「不安」をいかに解消するか。実証実験から見る自動運転のユーザー体験

UX MILK編集部

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「自動運転」は、いまテクノロジー業界で最も注目される分野のひとつですが、実際に自動運転車両に乗ったことがあるという人は、まだ少ないのではないでしょうか。

そこで、今回は自動運転におけるユーザー体験について、ソフトバンクグループのSBドライブ株式会社・和田氏に話を聞いてきました。

インタビュイー
SBドライブ株式会社 プロジェクト推進室 和田 崇雅氏

自動運転によって交通弱者を減らす

── まずは、SBドライブの事業内容と、和田さんが何を担当されているのかを教えてください。

和田:SBドライブは、事業内容のひとつに自動運転バスを走らせるというものがあり、その中で私はどういったユーザー体験を作るべきかということを主に見ています。たとえば、渋滞情報を自動運転バスの走行データから取得できるので、これを活用してバスで時間がかかる場合は「電車を使ったほうが良いですよ」とユーザーに提案するといったことを考えています。

バス会社にとっては乗客数が増えたほうがいいのですが、お客さま視点で考えたときにそもそも移動はどうあるべきかを作っていかなければなりません。いまは主にバスを扱っていますが、ユーザーが移動するときの体験全体の設計をしています。

── 移動に関する問題を扱うということですね。事業におけるコンセプトはありますか?

和田:過疎地域などで交通が不便で移動に困っている人たちを「交通弱者」と呼ぶのですが、この交通弱者を減らすというのがファーストステップですね。

たとえば、コミュニティバスを運行している自治体も多くありますが、運転士の人件費がかかるので運行本数をなかなか増やせないという課題があるので、これをバスの自動運転化によって解決したいと考えています。

── 自動運転バスが実用化されたら運転士は要らなくなりますよね?

和田:運転士が要らなくなるというのは少し違うかもしれません。いままでは運転士が乗車していたのですが、自動運転バスが普及すれば営業所などから遠隔で運行管理ができるようになります。

すると、いままではバス1台に1人の運転士が必要だったのが、運転士が1人でバス5台ぐらい見られるようになり、バスの運行本数を増やすことができると考えられます。

実証実験では「不安」がポイント

── いまは実証実験を行っているとのことですが、その概要を教えてください。

和田:これまでに複数回の実証実験を実施しました。たとえば、内閣府から受託して沖縄県の公道で自動運転バスの実証実験を実施したり、ソフトバンクと三菱地所が東京・丸の内で実施した自動運転バスの試乗会に車両を提供したりしました。

また、今年2月からは空港における自動運転バスの導入に向けた取り組みもスタートしています。全日本空輸(ANA)と連携し、2020年以降の実用化を目指して、まず羽田空港新整備場地区で実証実験を実施しました。

Photo by mmihori / CC BY 2.0

── 実証実験についてあまりイメージができないのですが、具体的にどのようなことを行うのですか?

和田:1回の実証実験の期間は、だいたい1週間から10日ほどです。自動運転バスに乗っていただき、その反応を見るために、乗車後にアンケートをとって乗車前後の意識の変化を比較しました。

アンケートの内容は、主に自動運転バスに乗ることのハードルを尋ねるもので、「自動運転バスに乗ったことがありますか」、「乗ることに対して不安はありますか」、「どういう対応をしてくれたら安心だと思いますか」といった項目があります。

── アンケートの内容など検証項目は毎回違うのですか?

和田:まず、対象となるペルソナが毎回違います。沖縄での実証実験では、最初は地元のバス会社の人に乗ってもらって、「自動運転バスってこういう乗り心地なんですよ」ということを体験してもらいました。

その次に地元のスーパーと港を結んだバスに地元の人に乗ってもらって、交通事業者ではない人が乗ったときにどういった反応が得られるのかを検証しました。最初は「乗りたくない」、「不安だ」という人が7、8割くらいいるのですが、実際に乗っていただくと意外とゆっくりスーっと発車して、カーブでもスムーズに曲がるので、「思っていたより安心だ」と言ってくれる人もいました。

── 最初は不安を抱く人が多いのですね。不安感でいうと具体的にどういった声がありましたか?

和田:運転士がいないので、それに対する不安感はありますね。たとえば曲がるときに「右に曲がります」のようなアナウンスがよくあるのですが、アナウンスがないと不安ですよね。あとは、バスの停止ボタンを押したときに無視されないかといった、運転士がいないことに対する漠然とした不安ですね。

ちょっとしたアナウンスがあるかないかでだいぶ安心感は違ってくるといったことが、実証実験を通して見えてきました。

── なるほど。実証実験では自動運転バスに乗る人の態度を中心に見ているのですね。

和田:そうですね。自動運転への信頼性は重要なので念入りに検証を重ねています。たとえば、運転士がいるバスと自動運転のバスがあったときに、「自動運転バスだから乗らない」となってしまったら、自動運転バスを走らせても意味がありません。なので、そういう不安感を払拭するということは非常に大事です。

バスは単なる移動手段ではない

── いままで行ってきた実証実験の結果で、意外だったことはありますか?

和田:地域によって自動運転に対する受容性の違いが表れたのは意外でした。都市部では自動運転に対する受容性が比較的高いのですが、実証実験を行った沖縄では「本当に大丈夫なの」という不安感が大きかったです。やっぱり運転士が乗っていることに対する安心感っていうのがものすごく大きいみたいです。

── 都市部のほうがテクノロジーへの受容性が高いのですね。

和田:そうですね。それに加えてバスの車内でのコミュニケーションの有無も理由としてあると思います。実際、都バスに乗って運転士と会話することって、あまりないですよね。運転士と「今日の天気はいいですね」とか、「最近日経平均が下がってますね」と話すことって、まずないと思います。

だけど地域では、「あそこのスーパーでセールやってるよ」とか、「あそこの八百屋さんで売ってる旬の野菜が美味しいよ」といったコミュニケーションを運転士としているのです。つまり、運転士との会話などを含め、バスがある種のコミュニティのような役割も果たしているということだと思います。

── バスは単なる移動手段ではないということですか。

和田:そうです。そこまでを自動運転でフォローできるかと考えたとき、いまの状態だとまだまだ難しいところがありますね。

世界No.1の交通プラットフォーム事業者へ

── SBドライブの今後の展望を聞かせてください。

和田:ついこの間、ソフトバンクグループ社長の孫が決算説明会で「我々はグループとして世界最大の交通機関を持ったことに匹敵する。交通機関というプラットフォーマーになる」と発言しました。みなさん驚くかもしれないですが、ソフトバンクグループが直接、または間接的に出資する世界中のライドシェアサービスを足すと、1日あたりの乗降回数は4,500万回に上ります。

── 世界No.1の交通プラットフォームはスケールが大きいですね。各サービスでどのように連携するかが面白そうですね。

和田:そうです。今後は様々なグループ会社と連携しながら、どの国でもスムーズな移動体験を提供できるようなことも考えています。

── 海外まで含めると、また大変そうですね。

和田:バスが主流ではない国や地域もあるので、どのようにグループ会社とシナジーを出していくかが大事です。そのため、海外では目的や環境に応じてサービスを提供していく必要があるのかなと思っています。

── ありがとうございました。

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今回は、自動運転におけるユーザー体験を中心にご紹介しました。

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