ほとんどのWebサイトのデザイナーは誠実なユーザー体験を提供しようと努力しています。しかし一部には、コンバージョン率を上げるためなら何でもしてしまうデザイナーもいます。ユーザーをだまして特定の行動を取らせようとさえするのです。
Web上でのインタラクションはどれもある程度のリスクをはらむものですが、一線を越えてしまい、犯罪行為ともとれる非倫理的なWebデザイン手法もあります。「ダークパターン」とは何かを学び、これを避けることで、きわめて悪質な間違いを回避しましょう。
ユーザーの行動をうながすこととだますことの境界線
疑わしいページに誘導するクリックベイト、「コンピューターウイルスを防ぐならクリック」という嘘のポップアップ広告、専門用語で注意を引こうとするスパムメールなど、どれも経験したことがあるでしょう。25年前にワールドワイドウェブ(World Wide Web)が普及したと同時に、サイバー詐欺師もまた生まれました。Webに精通したユーザーならば、ほとんどの詐欺を特定して回避する方法を知っているでしょう。ですが残念なことに、非倫理的なWebデザインによって真実と嘘の境界線はぼやけてしまい、嘘を見つけにくくなっています。
ユーザーはインターネットを、ある程度注意しながら閲覧しています。ほとんどの人は、デザインの悪いサイトや迷惑なポップアップ広告のようなものを経験することで、慎重に閲覧することを学んできました。
一方で、ユーザーはサイトを盲目的に信頼することが多すぎるあまり、個人情報を盗まれたり、ウイルスに侵入されたりするなどのサイバー犯罪の犠牲になってきました。このようなサイトでは、Webサイトのデザイナーは、ユーザーに疑いを持たせないまま罠にかける方法、UI開発におけるダークパターンを用いているのです。
ダークパターンとは
UIはWebサイトのデザインと機能性の要になります。 UIのダークパターンとは、ユーザーをだまして、誤って登録させたり購入させたりするためにWebサイトやアプリで使われる罠のことです。 UIデザインにおけるダークパターンの目的は、登録や購入をするまで、ユーザーからサイトや会社の本当の意図を隠すことです。
企業は、読者の多くはWebコンテンツを流し読みするという事実を利用して、ダークパターンを使用しています。
非倫理的な企業は、特定のフレーズを太字または大文字にして、真実を見つけにくくしている場合があります。たとえば、本当のことはページの一番下に細々と書かれている場合があるでしょう。そうなるとサイトを閲覧している人は、企業が伝える事実とは異なることを信じてしまいます。ダークパターンが危険なのは、製品の購入や購読など、ユーザー本人が想定していなかった行動を取るようにユーザーをだますことができるからです。
一部のサイトは、自分たちが使用している販売戦略がダークパターンであることを認識していない場合があります。たとえば、押し付けがましいセールス広告や、ページのコンテンツを閲覧するために閉じる必要がある広告などは、多くのサイトで使用されている手法です。しかし、このようなダークパターンは徐々に受け入れられなくなってきています。
ポップアップ広告やメール購読をすすめるポップアップなどの邪魔なインタースティシャル広告があるWebサイトに対して、Googleはペナルティを与え始めています。これはユーザーが不審な方法にうんざりしているからであり、検索エンジンもこれに対応を始めています。
ダークパターンのよくある事例を学ぶことで、ユーザーの好意を失い順位を落とさないようにしましょう。
いけないことだと思わせる
現在Webサイトでもっとも見られるダークパターンの1つは「いけないことだと思わせる」ことです。メール購読のポップアップ(サイトを閲覧する前にメールアドレスを要求するウィンドウ)を、拒否するのは悪いことだと思わせる文章とともに表示します。
たとえば、Elle.comを訪問すると、「美しい肌を手に入れましょう」というライトボックスの広告が表示されます。ボックスを消すには、メールアドレスを入力するか、「結構です。美しい肌には興味ありません。」というフレーズをクリックしなければなりません。このような相手を困らせるフレーズは、いけないことだと思わせるダークパターンの1つの例です。メールアドレスの入力をせず、会社のマーケティング戦略に沿えなかったことで、ユーザーにいけないことをしてしまったと思わせます。
一部のWebサイトでは、「いいえ、私は全額を支払います」というような言葉を使って、メール割引を受け取ることに同意しないことを、ユーザーにばからしく感じさせています。いけないことだと思わせる手法は、メッセージを伝える比較的無害な方法に思えるかもしれませんが、実際には、企業に不快感や不適切なイメージを持たれ、ユーザーからひどく嫌われてしまいます。このライトボックスはサイト訪問者にとって危険を察知するシグナルになっていて、売り上げの喪失につながることさえあるのです。
ごきぶりホイホイ:入ったら出られない
