新たなクライアントを獲得する見込みが生まれると、少しワクワクするものです。しかし、クライアントが増えるほど、素晴らしいクライアントだけでなく、やり取りするだけで気力を削がれるようなクライアントも存在することに気付かされます。前者のクライアントとの仕事はとてもやる気になり熱中できますが、後者との仕事は、契約の価値をはるかに上回る労力を費やすことになるでしょう。
では私たちは、どのようにして悪質なクライアントから身を守ればよいでしょうか? また悪質なクライアントの契約に間違って署名してしまった場合、どのように対処すればいいのでしょうか?
最初の段階で腹を割る
良いクライアントも含め、多くのクライアントは最初のやり取りの段階で、提案に関して曖昧な要望をしてくる傾向があります。たとえば、「新規事業を開始するのでWebサイトが必要です。どのくらいのコストと期間になるでしょうか?」などです。
この要望は、何の意味もありません。どのくらいの規模のWebサイトなのでしょうか? どのような技術を使いたいのでしょうか? どのくらいのデザインが必要なのでしょうか? このような質問をすることが重要です。また、彼らの予算を知ることはさらに重要です。クライアントが25ドルしか費やせないならば、プロジェクトの見積りをしても何の意味もありません。
まずは返信用のテンプレートを使って、要点を整理しましょう。クライアント毎に質問内容を微調整し、返信内容を確認してください。テンプレートを用意すれば、案件を受注できそうとわかるまで、クライアントに時間を費やさなくても済みます。
クライアント候補が締切りや予算を共有してくれないとしたら、そのクライアントは避けるべきです。ほぼ間違いなく、マクドナルドのハッピーセット程の予算でAmazon並みに大きいWebサイトを、1日で作成するよう要求してきます。
メールのテンプレートをもう1つ用意しておくと、必要な詳細情報を共有しようとしないクライアントを避けるのに役立ちます。怒りながら返信を書いて時間を無駄にしてはなりません。クリエイティブな気分であれば、競合他社をメールで紹介して、自社の代わりにひどいクライアントを処理してもらいましょう。
ノーと言える強さを持つ
世の中でもっとも惨めなデザイナーは、ノーと言えないデザイナーです。確かに近年では、ビジネスを断る機会は比較的少ないかもしれません。しかし断ることによって、優れたクライアントから、面白く稼ぎになるプロジェクトを自由に引き受けることができるでしょう。
また、予算不足やひどい仕様書を理由に断ったクライアントが時間が経ってから再び現れることがよくあります。どうしても発注したかったにもかかわらず、ずぶの素人だったせいで仕事を突っ撥ねられると、クライアントは適切に予算を支払い、詳細な仕様書をまとめることの価値を認識するようになるものです。
見積書のテンプレートが必要
これには2つの利点があります。1つ目はプロらしく見えること、2つ目はクライアントがすべての詳細情報を1箇所に記入することができることです。これにより、プロジェクトが進む中で、「これは私が頼んだものではありません」という避けられない問題が発生した際、見積書のテンプレートを取り出して制作物が確実に依頼されたものであることを示すことができます。
テンプレートで決定すべきこと
- 必要になるセクション(理想的には、必要なページの種類の量)
- それらのセクションでするべきこと
- ページのトップで必要になるデザインの要件
- 締切り
- 全体の予算
クライアントにフォームを記入してもらい、見積書を作成しましょう。クライアントが何をすべきか指定しているので、議論の余地がありません。
最初のミーティングは慎重に
最初のミーティングの目的は、クライアントが必要としているものを答えてもらうことです。また、デザインプロセスについてクライアントに理解してもらうことも目的になります。クライアントが単純な事柄への合意を拒否したり、聞いていなかったりしたら、それは案件から手を引くタイミングかもしれません。プロジェクトが始まるときにお互いを理解できていなかったら、詳細な部分を評価する際にどのようなことが起きてしまうでしょうか?
手付金をもらう
未熟なデザイナーほど、完成したときに報酬を貰おうとします。新しいクライアントとの仕事の場合は特に顕著です。手付金を払っていないクライアントから、プロジェクトの最後に支払ってもらうことが簡単であるはずがありません。
私は新しいクライアントに対しては、段階的に報酬を支払ってもらっています。プロジェクトの最後に受け取る報酬が全体の数%だけになるように、それぞれの制作物に対してお金を支払ってもらいます。そのお金で家賃や請求書の支払いをするほうが良いですし、自分のお金をクライアントが所持していて、それを獲得するために裁判沙汰にはなりたくはありません。
手付金が口座に振り込まれるまで、けっして仕事を始めてはいけません。開始日までに前金が来なかったらクライアントにメールして、手付金が支払われるまでプロジェクトを延期することを伝えてください。失礼になってはいけませんが、断固とした態度を示しましょう。
スケッチとワイヤーフレームは便利
新しいクライアントの仕事をするときは、プロジェクトを少しずつ進めるべきです。まず最初の成果物としてスケッチとワイヤーフレームを送信しましょう。完璧にデザインされた製品よりも、これらを修正するほうがはるかに簡単です。製品の作業に移る前に実際に署名してもらい、正式に承認を得ましょう。
コミュニケーション手段をはっきりさせる
連絡手段は、見積書を作る時点で絶対に決めましょう。コミュニケーションを取る方法や、返答できる時間、返事がすぐに来ない場合の対処法について合意を得ましょう。自分にとってひどく不利になるプロセスに合意してはいけません。すべてのコミュニケーションをプロジェクトを前進させる目的に集中させて、議論が起こらないようにしましょう。そして、予定にない変更を求められたときは追加料金が必要になることをはっきりさせてください。
クライアントの責任を明確にする
デザイナーによってはコピーライティングまでを請け負う人もいますが、ほとんどの人はそうしません。もしクライアントからコピーの提出が必要ならば、その期限も契約通りになるように徹底してください。また、遅延を補う料金なども組み込ましょう。デザイナーは締切りに間に合わせなければなりませんが、それはクライアントも同じです。
作業をやり直す回数を制限する
それぞれの段階において、作業をやり直す回数を契約で締結しましょう。クライアントがそれでも変更を求めてきた場合、必ず変更にかかる追加の費用を契約で決定してください。決して「終わりのない変更」のループにはまってはなりません。やり直す回数を明確にしていないと、どんなに優れたクライアントであってもモンスターになってしまいます。
最後の支払いが終わってから製品を配達する
クライアントは仕上がった製品をサーバーで見る必要があります。支払いが終わるまで、クライアントに自分のサーバーで製品を使用させてはいけません。最後の支払いを逃す主な原因は、仕事をすべて終わらせてしまい、デザイナーが何の影響力も持っていないからです。この点についても、契約の中で明確にしましょう。
まとめ
大抵の場合、ひどいクライアントは私たち自身が生み出しています。ここまで説明したプロセスを利用すれば、クライアントに頭を悩ます回数が減り、時間通りに作業を進めて報酬を得る機会が確実に増えるでしょう。もちろん、ある程度柔軟になることが必要なときもあります。ほんの少し「合理的にする」ことで、クライアントにとっても残りのプロセスを容認しやすくなるのです。