自分たちの作成したインターフェイスは、すべてシンプルで効果的だと思い込むのは簡単です。残念なことに、問題に慣れていたり、製品に関してよく知っていたりすると、私たちはよくあるユーザビリティの課題を見落としてしまいます。致命的なユーザビリティの欠点が見つからないまま、自分の製品が公開されるのを待ちたい人などいません。見落としていた部分を発見し、悲惨な結果に終わらないようにする1つの方法として、ヒューリスティクス評価があります。
Nielsenのユーザビリティ10原則
少し想像してください。あなたは紙パックジュースのメーカーのプロダクトデザイナーです。ときどき、既存の機能を改良する楽しい仕事を受けることがあるでしょう。もしかしたら、2割ほど大きいパックにしたり、ストローのデザインを改善したりするかもしれません。
あるとき、新しいブランドに移行するために、外装のグラフィックのリデザインを受託しました。すると、必ず致命的な欠陥が発生します。輸送するときに製品からジュースの漏れが見つかったり、ストローを付ける糊がある温度で溶けてしまったりするでしょう。ストローがない製品や漏れがある製品が返品されるのを誰も見たくありません。
製品を改善する一方で、これらの欠陥を優先して対処することが、前進する手がかりになります。あなたがしている紙パックジュースのデザインを改善するという仕事は、企業のジュースの売上に貢献するものです。自分自身を褒めましょう。
またある晩、あなたは外食をしているとき、隣のテーブルに私がいるのに気付きました。私は2人の娘にマカロニチーズを何とか食べさせようとしています。しかし、そのとき3才の娘がアップルジュースを握りしめて、テーブルにこぼしてしまいました。私はナプキンで拭き取ろうとします。その一方、5才の娘は「偶然」パックの中に押し込んでしまったストローを取り出そうと、パックの上部を噛んで穴を開けようとしています。
2人の子どもの親である私としては、このどこにでもある紙パックジュースは子どもにとって非常に非直感的なインターフェイスの1つだと思います。この年齢の子どもは何でも自分でやると主張しますが、尖った部分でストローを袋から取り出して液体に差し込むのはリスクある挑戦です。ジュースを手にすると、子どもたちは本能的にすぐパックを握りしめます。そして、大惨事が起きるのです。
また、この不透明なパックにどれくらいの量の液体が残っているのかを判断するのは困難です。そのため私の娘はこの問題を解決しようと、多くの場合ストローを引き抜いたり穴の中にストローを全部入れてしまったりします。また大惨事です。ストローを使って飲めないと、最後の手段は決まって紙パックを逆さする、振る、もう一度握りしめることです。
これがプロダクトデザインのひどく残念な現実です。デジタル製品にしろ実物の製品にしろ、自分が作成しているインターフェイスがシンプルで直感的だと信じていようと、恐らくそのインターフェイスは十分なユーザーで製品をテストされていないでしょう。上記に述べたような致命的な欠点が見つかるフィールドスタディのチャンスが訪れるまで待ちたいと思う人は、もちろんいないでしょう。デザインプロセスの初期段階で潜在的な欠陥を予測し、防ぐための1つの方法が、ヒューリスティック評価です。
Jakob Nielsen氏のユーザビリティの10原則は1990年代に書かれたものですが、現在でもほとんどのインターフェイスデザインを評価できる、強力で適切なフレームワークです。このガイドラインを作成する際に、Nielsen氏が紙パックと未就学児のことを考えていたとは思えません。しかし、このヒューリスティクスの内3つが、紙パックジュースの改善にどのように役立つかを見ていきましょう。
エラー防止
優れたエラーメッセージよりも、最初から問題が起こらないよう慎重にデザインすることのほうがずっと大切です。頻繁にエラーが起きる状況を排除したり点検したりして、ユーザーが行動を実行する前に確認のオプションを提示しましょう。
Jakob Nielsen氏「10 Usability Heuristics for User Interface Design」より
