アクセシビリティは、近年Webデザインにおいてもっとも議論されている話題の1つです。これは良い傾向でしょう。日々の生活がネットに移行するにつれて、できるだけ多くのユーザーがコンテンツやサービスを利用できるようにすることは重要です。多くの人が利用できるようにすることは、倫理的にも、ときには法律的にも推奨されます。
画像に代替テキストを設定するなど、アクセシビリティの一部はかなりわかりやすいです。しかし、デザイナーにとって問題になるのは、アクセシビリティのほかの側面があまり広く知られていないことです。順守すべきアクセシビリティを判断するサードパーティ製品を頼ることはできますが、どうやって実際にアクセシビリティを知ることができるのでしょうか?
デザイナーが抱える疑問はほかにもあります。Webサイトのアクセシビリティは、どこまでやれば十分だと言えるのでしょうか? 言い換えれば、サイトが必要最低限のアクセシビリティを越えるのはどの時点でしょうか?
この多くの疑問について、このテーマについて詳しく熱心な、アクセシビリティコンサルタントのJoe Dolson氏の助けを借りてみましょう。彼は私たちが直面するもっとも厄介な疑問について、知見を与えてくれます。
以下を読み進めて、Webアクセシビリティの理解を深め、間違った方向にデザインしないためのヒントを見つけましょう。
見過ごされている部分
アクセシビリティには、私たちが思っている以上に多くの実践と技術が必要とされます。アクセシビリティの問題について適切な知識があると思っている人でさえ、いくつかの重要な要素を知らないかもしれません。
Dolson氏は、「エンジニアとデザイナーがアクセシビリティの問題について学び始めるときは、通常、盲目の人に焦点を当てることから始まります。しかし、これは目は見えるがほかの障害を持っている人々にとって重要な、アクセシビリティの2つの領域を見過ごす原因になります。」と述べています。
ビジュアルフォーカス
Dolson氏が挙げる1つ目の項目は、ビジュアルフォーカスです。彼は次のように説明します。
「ビジュアルフォーカスとは、キーボードを使用して操作するときに、ページ上のどこにいるか視覚的に識別できる機能です。Tabキーを押してページ上のリンクや、フォームフィールド、ボタンを移動していると、自分が今ページのどこにいるのかわからなくなることが良くあります。これは、ビジュアルフォーカスがないためです。」
ビジュアルフォーカスの詳細:http://oregonstate.edu/accessibility/focus
テキストの拡大
デザインで見過ごされやすいもう1つの要素として、ユーザーがテキストを拡大したときのことが挙げられます。 Dolson氏は次のように述べます。
「テキストを拡大することは、通常の数倍までテキストを拡大しないと読めないような視力の悪い人にとって不可欠です。テキストを拡大すると、いくつかの問題が生じます。テキストが重なったり、ページ全体を見るために横にスクロールしたり、テキストが数文字ごとに折り返すほど行が狭くなったり、非常に使いにくいページになる可能性があります。」
アクセス可能なコンテンツ戦略
Webサイトにコンテンツを追加する簡単な方法は、宣伝文句を書いて、情報量が多いPDFなどの添付ファイルにリンクすることです。しかし、これはアクセシビリティとして最善の方法でしょうか?
