UXライティング
今、Webデザイン業界で新たに注目されている仕事があります。正確に言うと「新たな」仕事ではないかもしれませんが、急速に関心が高まっていることは間違いありません。GoogleやAmazon、またDropboxやPaypalなど数多くの大企業の間でUXライターに対する需要が高まっています。一時的な流行に思われるかもしれませんし、表立って騒がれていることでもありませんが、ライティングにスポットを当てたUXデザイナーは、今後一層UXデザインの重要な部分を担うでしょう。
私は大手IT系企業がどのような職種を優先的に求めているかチェックしてきました。そして2016年の求人では、AmazonやGoogleなどの大手IT企業、またそのほかの中小企業がUXライターを募集していました。
何年も前に、私も一度UXの仕事にたまたま携わったことがあります。そのとき、コピーライティングはマーケティング部門のみが行う仕事ではない、という事実に企業が気付きだしたことは、ライターとしてとても喜ばしいものと思っています。これまで私が行ってきた、インターフェイスの見出しやコールトゥアクション(CTA)内の記述など、あらゆるライティングの仕事を思い返して、ついにUXライターの時代が到来したと実感しています。
一方で、「UXライターの時代」というのは単なる文字上での話ではないということにも気付かされます。今日のUXの現状として、テクノロジーは私たちの生活に溶け込んでいます。たとえば、食料品を注文するために機会と会話をしてオーダーしたり(シアトルでは、マシンとやりとりする買い物が可能です)、口座残高を電話で確認するときは、自動応答システムを利用します。またテレビゲームでは、Xboxとやり取りしてゲームを始められます。バーチャルリアリティーの世界では、何も触らなくても、声だけで操作を行うことができるようになりました。
グラフィックユーザーインターフェイス(GUI)と音声のユーザーインターフェイス(VUI)との間には重複する部分が多くあり、両方に対応する新たなスキルが開発者には求められます。つまり、UXのプロは、語り口調などの会話的なデザインに関して十分に理解していることが必要です。
では、UXライティングが何であるか、どのような企業がUXライターを求めているか、そして一般的に良いと言われている実践法について解説していきます。
UXライティングとは?
ニーズの高まっているUXライターという役割について、私はここ数カ月にわたり関心を寄せてきました。この職種に関する記述を収集し、実際にUXライターの人たちへのインタビューも行って、UXライティングについて理解しようと努めました。その甲斐あって、自分なりの結論に到達することができました。
これまでの私のリサーチ結果に基づいて言うと、UXライティングとはユーザーとの間にタッチポイントが生じるときに、コピーを書くことです。コピーの文面は、単に企業の宣伝文句を集約しただけではなく、ユーザーにとってわかりやすく使いやすさを考慮したものでなければなりません。
コピーの文章そのものというよりはUXのスキルに対する評価となってしまいますが、優秀なUXライターの例があります。メール配信サービスを行うMailChimpは、ユーザーがニュースレターを送信するとき、確実に送信できているのかどうか不安に感じているのではないかと考え、送信成功のメッセージが表示されるデザインにしました。その結果、ただステータスを表示するよりも送信時のムードを明るくして、ユーザーを喜ばせることができました。
UXライターの役割に関する記事や記述をいくつも見てみると、共通の仕事内容があることがわかりました。
リサーチ
全体として、UXライターはUXチームの中でも重要な役割を担い、ユーザーを中心としたデザイン構築を実施する中で、ユーザーに関するリサーチを先導したりパートナーとして参加したりすることが求められます。あるネット広告代理店の募集要項を例として紹介しましょう。
顧客インサイトを明らかにし、コンテンツと全体のデザインを繰り返し見直すことで、革新的な製品・機能を提供する。
ライティング
ライティングがUXライターの中心的な仕事であることは、不思議ではないでしょう。ここで言うライティングとは、ただ単に文章をうまく書けるのではなく、「選んだ言葉の一字一句について説明ができる」というレベルの話をしています。Googleでは、ライティングチームのことを「言葉を使って命を吹き込む人たち」と呼んでいます。Amazonの求人リストでは以下のように述べられています:
クリエイティブな発想とリーダーシップを組み合わせ、人々の記憶に残る斬新なコピーライティングを作り出し、新たなアイデアと体験を世の中に届けましょう。
協調性
UXライターの話だけに限ったことではないでしょうが、求められる職務として、チーム間の協力がUXライティングにおいて重要であると言われています。協調性はどのようなタイプのライターでも、プロとして仕事をしている人にとっては当たり前のことでしょう。ライターなら誰でも、言葉に対する理念を持っています。ある求人リストの中では、以下のように記述されています。
トラブル発生の恐れがないコピーにするために、チームの垣根を超えて、マーケティングや法的事項、ビジネス開発分野の意見を集約してください。
ほかにもUXライティングの記事の中で、挙げられている仕事内容があります。すべての仕事に例外なく挙げられるものではありませんが、いくつか例を紹介します。
- 編集に関する戦略を考案・実行する
- コンテンツ戦略を考案・実行する
- マーケティング用の文章を作成する
- ユーザー向けトレーニング用ツールの文章を作成する
私がこれまで求人要項を見てきた中で、上記のようなUXライティング特有ではない職務がさまざまな理由から求められているようです。まず組織にとって、インターフェイスのコピーだけを専門的に書く人材を雇うことは現実的といえず、さまざまな能力を持つ、器用な人材が求められることが挙げられます。ほかにも、コンテンツ戦略や編集の知識に対するライティングスキルの関係性を十分に理解できていない、雇用主側が理解に乏しいことなどもあるでしょう。いずれにせよ、さまざまな能力を発揮できる人材が明らかに有利と言えます。
UXライター特有の役割と、そうでない役割を区別してとらえることは重要なことでしょう。UXライティングに特化したトレーニング方法が存在しない以上、現在活躍しているUXライターが色々なスキルをもっているのは自然なことです。しかし、UXライター特有の役割が、以下のような職務と混同されるのは防ぐべきです:
- 技術ライター:経験に基づく話ではなく、明快さや正確さを第一に記事を書くライター
- コンテンツの戦略構築者:ライティングの部門に限らず、あらゆる場面でコンテンツのプランニングを行う人
- 情報の構築者:適切な情報を分類・選定し、戦略に合わせて構築する人
- マーケティング担当者:製品やサービスに対する新たな顧客の獲得を目的として、戦略を構築したりキャンペーンを実施したりする人
ここに挙げた仕事内容を詳しく知りたい人は、私のWebサイトにさまざまな仕事を詳述したリストをのせています。好きなだけ読んでください。
企業はUXライターに何を求めているのか?
