クックパッドから独立したチラシアプリ「トクバイ」から学ぶ施策の考え方

UX MILK編集部

モノづくりのヒントになるような記事をお届けします。

この記事は2016年10月26日に開催された、株式会社クックパッドによる「テクノロジー × ものづくり」を軸にした勉強会「Cookpad Tech Kitchen #3 ~サービス開発におけるアプリデザイナーの役割~」でのプレゼンテーションをもとに執筆しています。

この夏、クックパッド内で提供していた「クックパッド特売情報」がサービスとして独立し、「トクバイ」 というアプリが生まれました。今回はそのアプリのデザインを手がける株式会社トクバイの吉井氏がCookpad Tech Kitchen #3で語った、2つのケーススタディと、サービスデザインにおいて大事にしていることについてご紹介します。

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吉井 裕貴 氏
愛知県尾張旭市出身。立命館大学経営学部を卒業し、ソーシャルゲーム業界でのUIデザインを経て2015年よりクックパッド株式会社勤務。入社以降クックパッド特売情報のデザインを専任し、2016年7月より新設の株式会社トクバイへ出向中。トクバイのiOS/Android アプリをはじめ、WEBや店頭販促物などサービス領域全般のデザインを手がける。

楽しい買い物を増やすためのデザイン

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トクバイはスーパーやドラッグストア、ホームセンターなど全国30,000店舗以上のチラシ情報を掲載するサービスで、今年7月にAndroid版、8月にiOS版のアプリをリリースしました。共働きの主婦などの忙しい人を対象に、その日の買い物を効率的にし、意思決定を後押しするサービスとなっています。

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会社としては、元々クックパッドに入っていた「クックパッド特売情報」というサービスを管掌していた部門が、クックパッドの100%子会社となる形で独立をしました。現在は「楽しい買物を、増やす」というビジョンのもと、日々サービスの開発を行っています。

今回はトクバイで取り組んでいる事例や、開発に関する考え方についてお話していきたいと思います。

ケーススタディ1 : 投稿リクエスト機能

クックパッド特売情報は元々本体のクックパッドという巨大なレシピサービスのひとつのコーナーとして存在していました。それが今回、トクバイとして独立したサービスになることで、単体でのコンテンツ力の維持・向上が大きな課題として挙げられました。

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トクバイは契約している店舗さんから直接商品情報やチラシの画像を投稿していただくことで、それを表示するようなサービス構造になっています。しかしながら、店舗さんが何らかの理由で商品情報を投稿できないケースがあり、必ずしもいつも情報が掲載されているわけではない、というのが現状です。なので、そのように表示する情報が無い場合、どうするかという課題が出てきます。

この課題解決に向けて考えられるパターンとしては、例えばこのような3パターンがあります。

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1番上の他のお店を探してもらうというのはユーザーに行動を押しつけているものなので×です。2番目は、他の情報資産を活かすという意味ではありかもしれません。3番目は店舗リストの並びがある中で突然店舗がなくなってしまうのはユーザーの混乱を招いてしまう恐れがあるので、少し慎重な検討と判断が必要そうです。

となると、2番目の投稿がある他のお店を提案する施策がいいのでは、となってきます。ですので、「近隣のおすすめの店をレコメンドする」という機能を考えてみましょう、という流れになりそうです。

ですが、これで本当にいいのでしょうか?

確かに今できる解決策としてはこれでいいのかもしれません。しかし、サービスの価値を高める解決策としてはそもそも「投稿がある状態をつくる」というのがより本質的ではないでしょうか。

理想的な解決までの道筋を因数分解する

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もちろん、全国30,000店以上の店舗さんから商品情報を投稿いただく中で、投稿が常にある状態を維持するのは色々と大変そうですし、一朝一夕でできることではありません。

サービスの理想状態として高い目標を置くと、何からはじめていいかもわからず、挫折してしまいそうになります。一方で、先程の目の前の施策に飛びついてしまうと、道半ばで真の目標を忘れたり、途中途中でつい満足しがちになってしまうこともあると思います。

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ここで大事なのは、理想までの道筋をいくつかのステップに分解して考えることです。理想の実現に向けたステップを逆算で考えていき、最初のステップとして何をしていくべきか、理想に向かうまでのふるまいとして今どうあるべきかを考えることが、デザイナーの大きな役割だと思っています。

今回の場合、ファーストステップとしてリリースした機能が、「投稿リクエスト」です。

店舗さんからの投稿が無い場合、これまでユーザーは何もアクションすることができない状態でしたが、この機能によってトクバイにリクエストを送ることができるようになりました。これにより、何もできないユーザーの不満やもやもやをいくらか解消することができますし、また、ユーザーがどのような情報を求めてきているのかも可視化されるようになります。

