デザインにおけるシナリオは、ユーザーの行動に関するアイデアを伝えるのに役立つツールです。シナリオを描くことで、アイデアが明確化されて、クリエイティブなアプローチをすることができます。何より大事なのは、デザインが現実的であるかどうか確認し、初期段階から「ユーザーは何を求めているか、ユーザは何が必要か」という観点のアプローチができる点です。
一般的にユーザーシナリオは、システムの鍵となるインタラクションを掴むためにデザインされ、それは必ずしもすべてのインタラクションを浮き彫りにするためではありません。
ユーザーシナリオとは?
ユーザーシナリオとは、端的に言えばユーザーが到達したいアクションやゴールに辿り着くまでの基本的な流れのことを言います。たとえば、ケビンは友達の誕生日のために、今日中に配達してくれるCDをネットで買う必要がある、というようなものです。もちろん、シナリオはもっと具体的かもしれません。ですがどのような場合でも、ユーザーシナリオにおいて、誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どうやって解決するのかを考えるのです。
ユーザーシナリオは、何が今システムや環境で起こっているかを描写する際や、システムや環境内で起こりうる行動を描写する際に使われます。
また、ユーザーシナリオはユーザビリティテストを設計するときにも役立つでしょう。被験者がシステム内の重要なタスクに焦点を絞れるようにしてくれます。
Appleの創設者であるSteve Jobs氏は「デザインは、どのように見えるかでもどのように感じるかでもない。どう機能するかだ。」と述べました。ユーザーシナリオを描くことで、自分のデザインがどのように機能するかを調べることができるのです。
開発者がユーザーシナリオを描くときによく使われるやり方は、上図に見られるようなUML(Universal Markup Language)です。
ユーザーシナリオはいつプロジェクトで使われるべきか
プロジェクトを進める過程の多くの場面において、ユーザーシナリオを描くことは有効な手段になるでしょう。その中でも、もっとも効果的な、3つの具体的な場面があります。
- アイデア出し ー 新しい製品を生み出そうとしているとき、シナリオマップがあればチームやユーザーのアイデアをとても探しやすくなります。また、タスク解析のように、共有されたプロジェクトのビジョンをまとめるのにも役立ちます。(下の方法をご覧ください。)
- イテレーション(反復) ー 製品を作ったばかりでまだ知識が浅く、今後将来のイテレーション設計に関わっていくことがあるでしょう。そのようなとき、既存の製品のユーザーを観察することで、短期間で簡単にシナリオマップを作ることができます。(これは1人でできるので、以下に挙げる方法は必要ありません。)
- ユーザビリティテスト ー ユーザーシナリオは、ユーザビリティテストにおいてどれがもっともテストする必要度が高いエリアなのかを決めて、ユーザビリティテストがどう行われるべきかについての指針を決めるためにも使うことができます。
ユーザビリティテストはUXの仕事において決定的に重要な部分です。ユーザーシナリオを考えることで、ユーザーがテストする流れを考え出しやすくしてくれます。
ユーザーシナリオマッピングのやり方
ユーザーシナリオを作るのは、実はかなりシンプルなプロセスです。以下をご覧ください。
- まず、クリエイティブな作業を行うために使うことができる場所を探します。邪魔されたり、邪魔してしまったりすることなく、グループディスカッションできるような場所が必要です。このセッションにはおそらく2、3時間かかるでしょう。
- 次に、UXチーム、開発チーム、製品マネージャーなどの、セッションに関係する人々を招待します。ですが多すぎるのは問題なので、萎縮してしまうことなく全員が貢献できるように、多くても7名が良いでしょう。
- ポストイットやフリップチャートのような紙を用意しましょう。アイデアを形にしてみんなの前で発表することができます。部屋の壁にくっつきにくい場合に備え、セロテープやブルタックも持って行きましょう。
- 参加している全員に、目的は何か、ユーザーシナリオは何かについて説明します。みんなが同じ認識を持っているのは良いことですが、あまり時間を費やしすぎないようにしましょう。チームの創造性を最大限発揮してほしいのに、説明ばかりで部屋の隅であくびをされては意味がありません。
- ユーザーのペルソナがわかっていると理想的です。というのも、ペルソナは最初のユーザーシナリオを描く際に役立つからです。インタラクションにおいてユーザーがやらなければいけないことを考えましょう。そうすることで、シナリオに含まれるべき事項がおのずとわかってきます。
- シナリオをできる限り正確にするために、コンテキストを共有する必要があります。誰が、何を、いつ、どこで、なぜという詳細はシナリオに彩りを与えて、ユーザーと関連付けしやすくなります。
- いよいよ、ユーザーの立場から(ペルソナを参照して)シナリオを少しずつ進めていく段階です。ユーザーは何をするでしょうか? どんな情報を必要としているでしょうか? どんな質問に答える必要があるのでしょうか、あるいはユーザーが答えるためにあなたは何をする必要があるのでしょうか? 成功させるために、どんな仮定をする必要があるでしょうか?
