アイトラッキングとは、多くの注目を集める方法です。
アイトラッキングは、ユーザーの視線を追う機械を使い、ユーザーがなぜそのような操作や行動をしたのかを類推する手法で、嘘発見器とMRIを融合したようなものとされています。
結局のところ、目は嘘をつかないのです。
しかし、アイトラッキングは必ずしも万能ではありません。多くのUXメソッドと同様に誤った使い方をしてしまう可能性があります。Jared Spool氏が、「アイトラッキングソフトウェアを買うくらいなら、ウィジャボード(降霊術に用いる文字盤)を買う」と言った程です。
アイトラッキングは、経営層が好みそうな、説得力のある映像データを出します。しかし、経営層を引き付けるという魅力の一方で、調査の結果としては不十分であることが多いのです。
悪評はあるものの、アイトラッキングはほかの方法ではわからない調査結果を導くことができます。もっとも効果的なのは、視覚とアイトラッキングソフトウェアが生成するほかの指標やデータと組み合わせたケースです。
目の動きと位置を確認することで、研究者は被験者の視野内に対象となる要素があるかどうかを知ることができます。これは、被験者がデザイン要素を認識し理解しているかどうかを判断する上で、十分ではないにしても欠かせないステップです。
たとえば、ユーザーがボタンをクリックしなかった場合に、ボタンがユーザーの視線上にあるかどうかをアイトラッキングで確認することができます。もしボタンがユーザーの視線上にあったら、ユーザーはボタンを認識していないか、または意図を誤解している可能性があります。
アイトラッキングの視覚化
ここでは、アイトラッキングを視覚化する4つの手法と、その適用方法を紹介します。
1. ヒートマップ
調査中のある被験者(またはすべての被験者)がどこを見ているのかを示すものをヒートマップといいます。 ヒートマップは、温度がない天気図と似ていますが、気温の代わりに注視点がプロットされています。 注視点とは、100〜500ミリ秒(10分の1秒から0.5秒)間に見られている場所です。注視点が集中すればするほど、色がより赤くなります。 図1aのヒートマップは、Zapposのホームページを見たある被験者のもので、1bは13人の被験者のものです。
2. フォーカスマップ
注視点が多いほど、ヒートマップではユーザーの見ている部分がわかりにくくなる可能性があります。そこで、代わりとなる選択肢として、フォーカスマップ(SMIがそう呼んでいるもの)が挙げられます。基本的にヒートマップとは逆で、ユーザーの注視が多い程ページが明るくはっきりとみえます。暗い部分は、注視が少ないことを示します。
3. 視線の軌道のプロット
アイトラッキングでは、視覚化に時間を加える機能が十分に活用されていません。 ほとんどのアイトラッキングは、画面を流し読みする際の視線の動きと注視点を繋げる機能を備えています。視線の動きや、流し読みの道筋により、研究者は被験者がどのコンテンツに興味を持っているか、またコンテンツ自体を見ているか知ることができるのです。視線の軌道は静止画像(図3)またはムービー(図4)で見ることができます。大きい円は注視時間がが長いことを表しています。
4. 視線の軌道を集計する
注視点と注視点間の素早い動きを組み合わせると、多くの軌道が表示されます(図5)。一見かっこよく思えますが、見た人にとって情報量が多すぎる可能性があります。その解決策として、ユーザーの視線の動きを遅く表示します。すると、注視点間ごとの軌道パターンが明確になり、プロットを使用した調査がしやすくなります。
アイトラッキングの指標
アイトラッキングの視覚化は、旅行を計画する際に使う地図に似ています。しかし、地図は旅全体を鳥瞰することしかできません。そのため、質問により正確に答えるには(旅にかかるであろう距離と時間について)、時間と距離の指標を組み込む必要があります。アイトラッキングにも同じ考えが適用されます。
アイトラッキングの指標では、ページ上の関心領域やAOI(Area of Interest)と呼ばれる部分と、ユーザーの注視点や時間などの指標を組み合わせます。すると、ユーザーがページのどの部分を見ているか、どのようなコンテンツを認識しているかを正確に判断することができるようになります。
滞留時間
被験者がAOI内で注視したり、ただぼんやりと見ているだけの時間は、滞留時間と呼ばれます。 AOI、またはデザインの滞留時間を比較することができます。 たとえば図6は、8つのAOIごとでの、2つのデザインの平均滞留時間を示しています。 被験者は、最初のデザインよりも2番目のデザインのヘッダー、ヘルプエリア、フッターに多くの時間を費やしていました。 このデータはほかのタスク観察を組み合わせることで、さまざまなユーザー体験をより理解するのに役立ちました。
注視点の数
AOI内の注視点の数も、仮説を検証するための別の指標となります。 似たような結果となった図7では、2番目のデザインのヘッダー、フッター、およびヘルプリンクが最初のデザインよりも注視された回数が多いということがわかりました。 注視点の数は、滞留時間と似たような結果をもたらしますが、常に同じではありません。
また、より正確な研究結果を得るために、注視点をさらに分析することもできます。 たとえば、AOIで被験者が最初に注視するまでの平均時間は、どのくらい素早くページ上の要素に気付くかという指標であるとも解釈することができます。
まとめ
アイトラッキングはすべてのUXリサーチの疑問を魔法のように解決することはできません。
しかし、被験者の視野内にどのようなデザイン要素があるのかを知ることによって、知覚に関するアイデアが得られます。プロットと指標を適切に組み合わせたアイトラッキングは、視覚と関連のある研究に対して非常に有効です。
一般的なアイトラッキングの視覚化には、ヒートマップ(ユーザーがどこを見ているかを観察する)、フォーカスマップ(ユーザーが見ていない場所を観察する)、視線の軌道(ユーザーの視線の動き)、視線の軌道の集計の4つがあります。また、一般的な測定基準には、関心領域内での注視(クイックルック)と滞留時間(合計時間)の2つがあります。