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ここで得られた数値は営業やサポートにも活用され、よりよいサービスを提供していくためのひとつの足がかりとしています。

このように、今できることだけに近視眼的に取り組むだけでは、なかなか大きな価値は生まれていきません。目指したい像に近づけていくために自分たちが今どこのステップにいるのか、そこでどうしたらいいのかを意識し、サービスの価値を積み上げていけるようなデザインをひとつひとつ作っていくことが大事であると考えています。

ケーススタディ2:レビュー誘導

トクバイはリリース以降、高い継続率でユーザーさんに使っていただけているという数値・実績が出ていました。ですが、あくまでトクバイはクックパッドから分離したサービスです。「クックパッドと一緒だったほうが使いやすかった」などのご意見も散見されました。

私たちとしてはスーパーなどの食品領域だけではなく、ドラッグストア、ホームセンターなども含めた生活領域全般における新しい買い物体験を作っていく、という信念のもとに独立したサービス開発を行っています。そのため、そういったユーザーさんには申し訳なく思う気持ちとともに、ある程度はご理解をいただくしかない、という部分もありました。

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しかし、アプリのレビューという側面ではそうも言ってはいられません。特にAndroidではアプリのバージョンに関係なくレビューの点数が累積で計算されてしまい、それらのご意見が示す低い評点が先々の負債として重くのしかかってきます。アプリストアにおけるレビューの点数はユーザーの信頼や獲得に大きく影響を及ぼす部分なので、サービスのすべり出しや継続的な成長を考えると、早めに何かしらの手を打たなくてはなりませんでした。

実際さきほど述べた通り、トクバイに何かしらの価値を感じて、好意的に使い続けてくれているユーザーさんも少なからず存在しています。そこでこれらのユーザーさんのポジティブな声を顕在化させるべく、レビューで応援してもらえるような施策を入れることにしました。

一般的にレビューはポジティブな体験やそのサービスの主要な体験のあとにお願いすると書いてもらいやすいと言われています。ただ現状トクバイでは行動の完結や何かにコンバージョンするという部分がわかりづらいので、ユーザーストーリーから仮説を立てていきました。

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今回の場合は、ターゲットユーザーが忙しい一日を終え、ほっと一段落して明日の買い物計画を考えるときにトクバイでチラシを見る、というストーリーをポジティブな体験のひとつと考えました。よって、夜一定の時間にチラシを見終わった際に、レビューのお願いをするという流れになります。

ポイントとしては、開発側の利益ばかりを優先するのではなく、ユーザーに負担をかけないタイミングを考慮することです。いくら継続率が高いからと言って忙しい朝に出すと、逆にユーザーのストレスを買ってしまうことになりかねません。

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施策の細かい解析やチューニングには、Re:dashというログの可視化ツールや、簡単にA/BテストができるFirebaseなどを用いました。結果として、狙った時間に評価の高いレビューを多く書いていただくことができ、全体の平均点が順調に回復していく様子も確認できました。施策としては成功したと言える部類だと言えるでしょう。

通常だとこの時点でめでたしめでたし…となりがちです。しかしここで、ケーススタディ1と同様に、「これで本当にいいんだっけ?」という問いを立ててみます。

仮説からの結果を次に繋げる

この施策が成功したことによって、当初立てた仮説に「ある程度の確からしさ」が出てきます。このストーリーを裏付けられるということはアプリの満足度やサービスの価値を感じてもらっているタイミングの検証にもなるので、この仮説をより確かなものにしていったり、別の施策に活かしていくことで、アプリ全体の品質や満足度をあげることができるのです。

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例えば昼にレビューのお願いを出しても結果に差が出ないのかを検証し、得られた結果を分析することで、そこから次に繋がる施策を考えることができます。またそもそも明日のチラシ情報に対する意欲が高いという仮説が立てられるのであれば、明日の買い物の計画を立てやすくするための施策を考えることもできます。

つまり、目の前の課題解決だけではなく、その仮説から出た結果や数値をいかに次に繋げ、サービスの価値を連続的に大きくしていけるかということが大事なのです。

まとめ

この2つのケーススタディにおいて共通に言えることは、単発の施策に終わるのではなく、連続的なアクションで価値を生み出し続けていくことが大事だということです。

私たちはデザインの仕事をしているわけですが、ただアプリのUIを綺麗に整えているだけではなく、サービス自体の持つ価値や体験をデザインしているはずです。私で言えば、「楽しい買物を、増やす」というビジョンの達成や、その価値をユーザーさんに届けるために日々デザインという仕事に取り組んでいます。

デザイナーの役割として、こういった中長期のビジョンを見据え、その過程をデザインしていくという意識を持つことが重要だと考えるのです。


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