Dolson氏によれば、添付ファイルのアクセシビリティは高める必要がありますが、一方で次のように主張しています。
「アクセスできる必要があるのは、文書のコンテンツです。それにはさまざまな方法があります。たとえば、アクセシビリティの低いPDFの代わりとして、アクセシビリティの高いWebページを作ることもできるでしょう。」
したがって、PDFファイルなどのコンテンツは読みやすくするべきですが、一方で同じコンテンツをHTMLに取り込むのが望ましいでしょう。
アクセシビリティの高いPDFファイルの詳細:http://webaim.org/techniques/acrobat/
潜在的な問題を見つけるツールの活用
アクセシビリティが高いWebサイトの作成における大きな進歩の1つは、問題を発見するのに役立つツールが利用できるようになったことです。 しかし、Dolson氏は、次のように注意をうながしています。
「これらのツールは、Webのアクセシビリティを評価するプロセスにおいて非常に重要な役割を担っています。しかし、人間による判断や見直しに取って代わるものではありません。」
WAVE(Web Accessibility Evaluation Tool)は、この分野でもっともよく知られている解決策の1つです。あなたのサイトのURLに貼り付けてください。または、ChromeやFirefoxの拡張機能を使用しても良いでしょう。貼り付けると、WAVEは良いものと悪いものを、いわゆるヒートマップのようなもので表示します。 altタグの付け忘れ、フォームのラベル、色のコントラストの問題さえも指摘します。つまり、特定のエラーをクリックすれば、現在テストしているページで強調されて表示できるのです。
WAVEは、普段どれほど簡単に特定のものを見逃しているか、気づかせてくれるツールです。また、WAVEはサードパーティ製のプラグインやテーマによるアクセシビリティの不備を発見するのにも適しています。
WAVEなどのツールで問題が見つかったら、手動で修正をかけていきましょう。しかし、Dolson氏は、ツールは必ずしも代替テキストの問題を検出するとは限らないと指摘しています。「自動化されたツールでは、画像に代替テキストが付けられているかどうかしか判断できません。つまり、そのテキストが本当に画像の適切な代替手段になっているどうかを判断することはできないのです。」
したがって、WAVEなどのツールはこの仕事を格段に簡略化できますが、アクセシビリティを確保するためには、少し調査する必要があります。
代替(Alt)テキストの詳細:http://oregonstate.edu/accessibility/alttext
法律に従っているかどうか
これは、デザイナーやサイト管理者に混乱を招きかねない問題です。実際、アクセシビリティの専門家でさえ、断言できません。 Dolson氏はこの問題について次のように説明します。
「最初の問題は、どの法律が実際にWebサイトのアクセシビリティを規定しているのかを特定することです。これは、誰があなたのWebサイトの料金を支払っているのか、あなたがどの業界に属しているのか、そしてあなたのWebサイトがどの国のものなのか(これ自体がさらに複雑な問題です)によって変わります。米国内では、アクセシビリティは主に Americans with Disabilities Act of 1990(ADA)によって規定されています。」
「ADAは、ビジネスにおいて、障害のある人々にも同じように利用できるように保証するべきであると指示しています。しかし、1990年に制定されていることから推測できるように、Webサイトのアクセシビリティに関する情報は、実際には含まれていません。 1998年リハビリテーション法の第508条に記載されている、米国連邦政府のWebサイトの具体的なガイドラインもありますが、これは完全に別の法律であり、ADAが同じガイドラインを支持しているのかどうか、はっきりと結論を出すことはできません。」
したがって、法律について述べることはとても複雑です。 Dolson氏の見解では、 Web Content Accessibility Guidelines (WGAC) 2.0 に従えば、少なくとも法律問題になることは防げるでしょう。
※この件に関しては、法律専門家にあなたの状況に適したアドバイスを求めるようにてください。
サイトをテストするためのアドバイス
自動ツールでエラーをテストして修正するのに加えて、独自のテストを行いましょう。これにより、少なくともユーザー体験がどのようなものかを理解することができます。 Dolson氏は次の4つを提案しています。
スクリーンリーダーの使用
MacまたはiOSユーザーはボイスオーバー機能を使用できます。またWindows 10には、ナレーター機能が組み込まれています。あるいは、NVDAのようなサードパーティのアプリをインストールすることもできます。
マウスのプラグを抜く
キーボードだけでサイトを操作してみましょう。キーボードアクセスを有効にするためのヒントもご覧ください。
フォントの拡大
サイトのテキストを400%まで拡大し、レイアウトにどのような影響があるか確認します。
ブラウザ拡張機能のインストール
NoCoffeeは無料のChrome拡張機能で、色盲などの視覚障害をシミュレーションします。RGBlindは、Firefoxユーザーに同様のタスクを実行します。
これらの手段を使うことで、少なくともサイトのアクセシビリティがどの程度であるかを知ることができます。しかし、これらの手段を十分なシミュレーションだと見なすべきではありません。 Dolson氏によれば、これらの手段は貴重ですが、必ずしも正確に表現しているとは限りません。たとえば、あなたがこのようなソフトウェアを使用することに慣れていない場合、スクリーンリーダーに慣れているユーザーは、あなたとは異なる体験をするでしょう。
まとめ
以上のように、アクセシビリティについては、考慮すべきことがたくさんあります。 しかし、ありがたいことに、私たちが正しい方向に進むために役に立つツールや資料があり、専門家もいます。
理想的には、上記の手段や概念が、サイトをデザインし構築するプロセスの一部になることです。 そうすれば、HTMLやCSSのように、アクセシビリティを評価することが習慣になります。ゆっくりですが確実に、アクセシビリティの高いWebにすることができるでしょう。