ユーザーテストは専門領域の中でも扱いが難しいものです。なぜなら、共感力や臨機応変な思考、事前準備、バイアスに振り回されない能力などが必要になるからです。テストする側は、ユーザーに特定の方法で行動して欲しいと思っているかもしれませんが、ユーザーテストをすれば真実を知ることができます。
この「真実」もまた厄介です。なぜならそれは主観的なものであり、人は皆それぞれ異なるアプローチで製品を使用するからです。デザイナーは、製品がどのように動作するのかを「知っている」ので、人がどのように行動するべきかに対して多少なりともバイアスを持っています。しかし、人々はその仮説を裏切って、デザイナーが予想だにしない方法を取るかもしれません。人々にとっては完璧に理にかなったものなので、もしその方法に障壁があれば、その製品を使う意欲をなくしてしまいます。
たとえば、保険サイトにアクセスしたユーザーは、その保険のメリットを確認したいのかもしれません。あるいは提供者を探したいのかもしれませんし、特定の病気の症状を調べたいかもしれません。それぞれが、複数のルートを持つ異なるユーザーフローです。彼らは検索するかもしれませんし、アイコンをクリックするかもしれません。連絡フォームに記入をするかもしれませんし、ログインのリンクを見落とすかもしれません。実際の人間によってテストしてみるまで、これらは知る由もありません。
ユーザーテストは憶測を明らかにし、ユーザーが振舞う態度に合わせて、ユーザーフローを調整することでより直感的な製品を生み出すことができます。しかしUXデザイナーがそこに辿り着くには、いくつかの新しいスキルを習得しなければなりません。
リスニングは練習できるスキル
聞く:最初は会話を少なめに、自由回答形式の質問をすることから始めましょう。最初の質問では、「何が起きているのか」を明らかにします。そしてフォローアップの質問では、その「理由」と「方法」に焦点を当てるべきです。常にたくさん質問をすることでフォローアップしてください。もし相手があるトピックに熱中したら、その心理を理解するために話を続けてもらいましょう。
時間:インタビュイーとの時間制限に同意し、それを過ぎないようにしましょう。こちらの注意が持続する時間は限られていますし、インタビューには集中力が必要です。普通は45分あれば十分ですが、1時間半もかかる場合もあります。インタビューが長引く場合には、フォローアップミーティングを設定しましょう。
協力者:可能であれば、インタビュイーと話している間にメモを取ってくれる同僚を連れて来ましょう。これによって、他愛ない会話を続け、アイコンタクトを維持して会話を見失わない余裕が生まれます。
復唱する:注意を払っていることが相手に伝わるように、インタビュイーが話していることを繰り返したり言い換えたりしましょう。これによって、信頼関係を築き、話を正しく理解していることを確認することができます。また、あいまいな回答や興味深い回答についてもっと詳しく知りたいときに、フォローアップする機会にもなります。
準備を整えておく:質問はあらかじめ準備するべきですが、会話が興味深い展開になったらそれを放棄することも考えておきましょう。質問は、厳格な目標ではなく、会話の枠組みになるものです。たとえば、関連する話が、会話の中でもっとも興味深い点であることは多いです。そのような話題からは、そのトピックについてどう感じているのかが直接明らかになります。
基本的には脱線しない、けれど:特にフォローアップ中は、人は尋ねられた質問から脱線しがちですが、これは必ずしも悪いことではありません。物語を語り始めたら、もっと深く掘り下げてみるのもよいでしょう。
思考を声に出すようにうながす:インタビュイーの思考過程が知りたいものです。発言や行動は、常に一貫しているとは限りません。彼らが何を達成したいのかや、それを実現するための最善の方法をどのように仮定するのかを理解することは、自分の憶測を見つけるのにもっとも役立つ方法です。
互いにコントロールし合う:会話はやりとりです。たとえば質問をうながすことなどで、自分が会話を主導し続けていたら、おそらくクローズドな質問をしていると思います。常に自由回答形式の質問をしてください。
優れた自由回答形式の質問をする
自由回答形式の質問は、あらゆるユーザーインタビューの目標となる、より多く会話をすることにつながる質問です。
自分か同僚にその質問をしてください。「はい」か「いいえ」で答えられる質問は排除しましょう。 「このサービスにどのようにログインしますか?」という質問は、「ログインリンクが見えますか?」という質問よりも優れています。
具体的な質問をしましょう。 「このサイトの外観から、お金の支払いをして良いと思えるほどこの組織を信頼できますか?」という質問は、「あなたはこのサイトについてどう思いますか?」という質問よりも優れています。
「理由」と「方法」の質問は何度か尋ねましょう。たとえば、「どうしてあなたはそのボタンを避けたのですか?」という質問のあと、「なぜそのオファーは魅力的でないのですか?」という質問でフォローしましょう。さらに、 「いつそれをしたいですか?」などと続けてください。
感情的な反応を引き出す質問しましょう。「あなたは○○についてどう感じますか?」や「○○について教えてください」といった質問のことです。たとえば、「今日仕事で何かありましたか?」という質問よりも、「あなたが取り組んでいるプロジェクトについて教えてください」のほうが核心に迫ることができます。
インタビュイーを誘導しないでください。 「このデザインは強力だと思いませんか?」という質問では、相手はインタビュアーのバイアスを強く踏まえて、「はい」か「いいえ」の回答をすることになります。
どこへ向かうのか
自分の製品について誰かにインタビューしたとしましょう。膨大なメモも取りました。さて、次に何をすればいいのでしょうか? まずは、メモを整理することから始めて、自分の主張を明確にしましょう。
フォローアップの質問を探しましょう。何が理解できていないのでしょうか? 何がプロジェクトについてのより多くのインサイトにつながるのでしょうか? ここで、忠実度の低いプロトタイプが効果を発揮します。製品のモックアップを使用して、インタビュイーの記憶を新たにすることができます。
インサイトを自分だけに留めておいてはいけません。チームで仕事をしている場合、ユーザーが自分たちの製品で実際に何をしているのかを知る必要があるすべての人に、調査結果を共有しましょう。 ユーザーテストの真意は、ユーザーテストの仮説と問題を発見することにあるため、これらの問題を修正することは、関係するすべての人にとって等しく重要です。
ユーザーテストでは、製品のあるべき仕組みについての憶測が明らかになります。 その知識を使用して、ユーザーに振舞ってほしい態度ではなく、ユーザーが振舞う態度に沿ってユーザーフローを調整することができます。 その結果、摩擦の少なく、より直感的な製品を作ることができるでしょう。