ユーザーインタビューにおいて、ユーザーのインサイトを引き出すためには、信頼関係を築くことがもっとも大切です。
これはカウンセリングにおいても同じで、カウンセラーはさまざまな手法を用いてクライアントと信頼関係(ラポールとも言います)を構築しています。
今回はカウンセラーが信頼関係を構築する上で意識していることを、すぐに活用できるポイントに絞って紹介します。
基本的な心構えについて
一般的なカウンセリング技法として広く採用されている手法に、来談者中心療法というのがあります。これはカウンセラーがクライアントの心理状態を改善するのではなく、クライアント自身が自己の課題を見つけ、自ら改善に取り組むお手伝いをしていく手法です。
この手法を提唱したカール・ロジャーズは自身の論文の中で、カウンセリングにおいて欠かしてはならない態度として、下記の3原則を唱えました。これはユーザーインタビューにおいても非常に大切な心構えです。手法やツールに意識を引っ張られ、元々の目的を見失ったり、基本的な考えを忘れてしまったりしては、ユーザーとの信頼関係を築くことはできません。まずは取るべき基本的な態度をしっかりとおさえましょう。
1. 純粋性
カウンセラー自身が、自分の価値観や思考をありのまま受け入れた上で、クライアントに対して自分を隠したり誇張したりせず、等身大の自分として対面することです。
ユーザーインタビューにおいては自分自身だけでなく、自身の所属する組織やサービスについては事実のみ伝えるように心がけましょう。
2. 共感的理解
クライアントの価値観や感情を尊重し、最大限の想像力をもって自らのことのように共感し受け止めることです。
後述するテクニックは、この共感的理解があってこそ効果を発揮します。ユーザーの感じている世界を自分の世界であるかのように感じられるようになりましょう。
3. 無条件の肯定的配慮
クライアントの抱えている問題や、その問題に対する感情を否定せず、ひとりひとりが異なった物事の捉え方をすることを心から認め、尊重することです。
ユーザーはときとして、我々の思いもよらない反応を示すことがあります。そのような場合でも決して反論せず、そう感じた理由を柔らかく探っていくようにします。
インタビュー時に気をつけるポイント
ポジションは相手と90度の位置
ポジションについては、対面の位置だと敵対心を感じさせてしまい、隣り合う位置だと親密過ぎてしまうので、ユーザーに対して90度の位置が理想的です。どうしても対面でのポジションになってしまう場合は、ユーザーとの間になるべく物を置かないように気をつけてください。
インタビューは個室で行うことが多いと思いますが、ユーザーの座席は出口に近いところに設定することで、心理的圧迫感を軽減することができます。いくつか席を用意しておいて、ユーザー自身に好きな席を選ばせるのもOKです。
自己開示
人は初対面の人間に対して無意識に警戒心をもっています。自己紹介のときに少し個人的な話を含ませることで、この警戒心を和らげることができます。
一般的な自己紹介に加え、相手の共感を呼び、人間味のあるパーソナルな情報(子供や家族の話、生活の中の小さな失敗など)を付け加えましょう。
表情・目線・姿勢
表情は「穏やかなほほえみ」を基本とします。ネガティブな感情を話されたときは、口をへの字に曲げるなどして共感を表現します。相手が話しているときは適度にうなづき、相づちを打ちます。
相手の目をじっと見つめると相手に負担をかけてしまうので、口やあごあたりを見るようにします。姿勢は相手に安心感を与えるようにゆったり構えつつ、やや前傾姿勢を取り、 「あなたを尊敬している」「あなたの話を聞きたい」という情報を視覚的に伝えます。
事実に関する発言を要約して伝える
バックトラックと呼ばれる手法です。相手の話をしっかり聞いていることを相手に伝えることができます。
相手の言葉に使われている表現を若干変えることで、認識の差異を修正することもできます。
気持ちに関することは繰り返す
こちらもバックトラックのひとつです。相手の気持ちに関するキーワードをオウム返しすることで、共感を生み出すことができます。
しぐさや口癖を真似る
相手に親近感を覚えさせる、ミラーリングと呼ばれるテクニックです。この手法は広く知れ渡っているため、相手と同時に水を飲むようにするといった「あからさまな」真似にならないように気をつけないといけません。あくまでさりげなく行うことがポイントです。
声の大きさと話すスピードを合わせる
これはペーシングと呼ばれるテクニックです。相手の感情の高低に合わせて、我々も声の大きさとスピードをコントロールします。相手が同じ地方の出身であれば、方言を使うのも有効です。
おわりに
今回紹介したものは、広く知れ渡っているものも多く、実際にプロのインタビューアーは自然と実施しています。
しかし、「知っている」が「無意識にできる」になるまでは、場数を多く踏むことが大切です。いきなりすべてを実施するのは難しいので、ひとつずつでも取り入れていき、ユーザーのインサイトを引き出す助けにしてください。