「ごきぶりホイホイ(roach motel)」は、Web上に広がるもう1つのダークパターンの戦術です。ゴキブリを餌で誘い出して捕まえる製品にちなんで名づけられました。「ごきぶりホイホイ」はユーザーに登録や購読してもらうためのWebデザインの罠で、一度登録すると、容易に登録解除をできないようにするものです。この手法では、登録が非常に簡単で魅力的に見えますが、登録が望ましくないことにユーザーが気づいても、リストから名前を削除することはほとんど不可能です。
Webデザイナーは、ひっかけ問題や、ユーザーが広告の受信を解除するためにチェックボックスを外す作業に、この戦術を用います。
マーケターは意図的にこれらのボックスを不均等に配置することで、ユーザーを混乱させ、メールや広告を受け取ることに間違って同意する確率を高めています。あとでユーザーが自分のしたことに気づいても、登録解除ボタンは見つけにくいかもしれません。または、問題を解決するためにはカスタマーセンターに電話することを強いる会社もあるかもしれません。 ゴキブリ捕獲機は、無意識のユーザーをだますためにデザインされたもう1つのUIのトリックです。
クリックベイトと過激なコンテンツ
クリックベイト(編注:クリックさせるための「釣り」のこと)はもっとも古いトリックのひとつですが、現在でもユーザーはこの罠に引っかかっています。クリックベイトはWebデザインにおける最悪なトレンドのひとつであるにも関わらず、いまだ広く出回っています。クリックベイトとは、ユーザーの注意を引き、クリックしてもらうことを主な目的としたインターネットコンテンツ(多くの場合はリンク)を指します。ですが、クリックしてもまったく無関係な内容のWebページを表示させるのです。
クリックベイトは釣り糸の餌ように、ユーザーを煽るコンテンツや流行のキーワードによって読者の注意を引きます。ユーザーが餌を掴むと、企業はリールを巻いて捕まえて、ポップアップ広告や電子メールのライトボックスを表示します。 クリックベイトの記事には、ユーザーが期待していた情報は記載されていません。 クリックベイトは、ある意味嘘の広告だからです。ユーザーを魅了してクリックしたいと思わせるために、誇張して表現しています。
たとえば、クリックベイトの記事には、「衝撃的な事実とは:ウォルマート従業員100人の調査」という見出しが付けられているかもしれません。このような言い回しを読んだら、何が衝撃的なのか気になってリンクをクリックしてしまうでしょう。記事を最後まで読むと、労働者が賃金に不満を持っていることや失礼な顧客に遭遇したことのような、何ひとつ衝撃的ではない情報しかないことがわかり、ユーザーは非常に残念な気持ちになります。これがクリックベイトです。
ユーザーをだますコンテンツ
ユーザーをだますコンテンツを作成することに、多くのサイトが上手くなっています。ユーザーをあざむいて、混乱させるコンテンツによって、特定の行動を取らせようとします。ユーザーをだますコンテンツがもっとも使われる場所は、メルマガや広告の登録解除です。多くのWebサイトでは、登録解除のページで複数のステップを用意し、ボタンに誤解しやすい言葉を使うことでユーザーを混乱させようとします。
わかりやすい例は、Daily Yahooから退会するためのUIです。 Yahoo!は、「Daily Yahooから退会してもよろしいですか?」というメッセージの真下に「いいえ、取り消します」と書かれた明るい青色の大きなボタンを配置しています。普通のユーザーは上の文言を読み落として、青色のボタンを押してしまうでしょう。このダークパターンは、購読をやめようとするユーザーをだまして「いいえ、退会したくありません(リクエストをキャンセルします)」という選択をさせるものです。
ユーザーはこの場合、強調されていない字体で小さく書かれた「はい、すべてのマーケティングメッセージから退会します」というボタンを見つけるだけの経験を積んでいることが必要です。しかし、Yahoo!のダークパターンはさらに手が込んでいます。「はい、このメルマガの購読を解除します」という似たようなメッセージが表示されるのです。
もしユーザーが大きな青色のボタンを押さなかったら、ユーザーは一番初めに「解除」と書かれているものを選択する可能性が高いでしょう。ここでは、ユーザーはメルマガの購読を解除しただけで、提供するすべての購読を解除できたわけではありません。このようなユーザーをだますコンテンツは、ユーザーが退会しようとする場面でよくあります。
どんなコストをかけてもダークパターンを除く
ダークパターンはユーザーをだまして、逃げられなくしたり、ダークパターンにはまるのを避けにくくしたりします。ダークパターンが危険なインタラクションをさせたことで、ユーザーは混乱し、裏切られたと感じ、トリックに引っ掛かったことを後悔するでしょう。1人の消費者、そして1人のWebデザイナーとして、ダークパターンは絶対に使用しないことをおすすめします。
現在のマーケティング戦術がどこか倫理的に疑わしいと思ったら、別の方法に変えましょう。消費者や検索エンジン、主要なソーシャルメディアのプラットフォームは、UIのダークパターンを見分けられるようになっていて、疑わしい行為にはペナルティを与え始めています。ダークパターンの魅力にとりつかれてはいけません。ブランドの評判を損なわないために、よくあるダークパターンのトリックを認識し、避けるようにしましょう。