UXライターとはどのような職業か、なぜUXライターの重要性が高まっているのかは、もうおわかりだと思います。ここからは企業がUXライターに対して、全体的にどのような素質を求めているのか見ていきましょう。
ものを書く上での教育的バックグラウンド
これはほとんどの企業から求められます。UXライターを雇用する企業は、ジャーナリズムや技術ライティング、創作系ライティング、PR系ライティングなど、とにかくどんなことでも書くことに直接関係する研修を受けた人材を探しています。これは「伝統的な」UXの役割と比べるとかなり異なっており、インターフェイスなどに特化するよりも、デザインをユーザーに対して効果的に伝えられる能力が期待されているのです。
私は多くのUXライターに会ってきましたが、ほぼ例外なく彼らは編集に関するバックグラウンド(たとえば、過去にMicrosoft Encartaのサイエンスエディターをしていた)とジャーナリズムのバックグランド(たとえば、過去に技術系のジャーナリストをしていた)の両方を兼ね備えていました。
魅力的なライティング能力(そしてそれを実証できること)
UXライターの募集を行う企業は、ビジュアルデザイナーと同様に、仕事における選択内容についてきちんと説明できるライターを積極的に探しています。ラベルを選んだとき、ライターはなぜそのラベルがほかのものよりも良いと判断したのか、リサーチに基づいた形式で説明できなければなりません。先ほどのMailChimpの送信完了メッセージを例にとりましょう。ライターは「『ハイタッチだ!』が『ニュースレターを送信中です!』よりなぜ良いのですか?」と質問されたとします。これに対し、ライターは「私たちのリサーチ結果では、ユーザーはきちんと送信されているかを多少なりとも不安に感じていることがわかりました。さらに私たちが親しい企業の声を受けて、このハイタッチという言葉が、確実に作業が完了したことを伝えるのに最適なフレーズであると決定しました。」などのように回答するでしょう。
これはたとえばの話ですが、まさに私が伝えたいことです。UXライターは企業とのミーティングの際に、なぜその言葉を選んだのかはっきりとした理由を求められることでしょう。比較的短いフレーズにするか、もしくは一続きの文章にすべきかどうかや、ナビゲーションバーの単一ラベルについてなども、自分が選んだ理由を明確に説明する必要があるのです。
柔軟性とひらめき力
UXライターの役割はまだ新しく、多くの企業において職務内容がまだ明確になっていません。つまり、UXライターは瞬時に判断し、迅速に行動しなければいけない環境において、自分自身で仕事の役割を決めて、多岐にわたる業務分野を効果的にこなさなければならないのです(一般的なワイヤーフレームやガイドラインを作成したり、また編集における戦略プランを構築したりもすることがあるでしょう)。
まだ見ぬ未来へと進んでいくUXライターという仕事
テクノロジーは、私たちの日常生活により溶け込んできています。それに伴い、直感的に適切な言葉選びの能力に長けた人材への需要がさらに高まっています。
UXライターはやりがいのある役割であり、ライターが会話的なデザインに関する経験をテクノロジーの領域で発揮できる機会があることを、私はワクワクするものだと思っています。
UXライターを目指す人のために、ライターとしての実践法を学ぶだけでなく、ほかの人に指導するのにも利用できるような情報サイトを紹介します。
- この技術系ライティングのガイドは、「技術系ライティング」の専門書である一方で、非常に専門的な用語を必要としているライターにとっても有益なリソースとして活用できます。
- Harvard Business Reviewでは、ライティングの技能を保有している企業ほど優良であることが解説されています。
- The Center for Plain Languageのサイトでは、法律から医療、ITなどあらゆる分野にわたり応用できるルールを紹介しており、簡潔な言葉を使用することの重要性を強調しています。
- この記事は会話的なインターフェイスの導入に最適です。
- 会話的なインターフェイスに適した良い記事がほかにもあります。
- 最後に、会話的なインターフェイスにもっとも適した実践方法がこちらから見られます。