意図的かどうかに関わらず、紙パックを握るのは、私たちが予測し防止できるエラーです。実際に賢い親はずっとこのエラーを防いでいます。ほとんどの紙パックジュースの両側には、紙が三角形に折りたたまれています。この三角の部分を折り出して、子どもたちに「耳のところで持つ」ように教えることで、紙パックを真っすぐ持つよううながしています。
しかし、もっとも重要なことは、どのような状況でもジュースを握るのを防ぐことです。製造工程におけるシンプルな工夫が非常に役立つことを知れば、この折り目の部分をもっと大きく、直感的な持ち手に修正することができるのではないでしょうか? 紙パックジュースの体験の一部としてゾウやサル、ウサギなどの耳が飛び出すようにすれば、子どもたちは楽しめるでしょう。
システム状態の可視性
システムは短い時間内に適切なフィードバックを返すことで、何が起きているのかをつねにユーザーに知らせなけらばなりません。
Jakob Nielsen氏「10 Usability Heuristics for User Interface Design」より
なぜ清涼飲料水のプラスチック容器が透明なのか考えたことはありますか? これはシステムの状態について情報が得られるよう意図的にデザインされているのです。もし氷だけしか見えなくなったら、お代わりをしたほうが良いかもしれません。紙パックにはこのような可視性がありません。光を遮断する入れ物にすることで、傷みやすい飲み物の賞味期限を延ばせるのは理解できます。とは言えそれでも、少しなら紙パックの中身を見せることができるのではないでしょうか?
この課題に関して、ユーザーが使いやすいもう1つの不透明な容器が、メーターがついたガソリンボトルです。正しい量のガソリンを車に入れたことを確認できるよう、ボトルの側面には半透明の縦線が入っています。もし紙パックジュースにも同様の機能があれば、ほぼすべての光を遮断しつつ、ユーザーが残量を確認できるようになるでしょう。
ユーザーの操作性と自由
ユーザーは、システムの機能を誤って選択することも多いです。長ったらしい文章を読むことなく望まない状態から脱出するために、「緊急出口」のような明確なマークが必要になります。アクションの取り消しとやり直しを補助しましょう。
Jakob Nielsen氏「10 Usability Heuristics for User Interface Design」より
たとえ子どもが自分の間違いを取り消すことを望まなくても、親が緊急出口を探さなければならないような、望まない状況はたくさん発生します。紙パックジュースに関しては、ストローがパックの中に入り込むのがとりわけ面倒です。ビニールでコーティングされた厚紙を破るのは簡単な作業ではありません。ここでの問題は、パックにフィットするようセロファンに包まれている、曲げて使う小さなストローです。その代替品として、望遠鏡のような形の2つのパーツから成るストローもありますが、どちらのデザインでも紙パックの中に入ってしまう結果に終わるようです。
本当にパックにフィットする形の、まったく別のストローのデザインを思いつくことがきっとできるのでしょう。しかしここでも、取り付けたストローが輸送中に剥がれて無くなるという問題が生じるかもしれません。どのようなシナリオであれ、この惨事が起きたとき、親は上面にある小さな点線を使って紙パックをカップに変えているのでしょう。
まとめ
製品や予算に応じて、正当なヒューリスティック評価を実施するために、独立した評価者を雇うべきかもしれません。もしこの選択を取らなくても、ヒューリスティクスについて理解することには利益があります。また、新鮮な目線を獲得するために、これらの経験則を使用するのと同じくらい単純かもしれません。ヒューリスティクスの原則という視点からデザインを分析したり、単に初期コンセプトを評価したりするだけでも、ユーザビリティに関する潜在的な問題を発見する助けになるでしょう。そのような体験の細かな部分に焦点を当てることで、問題が描写できるとともに、改善に向けたアイデアが生まれることが多いです。
ヒューリスティクス評価は、ユーザーテストの代わりとして用いるべきではありません。ヒューリスティクス評価は、価値あるユーザー体験の改善をうながすための、数多くのツールの1つに過ぎません。とは言え、ビジネス的な思考から一歩離れて、ユーザーのニーズに私たちの焦点を向けてくれるようなものは、どのようなものでも実行する価値があります。