UX関係者の間で、エモーショナルデザインが注目されています。 エモーショナルデザインとは、ユーザーの感情を考慮したデザインを取り入れることによって、期待を超えたユーザー体験を提供しようとする試みです。つまり、エモーショナルデザインを提供するためには、感情に関して理解しなければなりません。そこで、感情を理解するために役立つものがPlutchik氏の「感情の輪」です。
ユーザーに愛されている製品は継続して使用されますが、好かれている程度の製品であれば、ユーザーはより良い製品を求めて心移りしてしまうものです。エモーショナルデザインの基本的な思想は、印象的なユーザー体験を提供することにより、製品に対するユーザーの愛着を生み、継続的に使用したいという思いを引き出そうとするものです。
心理学者のRobert Plutchik氏は、感情に関する研究の権威であり、2006年までに8冊の書籍、約300本の記事と45本の論文を残し、同年に7冊の書籍を執筆中に亡くなりました。
Robert Plutchik氏は博士号を持ち、2つの権威ある大学で教授として活躍しました。
Plutchik氏の感情に関する心理進化論
Robert Plutchik氏は感情の心理進化論を考案しました。心理進化論では、感情を基本感情とさらに基本感情に対応する感情に分類します。Plutchik氏は、基本感情は進化論と同様に発達してきたが、基本感情に対応する感情は、環境変化に伴って、生存可能性を最大限に高めるために発達してきたと説明しています。
Plutchik氏は感情に関する10の提言を述べました。
- 感情は、動物が人間へ進化を遂げる場合と同様に、あらゆる種類の進化段階において見られます。
- 感情は、種類ごとに異なる進化をしており、表現の仕方も多種多様だと考えられます。
- 感情は、大きな環境の変化に直面した際に、生物が生存するために発達させた生存対応です。
- 感情は、種類ごとに異なるメカニズムで表現されますが、すべての生物において共通にみられる感情の要素もあります。
- 主要な基本感情は8つあります。
- 基本感情以外の感情は、8つの基本感情同士を組み合わせたものか、もしくは基本感情の1つ(または組み合わせなど)から派生したものです。
- ここで説明している基本感情は「理想化」された表現であり、なぜそのような性質になるかを定義していく必要がありますが、すべてを正確に説明することはできません。
- 各基本感情には対となる正反対の感情があります。
- 感情は共通性で分類できます。
- 感情は強さでも分類できます。
Plutchik氏は基本感情として以下の8つを挙げています。
- 怒り
- 嫌悪
- 恐れ
- 悲しみ
- 期待
- 喜び
- 驚き
- 信頼
感情の輪
Plutchik氏は基本となる8つの感情をベースに、感情の輪を作成しました。 感情の輪は、感情ごとの微妙な違いの理解や対比するときに役立ちます。
さらに、Plutchik氏は感情の輪を2次元と3次元の2種類のモデルを作りました。 3次元モデルは、「感情の円錐形モデル」であり、1980年に初めて紹介されました。
2次元モデル(感情の輪)は、デザイナーが感情の複雑さの検討したり、エモーショナルデザインをする際の「カラーパレット」として使用します。異なる感情を掛け合わせることで、さまざまなニュアンスの感情を表現できます。
感情の輪はシンプルなモデルでありつつも、より詳しい感情も付け加えられているため、複雑なモデルとして描かれます。それでも、多くのデザイナーがユーザーから引き出したいと考えている基本感情に焦点を当てたモデルなので、エモーショナルデザインの出発点として役に立ちます。
対となる基本感情
対となる基本感情は以下の通りです。
- 喜びと悲しみ
- 信頼と嫌悪
- 恐れと怒り
- 驚きと期待
Plutchik氏の感情の輪によると以下の感情の組み合わせがあります:
- 期待 + 喜び = 楽観(対になるのは悲観)
- 喜び + 信頼 = 愛(対になるのは後悔)
- 信頼 + 恐れ = 従順(対になるのは軽蔑)
- 恐れ + 驚き = 畏敬(対になるのは攻撃)
- 驚き + 悲しみ = 悲観(対になるのは楽観)
- 悲しみ + 嫌悪 = 後悔(対になるのは愛)
- 嫌悪 + 怒り = 軽蔑(対になるのは従順)
- 怒り + 期待 = 攻撃(対になるのは畏敬)
Plutchik氏の感情の輪に対する批判
Plutchik氏の感情の輪に対する最大の批判は、「自尊心」と「恥」の組み合わせを考慮していないため不十分である、というものです。
「自尊心」と「恥」は、デザイナーが良く使用する表現です。たとえば、ゲーミフィケーションでは、スコアボードやバッジを活用してユーザーの自尊心を引き出そうとします。また、慈善団体や活動団体は「恥」の感情を上手く引き出して、活動を促します。
さらに、感情の輪があまりにも単純化されすぎていて、必要なニュアンスが十分に考慮されていないという批判もあります。
しかし、デザインが引き出せるユーザーの感情について考える際、感情の輪が良い出発点であることは一般的に知られています。また、デザイナーが感情の輪に足りないニュアンスがあると思うのであれば、必要に応じてツールを追加すれば良いのです。
まとめ
感情の輪には、単純化されすぎているため一部の主要な感情を表現しきれていないという批判はあります。しかし、UXデザイナーが引き出すことのできるユーザーの感情を考慮し、製品設計をする上で役に立つツールであることは確かです。