- 最後に、シナリオに当てはまりはしないが、関連はしているアイデアをチームから集める必要があります。
- それぞれのシナリオを完成させたら、実際にポストイットなどに書いて壁に貼りましょう。シナリオをグループにまとめると、より簡単に理解でき、生じるギャップに気づくことができます。
アイデアをグループ分けすることで、アイデアのつながりを作りやすくなります。上の写真のように、紐を使って(もしくは矢印を描いて)アイデアを繋げることもできます。
- ユーザーが製品で行うすべての重要なタスクのシナリオを作り終わるまで、各シナリオでこのプロセスを繰り返します。
- 作り終わったうえで、さらなるシナリオが必要でしょうか? ここで問わなければならないのは、「ユーザーの満足、ビジネスの成功のために、どんなタスクを行なうべきか。」ということです。(ユーザーの満足ではなくビジネスを成功を目指すようなタスクはめったにないことに気づくべきでしょう。)
- すべてのシナリオが完成したら、できあがった壁の写真を高解像度で撮って(部屋を移動しなければならなくなったとき、すべて書き移す手間を削減できます。)書いたメモが写真上で読めるかどうか確認しましょう。
- 最後に、すべてのデータをスプレッドシートやフローチャートなどに落とし込み、ステークホルダーなどと共有し、フィードバックをもらいます。フィードバックは具体的で詳細なものであればあるほどよく、「好きじゃない」などの感想や意見はフィードバックにはなりません。「我々のハードウェアはXYZの機能をサポートしていないから、うまくいくとは思えないな。」というような具体的な発言だったら役立つフィードバックになります。この発言から、ほかの選択肢を考えたり、プランの変えたりすることができるからです。
上図はユーザーシナリオを集めて作られたユーザーストーリーの例です。デザインと開発のプロセスをガイドしてくれます。
最後にもう1点。シナリオマップは、システムや製品に起こりうるあらゆるインタラクションを代表するためではなく、むしろ1番大切なインタラクションをとらえるためのものです。すべてをカバーしようとすると、特に複雑な商品であれば、シナリオマップにおける将来のイテレーションはより入り組んでしまうでしょう。(1つの変化がシナリオの幾つかに、波状的に影響を及ぼすため)ですから、すべてのインタラクションの質を高いレベルに保つことが大切です。
まとめ
ユーザーシナリオは、ユーザーがシステムで行う重要なタスクとコミュニケーションを取るのにとても良い方法です。プロジェクトが完成したときに、ユーザビリティテストの体制を整えるのにも役立ちます。ユーザーシナリオを作るのはシンプルなプロセスなので、どのUXデザイナーも、商品の開発とイテレーションの手段に加えるべきでしょう。
リファレンス
ユーザーシナリオの成功事例はこちらです。(アクセシビリティ解析に使用)
http://www.uiaccess.com/accessucd/scenarios_eg.html
英国政府のユーザビリティサイトから、ユーザーシナリオを使う上で役に立つ鍵がわかります。
http://www.usability.gov/how-to-and-tools/methods/scenarios.html