Hulu、dTV、Amazonプライム…。動画配信サービスサイトのログイン前のトップページデザインは、どこも似ています。
まずファーストビューでサービスの強みをいくつかと、登録ボタンを提示。続くセカンドビュー以降には配信している作品をカテゴリーに分けて、長く長く並べています。
トップページはそのWebサービスの顔。もっと個性があってもよさそうなのに…とも思いますが、この「メインビジュアル+作品群」の構成はそのサービスに興味を持ちサイトを訪れた非会員ユーザーに「登録ボタンを押す」アクションを促すには、最適なデザインなのでしょう。
ところがこのトップページデザインを採用していない動画配信サービスがあります。
Netflixです。
Netflixのトップページは必要最低限の情報だけ
Netflixはアメリカ最大手の動画配信サービス。日本でのサービス開始は2015年9月、現在ではHuluなどと同じくシェア上位のサービスの1つです。
他の動画配信サービスのトップページを見てからNetflixのサイトを見ると、そのシンプルさに驚くでしょう。
背景画像にあっさりしたコピー、登録ボタンだけというファーストビュー。なにより目を引くのは、セカンドビュー以降に作品群がないこと。作品の情報はファーストビューに背景画像として表示されているものだけで、はっきり確認できるのはわずか十数作です。
代わりにセカンドビューにおかれているのは3つのタブ。退会が容易であることの説明、視聴スタイルの紹介、そして料金一覧です。
Netflixのトップページにあるのは、サービスに興味を持ち登録を検討しているユーザーが求める情報のうち最低限のものだけと言えるでしょう。
なぜ作品群はトップページに必要なのか
そもそもなぜ作品群をのせたトップページデザインは「最適なデザイン」なのでしょうか? 今年7月のイベントで日本版Huluが示した次の見解がヒントになりそうです。
加入の動機となるものは「どんな動画が観られるのか」という点だと考えているので、(中略)「どんな動画が観られるのか」を知ってもらう工夫をしています。
http://www.appbank.net/2017/07/08/iphone-application/1372560.php
確かに登録を検討しているユーザーにとって信頼性や料金と同じくらい気になるのが、観たい作品があるかどうか。言い換えれば「登録する価値のあるサービスかどうか」です。
作品群を示し「ウチには話題作や人気作、おもしろそうな作品がこんなにありますよ」と視覚的に伝えることは、「登録するボタンを押す」アクションを促す大きな効果を期待できるでしょう。
シンプルだとスタイリッシュ、ごちゃついてると安心感
シンプルなNetflixのトップページはとてもスタイリッシュな印象。しかし情報が少ないためどこかそっけなく見えます。そのため「動画配信サービス、どこにしようかな」と比較する目で見るユーザーには、他サイトに比べ不親切にさえ映るかもしれません。
一方HuluやdTVのトップページは、作品群はもちろん、サービスに関する細々とした情報も掲載されており、ごちゃついた印象です。「日本のサイトは情報が多くてダサい」と言われて久しいですが、スタイリッシュさではNetflixに到底及びません。
しかしこれらのトップページにはNetflixにはない安心感があります。スタイリッシュなデザインが必ずしも収益に貢献するデザインではない以上、登録を検討しているユーザーの不安を解消してくれる情報量を持つこれらのデザインの方が、最大公約数のニーズにマッチしていると言えるでしょう。
安心感よりブランド感か
ではNetflixのトップページデザインは、カッコよさを優先しユーザー目線を無視したデザインなのでしょうか? ここで注目したいのは、動画配信サービスにおけるNetflixの特異性です。
Netflixでは既存の映画やアニメだけでなく、自社オリジナルのコンテンツも制作・配信しています。
近年、多くの動画配信サービスがオリジナルコンテンツの制作に力を入れていますが、中でもNetflixは巨額の予算や高いクオリティで頭一つ飛び抜けた存在。また、数年後までに配信の50%をオリジナルコンテンツにすると報道されています。
Netflixのオリジナルコンテンツが観られる動画配信サービスはもちろんNetflixだけ。つまりオリジナルコンテンツが充実していけば、Netflixは動画配信サービスの1つではなく、ブランドとして確立します。
そうなれば、他の動画配信サービスと競い合って「ウチはこんなに…」とアピールする必要はなくなります。すでに他のサービスを利用している人も、NetflixはNetflixとして登録してくれるでしょうから。
この方針を考えると、スタイリッシュなトップページデザインは必ずしもユーザー目線を無視したものとは言えなくなります。
ブランドとして信頼を得られれば「登録する価値のあるサービスかどうか」という不安はユーザーからなくなります。
ならば安心感を優先した親切なデザインより、不親切でもスタイリッシュでブランドを感じさせ、Netflixに期待してサイトを訪れたユーザーをよりワクワクさせてくれるデザインの方が適切。そんな意図があるのかもしれません。
まとめ
強気な経営で知られるNetflixですが、トップページデザインにもその姿勢が表れていると言えるでしょう。
これだけ要素を絞り込んでいるにも関わらず「退会はいつでも簡単にできる」という文言が2カ所に記載されていることにも、「使えば絶対に気に入る」というブランドとしての自信が見えます。
Webサービスサイトにおいて、トップページはサービスの顔。顔には性格が出る…のかはわかりませんが、トップページデザインを注視することでそのWebサービスが何を目指しているのかは感じられるかもしれません。