MVP(実用最小限の製品: Minimum Viable Product)とは、わずかな時間でユーザー中心設計に基づくデジタルサービスを構築する素晴らしい手段です。また、MVPは大幅なコスト削減にも繋がります。
私はMVPの概念について数多く記事を書きました。しかし、MVPが正確に何であるかは説明してきませんでした。MVPという言葉を耳にしたことがあっても、その意味を知らない、もしくはなぜ重要とされるのか理解していなければこの記事は役に立つでしょう。
従来のプロセス
MVPについて理解するには、まず多くの製品がどのようにして作られているのかを知る必要があります。従来のプロセスを実証するにあたり、新しい建物を建築するシンプルなプロジェクトを考えてみましょう。
アイデアの形成
最初のステップでは、新しい建物のアイデアを持っている人物が存在します。これにはシニアマネージャーなどが該当することが多いでしょう。アイデアは市場調査に基づいていることもありますが、大抵そうではありません。仮に調査に基づいていたとしても、この段階でのアイデアは明確でないことが多いです。
計画
次のステップは、計画または仕様段階です。ここでは、建物の詳細をすべて練り上げます。これは重要な段階です。なぜなら、間違いがあったときの代償は高くつくからです。建物は安価ではないので、変更にかかる費用は膨大になります。
この段階で組織は最終的な居住者と話し合うこともあります。しかし、居住者に提示できるものは何もないので、彼らが欲しているものを詳細に理解するのは難しいです。
プロジェクトの実装
次に、計画の実行です。建物の建設が始まります。この段階の焦点は、期限通りに納品し、予算内に収めることです。恐れるべき問題は、スコープクリープ(プロジェクトが進行するにつれプロジェクトの範囲が肥大化すること)や予期せぬ構築です。しかし、計画が十分に練られていれば、こうした可能性は最小に留めることができます。
成果の公開
建物が完成すると、完成品が世間に公開されます。ここは難しい段階です。顧客は建物を気に入るでしょうか? 居住者が希望として伝えたものだけでなく、本当に必要なものを満たしているでしょうか? 実際に入居するでしょうか?
製品が市場に出されるまで、これらの問いに対する答えを知ることはできません。このことは、開発中に調査を行った場合も同様です。さらに悪いことに、居住者の反応が悪かったとしても、修正を行う予算も時間もありません。一度建物が完成すると、プロジェクトには基本的なメンテナンスのための予算しか残っていません。
MVPの仕組み
対照的に、MVPは顧客の反応に関して信頼性の高いデータを集めることができます。さらに、ソリューションがオーバースペックになる危険がありません。顧客が利用する機能だけを構築しているという確信が持てます。
公園造りを例にとってみましょう。
いち早く市場に出す
最初の公園は、いくつかの木や芝生などの基本的なものになるでしょう。しかし、その結果素早く公園を開くことができます。長い仕様段階の時間は必要ありません。なぜなら、実装する費用は安価で、いつでも何度でも改善することができるからです。
植木屋は毎日公園の手入れをしているので、公園を利用する市民と話すことができます。植木屋は市民が公園をどのように利用するかを観察し、それに応じて公園を適応させることができます。
より良いフィードバックを得られる
たとえば、公園に色彩が欠けているというフィードバックを定期的に受けたとします。そこで植木屋は雰囲気を明るくするため、花を植えることにしました。結局、費用は安く済み、植木屋は庭の手入れをし続けます。
より有益な調査が可能になる
次に、池があったら素敵だと人々が言い始めました。これには多大な投資が必要です。しかし、少し調査を行うと、池を作ることで、模型ボートの愛好家を新たに集客できることが明らかになりました。この事実を基に、オーナーは投資を行うことに決めます。
自然な行動を観察できる
最後に、植木屋は観察していると、公園の利用者が芝生に座らなければいけないことに気付きました。ほとんどの人にとっては問題ありませんが、高齢者にとっては難しい場合があります。そこで、ベンチを設置することに決め、その結果、高齢者はより長い時間を公園で過ごすようになりました。
MVPがより優れた手段である理由
このように、MVPは従来よりもとても柔軟な手段です。もちろん、MVPがすべての状況で適切なわけではありません。しかし、変更にかかる費用が安いデジタルプロジェクトにおいては、検討する価値があります。その理由として、次のような明確な利点があげられます。
- 人々が実際に利用するものだけを構築するので、開発費用が抑えられます。公園の管理者はスケートボード場を作ろうとしたかもしれません。しかし、需要が存在しないとわかったので、その投資は行われませんでした。
- 基本的なものから着手でき、長い仕様段階が必要ないので、より早く市場に出すことができます。これはマーケットシェアを獲得する際に競争優位となります。
- より望ましい商品に繋がります。人々が本当に必要なものを提供するので、体験を台無しにするだけの機能にお金を費やすことはありません。
- これにより、顧客満足度の向上や、評判の高い口コミに繋がります。
また、デジタル製品の場合、ユーザーはより簡単に改善したソリューションを利用できます。よって、満足度を高めるだけでなく、サポートコストも削減できます。
誤解しないでもらいたいのは、MVPは特効薬ではないということです。MVPが常に適切な方法であるわけではありません。しかし、デジタルサービスを構築する多くの場合において、ほかよりも優れた手段です。