部分を占めています。彼が他にどのような事からインスピレーションを受けるか質問しました。
「最近抵当を入れてお金を借りたばかりなんです、だから今は仕事で報酬を得ることが一番のインスピレーションです(笑)」
「その他のモチベーションはランク付けすると以下のような感じでしょうか。」
・人を感動させること(興味ない)
・アイデアを形にする満足感(まあまあ)
・自分や世界をより理解する為のツールを生み出すこと(良い)
・競争本能(良くも悪くもある)
・色と形で遊ぶ喜び(良い)
・自分の良心から、人が本当に必要としている物を引き出して助けてあげること(良い、ですがクリエイティブに満足することは少ない)
・より才能のあるクリエイターへの嫉妬(まあまあ)
・誰かを笑わせること(良い)
最後に、私たちは現在のWebデザイン業界の状況について、Frost氏の意見を聞きました。
「私たちは真面目すぎる時代に生きています。厳格なグリッド上のWebレイアウトから逸脱するようなユニークなデザインは、日々のデザインの苦労への侮辱と捉えられがちなのです。」